6話 召喚バトル
召喚バトル。
それは魔族間で行われる代理決闘を指す。
魔族同士の決闘は、基本的に禁じられている。
そのためお互いの実力の優劣を決める時、もしくは揉め事の際、何方の我を通すか決める手段として用いられるのが召喚バトルだ。
そして今、その召喚バトルが開催されようとしていた――
ラミアルの父親は、この辺り一帯を任されていた纏め役だった。
領主と言えば分かり易いだろう。
但し、人間の領主や貴族と違うのは、それが一代限りの物だという事だ。
世襲などと言う言葉は、魔族には存在しない。
強い者が全てを得。
弱いものは全てを失う。
限りなく弱肉強食に近い世界。
それが魔族の世界だった。
そしてラミアルの父は死に、その席は解放された。
当然そこに待っているのは、席の奪い合いだ。
――これから行われるのは、次期領主決定戦。
そしてこの大会の出場者の中には、当然ラミアルの姿もあった。
召喚バトルの試合内容は、召喚された魔獣が1対1で戦い。
先に相手の召喚モンスターを全て倒した方の勝ちとなる、至ってシンプルなシステムだ。
但し召喚する魔獣の数は特に制限されていない為、相手次第で倒す数はが大きく変わる事になる。
もし相手が召喚魔獣を100体呼びだせる場合、その100体全てを倒さなければ勝ちにはならない。
つまり、保有する魔力が大きければ大きい程有利に働くルールという事だ。
魔族社会が魔力の強い純血種に支配されているのは、この辺りの事情が大きいと言えるだろう。
とは言え、これは別に不公平なルールという訳ではない。
何故なら、ここで競うのは魔獣単独の強さではなく、使役する側の魔族の優秀さだからだ。
如何に秀でていても、単独で出来る事は限られる。
現実の戦いでも数が物をいう場面は多く、個々の力で劣る者が数で強者を蹂躙する事など良くある話である。
つまり――数もまた強さなのだ。
その為、魔力の続く限り魔獣を召喚する事が許される試合内容は、強さを測る上で合理的な指針で在る事に間違いなかった。
「いよいよだわ……」
ラミアルが緊張した面持ちで闘技場を眺める。
半径20メートルの広い試合場。
そしてそれを取り巻く巨大な観客席。
居並ぶ席は魔族で埋め尽くされ、観客は今か今かと試合の開始を待ち望んでいた。
魔族達にとって、召喚バトルは優劣を決める手段であると同時に、戦いを好む彼らにとって最大の娯楽でもあった。
そのためこういった催しは、常に満席状態が当たり前となる。
ましてやそれが自分達の次の領主を決める試合となれば、その熱狂ぶりは、普段行われる小さな力比べの比ではなかった。
「大丈夫。君には僕が付いているよ。信じて」
ラミアルが少し緊張している様なので、優しく声をかけた。
別に緊張したままでもたいして問題は無いのだが、ここは優しいアピールをしておく事にする。
――その方が、後々コントロールしやすいだろうから。
実際問題、ラミアルの勝利は俺がいる時点で確定している。
分身の力は本体の10分の1以下とはいえ、それでも現魔王と戦っても問題なく勝てる位の力は有している。
その俺が領主決定戦程度で後れを取るなど、考えられない。
「ありがとう。私頑張るね」
とは言え、ラミアルに楽をさせるつもりはない。
彼女には出来るだけ自分の力で勝ち抜く様に言ってある。
その為に態々彼女には空間系の加護だけでなく、俺が一週間徹夜で頑張って生み出した召喚魔法もどき――血統に関係なく魔獣を呼び出せる魔法。正確には彼女が呼び出している訳ではないが――を授けている。
更には魔力を捻出するための命砕きも与えてあるのだ。
精々頑張って貰わないとな。
でないと、俺の一週間の苦労がぱぁになってしまう。
流石にそれはちょっと腹が立つので、マジで頑張ってくれよ。
「選手入場してください!」
入場のアナウンスが流れた。
さあ試合開始だ。




