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龍門

 聖女マリアンヌとの謁見はすんなりと叶った。

 『神託(オラクル)』を使っている様は流石に聖女らしく神々しかった。


 「貴方は不思議な運命を持っていますね。これから苦難が待ち受けています。時には運命に逆らわず流されるのも良いでしょう。道はどこへでも通じています。近道でも遠回りでも行きつくところは素晴らしいものです。」


 正直がっかりだった。周りは有り難がっていたが、占いレベルの事を言われてもこちらとしては…まぁ期待はしてなかったが、聖都に行く決心ができただけマシか。そう思っていると聖女はスッと近づいてきて、


 「…苦難はすぐ傍にいます。お気をつけて…」


 その時は少し気にしたが、城からでればすぐに忘れた。

 これからどうするかと4人で話しあっていた所、聖騎士連中が取り囲んできて聖女殺しの罪人として剣を抜いてきたというわけだった。

こちらも当然覚えがなく、誤解を解こうとしたが問答無用で切り付けられ、逃げるしかなかった…


 そっから先の事はあまり覚えていない。着の身着のままで逃げてきたので、食料などはほぼ持っておらず、過酷な逃亡生活となった。

追手は撒いたが目立つ事はできない。4人で森に身を隠していた。


「厄介な事になったね…まぁ元々いい育ちじゃないから野盗落ちしても構わないんだけどさ…聖女殺しとはねぇ…本当に大した事するねぇ」

「だから、してないって…」


 謁見は俺とドランとネリーの3人で行った。リンダは留守番だった。


「冗談だって!まぁ、それでも周りのやつらはそう思うだろうねぇ…人相書きもそろそろ出るかもね」

「む!俺は目立つな。冒険者としては少し名が売れてる可能性がある。こっちの地方では目立った行動はしてないが…」

「その筋肉だけで目立ってるよ。まぁ、あたしもだけど…隠れてこそこそってのは難しいかもねぇ」


そんな会話をしてる中ネリーは肩を震わせている。そりゃそうだ。成功されてた道がお尋ね者になってしまったのだから…


「本当にすまない…こんな事になってしまって…」

「ううん、大丈夫。付いてきたのは私だから…」


いつもの元気が無い。その様子を見て俺は居た堪れなくなる。


「ネリーお前はそんな目立った格好もしてないし、もしかしたら顔もバレていないかもしれない。もし捕まっても白を切りとおせばなんとかなるかも…」

「ならないよ。きっちり剣で切り付けられたし、ばっちり顔も見られたからね。逃げまわってれば年月が経って感じも少しは変わるかもしれないけど…それまで逃げれるかな?」

「…なんていうか…俺まだ全然小さいけどさ、お前の事は最後まで守るよ!」

「…ありがと」


 本当にそうだ。よく分からないが聖女殺しなんていう濡れ衣を着せられて、それのとばっちりでこいつを犠牲にするような事はあってはならない。そう決意したその時だ。


 「無理だ。守れない。【神眼】持ち、お前だけは残す。他は殺す」


 …いつからだろうか?黒衣に身を包んだ男がそこにいた。

 その男は圧倒的なまでの覇気というか…それまで見たことのない強烈な気・が身体を覆っていた。

 俺は自分の身体の魔力を見る事ができない。つまり俺の使えない神力も見る事ができなかった。おそらく見えるとしたら目の前の男を覆っているものと同じだろう。

 本能的にやばいと思った。

 リンダも戦士としての感か、汗をびっしりとかいていた。

 その中で…ドランが何やら意を決した顔をし、その男に問う。


 「久しぶりだな…覚えているか?」

 「うん?すまんな。そんなガタイのいい奴なら会ったら忘れないと思うんだが…誰だ?」

 「ドラン・クーガ上級魔術師だ。10年前はイザミールで世話になったな」

 「ドラン?イザミール?……ああ、思い出した。まさかあの時のひ弱な魔術師が戦士の真似事をするとは。あの時は失禁して泣いて命乞いをするので、あまりにも無様で哀れだったので見逃してやったんだったな。名前は知らんが違うか?他のやつは皆殺しにしたからそいつじゃ無かったらお前の事は分からない」

