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出発

 「相変わらずむさ苦しい男ですね」

 「む?変わらず不愛想だな、サシャリア。そんなんでは男が寄り付かんぞ?」

 「寄り付かないのではなく寄せ付けていないだけです」


 どうやら、このドランって人とサシャリア先生は知り合いらしいな。あまり仲は良くないっぽいけど。


 「ドラン・・・お前、またでかくなってないか?」

 「おお!気づきましたか師匠!筋肉は嘘をつきません。愛を注げばそれに応えてくれるのです。この筋肉は愛の結晶なのです」

 「うん・・・そうじゃね・・・いいと思うよ」


 いや、よくない。こんな筋肉フェチの脳筋おっさんと一緒にいたら碌なことにならん。ってか上級魔術師って言ってたけど・・・身体強化系かな?


 「師匠?この人はいったい何ですか?護衛って言ってたけど・・・本当ですか?」

 「ああ・・・言ってなかったの。この大男がお前とネリーの旅をサポートする。馬鹿じゃが実力はあるからの・・・少なくとも道中の旅の危険は減るじゃろうて」


 うーん、身体強化系の魔法なら俺に若干馴染んでいる神力でも代用できるんだよな。まぁ、敵が集団だった場合は厳しいけど。ネリーの魔法も結構なレベルだし、この人がいなくてもいい気がする。

 よし断ろう。


 「ししょ・・・」

 「ユリウス!お前は実に幸運な男だ。この俺が来たからには大船に乗ったも同然だ!」


 それさっき聞いたから・・・ドランはニカッっと笑いながら俺の肩を叩く。けどまぁ、悪い人ではないんだろうな。断るけど


 「ししょ・・・」

 「ユリウス・・・言いたい事は分かる。じゃがいかに天才とされる2人がいたところで所詮子供。戦い以外の事では下に見られる事が多々あるじゃろうて。そこで後見人としての大人が必要なんじゃよ。ドランは実力、経験ともにある。こやつを連れていくのは師としての命令じゃ」


 なるほど、もっともだ。だが別にそれはこの人じゃなくてもいいんじゃないか?命令なら仕方ないけど。


 「分かりました。ドランさん!これからよろしくお願いします!」

 「おう!いまお前は大船に乗った!ハッハッハ!」


 この人ボキャブラリーこれしかないのか?

 けど【魔眼】で見ると確かに魔力の質が半端じゃない。確かに実力はあるだろうな。馬鹿だけど。よし! この人の事は魔術師じゃなくて戦士だと思う事にしよう。


 「ところでこの筋肉どう思う?」

 「え?すごく・・・逞しいです」


 なんか嫌な記憶がよぎった。

 この人は筋肉が第一なんだろうな。ドランは俺の答えに嬉しそうに頷いている。

 さっきからネリーはドン引きだ。


 「さて、準備は済んでいるんだろう?さっさと行こうか」

 「あ、はい!」

 「相変わらず行動が早い奴じゃの、お前は」

 「当然です!師匠!時間は貴重なもの!考える前に行動するのです!」

 「・・・それ、だめじゃから。前半はいいけど、後半はだめじゃから」


 この人は思考を尊ぶという魔術師の矜持をもっていないんだろうな…


 それぞれ自己紹介を済ませていよいよ光都に向かう。


 「はぁ…私てっきりサシャリア先生が一緒に来るんだと思っていたのに…」

 「先生は授業あるだろ?」

 「何も知らないのね?先生前年度で教師は辞任してるのよ。だからてっきり一緒に行ってくれるもんだと」

 「ごめんなさいね…先生もちょっと思う事があって学園を離れないと行けないのよ」

 「いえ、気にしないでください。ドランさんと上手くやっていくのも修行だと思ってます」

 「ほう?俺の筋肉がわかるか?だが女で鍛え上げるのは至難だぞ?」

 「…いえ、そういう意味じゃないですから」


 さて、と出発するか。2年一緒に過ごしたクラスメートとは挨拶を終えている。だが、いざ離れるとなると後ろ髪を引かれるな。


 「じゃあ、行きますか?」

 「おう!」

 「ええ」

 「達者でなユリウスよ。たまには顔を出すんじゃぞ?」

 「ネリーも気を付けてね」


 そして俺たちは魔法学園を後にした。



 この世界の首都や大きな町は黄金街道といわれる道路が整備されている。首都に近ければ石畳。それいがいは土を固めたもの。田舎に行くと木々を切り開いただけの道だが、よほどの辺境でなければ道が続いている。これは光魔の人間達の指示で作られたという。道があれば文明は発展しやすくなる。正しい判断だ。

 整備された道は比較的安全が約束されている。街や集落があれば近くの衛兵なり自警団なりが盗賊や魔物の脅威から旅人を守ってくれる。


 さて…そこから離れた場合は…当然野党なりなんなりが出てくる。道があるゆえ待ち伏せていればいいのだから。

 それらに対処しなくてはいけないが…この場合はどうするんだ?


