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詐欺師とヒーロー  作者: しゅう
3/5

三話 才は遍く負を引き寄せる

20000文字も書くことないです。

取り敢えずこの小説の技術面で扱いてください。

ドン。

鈍い音だ。大方何かを落としたのだろう。全く、そんなガサツだから僕しか仕事相手がいないんだ。仕事相手、又の名を永久就職先だ。ゆいが僕と初めて仕事をするときに、そう言ったのを今でも覚えている。風変わりな言い方だったし、何より、永久という言葉に重みがあった。それにグッときて、彼女を巻き添えにした。非道だ。

そもそも、僕はそれなりに今の仕事に罪悪感を抱いている。そんな仕事に人を、まして女性を巻き込むなんて僕はどうかしている。

然れども、いや、それ故に仕事に満足している節もあるが。過去の境遇のせいだろうか、僕は感情に触れることが苦手だ。それでも、僕は僕なりに生きたかったのだ。人と調和してみたかったのだ。力で物をわからせたりしない生き方で。

嫌気が差してきた。思考をリセットしよう。

部屋に籠り、本をペラペラ。つまらない本だ。僕の人生みたいなどうしようもなさがない。自然の摂理、不条理と置き換えられるそれは、僕の昔の象徴だ。どうしても圧倒的に強く、強さ故にどうしても人に余所余所しくされ、つまらなかった。その点今はいい。軍師時代の後輩に、濫用するなよとだけ言って、僕の力の一部を引き継がせた。そのお陰だ。

いいやつだった。馬鹿正直で、弱くて、誰より殺しが好きだった。好きだからこそ、理不尽な死を許さなかった。愛が正義になる、ある意味では本当の才能の持ち主だった。彼女に引き継ぎ、禍々しいオーラがなくなった僕は、ついに気配に気付かれなくなり初めて雲隠れに成功した。この時だった。初めて"欺く”ことに知見を得た。これが成長だ。

馬鹿正直なのは自分だと気付かされた。

それなのにこの本ときたら、主人公が日を重ねるごとに成長している。時間経過の伸びは成長ではなく自分への慣れだ。もしこれに主人公が気付くのなら、僕の愛読書として大切にとっておこう。

