5話 孤独
独りぼっちになってしまった。
お母様は私が幼い頃病でなくなっている。
その上お父様まで失った今、私はもう……独りぼっちだ。
まるで魂が抜け出てしまったかの様な、虚脱感。
私は何もする気が起きず、お父様の部屋の隅で蹲る。
此処にいると、お父様の匂いがして……まるで傍にいてくれている様だ。
「すまない、ラミアル。僕にもう少し力があれば……」
「……」
グウベェの辛そうな声が聞こえてくる。
だけど、今の私にはその声に答えるだけの気力は無い。
お父様は、何故あんなことをしたのだろうか?
ううん、そんなの分かりきってる。
お父様はドラゴンの力を恐れ、脅威と判断したのだ。
だからまだ幼いうちにグゥベェを亡き者にしようとした。
――例え、どれだけの被害が出ようとも。
あの時見たお父様の魔法。
あれがとても危険な魔法だったのは、未熟な私にも分かった。
もしそのまま威力を発揮していたら、屋敷は只では済まなかっただろう。
当然使用人達だって、その多くが命を落としていたはず。
あの優しかった父が、そこまでしてドラゴンを殺そうとするなんて……私は考えもしなかった。
お父様、ドラゴンはそんなに恐ろしい生き物なの?
かつて大きな災いを齎したのは知っている。
でもそれは只の古い御伽噺で、誇張された物だと私は思っていた。
私は……ドラゴンを呼び出すべきじゃなかったのだろうか?
「本当に、どうしようもなかったんだ……」
分かってる。
グゥベェは……悪くない。
彼は只巻き込まれる多くの魔族を助けようとしただけ。
それは優しさからくるものだ。
……だから間違っていたのはお父様の方。
「グゥベェは悪くないよ。私が弱いから……だからお父様は私の事を心配して……私のせいだ」
そうだ、私が弱いから。
身に余るドラゴンという力を、父は恐れたんだ。
全ては私のために……
「本当は、僕がこんな事を口にすべきじゃないんだろうけど……君は強くなるべきだ。ラミアル」
強く……
そう言われ、俯いていた顔を少しだけ上げる。
「君のお父さんは君の事を心配して、あんな無茶をした。だからこそ、君は強くならなくちゃいけないと僕は思う。これは只の感傷かもしれないけど、強くなって天国にいるお父さんを安心させてあげるんだ」
お父様を……安心させる?
そうだ、お父様は弱いから私の事を心配したんだ。
今のままじゃ、天国に行っても私の事を心配し続ける事になってしまう。
グウベェの言う通り、お父様を安心させる方法は一つしかない。
それは私がドラゴンを完璧に使役できるぐらい、強くなる事だけ。
だったら私は――
俯くのを止め。
ゆっくりと立ち上がる。
「私は……強くなる!お父様が心配しなくてもいいぐらいに強くなって、お父様を安心させるんだ!」
私は力強く宣言する。
天国に居るお父様に、この覚悟が届く様に。
「だからお父様、見守っていてください。私が強くなる姿を……どうか……どぅ…か…」
涙が零れ、言葉が詰まる。
強くなるって宣言したばかりなのに……
「ぐ……ぅぅ……こんなんじゃ……また……ひっく……お父様に……」
「今は泣いていいんだよ。いきなり強くなろうとしなくていいんだ。ゆっくり、でも着実に強くなって行こう。だから今は……ね」
ふわふわと目の前に浮かぶグゥベェが、その小さな前足で私の頭を撫でてくれる。
その瞬間、我慢できなくなって私は号泣してしまう。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!お父様!お父様ぁ!!」
お父様との思い出が、私の心の中に溢れ出る。
思い出の中の父の声。
温もり。
優しさ。
私は絶対に忘れない。
そして私は強くなる。
お父様が私にかけてくれた愛情を、この思い出を無駄にしない為にも。
絶対に。
だけど……今は……今だけは……もう少しこのまま弱虫でいさせてください。
お父様……




