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プロローグ


 非日常というものは、結局いつどこにいようとやって来る。

 暮井(くれい)(めぐみ)がそれを知ったのは、大学のエントランスだった。


 その日、やけに人が(たむろ)していた。何かを囲うように突っ立って、喧騒を生み出す野次馬となっていた。

 騒めきの中で、殊更に目立つ声があった。一つでは無い。聞きなれた関係者の声が必死に宥めようと試みているのが聞こえてきて、喧嘩だろうと、その時は安易にそう思った。――悲痛に満ちた、友人の声が聞こえてくるまでは。


 「っいい加減にしてください!知らないって何度も言ってるじゃないですかっ」


 その声を聞いた時、慈は場違いにも感心していた。声の主――上条(かみじょう)(つむぐ)とは、浅からぬ付き合いをしてきた仲だ。が、彼女が感情的になるところは一度たりとも見たことがなかった。

 胸の中でむくむくと膨れ上がるものに抗うこともなく、観衆に紛れ込んで様子を伺う。

 紡が対峙(たいじ)しているのは中年の男女だった。夫婦、あるいは兄弟か。徒党を組んで、一方的に詰め寄ろうとしているのを、職員が間に割り入って食い止めていた。


 「どうして長男の俺じゃなく孫のお前が相続人なんだ!おかしいだろう!」

 「あんた、遺産の隠し場所知ってるんだろう!さっさとお言いっ、遺産は私たちのものよ!」


 口端に泡を吹いて喚き立てる彼らに、それ以外は一様に顔を顰めた。恥知らず、と誰かが吐き捨てる。

 矛先の紡は、職員に庇われながら、涙目になるのをぐっと堪え、気丈に言い返した。


 「おばあちゃんの遺産のことなんて私は何も知りません。これ以上続けるつもりなら通報します。帰ってください!」


 気の短そうな男の顔が赤黒く染まる。女は少し青ざめた。今にも掴みかかりそうな、一触即発な状況。男女はまだ何か言いたそうにしていたが、忌々しげに舌打ちするに留めた。


 「いいか、遺産はおまえなんかにはびた一文だって渡さないからな」


 ぎょろりとした眼で睨みつけて、男は暗い呪詛を吐き捨てた。

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