 「いや、合っている。自分でもあの時の俺を思うと情けなさ過ぎて殺したくなってくるよ。けど感謝している。天才だのなんだの持て囃されてた俺の鼻っ柱を折ってくれたんだからな。おかげでより高みに昇ることができた」

 「魔術師に筋肉はいらんぞ?」


 その男は大して面白くもなさそうに笑う。


 「ドラン…この男って何者?」

 「流派【龍門】の3皇竜の1人、アーウィンだ」


 リンダがそれを聞き顔をしかめる。


 「龍門の3皇竜って…生きる伝説の1人じゃないの、なんでこんな所に?」

 「聖女殺しの大罪を犯してるのだ。俺が出張っても不思議ではなかろう?」

 「いや、違うね。お前は世俗の事に興味は持っていない。あるのは1000年戦争に関わるなにかだ。じゃなければ興味を持たない」

 「ほう?よく調べてるな。まぁいい。理由はどうあれ殺すには変わりない」


 ドランは俺たちに向けて言い放つ、


 「リンダ!ネリーを抱えて走って逃げろ!ユリウス!お前は身体強化で全力で逃げろ!二手に分かれろ、逃げ切れる可能性があがる!」

 「ド、ドランはどうするのさ!?」

 「俺はこいつに復讐するために体を鍛え、魔術を磨いてきた。ここでこいつを食い止める。死んでも悔いは無い!」

 「馬鹿言ってんじゃないよ!私の事はどうなるんだい?一生愛するんじゃなかったのかい!?」


 ドランは困ったように顔を歪ませた。


 「…後で追いつく」

 「約束破ったらぶん殴ってるやるからね!」


 そういうとネリーを抱えてリンダは逃げに入る。

 俺は反対方向に逃げる……事はせずそのままリンダについて行った。一緒にいなければネリーを守れないそう思ったからだ。冷静に考えれば少なくともアーウィンからは逃げれる可能性があったがその時の俺にはそんな余裕は無かった。


  *


 「さて、あまり時間をかけると逃げられてしまうのでな。さっさと終わらせるぞ」

 「終わるのはお前の命だがな!」


 ドランは魔術師として若くして天才と言われ、ある日を境に身体を鍛え初め冒険者家業に身を落とし、出世街道から外れた魔術師とドランを知る人からは言われていた。

 事情を知っていたのは師匠であるグランドールのみ。

 彼は強くなるのに貪欲だった。それもこの時のため。いささか変なタイミングで会ってしまたが、この機会を逃す気はない。


 ドランは『全能力強化(フルポテンシャル)』で身体能力をあげてアーウィンに突っ込む。

 それに加え手足を『鋼鉄の肉体(アイアンボディ)で纏い、更に『炎熱付与(ファイアエンチャント)』で文字通り火力を上げている。

 アーウィンは少し面白そうに口元を歪める。


 「ほう!なかなかの力と速度だ。魔術師にしてはなかなかだ。魔闘牙の動きも少しかじっているな。遠距離を捨てて近接のみとは魔術師としては失格だが実に面白いぞ!」

 「魔闘牙は俺のスタイルと合わなかったんでな。ほぼ我流だ」

 「くく、俺の戦闘スタイルに似てるな。同じ土俵で倒したいという事か?」

 「ああ」


 しかし、ドランの攻撃はどれも有効打にはならなかった。アーウィンは神力をそのまま肉体に適合させて爆発的に戦闘力をあげて戦うスタイルをとっている。そこらへんのナマクラで切られたとしても、うっすら赤い線がつくだけだろう。


