第12話 中ボス
「凄い数だな」
中庭を抜ける。
王城へは更に堀を越える必要があるのだが、門へと伸びる跳ね橋の上は魔獣で埋め尽くされていた。
「只の烏合だ、行くぞ!」
「ああ」
魔獣が何匹いようと今の俺達の敵じゃない。
テオードは迷わずそこに飛び込んでいき、俺もそれに続いた。
「ネッド!上!!」
目につく魔獣を片っ端から切り裂いていると、突然レーネが叫ぶ。
俺は声に従って視線を上げると、頭上から光る弾が飛んでくるのが見えた。
「はぁっ!」
目の前に迫った魔法を咄嗟に切り裂く。
魔法は真っ二つになり、跡形もなく消滅する。
レーネの魔法剣には、切った魔法を無力化する効果も付いていた。
我が幼馴染ながら、とんでもない天才っぷりだ。
「このタマ様の魔法を止めるとは、生意気な!」
更に視線を上げて上空を見上げると、杖を持った化け物が浮いていた。
ずんぐりむっくりした体型に、ローブとマントを纏い。
口は鳥の嘴の様に出っ張っており、禿げあがった頭部は大きな瘤で膨らんでいる。
「くそっ!」
化け物は次々と上空から爆裂魔法を叩き込んでくる。
魔法を受け、周りの兵士達が吹き飛ばされていく。
さっさと始末したいところだが、残念ながら俺に空中への攻撃手段はない。
アーリン達に期待するしかない。
「くっ!すばしっこいわね!」
化け物は空中を自在に飛び回り、此方からの反撃の魔法を全て躱してしまう。
相手は魔法をばら撒けばいいだけだが、此方は遠くの標的をピンポイントで狙わなければいけない分対応が難しい。
これはかなり手間取る事になりそうだ。
「ああ、もう。鬱陶しいわね!」
言葉と同時にレーネの体が浮き上がる。
「レーネ!? 」
彼女はこれまで魔法を制限していた。
それは彼女の最強魔法4属性融合魔法が、グヴェルへ切り札になる為だ。
消費の大きな魔法を一発でも多く打てるようにと、彼女は魔力を温存して来たのだが――
「大丈夫!最小限の魔力で対応するから」
そう言うと、レーネはタマと名乗った化け物に飛行魔法で突っ込んでいく。
相手の魔法を巧みに避け、あっという間に間合いを詰めた彼女は、そのまま化け物を蹴り飛ばした。
レーネは魔導師だがその身体能力は高く、体術もかなりのレベルで扱う事が出来た。
訓練してるそぶりは一切なかったのに、本当にレーネは謎だ。
「ぐぇあぁぁ!」
落下してきたタマをテオードが真っ二つに切り裂いた。
化け物は断末魔を上げ地面に転がり、その遺体からは炎が噴き出し灰となって消えていく。
「ね、最小限で済ましたでしょ?」
「流石天才」
レーネが俺の側に降り立ち、ウィンクしてくる。
本当に頼りになる相棒だ。
「まぁね」
「油断するな。まだ何か来るぞ」
テオードの言葉を肯定するかの様に、王城の閉じていた正門が轟音と共に吹き飛んだ。
そこから巨大な化け物が姿を現す。
それは8つの長い首を持つ化け物だった。
四つん這いの胴体の背中の部分には、女性の上半身が生えている。
「あれはヒュドラ!?」
「知ってるのか?」
「グヴェルの事が書いてあった研究日誌があったでしょ。あれに書いてあった合成生物よ」
グヴェルと同じ合成生物か……
ひょっとしたら、さっきの腐った巨人や、魔法を使ってきた奴もそうだったのかもしれない。
「首は同時に切り落とさないといくらでも再生するから、気を付けて」
あのでかい首を同時に全部か。
厄介だな。
「GYAAAAAA!」
ヒュドラが雄叫びを上げて突っ込んできた。
奴が足をつく度、橋が悲鳴を上げ、大きく揺れる。
さっさと倒さないと橋が崩れてしまいそうだ。
「なら!」
時間をかけている余裕はない。
体への負担は大きいが、俺は三重加速を発動させる。
世界の動きが鈍り。
ヒュドラの動きがスローモーションになる。
まずは手近な首を切り落とす。
2本、3本と切り裂いていき、4本目を落としたところでテオードが突っ込んでくるのが見えた。
デバフ中だと言うのに彼はかなりの速度で動き、ヒュドラの首を切り落とす。
その動きから、この短期間でまた一段と腕を上げた事が分かった。
その圧倒的成長速度には、流石だと感心せざる得ない。
「ラスト!」
俺は最後の1本を切り落としたところで三重加速を止める。
ある程度の消耗は覚悟していたが、思った程ではなかった。
やはりあのポーションの影響が大きいのだろう。
「ああああああぁぁぁぁぁぁ!! 」
テオードがヒュドラの胴体に飛び乗り、背中から生えていた女性の首を跳ね飛ばした。
生首は不快な絶叫を上げ、空中で炎を上げて燃え尽きる。
同時にヒュドラの体も火柱を上げて消滅した。
「行こう!」
橋に居た魔獣は粗方片付いていた。
俺達は吹き飛ばされた正門から王城へと突入する。