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七章

 そこには天上も天下もない。そもそも、地上という概念がないのだ。まるで深海の底に沈んでしまったかのように、周囲を満たすのは圧倒的な闇。

 だが、その光景は底とは真逆、あるいは、底さえも突き抜けた真の底。

 辺りで瞬くのは、星の煌めきに似ている。そう、まるで宇宙空間に放り出されたような景色。周囲の星の群れは、どの星座にも該当しない。その輝きは、なにも頭上だけではない。そも、地上がないとは、そういうこと。真横の水平線にも、真下の水底にも、星々はその存在を主張する。満天ではなく、この闇を満たすように、星たちは踊り狂う。

 そんな、闇と星しかないこの世界で唯一、人の形をしている存在があった。彼女は視界の上擦れ擦れにその姿を見せていたので、こちらは視線を上げる必要があった。

 彼女は夜を司るような濃紺のドレスを身にまとっていた。椅子もないのに、彼女は宙空に腰かけている。ドレスからすらりと伸びた細い腕と脚は浮かび上がるように白い。足元には、ドレスよりもなお多く夜を吸った、黒いヒール。腰よりも長い金の髪を夜風に踊らせて、彼女はこちらの存在に気づいて薄く微笑する。

「…………」

 気づいていながら、しかし彼女はなにも発しない。ただ、吸いこまれるような純黒(じゅんこく)の瞳で、興味深げに眺めるばかり。

「…………」

 口を開けてみた。呼吸はできるらしい。いや、それは錯覚なのか。声も出せるのか試してみようと、思ったままを口にした。

「――あんたは、誰だ?」

 彼女は目を弓なりにして、一層の笑みを浮かべる。

「世界から与えられた名はあるけれど、誰もその名であたしを呼ばない。みんな、あたしのことを『フェイト』と呼ぶの」

 だから貴方もそう呼んで、と彼女は微笑んだ。

運命(フェイト)……?」

 こちらの怪しむ声を聞いて、彼女――フェイト――は楽しそうに、声を上げて微笑(わら)った。

「それで、貴方の名前は?」

「俺の名前は……」

 言いかけて、自分の名が手元にないことに初めて気づいた。どうして、ないのだろう。自分の名前なんて、すぐ近くにあるはずなのに。

 仕方なく、記録を引っ張り出してそれを見つける。なんてことはない、よく知っている、自分の名前。

「――響彩(ひびきさい)だ」

「――そう、響彩」

 彼女が納得したような、彩自身を納得させるような、曖昧な頷き。

 たったそれだけで、彼女は口を閉ざしてしまう。なんだろう。問わなければなにも言わないのか。……問えば、返してくれるのだろうか。

 彩は思考を回して、その問いを彼女に投げた。

「ここは、どこだ?」

「ここは、あたしの〝お城〟」

「〝城〟…………?」

 どこを見ても、城なんて見えやしない。闇の中に彼女と星たちが浮かんでいるだけの、そんな場所。

 そう、と彼女は微笑(わら)い、でも、と次の言葉を継いだ。

「ここは、あなたたちがいる世界と同じ場所。ただ、視点が違うだけ。同一のものを、異なる〝目〟で眺めているだけ」

 その意味が、彩にはわからなかった。

 同じ、場所……?

 だって、そうだろう。

 どう見たって、ここは彩の知っている世界ではない。地面はない。天との境もない。なんの隔たりもなく、ただ星だけが浮いている。

 彼女は微笑を漏らして、右手を真横に伸ばす。

「例えば……」

 顎のラインまで上げた手を、彼女はくいっと振った。遠くのものを引き寄せるジェスチャー。その動きに手繰り寄せられるように、遠くで瞬いていた星が彼女の手元まで飛んでくる。

 いや、実際にはそれは星ではなかった。彩の知識にある星は、太陽以上の大きさを持つ恒星だ。だが、彼女の引き寄せたそれは彼女の掌にすら納まってしまうほどの、小さな光。

 その光は彼女の右手を過ぎたあたりから減速を始め、彼女が胸元に左手を出すと、そのすぐ前で停止した。

 その輝きを左右の手で包んで、彼女は彩へと視線を戻す。

「これは、あなたにはどんなふうに見えるかしら?」

「どう、って…………」

 彩はその光を凝視した。ただの光。この闇を照らす小さな瞬き。彼女が手で覆ってしまえば見えなくなってしまうような、そんな儚い存在。

「さあ、貴方の言葉で答えて。貴方の口で、形にして」

 唄うように、彼女は求める。

 だから彩は、思ったままを口にした。

「…………それは『■■』だ」

 しかし、それは音にならなかった。ひび割れたノイズとなって、この空間を不快に揺らす。

 彼女の瞳が細く歪む。その愉悦に滲んだ笑みは、ひどく悪魔的だ。

「なぁに?聞こえない。――――ちゃんと答えて。疑いを捨てて、迷いを捨てて、貴方の真実を、あたしに教えて」

 (それ)に意味などない。(それ)は無価値だ。だから、誰かが定義しなければならない。誰かが、(それ)に価値を見出さなければならない。

 (それ)を決めるのは、彼女ではない。彼女にとって、(それ)はありふれたもの。ここでは当たり前に存在していて、だから疑問を挟む余地もない。

 ただ、存在する。

 しかし、彩は違う。彩にとって、ここはもともとの居場所ではない。

 ――同じ場所。

 ――視点が違うだけ。

 歪んだ視野を、彩が正す。……響彩の真実を、この場所(せかい)の真実とする。

「――――それは『人間(ヒト)』だ」

 光は()。瞬きは刹那。輝きは燃える。

 (それ)は生の証明。存在の証明。

 ――そう。

 存在だ――。

 その存在を、

「正解――――」

 彼女は嗤う。目を見開いて嗤う。狂喜して、嗤う。

 彼女は口を開いた。(なか)に覗くのは、深淵の闇。いや、奈落の底だ。あるいは、この場所の景色に例えて言えば、ブラックホールになるのだろうか。

 彼女の手に左右から囚われて、その存在は逃げられない。いや、彼女の前に、逃げることなどできるのだろうか。彼女は、存在を掌握する。存在とは、唯一だ。誰も、自己という存在を否定できない。……だから、逃げ出すことなどできはしない。


 ――電球が砕けるみたいに〝存在〟が砕けた。


 薄氷を割ったように、呆気なく粉々に散ってしまった。その最期の煌めきは、誰にも見咎められることはない。

 ――だって。

 その存在は無くなったんだ――。

 いや、最初から『()』かった。……そういうことに、なってしまった。

 死者ですら、この世界には存在している。墓があり、誰かに悼まれるなら、その人間(ヒト)は、確かに在ったのだ。

 ――なら、存在が無くなるとはどういうことか?

 決まっている。

 初めから、そんな存在は『無』かったということだ――。

 彼女は満足したように吐息を漏らす。それが、彼女にとっての食事。一人の存在を喰らうということは、一体どれほどの美味なのか。

 彩の周囲で、彩自身の記録が暴れている。下からの風に紙束が舞い上がるように、彩の周りを記録が取り囲む。その一つ一つは、まるで彩自身に訴えかけるよう。

 ……ああ、忘れないさ。

 身体(からだ)にまとわりつく記録を引き剥がさぬまま、彩は彼女を睨みつけるように見上げる。

「おまえはそうやって、夢々(むむ)先輩も喰ったのか?」

 人間(ヒト)は自分自身を定義することなどできない。定義とは生まれた瞬間、あるいは生まれる前から与えられたモノで、勝手に書き換えられるものではない。

 ――つまり、夢々先輩には存在が無い。

 なぜか?

 フェイト(こいつ)が喰ってしまったからだ――。

 ご馳走を口にして恍惚(うっとり)としていた彼女は、その名に惹かれて彩に目を向ける。

「それが、いまのあの()の名前なの?」

 残念だけれど、と彼女は彩の言葉を待たずに続ける。

「あたしには、いまのあの()のことはわからない。だって、あの()の存在はもうどこにも無いんだから。でも、あの()が存在しているらしい、ってことは、他のカニバルたちの話から知ってはいるの。あたしだって驚いているんだから。だって、そうでしょう。お肉が無くなって、骨と皮だけで動いているようなものよ。じっとしていれば土に(かえ)って、完全に消滅できたのに」

 中途半端な存在のまま、あの()は『存在』を続けている――――。

 彩は腕に力が入るのを自覚しながら、なんとか耐えた。彼女は認めたのだ――――自分が、夢々先輩の存在を喰った張本人だと。

 だが、怒りに任せて殴りかかってはいけない。彩には、まだ彼女に問わなければならないことがあるからだ。

「どうしたら、夢々先輩はいまの状態から抜け出せるんだ?」

 無限にコンティニューを続ける夢々先輩がゲームクリアを認めるのは、きっと、目の前の彼女を倒すときだ。けれど、彩はすでに気づいている。存在を失った夢々先輩では、どうあっても彼女の世界までは到達できない。響彩だから、存在を客観視できるこの場所に辿りつけたのだ。自己を否定してしまったら、夢々先輩はその瞬間に消滅してしまう。

「なぁに?貴方は、それがあの()の救いになると思っているの?」

 道化の戯言を聞いたように、彼女は可笑しげに笑う。

「あの()はもう、この世に存在していないの。存在しているように見えるのは、ただの錯覚。あるいは、異常。実際、いまのあの()は異常よ。存在していないモノが存在しているモノを殺して回っているんだから」

「夢々先輩を喰ったのはおまえだろ」

「ええ、そうよ。でも、存在することを選んだのは、あの()。もともと才能があったせいなんでしょうけれど、それでも、あの()は選択した。そして、その願いが叶ってしまった」

 存在を失ってなお、存在し続ける存在――非存在――。それこそが、いまの夢々先輩の在り方。そして、それ以外の在り方ができなくなってしまった、自縄自縛。

 憐れむように、嘲笑するように、彼女は彩を見下ろす。

「いくら貴方があの()を不憫に思っても、それこそがあの()の選択なんですもの。どうしようもないじゃない」

 彩だって、もう理解している。夢々先輩は、出口のない迷路にはまってしまったということに。最初から解答のない、誤った問題設定。いくらコンティニューを続けたって、永遠にクリアできない。

「それでも……。俺は夢々先輩を救いたい」

 宙空で踊る記録を見るまでもなく、彩の瞼の裏には夢々先輩の微笑が見える。カニバルを狩る者としての彼女の微笑……。そこにあったのは、血に酔った狂気ではなく、哀惜を含んだ自嘲だった。

 ……夢々先輩だって、気づいているんじゃないのか?

