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I MISS YOU  作者: 濱マイク
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Love at first sight

秘すれば花、ハグすれば戀 に次ぐ

北国で繰り広げられる戀物語 第2弾!

【LOVE AT FIRST SIGHT】



カンバセーションの試験中です。


ヒアリングと筆記試験。


大学の5号館階段教室は、溢れんばかりの満席状態です。


この教室はかなり大きいので、普段の講義は三分の一が埋まればいい方なのですが、定期試験の時だけは、それだけの一発屋を含めて、学生のほぼ全員が出席するのでした。


なんで英会話に筆記試験が必要なのか、割り切れない思いも少しはありましたが、評価のしようの無い会話能力の彼らのために、親切に活字にして用意してくれてる訳です。



彼は、中学高校と、英語と国語だけは学年でもトップクラスでした。

と言っても、地方の普通高校レベルですけどね。


国語は、単なる読書好きで、小説ばかり読んでいる内に漢字を覚えて長文読解力が付いたらしく、殆ど勉強しなくてもそこそこ出来たのです。


勉強しなくても出来たので、こりゃいいわいと、国語の教師を目指そうと、国立大学の教育学部を本気で考えた事もありましたが、他の教科がボロボロで赤点だらけなので、直ぐに却下されました。


私大の文学部で日本文学を、とも考えましたが、父親から就職できね〜だろ?と指摘されて、そりゃそ〜だわなぁとあっさり諦めました。


英語は、実は小学校の時からずっと英語塾に行っていた事もあり、そこそこ成績は良かったのです。


褒められるとお調子者なので、俺には英語の才能がある、と勘違いしてまた好きになるという構図で、基本嫌いではありませんでした。


しかしながら、日本の英語教育は、試験に合格するためにあります。


したがって、いざ外人さんが目の前にいると、何も出来ない木偶の坊になる訳です。


だからこそ、今は留学する事が就職の為の最低資格みたいに評価されたり、外国の大学の日本校や、英語のみで日本語禁止の大学が伸びてきている訳です。


大学受験の時、センター試験の科目を無視して、英語と国語のみで受験できる大学を探したら、北関東の獨逸大学くらいしかありませんでした。


受験すればおそらく受かったのでしょうけれど、試験日と試験会場と受験料と入学金と授業料が全くおりあわず、諦めました。


彼の家は普通のサラリーマン家庭で、別に裕福な訳でもなく、その上一つ上の兄が、あろう事か私立の美大に行ってしまい、舎弟に回す余分な教育費用等皆無に等しかったのです。


進路の選択の自由とは、諦める事の連続な訳です。



な、訳で、それほど悩みもせずヒアリングも筆記も坦々と終了し、顔を上げたその時でした。


試験会場の入り口付近に、試験官として何人かの留学生が立って居ました。


カンバセーションはnativeが売りなので、訛った発音の日本人講師ではなく、海外からの留学生がヘルプしていたのです。


その中の1人に、見慣れない女の子が居ました。


っていうか、目が合ってしまって、暫くボー然と見つめ合っちゃったんですが。


ポカンとしてました。

ひとは、あまりに凄いものに出逢うと、固まってしまうもんなのでしょうねぇ。


女優の藤井美菜をまんま外人さんにした感じ、と言えば分かってもらえるでしょうか。

分かんないか。


顔が真っ赤になってるんじゃないかと、焦りました。

心臓の鼓動が教室中に響き渡るんじゃないか、涎を垂らしてないか、は無いか。


Love at first sight

たぶん、そういう事なのでしょう。


動悸、息切れ、眩暈。


彼はハッと我に返り一度顔を伏せましたが、もう一度直ぐに顔を上げて彼女の姿を追ってしまいました。


今度は横顔を見せていましたが、確かに、彫りが深くてまつ毛が濃くて長くて鼻が高くてオッパイもそこそこ大きくてって。


ワッ、また目が合っちゃった!


