模擬戦と隠された力
どうも変な流れになった。模擬戦ってなんだ?俺と6歳差があるんだぞ?前世だったら警察沙汰だぞ・・・
しかし始まってしまったものは仕方ない。
この学園では実戦の練習として模擬戦が教師付き添いの下に認められているらしい。
この世界は魔術師は大抵が魔物や或いは国家間の争い事がある場合、それに駆り出されるからだ。
模擬戦の前に教えて貰ったが身体強化の魔法は近接戦闘をする場合は必須。実戦ではパーティを組む場合がほとんどだから必ず覚える必要はないが、俺は剣士として戦ってきた。それで身体強化の魔法が使えないとすると聖気を身体に巡らせて肉体強化をするしかないらしい。これは神聖魔法や古代語魔法を使うよりも効率が悪いらしいがそうでもしないと説明がつかないらしい。神聖魔法による強化と聖気自体による肉体強化、それが聖騎士連中が強いとされる所以らしいが、俺はルロイドに聖気と魔力は少ないと言われている。俺は単に魔法のある世界だから前の世界と違って身体の強さも違う成長をしてると思っていたのだが。
・・・と、なると【魔眼】による力の流れを見ての先読みが理由か?力が集まってくればそこから魔力による攻撃などや、聖気の流れからどこで攻撃をしてくるか分かる。事前に対応できれば戦いやすくもなる。もっとも初見ではどういった攻撃をしてくるか分からないから万能ではないが・・・それに瞬間発動する魔法なんかにはあまり効果はない。【魔眼】とかかっこいい事をいってるが大したものじゃないと俺は思っている。と、なるとやはりよく分からんな。
「本当にやるんです?」
「ああ、けど安心してくれ。手加減はする。もっともお前が本当にオーガを倒したのならいらないだろうけどな」
教室より少し離れた場所、魔法演習場。そこの中央で教師立ち合いの下、模擬戦が開始される。
合図とともにレオンが詠唱を始める。
詠唱?隙だらけだぞ?ルロイドが実践向けではないと言っていたのに・・・俺がそんな事を考えながら演習用の木剣を構え間合いを詰める。
レオンは慌てる事なく詠唱を終え魔法を使う。けど俺がそれが何の魔法か分かる。ルロイドが色々と見せてくれた魔法の内の一つだからだ。
『火球』の魔法。四大元素魔法の内の1つ、火系魔法の中級だ。弱点は火球を出す、目標に向けて狙いを定める、放つ。その間のタイムラグが致命的だ。
この距離なら俺の剣の方が早く当たる。そうふんで突っ込む。レオンは火を見ても怯まない俺に動揺しつつ『火球』を放つ。けど力の流れからどの位置に打ち込んだか俺には事前に視える。こういった場合は【魔眼】は実に使える。いざって時には使えない子ってだけだ。
スッと躱しつつ胴薙ぎの一撃を加える。
「痛ぇぇ!!」
レオンは悶絶して腹を抑えてのたうち回る。涙もぼろぼろ出て子供らしく泣き始めた。
「あ・・・ごめん。ちょっと本気だしちゃった。『火球』なんて久々に見たからちょっとびっくりしちゃって。ちょっと前にサラマンダーと戦った事があってさ。火系魔法はちょっとトラウマなんだ」
「サラマンダーって・・・精霊の化身の1つじゃねーか・・・そいつ倒したのか?」
「いや、『爆発』でやられて、気づいたらルロイドに看病されてた。流石に無茶だったなって謝られたよ。実際死にかけたからね」
「そりゃ、そうだ・・・サラマンダーなんて上級魔術師以上の力がなきゃ倒せねーよ。それより言い忘れてけど俺の名はレオンだ。これからよろしく頼むぜ」
「ああ、ありがとうレオン」
「お前、敬語を使わない方がいいぜ?そっちの方が親しみやすい」
レオンは涙を拭いながら俺に握手を求めてきた。俺も当然それに応じる。