 「美しい女性だ…私は貴女のような美しい人をこれまで見たことがない。どうか私と結婚してください」

 「あんたさっきから何いってんだい!?殴られて頭おかしくなったのかい?いや、殴る前からか…」

 「おお…先ほどの容赦のないメイスでの一撃!目が覚めたかのようにますます貴女に惹かれました!」


 この会話はドランと……橋の前で武者修行をしてた女だ。弱そうな奴は通らせて、強そうな奴が通れば勝負を挑み、勝てば身ぐるみを剥ぎ、負ければ大人しく去るという野党と大して変わらない事をしていたそうだ。

 その女はドランに負けず劣らず筋肉がついていて、顔は確かに整っているがどうみても女とは思えない風体をしていた。

 その女にドランは一目惚れした。

 運命の出会いだの、貴女には手を出せば後悔という名の神罰がくだるだの宣っていた。

 女が辟易してメイスで殴ったのが冒頭の会話だ。


 「ねぇ…もうこの人置いていかない?」

 「ネリー…それは名案だ」

 「でしょ?」


 すいません。俺たちは2人でこの先の旅を続けるんで後はよろしくお願いします。

 ぼそっと言い、脇を抜けようとする。


 「ちょっと待ちな!この頭のオカシイ男を置いてくんじゃないよ!あんたらこいつの子供かなんかだろ?子供だけでどうすんだい!?」

 「いえ、子供ではありません。彼らの護衛を務めさせてもらっているだけです。どうぞご安心ください。私は独身です」

 「お前は黙ってな!…ったく無駄に筋肉がありやがって全然びくともしない。こんな奴は初めてだよ…」

 「おお!私も女性は貴女が初めてです!」


 女のこれまでにない渾身の一撃がドランの顔面に炸裂する。さすがにドランは吹っ飛んで地面に横たわった。


 「やっと静かになったね…で、なんなんだいあいつ?私みたいな女を捨てた奴に飛びついてくるなんてよっぽどの好色家かい?不細工なら褒めればやれるなんて考えのやつはムカつくね!」

 「いえ、恐らく彼は筋肉でしか物事を図っていないのだと思います。つまり本気で口説いていた…かもしれません」


 俺だって知り合って3日くらいしか経っていない。けど筋肉を誇りに思っていることだけは十分伝わっている。だから女性にも必要以上の筋肉を求めていると考えられる。

 そう言うと心なしか、女性の顔が幾分か和らいだ気がする。


 「ふ…ふん!気持ち悪い!けどまぁ、悪い奴じゃないのかもね」

 「ええ、悪い人ではないです。ちょっと個性が強いってだけで…」

 「ふぅん…あんたらあの馬鹿に護衛を頼んだそうだけど、どこ行くんだい?」

 「ええと、光都に用があってそこまでの護衛を頼んでいます。そっから先はまだどうなるか分かりませんが…」


 そう言うと女は少し考えるそぶりを見せ、


 「よし、決めた!私もあんたらに付いていく。金はいらないよ。結構貯まったし、あの馬鹿はうざいけど、あたしの攻撃を笑って耐える奴なんてそうそういないからね。あいつを一発でのせるようになるまでの修行さ」

 「え…、あ、はぁ…」


 視界の端で、のそっと起きたドランはもの凄く嬉しそうな顔してた。どうやら倒れたふりをしていたらしい。けど鼻血がひどい。ダメージはあるようだ。

 そうして筋肉ダルマが1人増えて旅は続く。女の名前はリンダと言った。2人の威圧感からか道中は魔物が少し出た程度で何事もなく順調な旅路だった。

 光都に行くまでいくつかの街や村を通り、2か月程たった頃ようやく目的の地に着いた。

 俺はそれまでネリーにかけてもらっていた『幻覚イリュージョン』を左目から外してもらった。

 道中で【神眼】とばれると色々めんどくさいと思って隠していた。

 もっともフードを被っているので正面から注視しないと目の色など分からないが。


 「さて…と光都についたけど、これからどうすんだい?」

 「ええと、とりあえず今日はもう遅いのでどこか宿をとって明日に聖女様に神託の願を頼みたいと思います」

 「そうかい。ま、店もほとんど閉まっているしね。じゃあ行こうかダーリン」

 「ああ、ハニー」


 2人はこの2か月で親密な関係になっていた。筋肉が密着する様はじつに辟易する。羨ましいとかそんな感情は一切なくやめてほしかった。

 ネリーなんて俺も聞いていたが、あれの声が聞こえてきて暫く1人で気まずい思いをしていたっぽい。様子を見るとようやく吹っ切れたらしい。1つ大人になったな。俺も昔、両親のあえ……いや、止めよう。


 その日は宿でひとまずの目標を終え、ささやかな打ち上げを行った。これまでの冒険の思い出話やこれからの展望などを語った。


 「ねぇ、もし光都で聖騎士になれとか言われたらどうするの?」

 「ああ、本当にそれが神託によるものなら考えるなぁ…俺の目的は平穏に生きる事じゃないしなぁ」

 「え?【神眼】持ちである事を利用してのし上がるんじゃないの?」

 「お前、そんな風に俺を見てたのか…?違うよ。俺の目標は神話の謎を解くことなんだ」

 「そういえば学園でもずっと文献をあさってたものね。神学の理解を深めているだけだと思ってた」

 「まぁ、なんつーか他のやつには分からない俺だけが分かる嘘ってのがあるんだよ。それを知りたくてね」

 「それって自惚れ?それとも本当にそうだって言うの?」

 「この【神眼】にかけて本当だ」

 「何も力の無い【神眼】のくせに…」

 「うるせー、まだ力が眠ってるだけだっての」


 俺とネリーはくすくす笑いながら話しを続ける。


 「まぁ、お前とも結構長いよな。俺の人生の3分の1はお前と一緒にいる」

 「あんた7歳だからね。人生の伴侶みたいな言い方しないでよ」

 「はは…、明日の神託しだいではお前とは別れることになるかもしれないけど、俺たち一生友達でいような」

 「友達…ね。……まだ研修は10か月あるんだからそれまでは一緒にいさせなさいよ!」

 「うん?ああ、そうだな」


 ネリーは寂しそうに言った。なんだかんだで苦楽をともにすれば寂しくもなるか。


 次の日、聖女の神託を受け、その神託に従い俺の行動をどうするか決める。


 神託は確かに受けた。


 いったい何がどうなっているのか…?


 俺とネリー、それにドランとリンダは今や聖女殺しの犯人として光都から脱兎の如く逃げ出していた。

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