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夢守少女ユメミ  作者: 青星明良
第一夜 あなたの悪夢、退治します!
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1 いきなり大ピンチ!

 みなさん、こんにちは!


 わたしがこの物語の主人公、浮橋うきはしゆめです! ユメミってよんでね!


 本当ならいろいろ自己紹介したいところなんだけれど……。


 ちょっと、ごめん! いまそれどころじゃないんですよ!


 わたし、いま、とってもピンチなの!


「い、いやぁ~! たーすーけーてー!!」


 わたしは、上も下も、右も左も、見渡すかぎり、ぜーんぶまっくら闇などこかの道を必死になって走っていた。


 ここがどこかって? さっぱりわからない! だって、気がついたら、ここにいたんだもん!


 じゃあ、なんで必死に走っているかですって?


 そんなの決まっているじゃない!


 うしろから、空飛ぶ巨大な注射器がわたしを追いかけて来ているからよ!


 どれぐらい大きいかって?


 針の長さが、わたしの身長150センチちょいと同じくらい……! あんなので注射されたら確実に死ぬ!


 しかも、巨大な注射器は1つだけじゃないの! 5つもの注射器が、わたしを注射しようと追いかけて来ている!


 ね? ね? だれだって必死に逃げるでしょ!?


「もう注射はいやーっ!! 毎日、毎日、病院でお注射しているのに、なんであんなどでかい注射器で打たれないといけないのよー!!」


 小さなころから病弱だったわたしは、病院によく入院して、あまり小学校には通えなかった。だから、友達もぜんぜんつくれなかった。


 友達がいない私に、だれもお見舞いになんか来てくれない。せめて可愛い弟か妹がいたら、お父さんやお母さんといっしょにお見舞いに来てくれて、さびしさをまぎわらすこともできたんだろうけれど……残念ながら、わたしは一人っ子だった。


 中学校に入学するまでには元気な体になって、友達をいっぱいつくりたい。そう願っていたわたしは、嫌いな注射も毎日がまんしていたし、


「この手術に成功したら、きっと元気になれるからね」


 お医者さんにそう言われた大きな手術も、恐かったけれどがんばって受けたんだ。


 いや、最初は「手術恐い手術恐いガクブルガクブル……」ってビビってたんだけど、


 手術を拒否きょひして病院を逃げ出したら道ばたで苦しくなって死にそうに……!!


 ……という夢を見たものだから、なんだか不気味ぶきみでね……。一世一代の決心をして、手術を受けて無事に成功したの。


 それで、よーやく、長かった入院生活も終わったのに……。


「なんで、あんな化け物みたいに大きい注射器に追いかけ回されないといけないのよぉ! 神様のバカぁー!」


 逃げるわたしと空飛ぶ巨大注射器たちの距離がだんだんせばまる中、わたしは大声でさけんだ。


 すると、わたしの頭上で、だれかがこう言ったの。


「安心しろ。これは夢だ。おまえは、悪い夢を見せられているんだ」


「え? 夢? これは夢なの?」


「ああ、そうだ。いま、オレさまが助けてやる」


 な、なぁ~んだぁ~! よかったぁ~!


