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挨拶

 ルロイドはようやくガキのお守りが取れたと言ってさっさと学園からいなくなった。


 「お前が一端になったらまた会いにくるぜ。じゃあな!」


 それは4年間育ててくれた態度とは思えないさっぱりとしたものだった。俺もまたすぐ会える気がしてそれほど寂しいとは思わなかったが。しかしルロイドから教わった知識、戦闘技術はこの学園生活でも役に立つだろう。


 「今まで育ててくれてありがとう!次会う時は立派な男になってるからよ!」


 ルロイドはチラッと振り返り、手をヒラヒラさせて街に消えていった。その横顔はどこか嬉しそうだった。


 俺はグランドール爺さんの徒弟ということで住み込みという形で居候することになった。


 「さて、手続きが終わったのでな、ユリウス。お前は明日から学園で基本授業を受ける。その後は儂の元で修行じゃ」

 「グランドール爺さん、ちょっといいか?修行って言っても爺さんの実験の手伝いとか掃除だろ?」

 「爺さんではなくお師匠様と言え!それに師匠の手伝いや身の回りの世話は弟子の務めじゃ!」

 「お師匠様は長い、師匠と呼ぶ。」

 「・・・まぁ、よいわ。お前みたいな生意気な弟子は初めてじゃわい。それで明日からの学園生活についてじゃが注意しとく事がある」

 「それは・・・この【神眼】の事?」

 「それはどうしようもない。金色の目というだけで【神眼】という証拠になるからの」

 「偽装する奴はいないの?」

 「辺境の田舎ではたまにいるがの。『鑑定(アイデンティファイ)』の魔法を使われればすぐにばれる嘘じゃからそんな事をする奴はほとんどおらん。聖ルドネイア教の教えだと【神眼】を持つものは神に祝福されし者とされとる。それを偽装するんじゃからの、10年は投獄され奴隷落ちになるはずじゃ」

 「じゃあ金色を偽装して茶色とかにすれば?」

 「『魔力感知マジックパーセプション』を使われたらすぐばれる。目に微量ながら魔力が集まるんじゃからの」

 「じゃあ【魔眼】か」

 「うむ、【魔眼】は【神眼】と比べて攻撃的な能力のものが多くてな。先ほどの聖ルドネイア教の教えだと悪魔に魅入られた者とされとる。ま、【魔眼】持ちの聖騎士もいるがの。」

 「了解。【魔眼】持ちと言うことは隠すことにするよ」

 「うむ。それと老婆心ながら言うとじゃな、お前は4歳、もうすぐ5歳になるらしいが最年少でこの学園にいる。お前を除けば最年少は9歳だ。この学園にいる生徒達はプライドが高いものが多い。特に年長者であるほどな。」

 

 ああ、苛められるかもしれないから覚悟しとっけって事か。だが俺もルロイドとの旅で魔物を退治してきている。子供ごときには負けないと自負してるが・・・魔法を使われたらどうなるか想像もつかないな。

 『爆発(エクスプロージョン)』とかを使われたら結構きつい。あれは確かサラマンダーと戦った時だったか?火を吐くだけかと思ったら目の前で急に爆発が起きたんっだっけ。あれは流石に瀕死になった。ルロイドが『大治癒(メジャーヒーリング)』を使ってくれなかったらそのまま死んでたな。っていうか4歳児にあんなのと戦わせるとか鬼畜するぎると思ったもんだ。

 まぁ、苛めごときでそんな魔法は使わんだろ。せいぜい『痒み(イッチ)』による嫌がらせくらいだろう。まぁ大丈夫だ。


 「大丈夫!これでも結構ルロイドに鍛えられたんだ。子供の苛めくらいは余裕さ。」

 「そうか・・・まぁ無茶はするんじゃないぞ?」


 次の日、俺は魔法学園での初めての授業に出た。


 「皆さん初めまして。ユリウスといいます。若輩者ですが皆さんと仲良く魔法を学べていけたらいいと考えています。途中からの入園となりましたがすぐに追いつけるよう努力していきたいです。ちなみに魔法は『発火(ファイア)』と『水浄化(ピュリファイ)』しか使えません」

 

 基本魔法の2つだけしか覚えていない者はこの学園にはいない。素質がない奴はそれほど魔法は使えないが、それでもこの学園に入学する者はもう少しは魔法を使える。

 俺くらいだろう。能無しは。しかし教室の奴らは俺の渾身のネタを笑っていない。もっと俺を見下してもいいのに。一人が俺に質問する。


 「ちょっと聞きたいんだけど、その左目は本物?それに随分・・・小さく見えるけど・・歳いくつ?」

 「ん・・・左目は本物だけど?歳は4かな?そろそろ5歳ですけど」


 それまで俺の目の色に気づいていなかった奴らがザワザワと騒ぎ出す。


 「嘘をつくなよ?【神眼】の偽装は重罪だぜ?」

 「知ってます。というか3日前までこの目が【神眼】って事自体知らなかったですけど。ただどういった力があるのかは分かりませんけど・・・」

 「・・・あんたいったいどんな人生送ってきたの?それを持って生まれただけである程度の待遇は約束されてるのに、見たところ4歳児とは思えない程雰囲気が修羅場をくぐってるって言うか・・・」

