第八十五譚 決勝戦、開始
俺たちが入場すると同時に、闘技場を震わせるような大歓声が響く。
観客たちの興奮も最高潮。
歓声の中には、俺たちに声援を送ってくれる人たちも多く現れた。
その多くは俺に対する声援なのだが、その中にもシャッティを激励するような人たちも多かった。
きっとシャッティは嬉しかったんだろう。
俺の隣で嬉しそうににやける姿が目に映った。
「良かったな、こんなに多くの人から声援貰えるようになって」
「……うん、今までわたしは酷い事をしてきたから認めてもらえるなんて事はないだろうなって思ってたし、応援される事なんて絶対にあっちゃいけないことなんだって……。でも、今こうしてわたしを応援してくれる人がいると思うと、凄くうれしい……。喜んじゃいけないのにね……」
「確かにお前は色々な人を傷つけてきたかもしれない。でも、お前は後悔して、償おうと思ってる。ならそれでいいんじゃないかって俺は思うけどな」
「…………」
俺の言葉を聞いたシャッティは、急に黙って俺の顔をじっと見つめた。
しかし、二秒と持たずにシャッティの表情が和らいで笑い声を漏らした。
「相変わらずだねー、アルっちは!」
「どういう意味だ?」
「何でもないよーっだ! さて、決勝頑張ろうね!」
そう言ったシャッティは反対側の入場口を正面に立つ。
シャッティの表情は普段と同じように見えたけど、どこか気迫を感じた。
『さあ! 気になるもう片方のペアにも登場していただきましょう!!』
実況者の話の途中に、入場口の奥に人影が見えた。
『こちらも今大会が初出場という大型ルーキーペア! 巨大な体で舞台を駆ける“巨人兵”に、これまでの試合で一切実力を発揮しなかった謎の人物!』
外の光が足元を照らした。
入場口から出てきたのは巨大な体躯の男に、ローブで全体を隠している謎の人物。
『それこそが! 『エネレス&ムルモア』ペアーッ!!』
先程の俺たちの入場と同じぐらいの大歓声が闘技場に響いた。
ゆっくりと舞台に歩いてくるエネレスたちを見ながら、俺は黙って拳を握りしめた。
「シャッティ、やるぞ」
シャッティは小さく頷く。
エネレスたちが舞台に上がり、俺たちの正面に立った。
相変わらずエネレスの奴はローブでまったくわからないが、ムルモアという奴は確かに大きい。
目測だけだが、俺の二倍、あるいはそれ以上ある。人間かどうかを疑うレベルだ。
「初めまして、じゃないよな? エルフィリムを襲った連中の中にいた白銀の騎士――それがお前だろ、エネレス」
「やはり覚えていたのですね……。先に言っておきます、私は貴方とは戦いたくはありません。なので棄権していただけませんか?」
「……戦いたくない、か」
エネレスの言葉に俺は下を向いた。
「アルっち……?」
シャッティが不安そうに声をかけてくる。
そんあ彼女に笑顔を見せ、俺はエネレスに向かって言葉を言い放った。
「生憎だけど、俺にはお前と戦う理由があるんでな。棄権なんてできないんだよ」
「…………」
「それにだ、例え相手が誰だろうと負けられないんだよ。もうこいつと約束しちゃったからな、絶対に優勝させてやるって」
「……そうですか、残念です」
「だから言ったであろう。無駄だと」
エネレスに向かって言葉をかけるムルモアは、自信満々と言っているように堂々と立っていた。
「分かっている。……どのみちもう手遅れなのだから」
『では、決勝戦を開始します!!』
俺たちは互いに軽く頭を下げると、そのまま背を見せて部隊の端まで歩いていく。
遂に始まるんだ、決勝戦が。
リヴェリアの時でさえ見る事の出来なかった景色を見る為に、どうしても勝たなくてはいけない。
準決勝で負けたアザレアたちの分まで頑張らなくてはいけない。
それに――
「――勝とうぜ」
「うん! 期待してるからね、アルっち!」
そう、シャッティの為にも。
『ルーキーとルーキーの頂上決戦、一体誰が予想したでしょうか! まさにダークホース同士の対決……目が離せません!! 前置きはここで終了です! 参りましょう、決勝戦!!』
俺は長剣の柄に手を置いた。
エネレスたちもそれぞれが構える。
『試合――開始ですッ!!』
大歓声と共に俺は跳び出す。
「シャッティ!!」
俺の合図でシャッティが魔矢を射る。
魔矢はエネレスたちの足元に刺さり、そのまま魔法が発動した。
「煙ですか……!!」
「このような子供の悪戯が通用するとでも思ったのか」
魔矢から流れ出た魔力が白煙を発生させ、舞台を覆いつくす。
何も見えない真っ白な世界の中で、俺は音を隠して真っ直ぐに駆けた。
真っ直ぐ、ただ、真っ直ぐにエネレスのもとへ。
「ムルモア! ともかく私の前に――!」
声が聞こえた瞬間に、エネレスと目が合う。
「なっ……!?」
エネレスは反射的に、手に持った長槍で身を護ろうと構える。
だが、次の瞬間に俺は粒子となって消えた。
「!!」
「これを見せるのは二度目なはずなんだけどな……!!」
「後ろ……!?」
俺は手に持つ長剣でエネレス目掛けて斬り上げた。




