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コンコン、と行儀よくドアがノックされる。
訪問者は亀山だった。お食事のご用意が整いました、と恭しく頭を下げられて、おっかなびっくりという風に雄が応じる。
先導されるまま二人で向かった食堂では、先に着いていた紡がニコニコ笑顔で迎えてくれた。
豪奢なシャンデリアの下、長いテーブル。ドラマかよ、と零す声を慈だけが聞いていた。
「いつもこんななのか?」
「あ、ははは……」
笑って明言を避けた紡に、さしもの慈同情を禁じ得ない。そっと目を伏せがちにした慈に、彼女は「慣れなくちゃいけないから」と苦く笑った。
一品一品運ばれてくる料理は見た目こそ正統派フレンチだったが、口に入れれば何処か親しみを感じさせる味がした。
「…………お出汁?」
「あ、正解。お味噌とか、和要素を取り入れてるってコックさんが言ってたよ」
雄の頰がひくりと痙攣する。類友、という言葉が彼の脳内を占めていた。
対して慈は動じた様子はなく、見事な取り合わせだと悠々称賛していた。
口直しの氷菓は甘みと酸味のバランスが絶妙で、甘い物を好むでもない雄でさえペロリと空にしてしまう。
その器を下げようという時に、不意に室内の電気が消えた。
「なに、停電?」
壁際にいた亀山が、装飾に使われていた燭台に火を灯す。橙色の光がぼんやりと室内を照らした。
実用も兼ねていたらしい装飾に次々と火を分けていき、室内は不都合のない明るさを取り戻した。
「どうやら屋敷全体が停電してるようね」
「ブレーカーが落ちたのか?」
話し合ってはみるものの、見てみない限りは推論に過ぎない。
見て参ります、と進言した亀山に、待ったをかけたのは慈だった。
「兄さん、着いて行って」
「はあ? なんで」
「いいから」
雄は突然の指名に眉間を寄せたが、慈はいけばわかると言って話す気は無いらしい。
相変わらずだと肩を竦めて亀山に足を向けると、亀山は困惑しながら雄を見上げた。
「よろしいのですか?」
「ええ、どちらかが燭台を持った方が火事の危険も減りますし」
それに、慈が理由もなく自分を遠ざける筈がないのだ。
何を予見してのことかはわからないが、無駄なことはしないだろう。
亀山は雄に促されるまま、食堂を出て行った。
ついで、慈は紡にも指示を出した。控えていたメイドまで巻き込んだそれに、紡とメイドは同じ顔をした。
しかし、答えが返されることはない。
にっこり、慈は微笑を浮かべる。美しい、けれど、恐ろしい笑み。企むような、獲物を狩る時のような暗く危うい光が、双眼の奥に揺らめいていた。




