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 「ったく、なんで俺が……」


 ぶつくさと不平不満を零しつつハンドルを握る男に、紡は「すみません」と何度目とも知れぬ謝辞を口にした。その度に男ははっと我に返って気にするなと手を振った。

 じろりと本来責められるべき本人に恨みがましく目を向けてみるが、彼女は飄々(ひょうひょう)として、当然のように助手席に鎮座し微笑みを湛えている。それもまた何度目とも知れぬことで、やりきれず彼は溜息を吐いた。


 彼ーー波野(はの)(ゆう)は、今日は久々の非番だった。刑事一課という警察の最前線に所属する身分は、名前のまま犯罪に関与する物事を取り締まる立場であり、常に危険と隣合わせている。犯罪に休みだの労基法だのを説いたところで話が通じるはずもなく、非番というのはそれ故に貴重かつ重要な日なのだ。

 しかし、口ではぶつくさ言いながらも彼は既に観念していた。普段であれば自分こそ彼女に助けられているし、従妹の要求も完全な我儘とは言えないからだ。


 「しっかし、資産家ってのも大変なんだなぁ。」


 悲しむ暇もあったモンじゃねえ、と憎らしげに言う雄に、思わず紡は吹き出した。

 ちろりと不思議そうに目をよこされて、彼女は大したことじゃないけれど、とくすくす笑いながら言った。


 「だって、慈とおんなじことを言うから。従兄妹って聞きましたけど、本当の兄妹みたいですね」

 「あー、年も一番近いから。親戚の集まりとかだと一緒に行動すること多かったし、そのせいかもな」


 説明のように言うが、内心では珍しいことを聞いたと驚いていた。

 自分自身では思ったことはないが、そういう風に見える視点もあったのか。

 はっとして、当の本人の様子を伺ってみる。

 慈は窓の近くに肘をついて、流れ行く景色を眺めていた。

 いかにも興味ないと言いたげな様子だが、その通りではないことに雄は気づいていた。


 (…ったく、なーにが「俺だけ」だよ)


 なかなか稚気の抜けきらない彼女に、彼はこっそりと溜息を吐いた。


 「あ、見えてきました。あれです」


 打ち砕くようにこれを発した紡が、斜め前を指差した。その先に見えるのは、随分高い位置にあるが屋根らしきもの。

 あとはあれを目指して進めばいい。気安くそう考えていたが、それが甘かったと後悔するのに時間はかからなかった。


 「……なあ。俺、道間違えたり……してない?」

 「え?ええ、あってますよ」


 不思議そうに首を傾げる紡に、マジかと彼は絞り出すように呟いた。

 先はまだまだ長いようだ。

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