 教会の人間として、どれだけ人喰種(カニバル)を狩ったって、夢々先輩の挑んだゲームは終わらない。何度もゲームオーバーになって、何度もコンティニューしたって、それでも、夢々先輩は終われないんだ。

 呆れたように吐息を漏らして、彼女は彩の意志に応える。

「あの()にとって、願いと呪いは同一なの。――それは、貴方も理解していて?」

 頷く彩。そんなことくらい、彩だって理解している。なおも困惑を顔に出して、それでも彼女は彩に付き合って言葉を続ける。

「あの()にかかった呪いを解きたいなら、あの()の願いを否定してあげなきゃ」

 彼女はその場に座ったまま、身を乗り出す。

「あたしにはできない。だって、あたしの視点からは、あの()は見えないのだから。他の誰だって、できやしないわ。殺すことはできても、存在そのものを無に(かえ)すなんて、できるわけがないんだから。――――――――貴方を除いては」

 彼女の声に、再び嘲笑めいたものが滲む。ふふふっ、と声を漏らして、彼女は笑みを浮かべて続ける。

「貴方だったら、あの()を解放することができる。あの()の苦悩と希望を、終わらせることができる」

 さあ、と彼女は両手を広げる。この夢幻の中で、それは神の宣告に似ている。

「あの()を破壊して。今度こそ、完膚なきまでに。あたしが成し遂げられなかったことを、貴方が成し遂げるの。貴方以外、こんなことはできないの。貴方が救うの」

 救いとはなんだ?彩にできるのは、破壊だけだ。それでどうやって救うというのか。

 その致命的な解答(こたえ)を、フェイトと呼ばれる人喰種(カニバル)は容赦なく告げる。

 ――貴方が、世界を救って。

 ドクン、と鼓動が跳ねた気がした。

 彩だって、気づいている。世界の秩序を取り戻すために、異端である彼女を破壊する。それが世界の救済であり、彼女自身の救済にもなる。無限の地獄を、響彩の手で終わらせる。――完膚なきまでに。


 彩は跳び起きた。呼吸が荒い。動悸もする。頬を滴り落ちるもの、これは汗か?身体が熱くて仕方がない。

 ……全部、いらないものだ。

 彩は目を閉じる。荒れる鼓動を無視して、彩は一度の深呼吸で意識を落ちつける。

 ――慣れた行為。響彩はもう、なにも感覚しない。

 感覚を遮断した状態で、彩は静止する。自分の居場所を確認するのは、後回しだ。手袋のことだって、いまは置いておく。

 ――あれが、夢々先輩を喰ったカニバル。

 この世界に存在するのに、彩たち人間が普段生きている場所には存在しない。見つけることはできないのに、一方的にこちらを捕食する。

 ……まったく、規格外だ。

 いっそあのとき、彩が手袋を外して感覚してしまえば良かったのか。だが、それで相手をどうにかできる保証はない。あそこは、彼女の世界だ。部外者の彩が思い通りに動けるとは限らない。そもそも、彼女だって彩に近寄らなかったのだ。そのくらいの警戒は、当然だろう。

 そんな彼女に、夢々先輩は捕食された。喰われて、存在を(うしな)った。いまいる夢々先輩は、存在の抜け殻。だから、少しでも夢々先輩が自身の存在を疑ってしまったら、彼女は途端に消えてしまう。

「そういう意味じゃ、確かに夢々先輩はすごいよ」

 思っただけで、その存在を維持できる。普通ではできないことだ。その才能があったからこそ、あのカニバルは夢々先輩を選んだのだろう。

 だが……。

 ……その才能が、いまは完全に裏目に出ている。

 存在を喪ってしまった彼女は、人間(ヒト)という在り方を――生命という在り方を――無くしてしまった。生きているものは、必ず死ぬ――。そんな当たり前を、彼女は破却してしまう。

 しかも、彼女が倒すべき敵は、彼女では決して倒せない。これでは無限ループだ。彼女が設定した条件は、何度繰り返しても満たされない。

 その永遠を終わらせるには――。

 きっと、鼓動はまた暴れている。力を入れた拳の、その反応がわずかに悪い。だが、感覚を遮断しているから、そこで動けなくなるようなことはない。

「まったく、どうしろっていうんだ」

 低く、呟きを漏らす。布団の中、自分にだけ聞こえればいいような、微かな音。

 彩がやるしかないのか?彩の感覚なら、彼女の地獄を終わらせることができる。響彩が、彼女という存在――在り方――を感覚するだけで……。

「願いと呪いは、同一……」

 だがそれは、彼女の願いを破壊することにもなる。彼女を救うという大義を掲げた、一方的な押しつけ。それが彼女自身の本当の救いになるか、彩は知らない……。

「そうだよ、知らないんだ」

 なら、まずは確かめないといけないんじゃないか?

 ――夢々先輩の、想いを。

 彩の思いを彼女に伝えたうえで、それで改めて、彼女の決意を聞こう。できれば、彼女を説得したい。彼女が目指しているものは永遠に届かない、だから、諦めてほしい、と。

「……もっと、マシな言い方はできないのか」

 だが、それが彩の限界だ。優しい言葉で決意を曲げられないよりは、残酷な言い方になっても決意を変えさせたほうがいい。

「なんだ。結局、それしかないんじゃないか」

 布団から顔を上げる。天井付近にかけられた時計を見ると、五時四十五分。

 ……こんなことに、十五分か。

 長いのか短いのかはわからない。普段、時間の流れを意識しないせいで、その辺りが鈍感だ。

 ――だが、かまわない。

 方針は決まった。

 夢々先輩に、もう一度会う――。

 会って、話をしよう。話して、説得して。それで、夢々先輩の決心が変わってくれたらいい。……どうやら彩は、夢々先輩(かのじょ)を壊すことができそうにないから。


 一階のリビングに下りても、まだ(あざや)はいない。いつもの、朝食前のティータイムの時間より早いのだから、別に驚かない。それでも、使用人である猪戸兄妹(ししどきょうだい)は仕事を始めている。リビングに入ろうとしたところで、出てくる(さい)とちょうど擦れ違った。

「やあ、おはよう」

「おはよう」

 爽やかに声をかけてくる再に、彩は低く返す。彩の仏頂面に近い無表情に、しかし再は気を悪くした様子もなく、むしろニヤニヤと笑みを強くする。

「今日は下りてくるのが早いね。なに?お茶の時間が待ちきれない?」

 きっと再はこう続けたいのだろう――鮮様をお呼びしましょうか、と。

「そんなわけないだろ」

 お茶の良さもわからず、なにもせずにお茶だけを飲んでいる時間を無駄としか思っていない彩にとって、そんなものを繰り上げられても嬉しくはない。

 当然、再も彩のそんな思いはよくよく知っている。笑い声も隠さず、再は頷いた。

「じゃあ、いつもの時間で、鮮様が下りてくるまで少し待っている、でいいかな」

 ああ、と彩は返す。それで用は済んだのだから、再はすぐに自分の仕事に戻っていく、というところに、彩は折角の機会だからと再を呼び止める。

「昨日の晩、なにか変わったことはなかったか?」

 昨晩、屋敷を抜け出した彩は、いつの間にかベッドの中にいた。夢々先輩に気絶させられてからどうやって戻ってきたのか、彩の記録の中にはない。彼女が運んでくれたのだろうか。着替えまでさせられて気づかないなんて、よっぽど深く眠らされたようだ。

 うーんと唸ってから、しかしなにも思いつくことがないのか、再は眉に皺を寄せたまま首を横に振る。

「いや、別になかったと思うけど」

 そうか、とすぐに了解する彩。再は昨晩、彩が屋敷を出ていくことにすら気づいていないのだから、それも仕方がない。(れん)か鮮に確認してみよう。

 彩としてはそれで用が済んだのだが、お節介な再は興味を惹かれたようになおもくいついてくる。

「なに?昨日、なにかあったの?」

「さあ、それはわからない」

「なんだよ、それ」

 再の困惑ももっともだ。だが、彩もそれ以上、説明する気はない。もう用はないからと、再をリビングから追い出す。不承不承と再が出ていってから、彩はテーブルの上に置かれた今日の朝刊を手に取った。

