第六十九譚 武闘大会予選前夜
北区の住宅密集地。
その路地を道なりに進んでいくと、ちょっとした平野に出る。
平野には小さな家や古びた家などが立ち並び、人通りも多くない。
そんな平野の一角に、古びた木造の家がある。
大きくも小さくもない普通の家。
その家の中で、ある問題が発生していた。
武闘大会の受付を済ませた後、俺達は合流してシャッティの家に向かった。
ここに向かっている最中は、話も弾んで良い感じだったんだけど、家に着いた途端アザレア達に責められた。
家の中はお通夜ムード。
誰か亡くなったんですかと言わんばかりの雰囲気だ。
気まずすぎて、あの元気の塊みたいなシャッティですら一言も喋らずに正座している。
もう何が気まずいって誰一人として喋らないこの状況。
アザレアなんかさっきから鬼の形相でこっち睨んでくるんだけど。
大丈夫? 俺殺されない?
「あ、あの~……」
俺の隣に正座しているシャッティが、恐る恐る手を上げながら言葉を発した。
時間にして約数十分。
この部屋の沈黙を破ったのはシャッティだ。
「どうしてこんな状況になってるのかなぁ~……っと……」
「大丈夫よ、このバカが全部悪いから」
それに答えたのは、先程まで鬼の形相で俺を睨んでいたアザレアだ。
いや、さっきよりもっと酷くなった。
なんだろう、目で訴え掛けられてる気がする。
お前が喋ろよ、みたいな。
「お、俺も理由が知りたいなぁ、なんて――あ、いや嘘ですすんません」
お前それ本気で言ってんのか、と訴えるような目で睨まれる。
もういや、僕お家帰る……。
「ア、アザレアさん……。アル様にも考え合っての事でしょうし、そう責めるのは……」
「セレンは黙ってて」
「……はい」
セレーネを一言で沈めたアザレアは、ため息を吐きながら言葉を発する。
「アタシたちが必死に宿屋を探している最中にアンタは何してたわけ?」
「まあ、人助けと言いますか……」
「知らないところで女の子捕まえて人助けねえ……。あとどれだけ女の子捕まえれば気が済むんだか……」
俺は少しだけアザレアの言い方に苛立ちを覚えた。
確かに、元いた世界では目にする事の出来ない美少女がこの世界にはいる。
でも、別に女の子を侍らせたいとか思ってないし、寧ろ俺が何したって侍らせられるわけないだろうが。
俺はただ後悔したくないだけだ。
人助けできるなら喜んでやるし、やりたい事は全てやる。
だからこうして誰かの為に自分が出来る事を精一杯やってるだけなんだよ。
「お前な――」
「まあ、アンタの事だからそんなこと一切考えてなかったんでしょうけどね。アンタはそういう奴だし」
「……アザレア、お前……」
「アタシが怒ってるのはそんな事じゃないのよ、ただなんでアタシたちに一言もなしだったのかって事」
「……それは、悪かったと思ってる。けどな――」
その時、俺の肩に優しく手が置かれる。
手を置いたのは、先程まで黙っていたジオだ。
ジオはいつものように微笑むと、優しく言葉を発してきた。
「大丈夫、皆わかってるよ。アルヴェリオがこういう人間だって事ぐらいはね。アザレアは少し拗ねちゃっただけだから気にすることはないよ」
「拗ねてないわよ!!」
目の前で兄弟喧嘩が勃発したところで、シャッティが俺に声をかける。
「良い人たちだね、アルっち」
「ああ……本当にな」
「よーし! 久々のお客さんだから張り切って料理するよー!」
「あっ、私もお手伝いします」
その後、俺達はシャッティの手料理をご馳走になりながら、談笑を続けた。
シャッティも楽しそうに話を聞いてくれたみたいで良かった。
明日が武闘大会予選。
絶対に予選を突破して本選に出場してやるさ。
□■□■□
ビストラテアの中心部。
そこには大きな闘技場が建っている。
見た目はほぼ完全にコロッセオで、続々と観客が集まってくる。
「選手控室はこちらでーす! 予選出場選手はこちらからお入りくださーい!」
受付係の獣人が声を上げて案内している。
俺たちは選手控室の近くに来ていた。
「セレーネ、本当にいいのか?」
「はい、私は後方支援しかできませんからこういうのには向いていないので」
俺がシャッティと組んで出るという事になったため、誰か一人が余ってしまう事になる。
でも、セレーネが出場しないため、アザレアとジオが出場することに決まった。
「じゃあ、行ってくる」
「はい、応援しています。頑張ってくださいね、アル様」
俺はセレーネとの挨拶を済ませると、控室に向かって歩いて行く。
「控室に着いたらまずは自分のグループの確認だね!」
「ああ、予選からアザレアたちと同じグループだったらツラいな……」
「その時はボコボコにしてあげるから覚悟しなさいよ?」
「僕はいつも通り斬るだけだからね」
武闘大会の予選は四グループに分かれる。
一つのグループに大体百組ほどいるらしく、二百人で上位二組の座を狙ってバトルロワイヤルするというのが予選だ。
ちなみに、リヴェリアの頃は一グループに五十組程度だったから、今は二倍の参加者がいるわけだ。
俺達は控室に到着すると同時に、張り出されているグループ票を確認しに向かう。
「アルっち! わたしたちはグループAだよ!」
シャッティはグループ票の左上を指さす。
そこには、『アルヴェリオ&シャール』と書かれていた。
「Aか……。一番最初ってのは気分的にちょっとなあ」
「僕たちはDだったよ」
「ちっ……アンタたちと見事に分かれたわね」
アザレアたちが残念そうに指さす。
グループDと書かれた場所には、アザレアたちの名前がしっかりと入っていた。
「これでお前らと戦う事は無くなったな」
「そうね、アタシたちは本選に出るけどアンタらは出ないものね」
「あ?」
「何よ?」
アザレアたちが本選に出れて俺たちが出れないなんて事ありえない。
寧ろ本選に出るのは俺たちだ。
残念だがアザレアたちが本選に上がれても俺たちが叩き潰すから無問題だけどな。
「じゃあ、本選で会おうぜ」
「そうね、上がってこれたらだけど」
そう言って俺とシャッティはグループAの控室に向かった。