 よくよく考えてみたら、あんなにもでかい注射器が現実にあるはずがないもんね。


 それに、病弱で体力がさっぱりなわたしが、こんなにも速く、しかも長い時間走っていられるはずがなかったんだよぉ~。……自分で言っておいて、ちょっとへこむけど。


「ねえ、『オレさま』さん! あなたもわたしの夢の中の登場人物なんでしょ? 助けてくれるのなら、ちゃっちゃとあの注射器をやっつけて! お願い!」


「オレさまの名前は、『オレさま』じゃねえ! オレさまの名前は……」


「なんでもいいから、早く助けてよぉー! ヘルプ・ミー!」


「名乗らせろよ! チッ、まあいいや……。いますぐ、おまえの悪夢をオレさまが食べてやる」


「え? 悪夢を食べる?」


 おどろいたわたしは、頭上でぷかぷか浮いている「オレさま」さんを見上げた。


 「オレさま」さんは、体ぜんたいから金色のまぶしいオーラをはなっていて、その姿はよく見えない。声は、男の子っぽいけれど……。


「こいつは、悪夢使いの夢幻鬼むげんきヒガンのしわざだな! このオレさまがあらわれたからには、悪夢なんてひと飲みでごっくんしてやるぜ!!」


 そう啖呵たんかをきった「オレさま」さんは、ふわりと地面に舞いおりて、わたしをかばうように、巨大注射器たちの前に立ちはだかった。


「さあ、来い! 今夜はごちそうだぜ!」


 「オレさま」さんは、せまり来る注射器たちに人差し指でクイクイと手まねきすると、


 ひゅぅーーーっ!!


 と、大きく息を吸いこみ始めた。


 え? え? な、なにやってんの……?


 わたしがあっけにとられていると、おどろくべきことが起きた。


 針だけでもわたしの身長と同じぐらいの大きさだった注射器たちが、「オレさま」さんの大きくあけた口にどんどんと吸いよせられていき、彼の口に近づくにつれてどんどん小さくなっていったのだ!


 最終的に普通サイズの注射器よりもずっと小さいお豆サイズになり、「オレさま」さんは、5つの注射器をごっくんと飲みこんだ。


「い……痛くないの? 注射器の針、のどに刺さったりしてない?」


 注射器を食べるなんて、絵的にとっても痛そうな光景を目の当たりにしてしまい、わたしは「オレさま」さんにおそるおそる聞いた。


 とりあえず、読者のみなさん。良い子はマネしちゃいけません!(マネできるわけないけどね!)


「これは、夢幻鬼がおまえに見せていた悪夢……夢の中のまぼろしだ。だから、本当の注射器じゃない。でも、夢の世界の住人たちの中でも、悪夢を食べられるのは、このオレさまだけだがな! どうだ、すげえだろ!」


 「オレさま」さんは得意げにニヤリと笑って、そう答えた。


 相変わらずピカピカ光っているから、彼の顔はよく見えないのだけれど、なんとなく雰囲気ふんいきで笑っているのがわかった。


 そして、これもなんとなくだけれど、この子は超絶ちょうぜつイケメンのような予感がする。


 少女マンガや恋愛小説とかで、オレさま系のイケメンってよくいるでしょ?

 しゃべりかたは乱暴で、ちょっと強引なところもあるけれど、物語のヒロインがピンチなときには助けにけつけてくれる……。


 これぞオレさま系イケメン! そして、目の前の彼はわたしを助けてくれた!

 まるで、小説やマンガみたいだよぉ~!


 わたし、ずっと病院のベッドで寝ていたから、趣味といったら読書ぐらいで、いろんなジャンルの小説やマンガを読んでいたの。特に恋愛ものが大好き!

 そのせいで、寝ていても起きていても物語の妄想もうそうをしちゃっている、想像力豊かな女の子になってしまったの。

 頭の中で、オレさま系イケメンと何度デートしたことか!!


 そのオレさま系イケメンが(夢の中だけれど)目の前にいると思うと、わたしはいても立ってもいられなくなったのデスヨ!


「『オレさま』さん、助けてくれてありがとう! ねえ、ねえ、そのピカピカやめて、顔を見せてよぉ~!」


「だ・か・ら! オレさまの名前は、『オレさま』じゃねえ! 何なんだよ、おまえ!」


 わたしが恋する乙女のように目をキラキラ輝かせながらせまると、『オレさま』さんはなぜかおびえたような声でそう言い、一歩、二歩とあとずさった。


「え? なんで逃げるの?」


「目がギラギラしていて恐いんだよ! 邪悪なオーラを感じる! オレさまのことを取って食うつもりか!?」


「そんなわけないじゃん! 恋にあこがれる乙女にむかって失礼な!」


 プンスカ怒りながらわたしが一歩近づくと、「オレさま」さんは三歩あとずさる。


 も、もう~! 何なのよぉ~、傷つく~! わたしはただオレさま系イケメンの顔をおがみたいだけなのにぃ~!