 記事を確認してみたが、さすがに昨晩のホテルでの事件は、まだ載っていない。

 ……今後も、載らない可能性が高いがな。

 朝食が済んだら、駅前のホテルにもう一回行ってみよう。昨晩の戦闘痕がなにもなかったとしても、彩はもう驚かない。田板(たいた)のことも、間宮(まみや)のことも、そうやってなかったことにされたのだ。その辺りの抜かりは、ないだろう。

 間宮家の記事も、もう載らなくなってしまった。今週の水曜に、間宮一家が行方不明になったという記事が載っていた。間宮の両親は共働きだったから、無断欠勤などすれば当然、会社から連絡がいく。会社の同僚が見に行っても誰もいない。そこで、間宮の祖父母宅まで連絡がいって、鍵屋に開けてもらったところ、失踪が発覚。すぐに警察の捜査が入ることになった。

 そこから、間宮が学校に無断欠席していることがわかり、次いで、田板の失踪まで明るみになった。おかげで、今週は二人の失踪、そして間宮の両親までいなくなったということで、神隠しの話題で盛り上がっていた。東波(とうば)高校だけではなく、ニュースでも報じられていたから、翌週の週刊誌には『神隠し』の名が大々的に載ることになるだろう。

 そんなふうに大きく報じられても、しかし警察の捜索は進んでいないらしい。新聞に載らなくなったということは、特に進展がないとうこと。

 ――教会の手が回った、ってことだろうな。

 いままでカニバルの存在が明るみになっていないんだ、証拠隠滅や報道操作について、教会も徹底しているはずだ。しばらくすれば本当に、田板や間宮の事件は人々の記憶から消えていくだろう。

 これ以上は無駄だと、彩が朝刊を脇に退けたところで、リビングの扉が開く。扉の音に気づいて振り向くと、そこには妹の鮮が立っていた。

「兄さん……」

 彩と同じく、着替えを済ませた鮮が驚いたように彩を見返していた。振り向いたついでに、視界に入った時計を彩は読む。六時十五分――。鮮は普段、この時間にリビングに下りてくるのか。

 固まっていた鮮は、しかしすぐにいつもの淑女然とした態度を取り繕い、改めて彩に話しかける。

「今朝はお早いんですね」

「ちょっと、気になってな」

 彩は動揺もなく、脇に退けた新聞を指差す。それだけで、察しのいい鮮は全てを理解する。

「昨日もお話したでしょう。進展はなにもありません」

 溜め息一つで切り替えて、鮮は彩に背を向ける。

「少々お待ちください。いま、お茶を準備させますから」

 再を呼びながらリビングへ向かう鮮。再のほうでも予想していたのか、すぐに反応がある。ティータイムの用意を申しつけると、鮮はリビングに戻ってきて彩の向かいのソファーに腰掛けた。

「先に下りていらっしゃるなら、声をかけてくださっても良かったのに。わたしは五時には起きていますので、すぐにお茶の時間にしてもかまわないんですよ」

「言っただろ。気になったから確かめていたんだ」

 また、鮮は溜め息を()く。なんとなくだが、今朝の鮮はあまり機嫌が良くない。

「昨晩だって、なにも言わずにお出かけされるんですもの。ああいうのは困りますから、一言断りを入れてください」

「話したら、おまえは外に出してくれなかっただろう」

 彩は即座に返した、つもりだったが、コンマ数秒の遅れに気づかれていないかと、内心では冷や汗ものだ。

 ……昨晩のことは『間宮や田板のことが気になって外に出た』ということになっているらしい。

 彩自身は昨晩、家に帰った記録がない。夢々先輩に気絶させられて、フェイト(あいつ)の夢を挟んで、目を覚ましたのは寝室のベッドの中だ。

 ――都合の()い記憶が、鮮の中で構築されている。

 これが、東波高校の連中に起きたことだ。誰も、夢々先輩(かのじょ)のことは覚えていない。夢々先輩(かのじょ)の空白を埋めるように、それで違和感の生じない記憶を自分で作り上げてしまう。

 彩の危惧も、結局は無用だった。鮮は一層、口元を固くして反論する。

「そんなことはありませんよ。お時間さえ常識の範囲内なら、わたしも止めはしません。……クラスメイトが失踪されたんですもの、兄さんが気にかけるのも無理はありません」

 厳格な鮮も、後半は彩を思いやるように沈んだ声を出す。その声を、彩は黙って受け取った。本当に受け取っていいのか、という葛藤は、もちろんあった。だって、その沈黙は鮮を騙すことになるから。本当の彩は、すでに田板や間宮(かれら)のことを諦めている。彩が気にしているのは、もっと、別のことで――――。

 ですが、と鮮は切り替えるように目元を鋭くして彩を見返す。

「真夜中にお出かけになるのは非常識です。気にかかるのもわかりますが、今後は控えてください。――兄さんが攫われてしまう可能性だって、あるんですから」

 気丈に振る舞おうとして、しかし声の端が影で沈んでいることに、彩は気づく。だが、彩はなにも言わない。鮮が誤魔化すように紅茶を口元に運んで、彩も合わせるようにカップに口をつける。何度も繰り返した行為のはずなのに、彩は一向に、この意味を解せない。


 朝食が終わって、彩は予定した通りに屋敷を出た。出かける間際に鮮から小言をいくつかもらったが、常識の時間内だからいいだろう、と返したら返答に困っていた。もちろん、それで鮮が即座に納得してくれるとは彩も思っていない。だから鮮がなにも言えないうちに、さっさと屋敷を出てきた。

 ――いつの間にか、いろいろと変わっちまったな。

 響家の前にある坂道、その中間にあるミラーの下には、もう誰も来ない。そこから外れた道にも、もう彩が向かうことはないだろう。

 いままでだって、関わり合いをもつことはなかったんだ。だが、彩は関わってしまった。本来、彩が知ることのなかった場所。人が寄りつかない公園や、山。近くを川が流れていて、散策路もあるなんて、引っ越してからも彩が知らなかったことだ。

 駅前までバスがあるが、彩は歩いて向かうことにした。いまさら焦ったって、仕方がない。昨日は真夜中だったから人気がなかったが、朝になったいまでも、人通り、車の往来は少ない。土曜の早朝、ということもあるだろう。この時間では、駅前の店はどこもやっていない。

 一時間近くかけて、彩は昨日のホテルの前までやってきた。夢々先輩がいて、クレーターだらけだった場所も、確かこの辺りだ。

「ま、痕跡はどこにもないけどな」

 舗装された道がある。爆撃を受けた直後のようなクレーターなど、どこにも見つけられない。上を見上げてみても、上の階の窓ガラスが砕けた様子なんて、見えやしない。もしもそんな破壊の痕跡があったら、彩がこんな近くまで近づけるはずがない。黄色のロープもない、ホテルも通常営業をしている、なんの異常もない穏やかな風景。

「異常が見当たらない異常、か」

 これで、昨晩のことが新聞に載らないという確信が持てた。だが、それで諦める彩ではない。もう少しこの辺りを探して、なにか痕跡が残っていないか見て回る。それでも見つからないなら、今度はどこを探そうか。田板の隠れ家は今週すでに一度確認しているが、あらかた証拠品は押収済みだった。

カニバル(あいつ)が誰だったのか、聞いておけばよかったかな」

 名前はわからない。顔だけが、彩の記録にあるだけだ。だが、仮に似顔絵を描いたところで、どうやって探せばいい?

 ああ、そうか。ホテルに泊まっていたはずだから、顧客リストを手に入れればいい。記録が残っているだろうか。ネットでこのホテルを調べて、同じ部屋に入ってみるのも手だ。そこから、知人の振りをして宿泊情報をとれないだろうか。

 そんなことを考えながらぼんやりとホテルを見上げていたとき、背後から彩に声をかける者がいた。

「おい、おまえ」

 最初、声をかけられたのは自分ではないと思った。しかし、他に人の姿はないし、なにより、声はまっすぐ自分に向かってきた気がした。

 彩が振り返ると、そこには一人の女性がいた。根元から毛先まで強く輝く金髪は、とても染めたとは思えない。ジーンズに黒のブーツ、ぴっちりした革のコートを身に付けた出で立ちは、力仕事をする男性のような印象を与える。だが、体つきは女性らしくすらりとしている。ただ、同級生の中でも背が高い彩と同じくらいだから、柔な女性という印象は、やはりない。

