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 木梯子は傍目にはわからなかったが、取り替えられてそれなりの月日が経っているらしい。ささくれこそなかったものの、薄っすらと埃が積もっていた。

 潔癖性どころかむしろずぼらな自覚のある雄はこの程度気にすることはないのだが、後から下りてくるのは一人は従妹といえども妙齢の女性二人であることには変わりない。

 雄はポケットに入れっぱなしにしていたハンカチを取り出して、ざっと一拭きしながら下に降りていった。

 そして、ついに足が床につく。雄は汚れた面を内側に折り込んでハンカチをしまった。

 陽の光の差し込まない其処は真っ暗で、どこに何があるかなど到底認識できない。携帯端末を取り出し懐中電灯のアプリを使って照らすと、一点を中心に辺りが少しだけ見えるようになった。

 少し間を置いて、慈と紡も床に足をつける。二人も同じく携帯端末のアプリを起動させると、ようやくどこに何があるのかわかるようになった。

 隠し部屋には、物が溢れていた。刀掛台に置かれた二十は下らない日本刀、唐櫃に詰められた巻物の山、棚に飾られた数々の焼き物。

 日本の物ばかりかと思えばそうでもない。少し目を動かせばいかにも高級そうな額縁に入れられた西洋絵画が収められた棚や、いかにも年代物と見受けられる洋食器、小ぶりの箱を開けてみれば大粒の宝石があしらわれた装飾品がいくつも姿を現した。


 「これ、全部売ったらいくらになるんだ……?」


 問う雄の表情は引き攣っていた。真贋などてんでわからないが、どれもこれも高級感に溢れていて迂闊に手を触れてはならないと本能が知らせてくるのだ。

 はっきりいって、居心地が悪くて仕方がない。何かを壊す前に今すぐここから出て行きたい。

 しかし正直にそれを言うと、慈に「見事な野生の勘ね」とひどく楽しげに笑われた。笑い事ではないというのに。


 「私も専門家ではないからわからないけど、もし全部が本物だとしたら億は余裕でしょうね」

 「億ぅ⁉︎」


 思わず素っ頓狂な声を上げた雄に、慈が五月蝿いと冷たく言い捨てる。けれど失神しなかっただけまだ理性的な反応だったと雄は自負していた。

 危険が潜んでいるわけでも無し、今すぐこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになる。しかしそれをこの従妹が許してくれるはずもなく、雄はとにかく何にも触れないようにと身を縮こまらせた。

 不意に、こつりとヒールの音が隠し部屋に響く。動いたのは紡だった。その視線の先には、小作りの質素な机。この部屋の中ではかえって浮いてしまうありきたりなそれを目指し、彼女の足が動く。

 かたん、と引き出しを開ける。中にあったのは、写真立てとアルバムだった。

 写真立てには赤ん坊を中心に両親だろう男女が寄り添いあって幸福の笑みを浮かべ、その傍で着物姿の女性があふれんばかりの慈愛を宿した目で見守っている。

 写し出された優しい瞬間に、紡は目頭が熱くなるのを感じた。


 「おばあちゃん……」


 先月永久の眠りについた祖母が、少し若返ってそこにいた。彼女の孫は、自分一人。赤ん坊は、紡だ。そして寄り添い合うのは、もう顔も思い出せなくなってしまった両親。


 「会いたかった……」


 涙声で呟いて、紡は写真立てを抱きしめた。

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