第4話 召喚
「これで後半分程と言った所だな」
オメガの頭から手を放し、終わりを告げる。
「はんふぉん?」
口の周りをべとべとに汚し。
菓子を口いっぱいに頬張ったオメガが、もさもさと口を動かす。
「ああ、残りはまた今度だ」
俺は彼の中に眠っている力を、何度かに分けて段階的に引き出してきている。
今で丁度半分程だ。
「ええー、まだなの?全部引き出してよぉ」
「お前の体は、まだ全ての力を受け入れられる段階じゃあない。もう暫く我慢しろ」
これはまあ、真っ赤な嘘だ。
別に力を全て引き出しても、オメガの体に問題は無い。
半分残しているのには理由があった。
オメガの力の残りの部分には、どういう訳だか強力な封印が施されている。
本気を出せば破るのはそれほど難しくはないのだが、問題はその中にある物だ。
封印を解けば――眠っている物を引き出せば、高確率でオメガは俺の敵に回るだろう。
そうなると厄介だ。
流石に俺が負ける様な事はないだろうが、それでも手ごわい相手になる事には違いない。
それに子飼いの犬に手を噛まれるのも癪だしな。
封印の解放は、慎重に行う事にする。
「そもそも、今の段階で相当な強さだ。あまり強くなりすぎると、敵がいなさ過ぎて詰まらなくなってしまうぞ?」
「うーん、そっか。それもそうだね」
オメガが屈託なく笑う。
年齢を考えると、完全にアホの子にしか見えない言動だ。
まあ中核となる部分を封印されているのだから、それも仕方ないだろう。
「それより。これからお前に魔法を掛けるが構わないか?」
「魔法?」
「ああ、俺への忠誠の証を魔法で刻ませて貰う。嫌なら無理強いはしないが」
「嫌じゃないよ!かけてかけて!」
これからかけるのは魂を縛る、俺の生み出した新魔法。
魂の隷属。
これを掛けられた者は、俺に絶対の忠誠を誓う。
別にオメガを意のままに操りたい訳ではない。
これは一種の保険。
奴の封印が万一解けた時用だ。
しかしこの魔法には大きな欠点がある。
それは、相手に強制できないという点だ。
――相手が少しでも拒めば、この魔法は成立しない。
脅しや力による蹂躙では心で拒まれてしまう為、用途を考えるとほぼ欠陥品に近いと言っていいだろう。
だが、純粋に俺を信奉するオメガには有効だった。
本当に御しやすくて助かる。
俺はニヤリと口の端を歪める。
右手の人差し指に魔力を籠め、オメガの額へと押し当てた。
「オメガ、俺に忠誠を誓うか?」
「うん、誓う誓う」
オメガの額に展開している青い魔法陣が、彼の言葉に反応し赤黒く染まる。
彼の嘘偽りない同意により、魔法と魂が繋がる。
――赤黒く変色した魔法陣がオメガの中へと入りこみ、その魂へと刻印を刻む。
これで契約が成立した。
「終わったぞ」
これでこいつは正真正銘、俺の物となった訳だ。
仮に封印が解けて裏切っても、これなら最高のペナルティを与える事が出来る。
「ほんと?じゃあお菓子も食べ終わったし、狩りに言って来るね!」
そういうと、オメガは駆けていく。
自分に何が起きたのかも知らずに呑気な奴だ。
まあいい、俺も帰るとしよう。
そう思い転移しようとしたその時、オメガが突然声を上げる。
「あれ?これ何?」
振り返ると、奴は自分の頭上を指さしている。
そこには――
その指の指す方向には――魔法陣が光り輝いていた。
「よっと!」
オメガが飛び跳ね、魔法陣の中に手を突っ込んだ。
次の瞬間、オメガは魔法陣に吸い込まれ消えてしまった。
どうやら魔法陣は召喚陣だった様だ。
というか――
「どこの世界に突然現れた召喚陣に手を突っ込む馬鹿がいる!!」
自分の事は棚上げし、俺は叫ぶのだった。