「いや、実は普段は敬語使わないんだけど、なんか最初くらいは使わないと駄目かなって思ってただけなんだけどね」
「なんだそりゃ?」
レオンと俺は互いに笑い合う。
「ところで、レオンは魔法を使ってたけど俺は単に木剣で切り込んだだけなんだけど、これ魔法の勉強になるの?」
そこで担任が口を挟む
「問題ありません。肉体強化をしつつ近接戦をするのも魔術師としての闘いとして認められています。もっとも接近戦しかしない者は少数派で純粋な魔術師から蔑んで見られる場合もありますが・・・」
担任先生がやっと俺に喋ってくれた。ずっと業務的な事を全体に言ってるだけだったもんな。この先生、金髪でサラサラでめっちゃ美人なんだけど冷たい感じする。エルフだからかね?無表情すぎる。
「でも俺さっきも言ったけど身体強化の魔法なんて使ってないんだけど」
「いいえ、使っていました。私がそれを確認しています。あなたの身体強化は無意識のレベルで使っているのです」
そうなのですか?と問いたくなる。本当にそんな感じはしないが無意識レベルと言われたら信じるしかない。魔法は使えないが、その無意識レベルの身体強化に魔力を振っているということか?
俺がレオンを倒した事でざわつく周囲をよそに号令がかかる。
「それでは皆さん、次の授業の準備をしてください。といっても次は教室内での自習とします。ユリウス君はこの学園の施設案内がありますので先生と一緒に来てください」
俺は担任先生、サシャリア先生と一緒に学園内を見て回る。色々と興味深いものが多々あった。魔術実験棟や広大な蔵書庫、魔道具の展示室に錬金術用の野草栽培所。この学園で生活すると思うとワクワクしてくる。
そんな案内の最後は園長室だった。中に入るとグランドール爺さんがいた。
「ユリウス、お前さっそくやってくれたの」
「えっと・・・模擬戦のこと?」
「それ以外ないだろうに。まぁ、お前に説明してなかった儂も悪いんじゃが、これ以上暴れられるとバレかねないのでな。こうしてサシャリアに連れてきてもらってお前の持っている力について説明してやろうと思っての。もっと勉強して知識を深めてから言おうと思っておったんじゃがの」
「力って・・・例の?」
「全部じゃ。今から説明する。サシャリアお前も今から言う内容は他言無用じゃぞ?他の奴じゃったら『強制』か『忘却』をかけてるところじゃ」
精神操作系の魔法か?ルロイドはそれ系は全く使わなかったからよく分からないな。なんにせよ爺さんはサシャリア先生の事は信頼しているという事だろう。無表情だけど。
「まずユリウス、君には【神眼】と【魔眼】両方の力を持つ。【神眼】の能力が未だ不明だがそれは間違い事実だ」
「・・・グランドール園長、【魔眼】も持っていたんですか!」
サシャリア先生のびっくりした顔を見た。これはかなりレアな気がする。なんか知ってそうだったけど【魔眼】は知らなかったらしいな。
「うむ、【神眼】と例の力だけではないのだ。だからこそ彼の力は時期がくるまで・・・いや、場合によっては一生隠匿しないといけないのじゃ」
「そう・・・ですね」
「いや、2人で納得されても肝心の俺が置いてきぼりなんだけど・・・初めから説明してくれない?」
「そうじゃのう・・・ユリウス、お主はルロイドから聖気や魔力が少ないと聞かされたな?」
「ああ、そうだけど?実際そうなんでしょ?」
「聖気と魔力が少ない・・・それはその通りなんじゃがお主の場合は事情が少し違う。ルロイドから水と油の例えで聖気と魔力の関係を説明されたな?」
「ああ、そうそう。ちょっとうろ覚えだけど」