 彩は返答に困った。当然だろう。相手は初対面だ、どこかで擦れ違った記録もない。そんな相手からいきなり声をかけられて、なんて返せばいいだろうか。

 柔らかとはほど遠い、どこか挑戦的な視線を彩に向けて、女性は黙り込んだ彩に代わって口を開く。

「おまえ、昨晩もここにいただろ」

 その致命的な台詞を投げつけられても、意外と彩は動揺しなかった。

 ……予感、があったのか。

 だとしても、彩の冷静さはよっぽどだと、自分でもそんな評価を下してしまう。思いつきで返した台詞も、思いの外、落ちついていた。

「あんたは……?」

 口元に笑みを作って、女性は答える。――どこか猛獣を思わせる、凄惨な笑み。

「名は後で教えるが、東波高校にいた女生徒の知り合いだ。――そのときは『夢々』と名乗っていたやつだ」

 やはり、彩は驚かなかった。すでに予想できていたんだ、驚くはずもない。

 だとしても、わからないことはある。それを、彩は女性に直接訊ねる。

「なぜ、俺に声をかけてきた?」

「単純な興味だ。あいつのことを忘れないやつが本当にいるなんて、思っていなかったからな」

 本当に理由がそれだけなのか、彩には判断しきれない。たぶん、それだけではないと理性は囁くが、女性の態度は嘘を吐いているようには見えない。

 ――だが、相手は〝教会〟の人間。

 命のやり取り、駆け引きのプロだ。表情と内心が一致しない可能性だって、ある。

 敵意、とまではいかないが、最低限の警戒を解かない彩に、女性のほうは相変わらず気軽なふうを装う。……あの笑みのままで。

「まあ、立ち話もなんだ。どこかに入ろう」

 女性はすぐ彩に背を向けて歩き出す。彩は即座に思考を回して、決断する。自分の隣に並んだ彩に、女性が「ほおぅ」と感嘆の声を漏らす。

「――もう少し迷うかと思ったんだが。度胸があるな」

「夢々先輩のことを知っているなら、話を聞かない手はない。……なにがなんでも、俺は彼女の手掛りを見つけなきゃいけないんだ」

 それが、彩の決意だ。覚悟もしてきた。だから、予想通り相手が出てきてくれて、むしろ背中を後押しされた気分だ。そこで躊躇するなんて、あるわけなかった。

 くくくっ、と女性は心底楽しそうに笑い声を漏らす。

「本当に、おまえは思った以上に面白い。そこらへんも込みで、ゆっくりと話そう」

 大通りの前まで来て、女性は手を上げる。駅に向かう道だから、すぐに一台のタクシーがつかまった。見た目は、そこらへんのタクシーとなんら変わらない。とはいえ、ここで警戒したところで、彩には催眠ガスに耐えうる用意もない。

 女性が助手席に座ったので、彩は後ろに座る。とりあえず、前だけ警戒していればいいらしい。女性が目的地を告げると、タクシーはすぐに走り出す。彩は黙って、女性が為すままに身を任せる。


 女性が彩を連れてきたのは、駅の向こう側にあるビル群、その中にぽつんと混じり込んだ、ここはマンションだろうか。エレベーターで上がってみると、扉が規則的に並んでいる。店屋という雰囲気は、ない。

 女性は外の廊下を突っ切って、さらに角を折れ、外からは影になった、一つの扉のインターホンを容赦なく押した。まるで、一定リズムを刻むような連打。なにかの合図なのか、女性は入力を終えたみたいに手を引っ込めて、奥の反応を待つ。

 十秒ほどの間。中でカチャカチャと音がして、扉が開かれる。中から現れたのは、小学校高学年、あるいは中学生くらいの女の子だ。服のサイズが合っていないのか、顔の半分、口まで衣服の中に隠れ、手も袖の中に引っ込めている。

 じいっと、一点を見つめるようにその女の子は女性と彩――主に女性――を見上げる。

「おかえり」

「ただいま」

 女性がドアを支えると、女の子はドアノブから手を離し、女性と彩が入れるように三歩退()がる。

「ほら、入れ。靴は履いたままでいいぞ」

 女性の代わりに彩がドアを受けると、女性はすぐに奥へと進んでいった。言葉のとおり、靴を履いたままで。

 あくまで、ここの造りは日本式だ。玄関があって、部屋の中と区別するように段差もある。だが、当の女性はそんなことおかまいなしだ。

 彩が靴のまま玄関を上がると、入れ替わりで女の子がドアの鍵を閉める。女の子もまた、靴のまま室内に戻ってくる。そのまま通り過ぎるのかと思いきや、女の子は彩の少し前で立ち止まり、こちらを見上げてくる。興味、があるのだろうか。この年頃にしては感情の起伏が読みにくい。ただじっと、普段はない珍しいモノを観察するような熱心さ。

 それも、ほんの五秒ほどだ。女の子はすぐに部屋の奥へと駆けていく。女性が消えた、奥の部屋だ。

 彩もまた、彼女たちが入っていった部屋へ向かう。外見通り、狭々しいマンションという印象。玄関から丸見えの台所を通り過ぎて、彩はその部屋に入る。テーブルと、その周りを椅子が三つ並んでいる。四辺のうち一つだけ椅子がないのは、その向こうに続く部屋への通り道だろうか。いや、そこに棚があるから、という理由のほうが正しい。その棚の前で、女の子がティーポットとカップを取り出している。

 隣の部屋側の席に座った女性が、黙々と作業を続ける女の子に指示を出す。

「紅茶とクッキー。お客用だ」

 女の子は出しかけた茶葉の箱を戻して、奥のほうから別のモノを取り出す。それが終わると、小さな背を精一杯伸ばして、手を伸ばし、上のほうにある菓子箱を取ろうとする。

「どれだ?」

 見かねた彩が、女の子の代わりに戸棚の上段を開ける。女性は座ったまま「手前にある丸い缶だ」と答える。彩はその平らな円盤を手にとり、蓋を開けてテーブルに置く。数種類あるクッキーの詰め合わせだ。

 つまむものが出てきて、女性はさっさとクッキーを一つ、口の中に放り込む。優雅さとはかけ離れた、乱暴な食べ方。一方、女の子のほうは彩を一瞥してから、カップとティーポットを持って台所へ消える。感情の色は見られなかったが、仕事を取られて恨みがましく見上げる、そんな印象があった。

 彩は座りながら、すでにくつろいでいる相手に訊ねる。

「ここは、あんたの家か?」

「ああ、そうだ。生憎、この辺りで茶を飲める場所を知らないんでな。ここなら、人の目を気にせず、気楽に話ができる」

 あっけらかんと返す女性。

 ……最初からそのつもりだったくせに。

 彩の一段落とした視線も気にせず、いや、気づいていながらむしろ楽しそうに、女性は低く笑い声を漏らす。

「いい度胸だよ。それに隙もない。それなりの修羅場を潜り抜けてきたんだな」

子ども(ガキ)の喧嘩だよ。あんたらみたいな、本当の戦場は知らない」

 皮肉を混ぜた彩の応答に、対する女性は「フフン」と鼻を鳴らすだけ。

「本当の戦場、か。まあ、そうさな。命のやり取りなんて、普通は体験できることじゃないか」

 この家は一見、普通の家庭と大差ないように見えるが、少し見渡しただけで、異常なまでのモノのなさに気づかされる。この部屋にあるのは、テーブルと椅子が三つ、あとは食器や菓子がしまってある戸棚だけ。

 台所のほうが、その異常に気づきやすい。まず、冷蔵庫がないことに真っ先に目がいく。あと、電子レンジもない。洗濯機もないから、本当に住んでいるのか疑いたくなる。

 女性が日本式の生活に慣れているなら、きっとテーブルももっとコンパクトなもので、椅子も必要なくなるのだろう。

 ……隣の部屋には、寝袋が転がっているのかもな。

 容易に想像ができてしまうから恐ろしい。その想像を打ち消したいが、他に誤魔化す手段もない。女性と一緒にクッキーを食べる気には、とてもなれない。

「でも、お前だって戦場くらいは見ただろ。昨晩、あいつに会ったんだから」

 クッキーを掴んだその手で、女性は彩を指差す。ずっと、女性は笑っている。彩をからかうように――あるいは、いつ喰ってやろうかと体勢を低くする猛獣のように――。

 女性のペースに呑まれまいと、反感するように彩は口を開く。

「どうして、あんたは夢々先輩のことを名前で呼ばないんだ」

 彩の詰問に、しかし女性は相変わらず口元に笑みを浮かべたまま。どうでもいいことを思い出したように「ああ」なんて声を上げる始末。

「そういや、あたしの名前をまだ教えていなかったな。エリザ・キューイだ。そんで、こいつはミルヒ。生憎、名字は教えてもらっていない」

 お茶ができて戻ってきた女の子を、自己紹介のついでに指差すエリザ。急に呼ばれた女の子――ミルヒ――は、ティーポットとカップを載せた盆をテーブルの上に置くと、彩の顔をじっと見上げる。自分も名乗ったほうがいいのでは、という思考は、ミルヒの無感動な瞳の前では吹き飛んでしまう。

 ケラケラ、とエリザは楽しげに笑う。

「普段はもう少しお喋りなんだがな。初めてのお客で緊張してるんだろうよ」

 ミルヒが用意したお茶をエリザは勝手にカップへ注ぎ、一度息を吹きかけただけで、すぐに口へと運ぶ。

 自分で注げ、ということだろうか。最初からお茶をいただくつもりなんてないから、彩はクッキーにもお茶にも手を出さない。

「……で、『あいつの名前を呼ばないのはなぜか』って話しだったな」

 またクッキーを口へ運び、お茶を飲んでから、エリザはぽつり、呟くように返した。

「――意味がない、ってのが回答(こたえ)だ」

「意味がない?」

 ああ、とエリザは彩とは視線を合わせず、揺らすカップの水面を呆と眺める。

「少し前は、確かに『夢々』と名乗っていた。その前は『ノーヌ』。どれも偽名だ。本当の名前じゃない」

「でも、本名はあるだろ?」

 この女性が『エリザ・キューイ』と名乗るように。隣の席に座った女の子のことを『ミルヒ』と紹介するように。それが偽名であろうとも、女性が呼びやすい夢々先輩の呼び名があるはずだ。しかし――。

「――ない」

「ない、って」

「そのままの意味だ。あいつに本名はない。二つ名で『フェイト』と呼ばれることもある。だが、あいつの存在を知っている者は少ないから、その呼び方も便宜的だ。そもそも『フェイト』だって、あいつを本当に表しているわけじゃない」