さて、少しばかり疲れたし、寝るとしよう。部屋の端にある照明のスイッチを押し、慣れを頼ってベッドに潜る。明日は面白いことだろう。なんせ、仕事があるのだから。


─── ・ ───


「おはよう」

「おはようございます」

一応客人と挨拶し、昨晩一緒の部屋で何をしていたのかを聞こうか悩んだ。どっちが誘ったの?とか。

まあ、流石に殺されることくらい分かっている。人の性癖に難癖つける気は少ししかない。

「よく眠れましたか?」

「ええ、まあ。久しぶりにベッドで寝ましたからね」

なんか悲しくなった。

「それはよかった。ゆいが起き次第出ようと思います。今日は店を休んでいますから時間はあるので、お気になさらず。椛さんには、説明しておくことが多すぎますからね」

嘘は言っていない。それにしても、ゆいがこれ程遅くまで寝ているのも珍しい。昨夜はお楽しみだったようで。

「あの後、ゆいとは何か話したんですか?」

刹那の胡乱気な穏やかな目と修羅場を生きた者独特の緊張は、彼女の過去をより綿密に物語っていた。どんな仕事だよ。

「ええ、多少。術についてや、悠斗さん方のなさってることの話など」

何か隠してる?……意外だな。この人は普通の人だと思っていたんだけどな。ゆいは僕がいないところで何かを説明しない。

「そうですか。にしてもゆい、遅いな。ちょっと見てきますね」

敢えて背を向ける。さあ、吐いてもらおうか。

リビングのドアを開きかけ、大仰に振り向いた。

「そう言えば、昨日から違和感はありませんか?空間を移動したので酔っているかもしれない……って、どういう風の吹き回しですか?そんな物騒な魔法陣を向けて」

「……っ!うるさい。あなた達には」

「ギルドに来てもらう。そうですよね?グノーシスの雇われ暗殺者、クリスタ・アーベントロート」

「……何を言っているのかしら、私にはわからないわ」

昔対峙した時とそっくりな風体だったからすぐわかった。

「何が目的ですか?喫茶を商う夫婦を捕まえてどうしようって言うんですか」

「……、いいわ。餞別として教えてあげる。あなた達は私が助かるための生贄になるの。抵抗しても無駄よ。私のことを知っているならそのくらいわかるわよね?」

まさかバレていたとは。ギルドの自治能力を甘く見すぎていたな。

「ゆいはどこにいますか」

進もうとすれば、当然容赦なく攻撃される。結局背を向けたままだ。

「いつから気付かれていたんですか?」

「気付く?なんの事かしら。話を逸らそうったってそうはいかないわ」

別に隠すほどの事でもないのにな。

「そう、じゃあ仕方ない。諦めよう」

あら、潔いのね。そんな戯言を口にするクリスタに、少しお灸を据えてやろう。生意気だ、と。

「君にも一つ警告だ、クリスタ。一歩動いてみろ。臓器売買で君の価値がわかるよ」

気味悪がっている顔が、懐かしい。現役の頃の精神が暗殺者の行動に好奇心を剥き出す。


膠着状態、というやつだ。僕はあくまでも自ら攻撃をする気は無い。暫くは待ちとなる。

「あなた、何者?」

「喫茶の店長」

「そうじゃない。これ程の殺気がある人があんな店をやっているなんて不可解よ」

「それが知りたいなら、ほら、やってみなよ。得意でしょ?」

両手をだらりと挙げ、挑発する。しかし動きは見られない。

「知らないうちにかなり弱くなったんだね。昔の君ならこの程度、強行していたと思うけど」

反論すらしてこないのでは、存在意義というものがない。殺すか……?いや、その手のおっさんに売るという手もある。悪趣味な男が買っていくことだろう。悩むな。

「最期の質問をしよう。臓器売買と人身売買、どっちがいいかな?そのくらいは選ばせてあげるよ」

まだ静か。焦れったくなり、振り向いた。クリスタは、いなかった。背後に気配がある。回り込まれたか。魔法陣も感じ取れる。この術は多分、神術だ。神術はそれ同士でしか相殺できないが、使える時点でそれなりに強いので主に殺しに使われる。例えば今みたいに。あとは、術を扱う『マイティ』と呼ばれる人から生み出される『術機関』に使われる。例えるなら、蒸気機関の石炭だ。死ぬまで奴隷、死んだら燃料、無駄がない。勿論違法だ。

さて、ここで暴れられたら片付けが面倒なので移動するとしよう。瞬間移動、種を明かすとただの空間の交換だ。誰もいない島の一部と転移する。元から今日来る予定の場所だ。下見はしてある。

続いて即座に放たれる光線に、一度は回避を余儀なくされ、受身と同時に距離をとる。続いて術は昆虫のように宙を舞い、彼女の上空からホーミング弾へ姿を変える。流石は暗殺者。死に隣り合わせなだけあって戦闘技術は高い。ならば僕も応えよう。神術なんて、いつぶりに使うだろうか。

「あなた、本当に何者?私のことを知っていて神術まで使える。只者じゃない」

「ああ、ただの店長じゃない。実はね、僕、コーヒー豆の卸売りなんだ。いい豆を安く仕入れている。だから美味しいコーヒーが淹れられるんだ」

自慢げに話しながら腕に纏った術式を元に武器を形作る。所謂『スライド』という行為だ。術を纏った武器はただの物理攻撃より遥かに強くなる。手榴弾でいいだろう。

彼女は、スライドの巧妙さで有名だった。その彼女のフィールドに自ら入ることで多少は挑発となればいいのだが。なぜスライドしないのだろうか。只管同じ術弾と光線を繰り返し使い、昔の夥しい弾幕もハメ手もスライドでさえも、見ることなく逃げて行った。右の進路を爆風で塞ぎ、はたまた大木を折る。

