第九十四譚 誰が呼んだか女神様
とても、とても暖かく優しい光を感じる。
何か優しいものに包まれているような、そんな感覚。
俺はゆっくりと目を開け、そして理解する。
辺り一面真っ白で何もなく、俺は宙を浮いている。
どこが地面で、どこが天井なのか。それらがあるのかわからない空間。
前にも一度来た事がある場所だ。
そう、ここは――。
「目覚めたみたいね」
「……やっぱりお前か――キルリア」
「久しぶりね、リ――おっと、今はアルヴェリオだっけ」
俺の目の前に現れたのは、神々しい羽衣を着て浮かぶ女性。
いかにも、という感じで神々しく感じられる。
衣装、杖、雰囲気、体つき――あらゆる面で神々しい。
この女性はキルリア。またの名を――キルテリアス。
そう、女神キルテリアスだ。
三大神教が一つ、キテラス神教が崇める神――それがこのキルテリアス。
この女神こそが、俺をリヴェリアとして転生させた張本人。
命の恩人、とも言える。
「お前がいるって事は……そっか、死んだのか」
「まだ死んで無いわよ、わたしが勝手に呼びよせただけ」
軽い口調で笑みを浮かべるキルリア。
その言葉に俺は、思っている事を即座に問いかける。
「あのさ、こういうこと言うのはアレだと思うんだけどさ。アイツらが転生したときは姿を見せたのに、何で俺には姿見せてくれなかったんだ?」
「あら、嫉妬してるの?」
「違う断じて違う。おい、にやけるの止めろ」
俺はため息を吐きながら下を向いた。
「それに俺が転生する時だってくれなかった恩恵もアザレアに渡してるしさ、これって差別なんじゃないですかね!」
恩恵。簡単に言えばチートスキルのようなもので、アザレアが使える転生者かどうかがわかる能力も恩恵によるものだ。
「あら? あなたには渡してあるわよ、あのグラジオラスって子にも」
「……はあ? いやいやいや、それはねえって」
「なにもアザレアって子に渡した恩恵みたいなやつじゃなくて、自身に影響がある恩恵だってあるのよ?」
その言葉を聞いた俺は、今までの事を振り返ってみる。
でも、結局何も恩恵を与えられている気がしない。
「……まあいいや、それとだな! この身体どういうことだよ、イレギュラーすぎるだろ!? なんでこんな形で転生させたの!?」
「わたし知らないわよ、初めての時に言ったでしょ? 転生できるのは一回だけだって」
「ならなんで二回目の転生しちゃってんだよ……って、あれ?」
俺は今の会話に少し引っかかるものを感じた。
転生は一回までしかできないのに、俺は二回目の転生をしてしまっている。
この事をキルリアは知らない……知らない?
「ちょっ、ちょっと待て……。キルリアが俺を転生させたんじゃないのか……?」
「だから知らないってば。いくら神であるわたしであってもできないものはできないの」
「なら誰が……?」
俺が疑問を口にすると同時に、キルリアが険しい表情に変わる。
何か変な事を言っただろうかと思ったが、それとは関係がないらしい。
なぜなら、キルリアは急に後ろを向いて誰かを捜すような行動をとったからだ。
「どうやらもう時間がないみたい」
その瞬間、白い空間が崩壊を始める。
黒い何かに汚染されていき、空間が捻じれていくのが見てわかる。
「何がどうなってんだ……?」
「エンデミアンの血を継ぐただ一人の子、アルヴェリオ。この世界は既に破滅の道を辿っている。それを止められる者はただ一人――真の勇者だけ」
「なんで急に真面目に話すんだよ?」
「力を求めなさい。そして解放するのです。あなたに眠る力を……エンデミアンの力を」
俺の足元に大穴が開く。
「仲間を、大切に」
「ふざけっ……! まだ話は――!」
それに吸い込まれるように、俺は大穴の底へと落ちていった。
□■□■□
寄せては返す波の音が聴こえてくる。
ゆっくりと目を開けると、眩しく温かな日差しが俺の事を照らしていた。
ぼんやりとした意識の中で、辺りを見渡してみる。
うっそうと生い茂る樹木に、白い砂浜、打ち上げられた廃材。どこまでも続いていそうな水平線。
徐々に意識がハッキリとしてくるなか、現在の自分が置かれている状況にようやく気付いた。
船に乗ってドフタリア大陸を目指し航海していた時に、急な嵐に遭って海に落ちてここまで流されてきた。
正直、生きていることが奇跡だろう。普通なら助からないような出来事だからな。
とは言っても、ここがどこだかわからないのはツライ。
さらに、仲間たちに連絡を取る手段がないのは致命的だ。アイツらは無事なんだろうか……。
俺は体を起こして近くの木に腰かける。
「とりあえず何かないか探すしかないよな……」
そう呟きながら、使えそうな何かを探すために重たい腰を上げる。
砂浜を歩き、廃材を探してみてもガラクタばかりで使えそうな物は見当たらない。
「袋に何かないか……?」
俺は腰に掛けている小さな袋に手を伸ばす。
「ま、何もないよな――あ」
袋の中に突っ込んだ俺の手に、何かが当たる感触が伝わる。
俺はそれを優しく掴むと、ゆっくり袋から取り出す。
「これって……」
袋の中に入っていたのは、ビストラテアで使用した道具――通信魔法具だった。
「これがあれば……皆と通信できる……!」
俺は通信魔法具が濡れていないかを確認し、耳に取り付ける。
なぜかはわからないが、この魔法具には一切水滴がついていない。湿気も何も感じない。
もう既に乾いたのかどうかはわからないけど、何にせよありがたいことに変わりはない。
俺は頭の中でアザレアたちの名前を呼び、通信魔法具に向かって言葉を発した。
「ヘルプ、ヘルプ! 誰か助けてください!! 超絶イケメン勇者はここよ!!」
それから数時間が経っても、仲間たちから返事が返ってくることはなかった。