「夢々先輩を殺したやつが『フェイト』と呼ばれているからか?」

 苦虫を噛んだように顔をしかめ、エリザはカップに顔を向けたまま、目だけを彩のほうに向ける。

「……そうだよ。ったく。どこでそういうことを知っちまうんだ、おまえは」

「響彩だ。そっちで呼んでもいい」

「響彩、か。ふーん。なるほどねぇ……」

 なにを納得したのか、エリザは一層笑みを強めて、繁々と彩を観察する。

 ……まったく、いい気はしない。

 エリザがなにも言わないから、彩は直前の彼女の言葉に応える。

「どこで知ったかなんて、あんたに話したって信じやしないよ」

「ほう。それは少し引っかかるねぇ。……まあ、今回の本題じゃないから、突っ込まないでおくが」

 残りのお茶を一気に飲み干してから、エリザは笑みを消して彩の顔を凝視する。

「響彩は、どこまで『あいつ』のことを覚えている?」

 いままでの軽さを消し飛ばす、ドスのきいた低い問い。一ミリでも偽りを混ぜればその場で処断するかの如く、容赦のない眼光。

 警戒を怠らなかった彩は、だから怯まない。子ども(ガキ)の喧嘩風情でも、彩だって、こんな威圧で屈していられない。これ以上ないくらい簡潔に、彩は答える。

「夢々先輩が東波高校にいたこと。教会の人間で、カニバルを狩っていて、昨日も一人、この世から消した、ってこと」

「まあ、あのホテルの前にいたんだから予想済みだが。……つまり、全部覚えているんだな?」

「ああ、全部だ」

 迷いなく即答する彩に、エリザは椅子にもたれかかった溜め息を吐く。

「忘却までやった、って言()ってたのに、全然ダメじゃねーか。――彩は魔術師なのか?」

 ついでのように訊いてくるエリザに、彩は軽く肩を(すく)めて曖昧に答える。

「さあな。そういう家なのかは知らないが、少なくとも、俺は魔術師だっていう自覚はない」

「ふーん。だが、才能みたいなものはありそうだな。とすると、異端かなにかか」

 ぶつぶつと独り言を漏らすエリザ。すでに、彩からの言葉は期待していないようだ。だから、彩も必要なときしか口を挟まない。

「教会に入ることになったら、その辺りのこと、いろいろと調べられそうだな」

「俺は教会に入るつもりはない」

 人喰種(カニバル)を狩る組織――それが教会だ。人類のために活動しているのだろうが、あまりにも彩の知っている世界とは違いすぎて、ついていけない。

 ――天然のカニバルもいるが、人からカニバルになる場合もある。

 ――人からカニバルになろうと、カニバルになった時点で、問答無用で抹殺する。

 ――それが、クラスメイトだったとしても――――――――。

 生憎、彩にはそれはできない。すでに人間(ヒト)ではないと言われても、彼らは彩が知っている人間だった。簡単に割り切れるわけがない。

 彩の当然の切り返しに、エリザはすっと、視線を凍らせる。

「――だったら、もうあいつのことを追い回すのはやめろ」

 覚悟は、していた。そんなことを言われるのではないかと、予感はあった。

 だが、実際に形にされただけで、こんなにも衝撃を受ける。彩はなにも言い出せなくて、固まってしまう。

 エリザはお茶を注ぎながら、ついでみたいに話を続ける。

「今日、おまえに声をかけた本題はそれだよ。あいつのことを覚えているのはわかった。忘却が効いていない、ってのも、よぉくわかった。それでもかまわない。だが、教会のことは他言するな。あいつのことも口に出すな。そして今後一切、あいつに、あたしらに近寄るな。――教会に入らないというなら、それを誓え」

 それが響彩(おまえ)を見逃す条件だと、教会の人間(エリザ)は言っている。

「いきなりそんなこと言われて、納得できるか」

「納得しなくてもいい。ただ誓え。そうしないと、おまえを教会の敵と見なすことになる」

 注いだばかりのお茶を、エリザはすぐに口へと運ぶ。彩の言葉には応えるのに、一切目を合わせようとしない。伝えるべきことは伝えたから、言うとおりに従えと、そんな感じだ。

 もちろん、そんな簡単に引き下がる彩ではない。

「理由は?」

「本来、教会の存在自体が秘密にされている。我々は影で、人類の敵である人喰種(カニバル)を狩っている。人喰種(カニバル)の存在を公にしないために、その撲滅機関である教会も、世間から隠蔽されている。その中でも最上級の秘密(トップシークレット)なのが、あいつの存在だ。なんせ、不死の兵器だからな。本当なら、カニバルよりも先に狩るべき化物だ。それが生かされているのは、単純に、あいつが教会(われわれ)のために働いてくれるからだ」

 カップをテーブルに置いて、エリザは半目で彩を睨む。

「教会の存在を知った時点で、おまえは消すべきなんだ。だが、普通ならあいつの催眠が解けて全てを忘れるはずだから、放置された。なのに、おまえは忘れない。あいつが忘却をかけても、だ。――なら、教会は本来の手段を行使する。あいつの存在も忘れないのだから、弁明も聞かない」

 エリザはクッキーを取った手で彩を指差す。

「だから、おまえには二つの選択肢しかない。教会の人間になるか、あるいはあいつを含めて教会のことに関わらないと誓うか。我々も鬼ではない。誓うなら、おまえを元の生活に戻してやろう。……だが、誓いを破った場合は、どんな事情があろうと容赦しない」

 エリザは口を閉ざして、動きを止める。まっすぐ、それこそ射抜くように、彩を睨んだまま微動だにしない。彩の回答(こたえ)を待っているのだ。この返答いかんで、彩の対処が決まる。

 ……俺は、ここで殺されるのかな。

 生死を天秤に乗せられた質問。なのに、不思議と彩の精神は落ちついていた。諦観、とは少し違う。()い意味で諦めがついたというなら、それはあっている。

 ――覚悟は、もう決めてきたんだ。

 どんな無茶や無謀を突きつけられても、彩の決意は変わらない。彩が口にすべき台詞も、すでに決定している。……それを改めて自覚して、だから彩の心はこんなにも穏やかだ。

「――俺は、もう一度、夢々先輩に会って話がしたい」

 それが、響彩の決意。記録が消えぬまま目覚めたときから、ここに来るまで。カニバル殺しの教会から与えられた選択をもってしても、その意志を曲げることはできない。

 ――そう簡単に、屈しやしない。

 子ども(ガキ)の喧嘩がどこまで通じるかわからないが、やれるところまでやってみよう。その覚悟を、彩はもう一度自覚する。

 エリザは、相変わらず険しい視線のままだ。少しでも気を抜いたらその瞬間に命を取られるような、すでに喉元に剣先を向けられているような、そんな気分だ。

 体勢は、いつでも攻守に動けるように、少しでも気配を察したならすぐに反応できなければならない。反応して、返さなければ――。

 ――()られてしまう。

 感覚をギリギリまで落としているはずなのに、こんなにも肌の上がチリチリする。視線か、雰囲気だけで、こんなにも皮膚は反応するものなのか。それでも、緊張はピークまで上げない。強張りすぎて窒息しかねないからだ。

「どうして、おまえはそこまであいつに拘る?」

 視線の圧は少しも緩めず、エリザは低い声で問うてくる。彩も微動だにせず、彼女に真剣で応じる。

「あんたにはわからないかもしれないけどな。夢々先輩は、いつも苦しんでいるんだよ。苦しみながら、生き続けているんだ」

 彩は、夢々先輩の苦しみを知っている。身体が()ける痛みを、彩も共有した。夢を通してだろうと、それは現実なのだと彩は確信している。

 ――夢々先輩が存在するということは、つまりそういうこと。

 人間は痛みを感じる。痛みこそ、生きている証――。

 彩と同じく、他人(ひと)とは違うものを背負っていながら、両者の在り方は根本的に異なる。痛みを感じないことで社会に受け入れられている彩と、痛みを感じ続けることで世界に存在を許されている夢々先輩と。……それでも、彩は共有することができる。

「苦しんでいるやつが目の前にいて、それを無視するなんて、俺にはできない。……俺は、夢々先輩を助けてやりたいんだ」

 ああ、そうだ――。

 彩は、自覚する。彩は、夢々先輩を助けたいんだ。永遠の殺戮と無限の苦痛から、彼女を解放してやりたい。彼女に近づける響彩だから、できること。それを成し遂げようともしないなんて、彩は許せない。だから、この決意だけはどうあっても、曲げられない。

 そんな彩の決意に、しかしエリザは哄笑でもって応えた。まるで予想外の返答でもあったように一瞬両目を見開いて、直後、遠慮もなにもなく、腹を抱えて大笑いし出した。

「なにが、可笑しい?」

 限りなく低い声で、彩は問う。エリザの反応は、あまりにも不愉快だ。正直、殴り飛ばしてもいいくらいに。だが、どんなに油断したように見えても、相手が〝プロ〟だということを彩も自覚している。

 一頻(ひとしき)り笑い終え、途端、エリザは顔からも笑みを消して、()め殺さんばかりの視線で彩を射抜く。

「わかっていないのはおまえだよ、響彩。いいか?あいつは化物だ。完璧な不老不死で、誰の記憶にも残らない。しかも、教会の中でもかなりの腕前だ。技量は……フン……この隊のリーダーであるあたしよりも、もしかしたら上だ」

