第六十一譚 神殿攻略②
小部屋に入った俺達は少しの休憩をとることにした。
ここから先は“守護者”と呼ばれる、指輪を護る魔物達が現れる。
トラップが設置されているうえに魔物達が現れるのは、精神的にもつらい。
だから、休めるときに休んでしまった方がいい。
「アザレア、ちょっといいか?」
俺は壁を背に腰かけているアザレアに声をかける。
「……はいはい」
「返事は一回!」
「アンタはアタシのお母さんなの!?」
アザレアを連れて通路に出る。
俺達は小部屋の中まで聞こえないような声量で話し始めた。
「……で、どうだったんだ?」
通路の壁に寄りかかって立つ俺は、反対側の壁に寄りかかるアザレアに問いかけた。
「その件だけどね、見えなかったわ」
「……そっか、違うのか」
結果を聞いた俺は少しだけ頭を下げた。
「アタシもまさかって思ってはいたのよ。でも、違う」
「…………」
「セレンはキーラじゃない」
アザレアは少しだけ悲しそうな表情で言葉を発した。
実は、ここに来る前――王都トゥルニカを出る間際に、アザレアに頼みごとをしていた。
それは、セレーネが転生者であるか――キーラであるかを調べてほしいというものだ。
アザレアが女神から授かった能力は転生者を見分けるもの。
相手に触れると、その人物が転生者かどうかを知ることが出来るという能力だ。
俺も今までもしかしたら、なんて思う事があったから期待してたんだけど、やっぱり違うか。
そもそも、転生者という存在自体が曖昧で、どこからが転生者なのか、どこまでがそう呼べるのかわかっていない。
例えば、前世の記憶を持っていたら転生者、とか。
例えば、何度も生まれ変わっている者の事、とか。
そこら辺の区切りがよくわからない。
「ああ、わかった。ありがとう」
「ごめん、力になれなくて」
「いや、いいんだ。あいつがキーラだろうとキーラじゃなかろうと、今のあいつがセレーネだって事には変わりない。今までと変わらずに接するだけさ」
そう、今までと変わらずに。
今まで通りに仲間として接するだけだ。
「アンタってさ、変わったよね。悪い意味じゃなくてさ」
「そうか? いやまあ、変わってなくちゃ困るんだけど」
「……今のアンタの方が、か、かっこいいわよ」
「おう、ありがとう」
でも、気になる事は残っている。
かつての勇者パーティの三人が転生してるのに、一人だけ転生してないってのは少しおかしい。
多分、キーラも転生しているはず。
一体誰に、どこに転生してるんだ……?
「よし、じゃあ先に進むぞ!」
俺は小部屋の中に入ると、出発の合図を送った。
そのまま俺達は小部屋の奥へと進んでいった。
□■□■□
「ジオ! 頼む!」
俺の合図で、ジオがすかさず短剣で斬り込む。
「“苦痛”!」
俺が幻影魔法を唱えても、相手には全く効果がみられない。
「くそっ……なんで効かないんだよ……!」
小部屋を進んできた俺達は、途中途中で守護者との戦闘を行っていた。
時にはコウモリのような魔物。時には巨大蜘蛛のような魔物。時にはゾンビのようなアンデッド系の魔物。
そして現在は、石でできた人型兵器――ゴーレム。
高さは人間の四倍ほど。
一撃一撃の攻撃は重いが、動きが鈍いため、避けるのは簡単だ。
その分、ゴーレムは堅い守りを持つ。生半可な武器じゃ傷もつけられない。
だが、そんな堅い守りを誇るゴーレムにも弱点はある。
一つは、魔法。
ゴーレムは魔法に対しての免疫が少ない。だから、高威力の魔法をぶちかませば大抵は倒せる。
もう一つは、関節を狙った攻撃。
表面は堅いが、その石を繋げている関節はどうしても脆くなる。
そこをつけば動きを止めることが出来るというわけだ。
「……ああ、もう! 見てられないわ! アタシが魔法で木っ端微塵にしてあげる!」
「やめろバカ! ここは神殿内だぞ!? お前の高威力の魔法で崩れてきたらどうすんだ!」
アザレアは確かに凄い魔法を使える。
でも、あいつは初球の魔法を使えない。高威力の魔法しか使えないんだ。
元々、戦士として斧を振るっていたから、高威力の魔法だけを覚えたかったのかは知らないけど、こういう時の事も考えて覚えろって思う。
「だからって! こう! 殴ってるだけじゃ! 埒が明かないじゃない!」
「いやうん。杖で殴るならまだわかるんだけどな。魔法使いが素手でゴーレム殴ってるのはちょっと」
「戦士だった頃の癖で力任せになっちゃうのよ!」
「まあ、アザレアは脳筋だったからね」
「どういう意味よ!?」
俺はゴーレムの背に回り込み、膝裏の関節部分を狙う。
わずか数センチの隙間に長剣を差し込み、もう一度奥まで差し込む。
俺の攻撃により、ゴーレムは地面に膝をつく。
その隙を逃さず、ジオが関節という間接を片っ端から斬っていく。
流石は天職が盗賊といったところか、身のこなしに無駄がなく、素早く行動している。
「アザレア! 関節の隙間から魔法ぶっ放せるか!?」
「アタシを誰だと思ってるのよ! 勿論、お望み通りぶっ放してあげる!!」
アザレアは倒れ込んだゴーレムに飛び乗り、一気に首元まで駆け上がる。
「中級魔法だからな! 間違えるなよ!!」
「わかってるわよ! 炎魔法――“火炎弾”!!」
首元の関節部分に、アザレアは手を突っ込んで魔法を放つ。
アザレアが唱えて数秒後、ゴーレムのあらゆる隙間から炎がが噴き出し、破裂するように石が飛び散る。
「痛っ……!」
その石はアザレアの腕を掠め、小さな切り傷を付けた。
「アザレアさん! 今すぐに治療しますね……!」
「ありがと、セレン」
「いえ……私には誰かの傷を治す事だけしかできませんので……」
セレーネはアザレアに近づくと、杖を傷口に当てて魔法を唱えた。
「“治癒”」
少しだけ流れていた血も止まり、傷口も跡が残らずに消えた。
「さっ! 早く行きましょ、確かもうすぐよね?」
「ああ、後二部屋ぐらい回れば最深部だ」
俺達は遺跡の奥に進んでいった。