見つめられると、蛇に睨まれたカエルの様に視線を外す事が出来ませんでした。


本当は不自然とも思えるほど狼狽えていましたが、何事もなかったかの様に辺りをのんびり見回して、大きなあくびをして見せました。


誤魔化せたかなぁ。


でも、可愛いなぁ、もう一度見たいなぁ、目に焼き付けたいよぉ。


窓から広大な敷地にライラックの花が咲き乱れる景色を眺めつつ、全然関係ない方をあちこち見渡しながら、そっと盗み見したら、ワッワッワッワッ、また、目が合っちゃいました。


やばっ


すると、彼女は隣の留学生に何やら耳打ちしてから、ゆっくり歩き出したのです。


周りの学生の進捗の様子を確かめながら、階段教室の通路をゆっくりと静かに歩いています。


ゆっくりと、でも確実に、こちらにも近づいているじゃないですか!


彼は、顔こそクールにポーズを決めていましたが、内心は心臓がバックンバックンで汗だくでした。


まるで牛歩のようにノロノロと、でも着実に彼のところにたどり着いて、おもむろに回答用紙を確認した彼女は、突然顔を近づけて来ました。


ワッ、な、な、何なの!

ドキドキしました。


まるでこれからキスするんだぞ〜って位間近に、まるで映画で視るような美少女の顔が近づいて来たのです。


赤毛のサラサラヘアで、瞳は落ち着いたブルーグレイでした。


頭が真っ白になりました。


そして、やおら彼の耳を舐める様に、彼にだけ聞こえる位の小さな声で、彼女が囁いたのです。


「筆記は、終わりましたか?」


外人訛りですが、比較的正しい日本語でした。


とても声が出る様な状態ではなかったので、うんうんと頷きました。


「では、回答用紙を持って、付いてきてください」


へ?


日本語間違ってない?


伏せて退出してください、とか、前の試験官に提出してお帰りくださいっしょ。


訳が分からないまま、彼女について教室を出ました。


彼女は外人さんにしては小柄で、スラっとしていました。

178㎝ある彼よりゲンコツ一個分くらい背が低いようです。


廊下には留学生の男子学生がふたりで待機していて、手持ち無沙汰で暇を潰していました。


たぶんアメフトかなんかの選手なのかな、タッパは2m近いと思いますが、やたら分厚い胸と、丸太の様な腕をしていました。


外人さんの肉体形成に関する美意識は、イマイチ理解できません。


国技がアメフトだから、皆んなそうなるのかもしれませんし、徴兵制のお陰で鍛えられるのかも知れません。


たぶん、アメリカ人はアメコミのヒーローが理想像なのでしょう。

筋骨隆々のスーパーマンや、バットマン、アイアンマン、キャプテンアメリカ、超人ハルク等など。


ヒーローに痩せっぽっちやデブッチョはひとりもいません。


肥満大国アメリカでは、ダイエットと筋トレは美徳とされているのでしょう。


と、彼女がふたりにやはり小声で耳打ちしていましたが、ふたりは大きく頷くとニコニコしながら彼に言ったのです。


「Hey!thanks for comming!」


ほう、なんか歓迎されてんな。


彼は日本人特有の曖昧な愛想笑いを浮かべて、HI!と手をあげてみました。


ふふ、なかなか外人ぽいぞ。


でそのまま、彼の両脇に丸太ん棒の様な腕が差し込まれ、気が付くと足がフワッと宙に浮かんでいました。


へ?


と思う間もなく、両サイドの屈強な留学生がしっかりとした足取りで歩き出しました。


こうも軽々と運ばれると、何の抵抗も出来ないもんですねぇ等と足をぶらぶらさせながら感心していました。


廊下を突き当たりまで歩くと、講師控室があり、彼女が扉を開けて中に通されました。

いや運び込まれました、だな。


彼女は奥に座っている講師と何やら話をしていましたが、こちらに向かって手のひらを上にして指を二度動かしcome hereしました。


come hereに応えたのは、もちろん彼ではなく力強いヘラクレスたちです。



カンバセーション担当の講師が、わざとらしくため息をつきながら口を開きました。


「やってくれるねぇ、カンニングの現行犯逮捕は、退学処分だけど、わかってる?」


カ、カンニング?

退学?


な、ななな何言ってんだ。


彼は自分の置かれているアルベール・カミュ的不条理な立場を、ようやく理解したのでした。



(つづく)

出逢いは何時でも、Mysterious.

じゃなくて、Misstake!

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