 彩はなにも言い返さず、エリザの話を聞いた。なんと返したら言いか、彩自身もわかってはいない。

 エリザは椅子にもたれかかり、自嘲するように吐いた。

「そんなあたしが、この隊のリーダーだぞ?与えられたのは、あいつの監視役だ。もしも教会(われわれ)を裏切るようなことがあれば、あたしがあいつを消さなければならない。だが、どうやって消せばいい?四肢を切断して首を()ねても、重要器官を全て串刺しにしても、灼いても、氷漬けにしても、薬品をかけても、部屋に閉じ込めて毒ガスをばら撒いても、あいつは死なない」

 くくくっ、とエリザは凍りつくような笑みを漏らす。いや、実際に凍りついているのはエリザ自身かもしれない。エリザは、自分が語った言葉がどれも真実であると自覚している。嗤いでもしなければ、こんな現実は受け止めきれない。

 天井を見上げ、まるで独り言のようにエリザは吐き続ける。

「あいつの苦しみなんて、意味がないんだ。どんなに痛くても、苦しくても、あいつは死なない。消えない。じゃあ、あたしはなんだ?なんのための監視役だ?解答(こたえ)は簡単だ。――ただの生け贄。猛獣が暴れたときに、真っ先に喰らいつくための餌。……それが、あたしだ」

 顔を下げて、エリザは彩を見る。斜め下から見上げるような視線。卑下する彼女の口元には、引きつった笑みがあった。

「あいつの秘密を教会が教えてくれるのも、この任から解放されれば、あたしが全てを忘れてしまうからさ。あたしの前任者もそうだった。引き継ぎの夜は覚えていたのに、次に会ったときは、あいつの存在そのものを忘れていた」

 彩は、最初よりも素直に、目の前の女性を見ることができた。もちろん、警戒は解かない。だが、相手も一人の人間なのだと、そう理解できた。

 ……怯えて、いるんだ。

 カニバル狩りなんて、人外の化物を殺して回るようなやつなんて、普通の人間ではないと思っていた。有体(ありてい)に言えば、血も涙もない、そんな人非人。

 ……でも、違う。

 相手は人間だ。もしかしたら、彩たち以上に人間らしいのかもしれない。殺すか、殺されるかの世界。一歩間違えれば、自分は死んでいるかもしれない。実力だけでは決まらない。生きている、ってだけで、それはかなり運がいいということだ。

 ――怯えて、当然なんだ。

 自分のすぐ近くに、人間の姿をした、けれど人間ではあり得ないものが存在している。確かに、それは自分を守ってくれる。自分の代わりに、命のやり取りをやってくれる。

 だが、どうだろう。それだって、完全無敵、というわけではない。命を落とすような猛攻をくらうこともある。実際、昨日だって、夢々先輩は一度()られたんだ。

 でも、死なない。傷一つなく、平然とその場に立っている。

 ……もしも〝あいつ〟が裏切ったら、エリザ(あたし)は生き残れるだろうか?勝てるなんて、思ってやいない。そもそも、勝負にさえならないだろう。応援が来て〝あいつ〟を抑えてくれるまで、エリザ(あたし)は耐え続けなきゃいけないんだ。

 彼女(エリザ)の口から漏れた恐怖を、彩は確かに理解できた。だから――。

「夢々先輩は、あんたを殺したりしないよ」

 そう、断言する。

 口元に怯えを残したまま、エリザは懸命に彩を睨もうとする。傍から見れば、その視線は十分人喰い狼のものだが、彩から見たら、猛獣に追い詰められた仔犬も同じだ。

「なぜ、そう言い切れる――?」

「だって、俺が生きているから」

 エリザは理解できないとばかりに、彩を見上げている。だが、彼女の表情から、いくらか怯えが消えたように、彩には見える。

 ――近くにいるはずなのに、遠くに感じる存在。

 その距離は、自己防衛が作りだした幻だ。それは夢々先輩の影ではなく、エリザ自身の影だ。

 ――自分のために泣くのは弱さの証。でも、誰かのために泣いたなら、それは想いの証。

 そういう、ことなんだろうな……。

 いまになって、その言葉の意味が理解できた、そんな気がする。だから、彩はその決意を迷わない。

「お願いだ。夢々先輩に会わせてくれ。会って、話をしなくちゃいけないんだ」

 真剣に、彩は頼み込む。このときばかりは、エリザへの警戒を忘れていた。すっかり視野が狭くなっていたと、あとから思い返せば反省もできる。だが、そのときの彩は、そんなこと、おかまいなしだ。

 エリザは前ほど力のない瞳で、彩を見上げ返す。

「それが済めば、おまえはもう教会(われわれ)とは関わらないと誓えるか」

「……保証はできない。夢々先輩を納得させられるまで、俺は諦めるわけにはいかないから」

「なら、おまえをこのまま帰すわけにはいかないな」

 改めて、エリザは低い声を出す。まっすぐ見返す彼女の()には、刃物のような冷たさがある。

 彩の身体が、緊張を思い出して強張る。もちろん、力み過ぎて動けない、なんてことがないように、調節は入れる。座った状態でこの距離は、正直きつい。相手も座っているから、なんて理由で油断はしない。そういえば、隣に女の子もいたな、といまさらのように思い出すが、視線は動かさない。気配で察知できないかと期待しても、なにもわからない。感覚遮断を緩めた彩でもわからないということは、ミルヒのほうも、外見通りに判断してはいけなかったということ。

 ……ほんと、いまさらだ。

 だが、後悔はしない。後退も、する気はない。ここまで来て、嘘でも決意を曲げるなんて、彩にはできない。

 冷やかに彩を見据えたまま、エリザはぴくりとも身体を動かさず、口だけを動かした。


「――あいつの意見を、聞いてからでないと」


 一瞬、エリザがなにを言っているのかわからなかった。彼女の口調が穏やかなことにも、彩はすぐに気づけない。後から記録を見直して、ようやくその意図を察することができた。

 エリザの目が窓のほうを向いていたので、つられて、彩もその先を追った。

「あ……」

 意図せず、声が漏れた。我ながら、なんて間抜けなんだと、後から見返して思う。

 だが、そのときはそんなこと、気にしていられない。――だって、窓の向こうに、確かに夢々先輩がいるのだから。


 窓を開けて、夢々先輩は部屋の中に入ってきた。窓の向こうは狭いベランダになっていたから、ずっとそこに隠れていたらしい。部屋に入ったときに彩が気づかなかったのは、彼女が奥の、視界に入らないところにいたからだろう。

 どちらにせよ、彩にとっては些細なことだ。……大事なのは、彼女がここにいるということ。

「――夢々先輩」

 また、意図せず彼女の名前が零れ落ちる。なんて、間抜けだ。彼女にまた会えただけで、彩はこんなにも木偶(でく)(ぼう)になってしまった。

 夢々先輩でさえ、呆れを隠さずに溜め息を吐く。

「ここまで来るなんて、響彩くんは馬鹿です。阿呆です」

 それに、と夢々先輩は眉を寄せて彩を見上げる。できの悪い生徒を叱る年の近い教師のように、人差し指を立てている。

「『殺しますよ』と脅されているのに、どうしてわたしのことばかりなんですか?もう少しご自分を大切になさってください」

 夢々先輩は、東波高校の制服姿だった。黒いローブをはおった恰好ではない、彩の記録のほとんどを占める、彼女の姿のまま。

 ――夢々先輩は、やっぱりここにいる。

 そう実感できるだけで、彩は十分だ。ここまで来た甲斐があるというもの。

 だから、彩は嘘偽りのない、彩自身の決意を彼女に返した。

「だって、夢々先輩に会うためにここまで来たんだから。退くわけにはいかないだろ」

 夢々先輩の顔つきが、いっそう厳しいものになる。なのに、頬は穏やかに朱に染まっていく。そんなアンバランスで、夢々先輩は半目で彩を見上げる。

「……響彩くん。わたし、お二人が話しているのを、全部聞いていたんですよ?響彩くんがこの部屋にやってきてからいままでのやり取り、漏らさず盗み聞きしていたんですよ?」

 普通は怒るところなのだろうか。本人には内緒で話していたことを、実は当の本人は最初から全部聞いていた、なんて。

 だが、彩はかまわなかった。秘密にする気なんてなかったし、むしろ、夢々先輩に会って直接この想いを告げたいと、そう思っていたのだから。

「なら、夢々先輩にも伝わっただろ。俺は、夢々先輩に会いたかったんだ」

 会いたかった。会って、ちゃんと話がしたかった。……その彩の想いは、すでに半分満たされた。

 夢々先輩の顔が、首元から耳の先まで、燃え上がるように赤くなる。大きく見開いた瞳は彩を見ているはずなのに、視線は泳いで定まらない。

 自分の変化に気づいていないのか、夢々先輩は顔も隠さず、早口で捲くし立てる。

「ちょっと!響彩くん!お話を盗み聞きなされたのにどうしてそのようにご平然となさってらっしゃるのですか?そこは響彩くんがご動揺なさいますところではないのですか?」

 焦るあまり、変な敬語になる夢々先輩。彼女の慌てっぷりに、むしろ彩は安堵を覚える。

 ……いつもの、夢々先輩だ。

 彩の知っている彼女のまま。学校から姿を消しても、黒いローブをはおった教会の人間として彩の前に現れても、彼女はずっと変わらない。彩の記録の中にあるとおりの、彼女だ。

