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第七十七譚 異変

「シャッティ! 一人そっち行ったぞ!」

「任せて!」


 試合開始の合図から数分。

 緊迫した試合が続いていた。


 俺たちの相手、パプリアとピアヌス。

 数分だけではあるけど、戦った感想としてはあまり強くない。


 個々の強さも特別強いと言えるものじゃなく、ここまで残れたことは運が良かっただけなんじゃないかと思うしかない。

 この調子なら幻術魔法も使わずに済みそうだな。


「何をお考えかは知りませぬが、戦いの最中に雑念は捨てなさい」


 黒色と黄色を基調としたローブを着た男――パプリアが大鎌を薙ぐ。

 それを素早くかわした俺はバックステップで距離を取る。


「悪いな、思ったよりお前らが強くないもんだから疑っちまった」

「ふむ、我らが弱いと?」

「正直に言うと、な。前大会もよく本選まで出れたなと感心するぜ」

「なるほど。貴殿はそう考えておられるのか」


 パプリアは大鎌を構えると、俺に向かって突っ込んでくる。


「そんな重い物持ってるんじゃ隙が出来るぞ?」


 俺は向かってくるパプリアに対して同じように走り出す。

 パプリアが大鎌を振りかざした瞬間、俺は左に跳んだ。


 大鎌は空を切り、俺の長剣がパプリアの左手を捉える。


 剣身で思い切り叩かれたパプリアは、反射的に大鎌を手放す。

 そのまま俺は体ごと突っ込み、場外にするべく押し続ける。


 しかし、パプリアはするりと横に体を逃がすと、俺目がけて何かを投げつけた。


「痛っ……!」

「我らは決して弱く等はない。なぜなら、神が我らの味方をして下さっているからだ」

「神……? 何を言ってんだお前……?」

「貴殿が知る必要のない事」


 パプリアは上空にまた何かを投げる。

 しかし、一向に何も起こらない。


 一体何がしたいんだろうか。

 大鎌を取りに行く素振りも見せず、ただ上空に何かを投げただけで止まっている。

 

 今現在もブツブツと何かを呟いていて不気味だ。

 

 もしかしてやる気がないのか? 

 いや、それは無いだろう。やる気がない奴が本選まで上がってくるはずがない。


 なら、こいつは何をしてるんだ?


「アルっち!!」


 シャッティの叫び声が俺の耳に届く。

 俺が後ろを振り向くと、すぐ目の前に槍の刃先。


 寸でのところで体を捻って回避しようとしたが、頬に槍が掠りゆっくりと血が流れた。


「こいつ……! 殺す気かよ……!」

「アルっち! 大丈夫!?」

「ああ、なんとかギリギリな。シャッティが叫んでくれてなかったら危なかったよ、ありがとう」


 さっきの攻撃、ピアヌスが槍と一緒に突っ込んできた分反応が遅れた。

 きっと、槍と自分自身に速度強化魔法でもかけたんだろう。


 会場の奴らは今のをパフォーマンスの一種だと勘違いして大いに沸いてるけど、あれはそんな生ぬるいもんじゃなかった。


 本気だ。ピアヌスは本気で俺を殺そうと攻撃してきてた。

 殺気が違かったんだ。他の選手たちのと比べて。


 他の選手たちの殺気は、この試合に勝ちたいという思いからくるような殺気だったけど、ピアヌスのは違う。

 確実に、本気で殺そうとする奴が放つ殺気だった。


「我らが弱い、というのは間違いである」

「我らは神に愛され、ご加護を授かりし者」

「我らの力は神の強さ。我らの行いは神が行い」

「我ら必ずや成し遂げねばならぬ。そのためならば、如何なる犠牲をも顧みぬ」


 ピアヌスとパプリアは、共に両手を天に掲げて呪文のようなものを唱えながら祈りを捧げる。


「……さっきから神だ神だとうるさいなこいつら……。何なんだ一体」

「どうしちゃったんだろう……? 前大会で会った時は普通に明るい人だったのに……」

「前のこいつらとは違うのか?」

「うん……どうしてかわからないけど……何かおかしいよ……」


 俺はブツブツと呪文のようなものを呟いているパプリアたちを見る。

 外見は普通の人間だ。特にはおかしいと思う要素はない。


 でも、なんだろうか。この感じ――なにか嫌なものを感じる。


 そう、例えば……魔族と同じような何か……。


「再びこの地に災厄を」

「再びこの地に神の裁きを」


 その時、パプリアたちの周りに稲妻の様な物が走り、彼らの頭上で禍々しい何かが動いた。

 

 だが、その禍々しい何かは一瞬にして消え、気配が感じられなくなった。


「な、何だったんだ今の……」


 俺は一瞬だけ背筋が凍った。

 魔族の物とも、魔王の物とも全く違う気配だが、それよりもはるかに禍々しい気を持つ何かに、俺はほんの一瞬ではあるが恐怖を感じた。


 感じた事のない恐怖。

 得体のしれない何かに感じた禍々しさ。


 この二人は一体何者なんだろうか?


「神裁魔法――“憤怒(レイジ)”」


 その瞬間――パプリアたちの様子が急変する。


 彼らの体は赤黒く染まり、目の焦点も合っていないような魂のない人形の様に感じられた。

 だが、彼らから感じられるものはそれだけではなく、あの禍々しい何かと同じような気を纏っているようだった。


「母の為にここで死ねッ!!」

「貴様ら人間は我らの糧となれェッ!!」

「……シャッティ! こいつらを速攻で止めるぞ!!」

「え? う、うん! わかった!」


 何かとてつもなく嫌な予感がする。

 さっきの魔法と禍々しい何か――俺たちの知らないところで何か起きているのだろうか。

 

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