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第四譚 真実の記憶


「……どういう事、ですか?」


 シスターが青ざめた顔で女性に問いかける。


「この男にはなぜか三人分の記憶があるんだけど、そのうちの一つがあの聖王の記憶なの」


 俺は下を向いて黙り込んだ。

 なぜかって? ここで下手に何か言うと余計ややこしくなるからだ。


 追憶魔術で俺の記憶を視たって事は、俺が勇者として死んだ記憶も視たはず。つまり、俺が聖王じゃないって事がわかったはずなんだ。

 俺が死んだって事は、今のリヴェリアは偽物だという証明にもなり得るはずだからな。


 だが、それを俺が言うと何か嘘っぽく聞こえてしまうと思う。

 だからこそ、下手に何かを言うよりは黙っていた方がいいってもんだ。


「他にもよくわからない場所での記憶だったり、今の姿の記憶も視えたわ」

「……つまり、この人は……」

「まだ断定はできないけど……。ねえ、あなた本当に何者? どうして記憶を三人分持ってるの?」


 あれ、おかしいな。この流れだと勇者と聖王は別物だったのって話になると思ったんだが。


 しかしどうしたもんかな。ここで逃げ出したら指名手配されそうだし、変な誤解されそうだもんな。

 でも本当のこと言ったって信じてもらえないんだろうし……いや、でもこれしかないよな。

 多分、いや絶対にそうだ。


「……わかった。全部話します。俺が何者なのか、全て」


 俺は二人の女性を交互に見た後に、ゆっくりと言葉を発する。


「まず初めに一番大切な事を話す」

「大切な事……ですか?」


 シスターの問いに静かに頷く。


「俺は既に二度死んでる。つまり、二度転生(・・・・)してるんだ」

「死ん……転生……!?」

「俺は元々この世界の住人じゃない。一度死んで、この世界に転生してきた。いわゆる異世界人ってやつだ」


 そう。俺は生まれも育ちも日本の純潔な日本人だった。


 貧乏でもなければ裕福でもない。そんなごく普通の家庭に生まれ育った。

 運動神経が良いわけでもなければ、頭が良いわけでもなかったし、容姿だってどこにでもいるような普通の男だった。


 毎日をそれとなく過ごし、時間だけが過ぎていった。

 昔から人と接するのはあまり得意じゃなかったから、友達と呼べる人もいなかった。


「その世界では随分と時間を無駄にしたな。勉強だって全然しなかったし、遊ぶ相手もいなかったから家でぐーたらしてたし」


 そして十七歳になって初めての冬。

 親戚の家に向かう途中、落石事故に巻き込まれて俺は死んだ。


 一瞬だった。死んだことにさえ気が付かなかった。


「その世界で死んだとき、死んだって思えなかったんだよな。気付いたらこっちの世界に赤ん坊で生まれてましたー、的な感じでさ」

「…………」

「目の前に知らない男女が現れた時はびっくりしたね。まさかその二人が新しい両親だなんて思いもしないだろ普通」


 車に乗って細道ドライブしてたのに気づいたら転生してました、なんて冗談にもほどがあるだろ本当に。

 

「最初の頃は夢だって思ってたよ。でもこっちに転生して三年経ったぐらいにようやく理解したんだ。あ、俺死んだんだなって。バカみたいだろ? 三年経ってようやく気付いたんだぜ?」


 なぜかはわからないけど、なんとなく思っちゃったんだよな。

 きっと本当はもっと前から気づいてたんだろうけど、信じたくなかったんだと思う。


「それからはもう転生する前と同じような毎日送ったよ。家でぐーたらぐーたらと。新しい人生歩もうって気なんかさらさらなかった」


 無気力だったよ。本当に。

 でも、そんな俺を変えてくれたのが、この世界の父親だった。


「転生してから五年経ったある日、夜中にふと目が覚めたんだよ。なぜか外が気になって窓からこっそり覗いたらさ、父親が必死に特訓してたんだよな」


 その当時、父親は王宮仕えの騎士だったらしい。

 早朝に家を出、夜遅くに帰ってくるってのが当たり前だった。毎日毎日疲れ果てていたのに、必死になって特訓してた。


「その姿に俺は心打たれちゃってさ……。何て言えばいいのかわからないんだけど、凄くカッコよかったんだよなぁ……」


 家族を護るためだったのか、国を護るためだったのかはわからないけど、その必死な姿がカッコよかったんだ。

 俺もそうなりたいって、初めて思ったんだ。


 何かに憧れ、そうなりたいって思ったのが初めてだったんだ。


「それを見た次の日からは必死に勉強したよ。この世界の言語を覚え、父親に剣術を教えてもらい、家に置いてある魔導書をボロボロになるまで何度も読み返した」


 毎日毎日死にもの狂いで努力した。

 新しい人生を歩もうと。心も生まれ変わるんだと。


「その成果もあってか、この世界に来て十八年目――つまり十八歳の時。俺は勇者に任命された」

「それが“勇者リヴェリア”が誕生した日……ってわけね」

「ああ。それから俺は仲間を集め、魔王討伐の旅に出た」


 時には人攫いを退治したり、魔物に脅かされてる町を救ったりと毎日が大変だった。

 大変だったけど、なんか充実感ってのがあった。生きてるってこういう事なんだろうなって思った。


「旅立ってから四年後。魔王と対峙して俺達は敗れた。為すすべなく、赤子の手を捻るかのように簡単に」


 今でも目を閉じるとその時の光景が目に浮かぶ。

 目の前で次々と殺されていく仲間たちを、ただ見ているだけしかできなかった。自分が無力だと痛感させられた。


「そして、ついさっきだ。俺はこの身体に転生していた。これが俺の話せる真実だ」

「……なるほどね。確かにあたしが視た記憶と全く同じ……。それじゃあ、やっぱりあなたは本物・・の“勇者リヴェリア”ってことなの……?」

「ああ。聖王とか名乗ってる奴は絶対に俺の偽物だ。記憶を視たアンタだったらわかるだろ?」


 今話した事は全て真実。記憶を覗き視た彼女にとって、この話がどれほど重要かはわかっているはずだ。

 これを信じるかどうかはこの魔術師にかかってるんだけど……というか信じてもらえなくちゃ困る。


 そういえばさっきから一言も喋らないシスターは生きてるのか? それとも俺の話で大号泣? いやまさかな。そんな事あるはずないって。


「シスターさんはどこ行ったんだ?」

「彼女ならついさっき涙を流しながらお手洗いに行ったわ」

「うっそだろお前」


 その後すぐにシスターは戻って来たが、涙の痕が凄かったのは言うまでもない。というか涙もろすぎて逆にひいた。






□――――???






「準備の方はどうなっている?」


 玉座に座る若い男が、目の前に跪く魔物に向かって言葉を発する。


「はっ。数日以内には完了するかと」

「そうか、報告ご苦労。下がっていい」

「しかし、まさかこのような事をお考えになるとは流石ですな」


 報告を終えて立ち上がった魔物が、目の前に座る男に称賛の声をかける。


「まあな」

「貴方がそのようにしておられると我々も安心できるというものです」


 魔物は大声で笑いながらその場を出ようと歩き始める。


「では、これからも頼みますぞ。“聖王リヴェリア(・・・・・・・)


 その言葉を聞いた男は、口角を上げ不気味に笑った。


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