表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/221

第二十八譚 わずか三秒の攻撃


「一つ言っておくけど、俺をそこらの雑魚と同じだと思ってるなら怪我だけじゃ済まないぞ?」

「へぇ、それは楽しみだね」


 自分によほどの自信があるのか、王子は余裕そうな笑みを浮かべたまま動こうとしない。

 誘っているのか、それとも本当に余裕だと思ってるのか。


 正直どちらでも構わない。

 過去にもそういう輩は腐るほど倒してきたし、何より経験値が段違いだ。


 俺はこっちの世界で二十数年戦ってたんだ。

 毎日死と隣り合わせな戦いを幾度となくな。


「どうしたんだい? 早く僕を攻撃するといい」


 無論、こういう挑発にも簡単には引っ掛かってやらない。

 現在の状況をしっかりと確認してから攻撃を始めるのがベストだ。


 俺は横目でセレーネのいる方向を見る。

 セレーネは不安そうな表情で立っており、その隣ではアザレアが真剣な表情で傍観していた。


「あいつも一緒に戦わせなくていいのかよ?」

「アザレアの事かい? 彼女の事なら心配いらない。なにせアザレアが加わったら君は数秒と持たないからね」

「ほお……! 言ってくれるじゃないか……!」


 あの王女にそんな力があるとは思えないんだが……しかし、人を見た目で判断するのはよくないと学んでる。

 見かけと違って凄く強い魔物だっているし、強そうに見えて実は弱いってのも多いからな。


 きっとあの王女様も、王子が負けるなんてこれっぽっちも思ってないんだろう。だからあんなに余裕そうな表情でいられるんだ。

 戦う気がないならないで楽だしな。


「じゃあ、お言葉に甘えてこっちから攻撃させてもらうからな」

「ああ、いいとも。君の本気の一撃で攻撃してくれて構わないよ」

「……オーケー」


 俺は長剣の柄に手をかけ、深く深呼吸をする。


 眼を閉じて耳を澄まし、辺りの音を感じ取る。

 風の音、水の流れる音、木々の騒めき、橋の軋む音。


 それら全ての音がはっきりと聞こえた瞬間、全ての音を遮断し、ゆっくりと眼を開ける。


 集中。

 どんな雑音にすら動じない圧倒的な集中力。


 ただひたすらに一点のみを狙って、『無』となる。


「もしかして抜刀術かい? なかなか珍しい剣技かもしれないけど僕には――うん……?」


 どんな音をも聞き流す。

 眼に映る一点のみに意識を集中させる。


 俺は――長剣をゆっくりと抜いた。


「……抜刀術じゃない? なら一体――」


 刹那。地面を力強く蹴った俺の身体は、王子の懐にまで入り込んだ。


「え?」


 瞬時に回り込み、柄頭で背中に一打。両足の太腿にそれぞれ二打づつ。正面に戻り、足をかけながら押し倒し溝に一打。

 そして、剣先を喉元に当てて静止する。


 地面を蹴りだしてから、ここまで――わずか三秒弱(・・・)だ。


「……ば、馬鹿な……」


 王子は豆鉄砲を喰らった鳩のような表情で俺の顔を見ている。


「……グラジオラス王子が……敗れた……?」

「な、何者なんだ……!? あいつは!」


 橋の向こうで兵士達の騒ぎ声が聞こえてくる。正直鬱陶しい。集中した後は周りの声が聞こえすぎてうるさく感じちてしまうので、大きい声で騒ぐのはやめていただきたい。


「ま、まさか……雪のように白い髪、空のように青い瞳、人間離れな強さの長剣使い……。あの人間が……さ、“再誕の勇者”……!?」


 その言葉に、ここ一帯がしんと静まり返る。

 だが、それから数秒後、すぐに兵士達が騒ぎ始めた。


「う、うわあ!! ゆ、勇者が攻めてきたんだ!!」

「お、応援を呼べ!!」

「呼んだって勝てるわけねえよ! せめてあの御方がいれば……!」


 なんだよ、さっきから人の事を悪者扱いしてさ。

 ……いや、待てよ。

 不法入国に王子暴行。これひょっとしなくとも全面的に悪いの俺じゃない?

 冷静になって考えてみたら、別に戦わなくとも俺の作戦である牢屋に入って脱出しよう作戦をしてた方がよかったんのではなかろうか?


 これ、俺悪者だね?


「そこまでよ!」


 混乱していた場に、女性の声が響き渡る。

 その場に居た全員が、その声が発せられた方向を向いた。


「この女の命が惜しいなら投降しなさい。しないならこの女を殺すわ」

「ア……様、ごめ……なさい……」

 

 そこには、腕で首を絞められて杖を眉間に突き付けられたセレーネと、先程まで傍観していた王女であるアザレアが立っていた。


「セレーネ……っ!?」


 しまった……! あいつがいたのか……!

 くそっ……しまった。冷静にちゃんと考えていれば、セレーネを人質にとられる可能性があるって気付けたのに……。


 いや、でもこれはチャンスなのか? 運が良ければ牢屋から脱出大作戦に移行できるよな?


 そうと決まれば話は早い。今すぐ武器を捨てて投降……だけど、もしそのまま斬首ってなったらどうする? 流石にそんなことはないと思うが……万が一そうだった場合は……。


 俺が頭の中で葛藤していた時、下から囁くような声が聞こえてくる。


「今は言う通りにしてくれないかな? そうすれば君達を助けられる」


 王子だ。

 彼は真剣な表情で俺に言葉をかける。


「……助ける? 何言ってんだお前」

「君に話があるんだ」


 にわかには信じられない話だ。

 さっきこの男は俺を殺しにかかってた。そんな奴が俺達を助けるなんておかしくないか?


「さあ、早く武器を捨てて投降しなさい。じゃないと本当に死ぬわよ?」

「う……あ……」


 考える暇も与えないって事かよ……。

 牢屋からの脱出作戦に移行だな、これは。


「わかった、わかったからセレーネを離してやってくれ」


 俺は長剣を地面に置き、両手を上げて投降の意思を見せる。

 その行為を見たアザレアは、すぐにセレーネを解放した。


「大丈夫か?」

「え、ええ……。ごめんなさい、迷惑をかけてしまって……」

「いや、気にすんな。というか元を辿れば俺が悪いんだしさ……」


 セレーネは呼吸を乱しながらも、精一杯に微笑んでみせてくれた。

 その姿に俺は心を締め付けられるような痛みを感じる。


「……さっきの話は本当だろうな?」


 俺は地面に倒れている王子に小さな声で問いかける。

 

「ああ。もちろんだよ。ありがとう」


 その後、俺達は手を縄で縛られたまま、エルフィリムへ続く橋を渡って行った。



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