 「さて、お前の実力は分かった。そろそろ死ね」


 そう言うと強烈な蹴りをドランに腹にめり込ませる。巨体が宙を飛び、受け止めた木は幹が割れた。


 「ゲホッ!……やはり…強いな…」

 「お前も魔術師にしてはよくやった。お前の名は覚えておこう」


 アーウィンは手刀を振り下ろす。首を刎ねるために。


 「な……に…!?」


 しかし、それは叶わなかった。血を吐いていた男がアーウィンの攻撃速度を上回る速度で避け、あまつさえ反撃したのだ。それも先ほどのダメージの通らない攻撃では無い。

 今度はアーウィンが血を口から流す番だった。


 「…『身体過剰強化(オーバーポテンシャル)』」

 「【消失された魔法(ロストエインシェント)】か…まさか、また見る事ができるとはな…」


 【消失された魔法(ロストエインシェント)】とは1000年戦争の際に失われた魔法。戦争時は半神半人が多く、膨大な必要魔力の魔法でも使えたが、だんだんと血が薄れていくには使えなくなり、さらに身を亡ぼす程の強大な力だった為、呪文存在自体が忘れられたものである。


 「…すまなかったな。本当にお前を見くびっていた。気が変わった。全力で相手する…」

 「全力を出されちゃ…困るな。死体が動き出したら聖騎士を呼ばないといけない」


 ドランはそう言うと愚直なまでの攻撃を繰り出す。それは一見ただのボディブロー。

 しかし、実際は…


 「ぐっ…こ、これは…」

 「ちっ、なんて…奴だ…!」


 それは触れたものを分解する魔法…『完全分解(ディスインテグレイト)』それを無詠唱で手に纏わせて放つ。ドランの最強攻撃。触れた時点で体全部が分解するはずだったが、アーウィンは腕でガードし、神力で分解を止め致命傷を避けた。それでも腕の半分を消失させたのはアーウィンを驚かせるには十分だった。


 「…本当に素晴らしい力だ。よもや魔力のみでここまでの高みに昇るとは…龍門でも3皇竜を除いてお前に勝てるものはおるまい」


 ドランは負けを悟った。『身体過剰強化(オーバーポテンシャル)』の影響で体中の穴から血が滲みはじめ、『完全分解(ディスインテグレイト)』を使ったので魔力が枯渇しかけていた。心神耗弱もいいところだった。


 「ふむ…やはり副作用も強烈な魔法だな…動けなくなったか。だが、お前は誇っていい。ここ200年で俺にここまでの怪我を負わせた者はいない」


 そういい、彼はドランに手刀を落とした。



   *


 

 3人で森の中を駆けていく。しばらくいった所でほら穴があったのでそこに身を隠すように中にはいる。もう少し遠く離れたかったが、これまでろくに飯も食べておらず体力の限界だった。


 「さて、ここでうまくやり過ごせればいいんだけどねぇ」

 「大丈夫です。それにあまり離れるとドランと合流するのが大変になるから」

 「そうだねぇ」


 そんな上辺だけのような会話をしていると、足音が近づいてきた。そっとその人物を見る…

 その男はドランの首だけを持ち、まっすぐこちらに向かってくる。すでに隠れているの見破っていたようだ。


 俺は頭の中が真っ白になりどうしたらいいか分からなくなっている。

 さっと飛び出したのはリンダだ。


 「うおおおぉぉぉぉああああ!!!」


 怒りに身を任せた攻撃。だがアーウィンには届かない。逆に頭を殴られて昏倒してしまった。


 「この男の首に免じて命は助けてやる。【神眼】持ちよ。大人しく来い。さもなくば五体満足でこの女とそこで震えている女はここから出れることは無い!」

 「……わかった。約束しろよ」

 「当然だ。この男の散りざまは見事なものだった。世が世なら歴史に名を刻んでいただろう。ではついてこい」

 「ちょっとだけ、待ってくれ」


 俺はネリーの方に向かい別れの挨拶を言う。


 「すまない、こんな事になって…あいつは化け物だ。どう逆立ちしたって逆転なんてない。俺が大人しくついて行くしか助かる道がないようだ…」

 「…うん、仕方ない…ね…けど、こわいよ…わたし…」

 「このほら穴はあいつにはすぐ見つかったが、だいぶ奥まった場所にあって見つかりづらいはずだ。リンダが目を覚ますまでここでじっとしてるんだ。俺だって隙を見て逃げ出すさ」

 「うん、そうだね…ねぇ、待ち合わせ場所はどうする?」

 「ああ、…じゃあ学園にするか?グランドール爺さんなら匿ってくれるさ」

 「うん、わかった。待ってるからね…?」


 ああ、と頷き俺はアーウィンに連れていかれる…【龍門】の拠点へと…


   *


 ユリウスがいなくなって信じられない事が起きた。

 ひょっこりとあの『聖女』様が現れたのだ!私はわけが分からない!