「水と油が混合されると扱いが難しく魔術師としては大成しない。だから魔力を上げて相対的にも絶対的にも使いやすいようにするんじゃが、完全に水と油が混じったらどうする?」
「?それは・・・単にぐちゃぐちゃと混じり合っているんじゃなく、完全に油と水が・・・なんて言うんだ?結合してるって事かな?」
「うむ、理解が早くて助かる。お前の場合はそれだ。膨大な聖気と魔力を持っていながらそれが完全に結合してるゆえに聖気としても魔力としてもその力を取り出せない。そしてその分聖気も魔力も少ない。神聖魔法も古代語魔法もお粗末なレベルなのはそのせいじゃ。」
「つまり・・・俺には魔術師としての才能はないって事か?」
俺は落胆した。しかも膨大な聖気と魔力をもっていたって事は、俺はまさに天才の希代の魔術師になっていたのではないか?俺の学園生活が惨めなものになりそうだ。みんながどんどん大成してくなか俺は『発火』でたき火でもしてるのだろう。涙が出てくる。
「・・・聖気と魔力が完全に結合しているものを【神力】或いは【竜気】という。これは一部の高位聖職者、魔導師、武道一派の【龍門】だけが知っていることじゃ」
「それってあまり知られてないって事?他の人にはその神力はないの?」
「無い。あったとしても極わずか。持っている本人も気づかん。実際多量にもつお主でさえそんな実感はあるまい?」
「確かに・・・じゃあその神力ってなんの意味あるの?」
「・・・1000年戦争の際の戦いで天使と悪魔が使ったとされる力、ここから【神力】と呼ばれるようになった。【竜気】ともいう理由がな竜族がこれを使って戦うのじゃ。これを使った魔法を【竜語魔法】と呼ぶ。つまり、竜族でしか使えないもの代物なんじゃよ」
「つまり、人間には全く意味がないという事か」
「竜人ならば扱えるんじゃがの・・・竜人限定という武道【龍門】が極少数の戦闘集団でありながら二大流派と肩を並べれる所以じゃ」
「俺は竜人じゃない・・・んでしょ?」
ちょっと期待を込めて言ってみる。
「うむ。違うな。竜人は【神眼】や【魔眼】を持たない。【竜眼】を必ず持っているからの」
そんなのもあるのか・・・ってかやっぱり竜人じゃないって事はこれは本当に何の意味もないな。
「が、興味深い事にほんの少しだがその神力がお前の身体に馴染んでるんじゃよ?ルロイドとの訓練の成果かは知らんがの。『全能力強化』の魔法は発動してるようなもんじゃ。効果はさほど高くはないがの。それでも無意識で消耗無く使えるというのは脅威じゃて」
「おお・・いいじゃないの。強くなるのは大歓迎よ」
「問題はそこじゃ!お主がこのまま強くなってみぃ?魔法がこのまま使えなくても【神眼】の力はいずれ発動する【魔眼】の力も増すかもしれん。それに加えて【神力】による強靭な身体能力。それらが世間に知られれば政治利用、軍事利用、あるいは魔族連中に目をつけられたら厄介極まる。」
そんなもんか・・・?よく分からんが俺の精神年齢は30歳を超えているからな・・・小さい頃の洗脳教育というのは受けないと思うが、魔族ってのは気になるな。1回も会った事ないが、精神操作系の魔法を使われたら厄介そうだ。いや、それは人間も一緒か。まぁ、おとなしくこの学園生活を満喫したいし。さっきの会話で出てきた1000年戦争とかルロイドは話してくれなかったしな、色々と面白そうだ。
天使と悪魔についても・・・頭の中でなんか引っかかるものがある。勉強する事が山ほどあるぜ
「わかったよ。グランドール爺さん。学園生活をおくる上であまり暴れずにおとなしく勉学に励むとするよ」
「それでよい。あと師匠と呼べと言っているじゃろうが!」
ここから俺のガリ勉学園生活が始まった。