 二人のやり取りを傍観していたエリザが、関心したように声を漏らす。彩のほうを向いて「おまえ、やるなあ」なんて声をかけてきたが、これは返さなくてもいいだろう。

 もう一人、この部屋にいるミルヒも、ただ黙って見ているだけだったのが、夢々先輩の顔が赤くなったのを見てから、目を大きくして凝視している。あれは、面白いものを見つけて目を輝かせているのだろうか。いままで無口を貫くために固く閉ざされていた口が半開きになっていることに、当のミルヒは気づいてすらいない。

 エリザの声が聞こえて、夢々先輩は彼女のほうを向いて文句を言い始める。一方、エリザのほうは楽しそうに笑い声を返すだけ。

 ……なんだか、安心する。

 夢々先輩の名前を決して口にしようとしなかったエリザだったから、二人の仲は相当悪いものだと、彩は想像していた。――どうやらそれは、彩の杞憂だったらしい。

 つい、微笑が漏れてしまう。だが、彩の用事はまだ済んでいない。ここまで来た理由の、残り半分。それを実行するため、彩は表情を元に戻す。

「夢々先輩……」

「ああ、もう!わかりました!わかりましたよ!」

 彩の言葉を遮って、夢々先輩は大声を上げる。ビシッ、と人差し指を彩に突きつける。まるで宣戦布告でもするように、夢々先輩は赤らめた顔のまま彩に言い放つ。

「響彩くんはわたしめと話をなさりたい!そうです。そうですね!」

「……ああ、そうだ」

「承服致しました。なら、明日お話をお伺いいたしましょう。明日です!二人きりです!」

「……ああ」

 最後に余計な言葉が追加された気がするが、夢々先輩のあまりの剣幕に、そこには触れないことにする彩。

 だが、観客はそんな配慮をするつもりはないらしい。

「なんだ、デートか?」

「!」

 エリザの発言に、反射的に振り返る夢々先輩。エリザの笑った口元になにか言い返してやりたかったのだろう。しかし、それより先に、別の観客から声が上がった。

「デート?デート?」

 いままで一口も()かなかったミルヒからだ。見た目通りの幼い、興奮でいくらか高くなった声。

 即座に夢々先輩はミルヒのほうにも振り返ったが、ミルヒの期待するような眼差しには、咄嗟になにも出てこない。「えーと、あのー……」なんて言葉を濁すのに、五秒が経過する。彼女の中では、より長い時間が流れただろう。短時間で決意を固め、夢々先輩は胸を張って彼女たちに答えた。

「――はい、デートです」

 立派に宣言したように見えて、その実、声が微かに震えていたことに、彩は気づいている。

 それでも、夢々先輩はまだ終わらない。今度は彩に振り返って、彼女たちに告げたのと同じ宣言を、彩にも繰り返す。

「明日はデートですからね。いいですね?響彩くん」

「……………………ああ」

 むしろ、YESと答えろ、と言っているようにしか、彩には聞こえなかった。

 ――こうして、響彩は明日、夢々先輩とデートをすることになった。


 エリザたちの部屋を出たのは、まだ昼前だった。折角だから一緒に昼にするかとエリザが誘ってきたが、その途端、夢々先輩が猛反対をしてきた。話しは明日するから今日はお引き取りください、とかなんとか。彩もすぐに帰れるならそのほうがいいと、エリザの誘いは断ることにした。

 屋敷に戻ると、そろそろお昼の時間、というタイミングだった。食堂に下りたときの鮮の顔は、実に微妙なものだった。勝手に出かけたことに腹を立ててはいるが、しかしお昼には戻ってきたから許してもいいような、とそんな感じだ。

 食事のときは弟の(かおる)もいるので、鮮も彩の外出には触れない。だが、食後のティータイムではそうもいかない。早速とばかりに、鮮は挑むように彩の向かいに腰を下ろす。

「それで、兄さん。もう気は済みましたか?」

 鮮にしては珍しく棘を含んだ言葉。昨日に引き続いての今日だから、鮮も抑えが利かないらしい。鮮は紅茶を口に運びながら、彩の返答を待つ。

「ああ、もう十分だ」

 あっさり彩が頷くと、途端、鮮は驚いたように目を瞬かせる。

「あら、随分と素直なんですね」

「気になるところも調べ尽くして、正直、もう手掛りがないんだ。あとは、新しい情報が入るのを待つさ」

 鮮はカップを手にしたまま、わずかに表情を曇らせる。

「それは良かったのですが。正直なところ、新しい情報が入るかは、期待できません」

「それでもかまわない。警察がくまなく探してそれが限界だっていうなら、それで諦めるしかない」

 鮮に続いて、彩も紅茶を口にする。

 ――実際は、もう諦めている。

 田板や間宮がもうこの世にいないことを、彩は知っている。それでも鮮を通じて警察に探りを入れていたのは、彼らのことがどう世間に公表されるか、気になっていたからだ。

 だが、依然として田板や間宮のことは行方不明のまま。死体もなにも残っていないから、それも仕方ない。目撃情報も出てこないから、彼らの事件は迷宮入り、ということになるだろう。

 鮮は探るような()でじっと彩のことを凝視していたが、彩の発言に嘘偽りはないと見て取って、ようやく表情を緩める。

「では、兄さん。しばらくは、落ちついていられるのですね」

「ああ……。そのことなんだが……」

 言い淀む彩を前にして、鮮の笑顔が固まる。(さと)い鮮のことだ、この後に良くない報せが続くことを察したのだろう。だが、彩はそれをはっきりと伝えないといけない。

「知り合いから、明日のバイトを頼まれた。三樹谷(みきたに)の家にいた頃から、よく手伝っていたんだ。だから、明日は一日、外に出ている」

 鮮の視線が再び厳しくなる。バイトなんて確かに嘘だが、実体験を基にしてのでっちあげだから、不自然さはないはず。

 ……あとは、この後の鮮からの詰問をどうかわすか。

 当然、鮮がすんなり身を退くとは、彩も思っていない。顔には出さないまま、内心は警戒でちっとも気を緩められない。

 十秒近く、鮮は彩のことを凝視していた。一ミリも逸らさない、鋭い視線。それでも足りないと判断したのか、鮮はゆっくりとカップをソーサーの上に戻す。

「――いいでしょう。明日は一日、ご予定がある、と」

 なら、と鮮は淑女の微笑を口元に浮かべる。

「これから、わたしに付き合う時間はありますよね」

 口調は穏やかなのに、鮮からは有無を言わせぬ迫力があった。彩は覚悟を決めて「……ああ」と頷いた。警察に取り調べ室があるように、尋問には、それ相応の場所が必要なのだ。


 鮮に連れてこられたのは、歓楽街の中にある映画館だった。鮮のクラスで密かに流行っている映画があるのだとか。そのせいか、他の話題の映画には長蛇の列ができているのに、こちらはそこまで混んでいない。シアタールームに入っても、他の客と三席離れて座っていられる。

 思っていたほど人がいなくて、彩はホッとする。映画館自体に入るのはこれが初めてだが、大勢の人で混み合うものだと想像していた。もちろん、これが話題の映画だったら、そのとおりになっていたのだろうが。

「事故で記憶喪失になった女性が、彼女の友人だと名乗る男性から巻貝をもらうんです。『この中に貴女の記憶が詰まっています』と言って。それで、女性は巻貝に耳を当てて、記憶を取り戻していく、という話しです」

 鮮が今回の映画のあらましを教えてくれる。映画のポスターから、彩も大体のことは想像できていた。

 記憶喪失――。それが、この映画に登場する女性の抱えたモノ。それを、友人だと名乗る人たちの助けを得て、少しずつ思い出していく。

 ――夢々先輩の場合は、周りの人間が記憶を失くしてしまう。

 映画が始まるまでのわずかな間、鮮の話を聞きながら、しかし彩は別のことを考えていた。

 周囲が覚えているのに、自分だけが覚えていない、というのも心細いだろう。だが、周囲はなにもかもを忘れてしまっているのに、自分だけが全てを覚えている、というのは、どれほどの恐怖だろうか。

 エリザは、忘れてしまうことを恐れているみたいだった。しかし、夢々先輩だって、平気ではないはずだ。

 誰にも、その記憶を共有できない。誰にも、その感覚を理解してもらえない。ただ、自分だけが抱えている。

 ――なんだ、デートか?

 そう訊ねたエリザは、確かに夢々先輩のことを見ていた。決して名前を呼ぼうとはしなかったけれど、確かに彼女の存在を認めていた。

 ……エリザの質問に、夢々先輩は確かに答えた。

 あの瞬間、二人の間にはなんの障壁もなかった。他人行儀などではない、仲間としてお互いを信頼している証。

 ――あの関係が、無くなってしまう。

 ブザーが鳴って、部屋が暗くなる。映画が始まるのだ。鮮も話をやめて、正面に目を向ける。彩も、隣に向いていた視線を正面に戻す。

 ……それでも。

 彩は、忘れない。彩だけは、彼女のことを記録に留め続ける。――そんな彩だから、夢々先輩を助けてやりたい。


 もう終わったのか、やっと終わったのか、感覚を遮断する彩には、そんな時間の経過もわからない。エンドロールが流れ始めても周囲が動きださないから、仕方なく彩は隣の鮮の顔をちらと見た。暗がりの中、鮮はハンカチを顔に当てていた。映画の間は正面に集中するから、彼女のことなど一瞥もしなかった。だから、鮮がこんな状態だったなんて、初めて気がついた。

 ……こういうのに、泣けるものなのか?