 「ごめんなさいね。こんな事になって。でももう聖女の役も飽きちゃったし、やる事もできたしで丁度いいかなって」


 何言ってんだこの人?よく分からないけど狂言だったって事だ。

 この人のせいで犯罪者にはなるし、ドランさんは死ぬし、ユリウスとは離ればなれになるし、許せない!


 「だからごめんって。それに犯罪者の汚名はちょっと我慢してもらうけど、ユリウスとはそのうち会えるし、ドランも死んでないよ?」


 えっ!と驚き、ドランさんの首を見る。それはただの木の根っこになっていた。


 「それ『白昼夢(デイドリーム)』って魔法でね、魔法生物すら幻覚で騙しおおせる魔法なのよ。その幻覚に殺されれば実際死ぬしね。一度抵抗に失敗したら自力解除は不可。協力な魔法よ」

 「そんな幻覚魔法なんて聞いた事も…ない」

 「うんうん、そうよね。今の時代の人達は。ちなみにさっきのアーウィンも幻覚よ。私が作ったの。途中から本物になったけど」

 「あの、なんでこんな事を?」

 「あの子の【神眼】に天使がいるから」


 え?どういう事?目が綺麗って事?ちょっとよく分からない。


 「意味は分からなくてもいいわ。それより、あなたの面倒は私が見るわ。犯罪者じゃ生きづらいだろうからね。私といればユリウスとも会えるし」


 そう言われては断る理由もない。信用は置けないがこの先なんとかなるとも思えない。


 「もちろん、そこの女性?でいいのかしら?その人も一緒よ。前衛がいないと後衛職は辛いしね」


 そうして聖女と言われた謎の女との旅が始まった。



   *



 7年経った。俺も14歳と大人になった。この世界は一年が425日なので前世と比べると若干体が大きい。俺は【龍門】で神力…いや竜力の使い方を学んだ。いまだ上手く扱えてはいないが子供の頃と比べるとだいぶよくなった。

 なぜ、こんな所で大人しくしていたかと言うと、俺の【神眼】に天使がいるというのだ。はじめは天使の力が宿っているのかとも思ったが、天使自体が封じられているらしい。

 なんとなく思うところもある。だがどうして?とも思う。

 これの力を開放するには俺自身の聖気が必要だが、俺には聖気はあまりない。それを竜力で代用する為に俺に力の使い方を教えることにしたらしい。

 なんでも悪魔の力が活発で最近は被害も目に見えてきているらしい。その為に天使の力が必要だがいまだ天使がいなくなったのは謎だそうだ。

 そんな中、俺の【神眼】が見つかったという事だ。最初からそう説明すればいいものを…

 それでも、まだ天使の開放には至っていないが…

 今日はここを出ていく日だ。聖遺物が眠るとされている遺跡に向かう。聖遺物を媒介にすれば天使を開放できるかもしれないかららしい。

 俺もこの目に封印されてる奴を開放できるなら、それに越した事はない。当初の目的でもある。

 この日に合わせてネリーとリンダにも久しぶりに会った。

何年も見ないうちにネリーはすっかり大人になっていた。美人の顔には苦労が刻まれていた。俺はこいつの苦労を分かってあげないといけない。


 さて、じゃあ行こうか俺の(オクルス)の開放の為に

一旦、少年期の終わりという事で完結とさせていただきます。ここまで読んでくれた方に感謝します。

頭の中でこういう風にしようと思っているのに文章に起こそうとすると中々難しいものですね。小説に限らず創作活動をしてる方を見る目が変わりました。

今回の作品で色々と勉強をさせていただきました。

もし次回作を出す場合はじっくりと納得のできるものを書いていきたいと思います。

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