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I MISS YOU  作者: 濱マイク
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TIME LIMIT 3

【TIME LIMIT 3】



北斗大学では、カンバセーションの講義の半分は、留学生達が交代で担当します。


学生にとっては、nativeの生の発音に触れる貴重な時間であり、北斗大学にとっても、国際化を売りにして大学の生き残りを賭けている訳です。


元々グローバル経済学科は、ガルブレイス等の近代経済学の他に、外書講読やビジネス英会話、国際経済論、貿易論、国際会計学等を中心にした国際化視点の学科なのです。


当然、入学した時から完璧な国際人が居る筈も無く、在学中に留学生と交流を深めたり、海外に短期留学したりしながら国際社会で通用する人材の育成を目指しているのです。


ま、そこそこでほどほどの学生ばかりの大学なので、勿論、たかが知れている訳ですが。



彼のクラスは留学生の女性3名が講義を担当しています。

実際は短期間のヘルプですが、勿論ジュディも居る訳です。


他のふたりは、日本人がイメージしている、典型的な白人と黒人のアメリカ人です。


ステーキをガッツンと頬張り、ハンバーガーにグワッシとかぶり付いている、絵に描いたようなアメリカ人です。


当然、100キロを優に超えて腹回り腰回りが計り知れない巨漢揃いなので、何処か日本人っぽい、スラッとしたジュディは、一際目立ってしまうのでした。


だから、ニューフェイスのジュディの講義の時間は、学生達には大人気でした。


もともと、グローバル経済学科にはほとんど男しか居ないんですが、ジュディが担当の日の講義は、階段教室が満席になって立ち見まで出る始末です。


青少年達は、非常に、わかり易い。


その代わり、当然講義はnativeの英語Onlyになります。

ジュディの美貌にボーッとしている暇等全く有りません。


講義の最後に、残りの20分を使って講義の復習を兼ねた小テストが行なわれます。


講義の内容を把握していなければ解けない問題なので、学生達は必死になります。


ま、彼にとっては簡単なテストでしたので、早々に書き上げて、顔を上げてジュディをボーッと見ていると、ジュディもこちらを時々チラッと見て目があったりします。


前回のあの試験の時は、これでカンニングを疑われて退学騒ぎになり、最悪だったのです。


でも、あの夜、星の散りばめられた小学校の校庭の片隅でのキスが、ふたりの距離を急速に縮め、ふたりの目には友好的な光りが宿っているのです。


友好的?