「た、助けてやったんだし、これでさよならだ! じゃあな!」


 ついに、「オレさま」さんは飛びあがり、空中に逃げてしまった。


「あっ! ま、待ってよぉ! ……よ~し! だったら、わたしも飛んでやるんだから!」


 ここはわたしの夢の中なんでしょ?

 何でもありの夢の中だったら、わたしも飛べるはず!


 そう考えたわたしは、ちょうが空を舞っている光景をイメージして、


(蝶の羽よ、わたしの背中に生えろ!)


 と、ねんじてみた。すると……。


「やったぁ~! 蝶の羽が生えたぁ~!」


「う、ウソだろ!? 人間のくせに、なんていう夢想力むそうりょくの強さだ!」


 わたしは、アクアマリンの輝きをはなつ蝶の羽を優雅ゆうがにはためかせ、「オレさま」さんを追いかける。


 「オレさま」さんは、わたしが空を飛べたことにおどろいて動揺どうようしているみたいで、飛ぶスピードはかなり落ちていた。


「つっかまえた~♪」


「わっ、こら! おまえは酔っぱらいのオヤジか! オレさまにふれるな!」


 現実世界では引っこみ思案じあんで大人しいわたしだけれど、自分の夢の中でならだいたんになれる。


 わたしは、逃がさないように、ガシッと「オレさま」さんにしがみついた。


「さあ! イケメンの顔を見せてもらおうか!」


「は、はなれろ! な……なんだか、力がぬけていく……?」


 わたしにしがみつかれて、「オレさま」さんはジタバタとあばれた。でも、その抵抗する力はしだいに弱くなっていき……。


 ん? 心なしか、「オレさま」さんの体、縮んでいってない?


「う、うわぁぁぁぁ!! ち、力が……力が吸われる~!!」


 心なしどころか、あきらかに縮んでいってるよ!?


 しかも、「オレさま」さんの体をおおっている黄金の輝きが消えていく!


 な、なに!? なにが起きているの!?


 おどろいたわたしが目をパチクリさせているあいだに、黄金の輝きは完全に失われてしまった。そして、わたしの目の前にいたのは……。


「ば……ばくぅ~……」


 なんと、5~6歳くらいの可愛らしい男の子だった!


 カンフーの道着どうぎみたいな服装をしている、その小さな男の子は、ニンジンのように髪が赤い。くりくりの目はとても愛らしく、ほっぺたは指でつつきたくなるほどプニプニとやわらかそうだ。


「な、なんじゃこりゃぁ! 殺人的に可愛いんですけれど!?」


 ずっと前から弟か妹がほしくて、「もしも弟や妹ができたら、どんなことをして遊ぼう」とか、病院のベッドの中でよく妄想していたものだ。


 そんなわたしにとって、目の前の可愛さ国宝級の男の子は、妄想していたとおりの「理想の弟くん」だった。


 さっきまではわたしと同じくらいの身長だったのに、どうして縮んだのか気になるけれど……。


 夢だし、まあいいか!!


 「あこがれのオレさま系イケメン」は消えちゃったけれど、いま目の前には「理想の可愛い弟くん」がいるんだし!


 思うぞんぶん、この可愛い生き物を愛でてあげようぞ! フハハハ!


「がぶーーーっ!!」


「あいた~!?」


 わたしが抱きつこうとすると、男の子はひらりとかわし、わたしの頭にかみついた!


「痛い、痛い、痛い~! やめて~! 夢なのに、いた~い!」


 わたしは、その痛みで夢からさめてしまった。

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