スライドした手榴弾を投げてはリロードを繰り返していくうちに、岩場の影に行き着いた。そろそろ仕留めようか。

「あなた、名前は悠斗よね……。もしかして、月ノ瀬悠斗?」

「それがどうしたのさ」

「私達の界隈であなたを知らない人はいないわ」

「ああそう。僕は君らに飽きたからここに居るんだ。そんな連中に知られていても困る」

こればかりは事実だ。隠しても意味はない。

「君にどう見えているのか知らないけど、僕はできれば穏便にことを済ませたい。どうだろう、お互いなかったことにしないか?」

引き時を弁える。これも商売には重要なことだ。

「命は大切にね」

付け加えて尚問い続ける。一考くらいはできる時間を与えた。けれども彼女の脳は今は動きが鈍いらしい。

「少し話題を変えよう。本来だったら僕等を捕まえてどうするつもりだったんだい?」

「適当なマイティの犯罪をでっち上げて、ギルドに申告して、また雇ってもらうつもり……でした」

でした?なんで丁寧語?

顔に出ていたらしく、続けてクリスタは説明した。

「私、仕事でミスを繰り返したせいで『逆転移』させられたんです。それで、諦めて人間界で死のうと思っていたところ、ゆいさんに連れられて……」

「こっちに来た時に術が使えることに気付き行動に移したと?」

「はい」

逆転移、実質的な追放だ。一度異世界に帰属すると、術式を組む力がなくなる。詰まるところ、無力化されるのだ。

「じゃあスライドを使わないのは……」

「体が忘れていて上手く出来ないんです」

なるほど、煽りは空振りだったのか。

「ところで、なんで丁寧語になったのかな?」

渋りはしたが、やがて素直になった。

「こっちの世界で……もっと生きたいんです。汚れ仕事じゃなくて、自分をもっと公にして堂々と街を歩きたいんです」

「なるほどね。そう言えばクリスタ、今も証は持っているのかい?」

静かに首肯した。そうか、そうなのか。

いいことを思いついた。


「こっちで生きたいから匿ってくれってことだよね?」

「はい!お願いします!」

あら、潔いのね。とは言わず、取り敢えずは、妻擬きを解放してもらおう。

「ゆいはどこ?」

「私が寝た部屋から、拘束してディバリオに繋いであります」

「何っ?ふざけるな、なんでもっと早く言わない!」

転移!勿論あの部屋だ!

どこだ。どこに縫い目がある。昨晩空間を切ったのであればまだ縫い目は残っているはずだ。そうでないと……、困る!

「ゆい、どこだ……、ゆい!」

だいぶ取り乱しているのだろう、クリスタの大きな目が、申し訳なさと僕の哀れさを孕んでいる。

「お、落ち着いて下さい」

「何が落ち着けだ!誰のせいでこんなことになっている!」

「だから!私が切って私が閉じた切れ目なのよ?なんで私を頼らないの!」

涙に充ちた目を見て、少し冷静になった。信用ならないからだ!と言おうとしたが、それすら根拠はない。冷静さを欠いたことを省みる。

「ごめん、色々悪かった。どこにあるんだ?」

色々、口とか態度とか雰囲気とか。色々だ。

「ここです」

指差されたのは巽の方角だ。

確かに新しい、縫い目が微かに残っている。よかった。

刹那の安堵と共に中指を親指の付け根に叩きつけ、同時にディバリオを俯瞰する。

見つけた。

あの長いダークブラウンの髪、あの華奢な四肢、鉱の如き性格とは似ても似つかなく少し謙虚だが、それでも触ると充足感を与え、確かに女性のそれと認識させるリンドウのような胸、絶望した時のあのメランコリックな瞳。

正しく初めて見た時のゆいだ。下心が多いのは気にしてはいけない。

切れ間に埋没するように潜り込み、地につく事のない足を一歩一歩確実に踏み締める。少しずつ少しずつ距離が詰まり、涙腺の働きを無理矢理抑えつつゆいに触れた。

冷たい。

生きてはいる。

よかった。ひとまず戻ろう。

来た道を目で遡ると、あることに気付いた。

切れ間が、ない……?

どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。

原因なんてどうでもいい。早くゆいを……


助けないと。


前書きに書いてあったこと覚えてますか?

皆さんお得意ですよね?人の粗探し

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