14話 シスコン
「ふぅ……」
湯船に浸かると、体に温かさが染み込んでくる。
体の内から疲労を吐き出すかの様に、俺は自然と息を吐く。
訓練後に浸かる風呂は本当に気持ちがいい。
極楽気分で目を瞑っていると、バタバタと廊下を走る足音が聞こえてきた。
音はどんどんと此方へと近づいてくる。
何事かと思い目を開けると、ガラガラと風呂場の引き戸が勢い良く開け放たれた。
「見つけたわよ!」
「レ、レーネ!?」
「見つけたのよ!」
「な……なにを?」
「魔神に関する書物をよ!」
「ええ!?」
驚きのあまり、思わず立ち上がる。
「って、なんてモノ見せんのよ!この馬鹿!」
それを見て、レーネが顔を真っ赤にさせて叫んだ。
「あ……ご、ごめん」
俺は股間を抑え、慌てて風呂に沈む。
いくら驚いたとはいえ、これじゃ変態だ……ん?
って、よく考えたら此処は風呂場なんだし、むしろ変態はレーネの方なんじゃ?
そんな疑問が頭を過るが、黙っておく。
彼女を怒らせても、何もいい事はないだろうから。
「ネッドの部屋で待ってるから!さっさと風呂上がってきなさいよ!」
「あ、うん」
そういうと、レーネは扉も閉めずにドタドタと足音を立てて行ってしまった。
まるで台風みたいなやつだ。
「ったく、戸ぐらい閉めてけよ」
呟き風呂から上がる。
のんびり浸かりたい所だったが、魔神の手がかりを掴んだと聞かされたんじゃ、居ても立っても居られない。
体と頭を手早く拭い、風呂上がり用の綺麗な服に袖を通し急いで部屋へと向かう。
「レーネ!それで――って、テオード!?なんで此処に?」
部屋に戻ると、中にはレーネと並んで何故かテオードが座っていた。
彼は一体何しにここに来たのだろうか?
「なんで?だと」
テオードが鋭い目つきを此方へと向ける。
明らかに機嫌が悪そうだ。
「妹を、男と部屋に二人っきりにする訳にいかないからだ」
その言葉を聞き、テオードがシスコンだった事を思い出す。
そう、彼はシスコンなのだ。
レーネが全寮制の王立魔法学院に入った時は、本気で落ち込んで2〜3日道場を休んだ程の。
しかし――
「二人っきりってオーバーな」
「お前は油断できんからな。それに、俺も魔神には興味がない訳じゃない」
そう言えば、テオードもあの試合で俺の言う事を信じてくれたんだっけか。
結局地区大会はテオードの優勝で幕を閉じた。
本大会の方もテオードは破竹の勢いで勝ち上がり決勝戦まで駒を進めたのだが、残念ながらそこで敗れてしまい、準優勝で終わっている。
「そういや、まだ言ってなかったな。テオード、準優勝おめでとう」
試合以降顔を合わせていなかったので、ちょうどいい機会だから祝辞を伝えておく。
まあもう、あれから3か月も立ってるので今更感は否めないが。
「決勝戦では手も足も出ずにやられているんだ。何もめでたくなどはない」
「まあまあ、あれは相手が悪すぎただけよ。素直に準優勝を喜びなさいよ」
「ふん」
テオードの決勝戦の相手の名はオメガ・グラン。
彼の強さは凄まじかった。
恐らく、彼なら大人の大会でも問題なく優勝できたのでは?そう思わせられる程に圧倒的な強さの持ち主だった。
あれで俺達より一つ下だと言うのだから、本当に驚かされる。
きっと彼みたいなのを天才と言うのだろう。
「もう、お兄ちゃんたら」
子供っぽい兄の態度に、レーネが呆れたように溜息を吐く。
彼女はまあいいわと小さく呟くと、俺の方に向き直り、真剣な表情で魔神について話し始めた。