 「っていうか4歳児で入園って有り得ないんですけど?」

 「いや・・・4歳であんなに流暢に話せるもんか?」

 生徒達が詰問してくる。

 この教室には俺を含めて7人いる。ここら地域から集めた資質ある人物達なのだろう。俺から見るとガキにしか見えないが。


 魔術師になるには3つの方法がある。

 1つ目は独学で魔法を学ぶ方法。自由に学ぶ事ができるが効率が悪く、大成はしない。

 2つ目は魔術師に徒弟として学ぶ事。良い師に巡り合えば実力を伸ばせるが、最悪ただの雑用として一生を終わる場合もある。

 3つ目は魔法学園に通うこと。これは英才教育を受けれるので成功の道が約束されている。ただし入れる人物は一握り。

 ルロイドはそんな事を言っていた。この教室の奴らは資質ある天才達、ガキと思ってると痛い目を見るかもしれない。ここは大人な対応をしなければならないだろう。

 

 「俺はは物心ついた時は、既に旅をしていました。なんでも俺を拾ってくれた人は捨て子で仕方なく連れて行ったとの事。今思えばこの左目があったからこそ拾われたのかもしれません。私を拾ってくれたその人は戦闘狂というか・・・魔物との闘いに明け暮れてました。その人物に言葉や知識を教わり魔物との闘い方も教わりました。ですが【神眼】については何も言われてませんし、どういった力があるのかも分かりません。できれば普通の生徒として接してくれると嬉しいです」


 この世界で初めて敬語を使った気がする。ルロイドは全く敬語を使わなかったからな。俺もそうだが、こういった挨拶はついつい敬語になってしまう。前世の影響だな。

 教室は感嘆の息が漏れる。


 「へぇ、4歳児とは思えない程落ち着いてるね」

 「ちなみに拾ってくれた人物って誰?そんな戦闘狂だったらもしかしたら有名な人物かもしれない」

 「レオンは将来、魔法戦士として遺跡巡りをしたいってのが夢なんだ。だからこの世界の有名人に詳しいんだ。英雄願望ってやつ?自分も功績を上げたいんだって」

 「うるせーよ、ネリー!冒険は男のロマンだ。宮廷魔術師なんざつまんねーよ。で、ユリウスだっけ?育ての親って誰よ?」

 「ええと、多分知らないと思うけど、ルロイドって人です。街とかに必要最小限しかいなかったんで有名人ではないかと・・・」

 「ルロイドって・・・まさかルロイド・フォン・ダグラス?」

 「え?いやルロイドしか知らないです・・・本人はルロイドとしか言ってなかってですし・・」

 「額に大きな傷がある?」

 「ああ、ありましたね。なんでも昔魔物に傷つけられたとかで・・・その魔物があまりにも強かったので勲章にその傷だけ治さずにつけたままにしてるとか言ってましたね」


 俺の言葉に教室中がざわつく。

 何でもルロイド・・・ルロイド・フォン・ダグラスという人物はこの世界の武術、2大流派の【神流剣】と【魔闘牙】の元筆頭者。それも筆頭の座を闘いに敗れたからではなく、気ままに生きるために現筆頭に譲ったのだと言われている。

 そんな事これっぽっちも俺に言ってくれなかった。どうりで強いと思った。この世界の冒険者は皆あんな感じに強いのかと思ってたので少しホッとした。でも流派ってそんなのあったのか。大体俺はともかくルロイドが出張ると一刀のもとに相手は死ぬんだよな・・・剣技とかそんなのじゃなくて力技だった気がする。あれ?ちょっと強いだけで本人じゃないのではないか?うん、そんな気がしてきた。


 「多分・・・その有名人じゃないと思いますよ?剣技なんて使ってなかったし・・・単に剣で切っていただけにしか見えなかったですけど」

 「だ・・だよな?そんな生きる伝説が近くにいるなんてな。」

 「でも、結構強かったんでしょ?やっぱりオーガとかはあっさり倒してた?」

 「ああ、ただのオーガは俺でもなんとか倒せます。オーガ・ウォリアーとかだと防戦一方でボコボコにされてましたけど、ルロイドは一太刀で切り伏せてましたね」

 「え・・・?ユリウス君、オーガ倒せるの?」


 俺の発言でまた教室がざわつく。

 やっぱり本物なんじゃないかとか、でも4歳でオーガを倒せるなんて信じられないとか、【神眼】持ちだから本人の知らないうちになんか力を使っているんじゃないかとか色々と推察が飛び交った。


 「ユリウス君、魔法は2つしか使えないって言ってたけど・・・物理操作系は全く使えないの?もっと言えば身体強化系の・・・例えば『筋力強化(ストレングス)』とか『敏捷強化(デクスタリティ)』とか」


 俺にはそんな自覚はない。実際使ってないし、つい最近『水浄化(ピュリファイ)』を使えるようになったばっかりだ。俺がその事を伝えると、


 「うーん、信用できないんだよねー。身体強化も無しでオーガを倒せるなんて・・・」

 「いやー・・・本当なんですけどね」


 そんなやりとりをしてると英雄願望持ちのレオンが提案する。


 「よし、分かった。俺と模擬戦をしよう!」


 よく分からない理論でそう結論づける。担任教師も涼しい顔で傍観してる。止めろよ担任・・・

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