友達を卒業しだけれど、まだ恋人未満という、ビミョ〜な立ち位置です。


ふたりして見つめ合っちゃうと、ふたりしてニヤついて照れちゃうんですが、気がつくとまた見つめてるんです。


もちろん、誰もふたりの微妙な関係を知らないので、普段は講師と生徒の関係を維持していますが、講義のテストの時間は、さりげなくこうして目で会話して遊んでるんです。



講義が終わると、彼女は一旦講師控え室に戻りますが、彼は、ああだこうだと理由を付けて訪問します。


カンニング事件以来、毎日の様に顔を出しているので、留学生仲間にも彼の顔は知れ渡っています。


多分、一方的にジュディに熱を上げてる、健気けなげで身の程知らずな日本人ってとこでしょう。



今回は、南岸エリアの御満古米市おまこまいしに近い、埴輪岳はにわだけを望む遺骨湖いこつこへのキャンプに誘う事が目的です。


もう一つは、彼が所属しているブルーグラスサークルの、学連合同で開かれる定期コンサートに誘う事です。


「キャンプ!いいね!」

「何処に?」

遺骨湖いこつこなんだけど」

「いいじゃない! 行こう!」


巨漢のひとりが先に大乗り気で返事するんですが、いや別に貴女は誘ってないから、とも言えずに、曖昧に笑って頷いていました。


「キャンプ! いいよ! 女の子は誰が行くの?」

「まだ未定、行きたい人が居ればの話しさ」


ジュディも大乗り気でしたが、女の子ひとりはやっぱり無理そうです。


彼にとっては女の子はジュディだけしか念頭にありません。


ふたりにはまったく時間が足りないので、それ以外の事には、正直構っていられませんでした。


ダメ元で、いろんなイベントを企画して、出来るだけ一緒にいたいだけなのです。


今回は、同じ学生アパートの探検部の友達と一緒で、交通手段がhitchhikeの貧乏キャンプだから、人数が極端に少ない。


誘えても、ひとりが精一杯なのでした。


hitchhikeと聞いて、流石にブーイングがおこり、その他大勢の巨漢も含めてジュディにも辞退されてしまいました。


アメリカ本土では、どうやらhitchhike中のレイブ殺人事件が多発していて、社会問題になっているのだそうです。


確かに無理強いは出来ません。


ま、ダメ元だからしゃあないっしよ。



定期コンサートの方は、快く観に来てくれる事になりました。



彼は、サークル活動でブルーグラスという音楽のバンドをやっていました。


ケンタッキー州と言えば、カーネルサンダースのfried chickenですが、そこの民族音楽と言えば、ブルーグラスなのです。


初めて聞いた時、余りにも北国の牧歌的な雰囲気にベストマッチしていたので、こりゃやるっきゃ無いべさと、直ぐにサークルに入会しました。


カントリーをもっととんでも無く早口にした様な、泥臭いアメリカのイメージ。


有名なのは、映画でよく使われてる「フォギーマウンテン・ブレイクダウン」です。


ギターに、フィドル(ヴァイオリン)、バンジョー、フラットマンドリン、ウッドベースの構成です。


彼は5弦バンジョーを弾いていました。


特殊な部類の楽器なので、めちゃ高いし、いい出物も無くてなかなか手に入りませんでしたが、一応貯金はあったのです。


スキー道具を買う為にと、婆ちゃんから10万円の餞別を貰っていたのでした。


潔く新品のスキー道具は諦めました。


中古のスキー道具一式を、ウエアとスキー靴込みで、ジモピーの友達に頼み込んで、何とか2万円で揃える事が出来ました。


時代遅れのボロボロの板に、自衛隊が使っていた様なスキー靴でしたが、見た目には、この際あっさりと目を瞑りました。


どうせ素人だし、フアッションショーをやるには田舎過ぎます。


自分で稼げる様になったら、いつでも買える訳ですから。


残りの8万円で、S市にある鉾懐炉ほっかいろ大学、通称、鉾大ほこだいの仲間内から、中古のバンジョーを譲り受けたのです。


それでも相場の3分の1の金額なのでメチャ安です。

中古で擦り傷だらけでも、音は一級品でした。



その話をジュディにした所、メッチャ面白がっていました。


日本には三味線という素敵な伝統楽器が有るのに、何でアメリカ人のモノマネをするのか?


そんな顔でした。

彼は、好きな事に対してだけは、人一倍負けず嫌いなのです。


ヤバッ、練習しなくっちゃ!



中央公園の野外ステージで、鉾大、北斗大、螢商科ほたるしょうか大、国際酪農大合同のサークル主催のコンサートがあり、初めてジュディを招待したのです。


ジュディの帰国までには、もう一週間を切っていました。


天気も良くピクニック日和と言うか、まさにバーベキュー(当然ここではジンギスカンですけど)日和で、ファミリーも沢山集まってくれました。


会場のあちこちでラム肉を焼く白い煙が上がって盛り上がっています。



定番の「ブルーリッジ・キャビン・ホーム」から「フォギーマウンテン・ブレイクダウン」まで、5曲。


北斗大の出番をやり終えて、芝生席のジュディ達の所へ行ったら、立ち上がってぎゅっとハグしてくれました。


軽く耳元にキスも。


「カッコイイよ、ビックリ!」

「ハハッ、そうかなぁ」

「アメリカ人もビックリよ!」

「大げさだべさぁ」


頬の筋肉が緩んで、満更でもありません。


実はアメリカの民族音楽を、本物のアメリカ人の前で演奏するのは、正直怖かったのです。


笑われるだけなのかな、って抵抗がありました。

要は、ビビっていたのでした。


でも、この音楽が好きだからやっているので、後は野となれ山となれ、という思いでした。


「日本人の三味線も素晴らしいけど、あなたのブルーグラスのバンジョーは、アメリカ人よりSwingしてたわ!」


「モノマネがうまいって?」

「No! 凄く上手だし、Originality

があって、かっこ良かった!」


って抱きつかれたまんまだから、他の留学生やサークル仲間が、呆気にとられて見ています。


付き合ってんの、バレバレっしょ!


照れちゃうさぁ。

ちっと恥ずかしいよぉ〜

メッチャ嬉しいけど。


彼は、褒められると、どんどんだらしなくなるタイプなんです。


えへへ〜〜



でも、帰国前に、一番彼らしい姿を彼女に観て貰いたかったんです。


何とか間に合って、良かった。


でも、まだまだやり残している事がある筈です。

彼は、残り少ない彼女の滞在期間を思い、彼女の肩をぎゅっと抱きしめました。



(つづく)


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