 彩は鮮に気づかれないうちに、視線を正面に戻す。感動を誘うような話だということは、彩にもわかる。だが、実際に涙が出るかというと、それはない。目頭が熱くなるようなこともなかった。

「素敵なお話でしたね」

 映画館を出たところから、鮮は彩に話しかける。

「まあ、そうだな」

 彩は曖昧に頷く。面白くなかったわけではないが、鮮のように泣くまでのめり込めたわけではない。作り話だから、というよりも、自分とは無関係な他人事、というのがあったっている気がする。

 その後も、鮮は映画の感想を彩に話し続ける。それに、適当な相槌で応える彩。もちろん、鮮の話は聞いている。あの登場人物のあの行動が素敵だったと言われて、そうだと頷いたり、あの人はあそこでああするべきではなかったと言われて、仕方ないだろ、とコメントしたり。ただ、彩から話を振らないだけ。それは、いつものティータイムと変わらない。鮮が話しかけるのに、彩は応じるだけ。

 映画のあと、鮮はさらに歓楽街の奥に向かった。屋敷に帰るなら、大通りを渡って向かいのバス停に行くはずなのだが。

 鮮は歓楽街を抜けた先にあるもう一つの通りをさらに渡り、一件の喫茶店に入っていった。土曜のお茶の時間帯、ほとんどの席が埋まっていたが、ちょうど禁煙のテーブルが一つ空いたので、鮮と彩はそこに通された。

「ここのお店は、苺のムースがおすすめですよ」

 彩に見えるようにメニューを開いた鮮が、彼女のおすすめを指で示す。メニューの上の文字列を眺めながら、彩はショーウィンドーに飾られたケーキを思い出す。が、別に食べたいものも浮かばなかったので、鮮に勧められるとおりのものに決めた。一方の鮮はチョコレートケーキと、二人分の紅茶を注文する。

「すすめたのと全然違うのを頼むんだな」

 注文を受けた店員が去ったあと、彩はどうでもよさそうに鮮に話しかける。

「今日はチョコレートの気分なんです。それに、苺のムースは何度も食べていますし」

「良く来るのか?」

「時々ですよ。試験後や学園祭の準備期間などに、学校の友人と来るんです」

 鮮は彩と違い、私立叡煌(えいこう)女学院に通っている。この辺りでは名門に入る、お嬢様の学校だ。彼女たちの学力もあるが、親の経済力もなければ叡煌女学院には入れない。

「お嬢様たちが来るってことは、それなりに有名なのか」

「ええ。お菓子やお茶はもちろん、食器類、そしてテーブルや椅子も、とても素敵です。ですがその分、お値段ははりますけれど」

 鮮が金銭を気にするなんて珍しい。が、他の友達と来るのであれば、それも仕方がないのか。響家のような大富豪ばかりが、叡煌女学院に通えているわけではない。もともと裕福な家庭もあれば、娘の進学を考えてなんとか工面している家庭もあるだろう。

 だから、と鮮は微笑する。淑女然と装ってはいるが、どこかはにかむ、幼さを残す微笑み。

「ここに来るのは、なにかの節目か、特別なときだけです」

 そうか、と彩は返したが、内心では彼女のその言葉を噛みしめるように繰り返す。

 ――特別なときだけ。

 彩と一緒に映画を見るのは、鮮にとって特別なのだろうか。そのとおりだと、頷くこともできる。彩が響の屋敷に戻ってから、鮮と一緒に出かけることなんてなかった。長期休暇のときに家族旅行、なんて経験も彩はないから、鮮と出かけるなんて、想像すらしていなかった。

 だが……。

 彩の内心は、それを簡単には受け入れられない。そもそも、この外出のきっかけは、彩が明日、出かけるという話をしてからだ。しかも、昨日の夜中、彩が無断で出かけたその後だ。鮮の中では、田板や間宮が行方不明となった事件を調べるため、ということになっている。

 ――先週も、同じようなことがあったしな。

 知り合いのバイトの手伝い、なんて言っても、鮮は信じていないだろう。なら、なぜ彩を外に連れ出したのか。まさか、ここで尋問するつもりではあるまい。お嬢様である鮮がそんなことをするはずがないと、彩は信じたい。

 ほどなくして、二人の前にケーキと紅茶が運ばれてくる。彩のほうは、ムースの上に苺のゼリーが乗った、ムースケーキ。鮮のほうは、ホワイトチョコレートで模様が描かれた、丸いチョコレートケーキ。

 伝票を置いた店員が去って、鮮は合図を告げるみたいに、彩に微笑みかける。

「頂く前に、少しお話しても宜しいですか?」

 彩は「ああ」と頷くのが精一杯だった。予感は、どうやら悪いほうに当たったらしい。だが、彩になにが語れるだろう。夢々先輩のことや教会のことは当然、話せない。すでに『知り合いのバイトの手伝い』と言ってあるのだから、それ以外のことを話せるわけがない。

 平静を装いつつも、内心では警戒に身を固くしている彩に向けて、鮮は微笑を解いた。

「出かける前の話、あれは嘘ですよね」

「…………」

「答えたくないのであれば、それでもかまいません。でも、わたしは嘘だと思います」

「どうして、そう思う?」

「そうですねぇ……。女の勘、でしょうか」

 彩はなにも言えない。かまわず、鮮は話を続ける。

「まあ、そんな大したものではありません。わたしはまだ、兄さんの心の内を全て理解できてはいませんし。兄さんが本当に、クラスメイトの方たちのことで区切りがついたかどうか、正直、確信が持てません」

 けれど、と鮮はまっすぐ彩を見る。

「まだ、やるべきことがある――。そう、兄さんは思っていらっしゃるのでしょう?」

「クラスメイトのことは諦めた、と言ったのに?」

「ええ。そのことは、本当に諦めたのかもしれません。ですから、兄さんがやろうとしているのは、それに関係した、でも別のことです。……それを、兄さんは一人でなんとかしようと思っている」

 やはり、鮮に嘘は通じていなかった。それどころか、彩が隠したことまで見抜いている。反論のしようがなかった。素直に本当のことを話してしまったほうがいいのか。

 ――それは、できない。

 教会のこと、人喰種(カニバル)のこと……。それを、鮮に話すわけにはいかない。信じてもらえない、というのもあるが、それ以上に、鮮をこの件に巻き込ませるわけにはいかなかった。

 彩の沈黙に、鮮は諦めたように溜め息を漏らす。

「話せないことだというのも、なんとなくわかっています。ですから、無理に聞いたりはしません」

「……いいのか?」

 思いがけない鮮の譲歩に、彩は面食らった。だって、そうだろう。彩は鮮に尋問されるだろうと覚悟してきたのだから。

 ええ、と鮮は頷く。それから、鮮は彩の目を見つめたまま、告げる。

「その代わり、一つだけ約束してください。――必ず、わたしのもとに帰ってくる、と」

 鮮の表情は、戦地に家族を送り出すように険しかった。彼女にとって、それは大袈裟なことではない。二人の学生が、行方不明になっている。その事件に彩が関わろうとしているということは、彩にもその危険があるということ。

 それを、鮮は黙って見送る。彩がどこまで行ってしまうのか、本当は聞きたいだろうに、けれど聞き出さない。彩が話せないというなら、それ以上は踏み込まない。

「わかった。約束しよう」

 彩は、素直に頷いた。頷くしか、なかった。どうあっても、鮮の不安を彩は拭えない。だから、彼女の求めに彩は素直に頷くだけ。

 ――約束ですよ。

 鮮は泣きだしそうになる寸前の顔で彩を見つめる。

 ――ああ、約束だ。

 彩は、その誓いを違えぬと、繰り返す。


 夕食後のティータイムも終わって、彩は自室のベッドの上に横になった。普段から人と会話をすることなど稀だが、土曜でここまで人と話すことになる日も珍しい。

 ……その珍しい日が、明日も続くわけだが。

 夢々先輩とのデート。一応、そういうことになっている。

 ――だが、明日はどこへ行くんだ?

 エリザの部屋を出る際に「明日の朝七時に、駅前に集合です」とは言われたが、そこからどこへ向かうつもりなのか。そのまま駅前周辺にいる、とは考えにくい。七時では、どこの店も開いていない。

 ――どこかに出かけるんだろうな。

 期待に胸膨らませるより、不安のほうが大きい。今日の鮮との映画だって、そこまで人がいなかったから良かったが、夢々先輩が上手く人混みを回避してくれるとは限らない。

「……まあ、いまさらだが」

 明日の予定は、全て夢々先輩にお任せだ。彩ができるのは、当日に難問を回避できるよう、ささやかな助言をするくらいだ。

 腹を(くく)ったなら、あとは寝る時間になるまで、いつものように読書で時間を潰していよう。つい先日、『恋の罪』を読み切って、サドの本はあらかた読み終わった。なので、いまはザッヘル・マゾッホ著『毛皮を着たヴィーナス』を読んでいる。マゾッホを有名にした本らしいが、それほどページ数はないので、すぐに読み切れるだろう。一応、次の作品として『残酷な女たち』を準備してある。

「『女に気を許してはいけない』ねぇ」

 いま読んでいる本の中に登場する一節だ。はっきりした表現だし、なにより傍点が振ってあるので目につきやすい。

 ――明日は、ちゃんと説得しなきゃならないんだから。

 デートなんて、甘い響きに惑わされてはならない。目的を忘れないようにと、彩は改めて胸の内で繰り返す。


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