第七十二譚 味方殺しのトラッパー
予選開始から数分が経過した頃、俺は向かってくる選手たちを片っ端から蹴散らしていた。
二百人いたグループAの選手も、そろそろ半分を切ろうとしている。
『一試合目から目が離せないもの凄い予選となっております! 注目すべきは『アルヴェリオ&シャール』ペア! 一瞬で観客の目を盗んでいった彼はまさに今大会のダークホース! だがしかし、そのペアのシャール選手の姿がどこにも見当たりませんね? まさかアルヴェリオ選手に全てを任せて帰ってしまったのでしょうか!?』
実況者の言葉に、俺は思わず笑みを浮かべてしまう。
「戦いの最中に笑うとは何事だ!!」
「ああ悪い。つい、な」
左から振り下ろされる一撃を流すように長剣でいなし、そのまま懐に柄でカウンターを加える。
カウンターをくらった選手は、そのまま場外へ落ちた。
俺の周りを取り囲んでいた選手たちが一歩後ろに下がる。
「な、なんなのよこの男!?」
「く、くそっ! こんな奴が出るなんて聞いてないぞ!」
周りを囲む選手たちの中からそんな言葉が聞こえてくる。
どうやら、獣人族の国には俺の話は広まっていないらしい。
まあ、それもそうか。王都と陸続きだったエルフィリムならまだしも、他の大陸になんかそうそう広まらないからな。
そもそも、一国を救ったぐらいでそんな噂にならないだろ。
八皇竜が攻めてきた時だって、エルフィリムを救ったのは誰かもわからないままだし、ビストラテアだってどうなったのかとかさっぱりだからな。
まあ、昨日街中見てみたけどこれといった損害もなかったし、武闘大会開いてるぐらいだから被害少なかったんだろうけど。
「全方位から時間差攻撃だ! い、いくぞ!!」
獣人族の男の合図で、俺は八方を塞がれる。
次の瞬間、獣人族の男自らが俺に飛びかかる。
俺はそれを対処しようと長剣を抜く。
しかし、背後にいた青年に素早く懐に入られる。
「取った!!」
「そんな訳ないだろ」
俺は懐に入ってきた青年を踏みつけると同時に魔法を唱えた。
「“飛躍”!」
「なっ!?」
高く跳びあがった俺は、舞台を見渡す。
そして、あるサインを確かめた。
「はいよ、了解……!」
舞台へと落ちていく俺は不敵な笑みを浮かべながら、舞台上のある人物に合図を送った。
「今だ! シャッティ!!」
その大きな声に舞台上の選手たちの視線が俺に向けられる。
下で待ち構える選手たちは、何を言っているんだといわんばかりの表情で俺を見ている。
『アルヴェリオ選手は一体どうしたのでしょうか!? シャッティ選手の姿なんてどこにも――』
実況者の言葉の途中、舞台の一角が爆発した。
その爆発をきっかけに、次から次へと舞台のいたるところが爆発していく。
その爆発に巻き込まれた選手たちは、爆風と共に叫び声を上げながら場外へ落ちていく。
「な、なななにが起こってる!?」
下で混乱している選手たちを落下ざまに峰打ちしていく。
峰打ちされた選手たちはその場に倒れ込み、意識を失った。
「い、一体何を……ッ!?」
「シャッティのペアが半殺しになってるって話、あれは意図的な物じゃない。むしろ、ペアの方にも責任がある」
俺は地面に気を付けながら歩く。
辺りを見渡し、それがない場所を選んで進む。
「シャッティの戦い方……罠を仕掛けて相手をはめて倒す。なら、その戦い方を知ってるペアは罠の位置をしっかりと確認しておかなくちゃいけない。どこにどの場所に集中してるか、それを知っていなきゃダメだと思うぜ」
「な、何を言ってる!?」
「さらに、ペアは時間を稼がなくちゃいけない。それを設置する時間を。誰にもバレずに設置できる時間を。そして、これは俺だからできる――俺たちだからできる戦い方……」
俺が一歩近づくにつれ、獣人族の男も一歩離れる。
一歩、また一歩と動いてる最中にも舞台上では爆発が続く。
「罠を仕掛ける時間を稼ぐにはどうすればいいか? 答えは簡単だ」
俺は歩みを止め、腕を振り上げる。
そして、魔法を解除した。
「“幻影”――解除」
その言葉と共に、男の顔が青ざめていく。
『なっ!? ど、どういう事でしょうか!? 突然、舞台上に大量の……! 大量の爆弾の様な物が置かれています!!』
「な、何なんだよ!? 何なんだよこれぇッ!?」
「そう、隠せばいいんだよ。罠も、罠師も。俺の魔法で全てな!」
俺の幻術魔法――“幻影”は相手に幻影を……つまり幻を見せる魔法だ。
シャッティがあたかもここにいないような幻を闘技場全体に見せ、シャッティが仕掛けた罠を舞台の石床に見せた。
そうすることで、シャッティは誰にも見つかる事無く罠を仕掛けまわれるし、仕掛けた罠は誰にも見えないからバレることなんかない。
全てが仕掛け終わった時、シャッティの合図で俺が最終確認をとり、魔導式火炎爆弾を起動させる。
そして舞台上では爆発オンパレードで混乱まっしぐらというわけだ。
「そこから一歩でも動いたら爆発するぞ? 後ろには“味方殺しのトラッパー”が罠持って待ち構えてるからな」
俺の言葉を聞いた獣人族の男は後ろを振り返った。
男の背には、笑顔で爆弾抱えたシャッティが元気に挨拶をかましていた。
「こんにちは、怪我したくなかったら棄権することをオススメするよ?」
「きッ棄権!! 棄権する!!!」
『……えっとですね、舞台に残っているのは既に『アルヴェリオ&シャール』ペアのみ――な、なので……!! この時点で、グループA本選出場が確定されました!!』
その瞬間、大きな歓声が闘技場を覆った。
俺はシャッティと目を合わせ、二人して笑みを浮かべた。
『グループA本選出場選手は『アルヴェリオ&シャール』ペア! そして、最後の最期で棄権しましたが残り選手がいなかった為『スヴィン&ツヴェイル』ペアに決定しました!!』
シャッティは魔導式火炎爆弾を停止させると、俺のもとへ駆けてくる。
「アルっち! アルっち!!」
大声で名前を叫びながら、シャッティは俺に思い切り抱き着いてきた。
「やった! やったよアルっち!! ありがとう、ありがとうアルっち!!」
「わ、わかったから離れろって……痛い! 痛いから! 柔ら――じゃなくて!!」
俺の身体に当たる控えめだけど柔らかな二つの感触を感じながら、観客の歓声を浴び続けた。




