転生
・・・俺はあの時に死んだ。
だがこうして生きている。いや、生まれ変わったと言える。比喩でもなんでもなくそのままの意味だ。
俺は今3歳で旅をしている。もちろん一人ではなく保護者と一緒だ。保護者と言っても親ではなく単に俺を拾ってくれただけの存在だ。何でも旅をしていたところ、川から籠が流れてきてその中に布に包まれた俺がいたらしい。
一緒に旅をするうちに分かった事だがこの世界は魔物と言われる存在が闊歩している。現代日本にこんなやつらがいたら人間の台頭は無かったんじゃないかと思う。だがこの世界の人間は皆が超能力・・・いや、この世界では魔法と言った方がいいか?それを行使できるので人間はしっかり繁栄している。
あまり会った事はないが、エルフやドワーフと言ったファンタジー世界お馴染みの種族もいる。
俺も転生前は超能力、もとい魔法が使えたので0歳から意識がある俺はこの世界で強者になれんじゃないかと思ったが、そんな甘い事は無く、全く使えなくなっていた。
そこは残念だったが、この世界の言語は日本語を元にしたんじゃないかと思える程日本語そっくりだった。単語の意味等は全く違っていたりしたものもあるが簡単に修正できた。元々が日本人だ。言語の取得はそれ程苦労しなかった。
「その歳で言葉を流暢に喋れるとはな・・・まるで天才だな」
「んー、でも魔法は使えないぜ?この前街に行った時に子供が魔法使ってたけど?俺よりは年上だったけど」
「ああ、『発火』か?あれは学校で教えてくれる基本魔法だからな。素質があるやつは就学前でも使える。だが、お前の歳で言語を流暢に話してさらに読み書きできる奴はいない。」
「学校?そんなのあるの?」
「ああ、基本的には8歳から10歳までの2年間で共通言語の読み書き、基本的な魔法体系の学習。基本算術、一般知識を学ぶ。その中で『発火』と『水浄化』を学ぶ」
「一年間でそんなに?」
「まぁ、本当に基本的な事だからな。大した分量ではない。学費は国持ちだし通わせる親は多い。それに上位成績者や魔術素質がある奴はそのまま魔術学園に通うことができる。」
「魔術学園は金を積めば入れるの?」
俺は魔法の才能は自分で言うのもなんだがさっぱり無いと思っている。金を積めば入れるならそこで学んでみたいと思ったんだが、
「いや、無理だな。魔術学園は高い知能あるいは魔術素質を持つ人物しか入れない。金では動かん。入りたいのら心配する必要はない。お前ならその歳ではありえない程の知能、知識を持っているからな」
「へぇー・・・そのうち入学してみたいな。でも金では入れないっての意外だな。魔法関連の武具や道具って価格が跳ね上がるからさ、研究とかにも金がかかるだろうから拝金主義みたいなの想像してた」
「拝金主義は聖教学園の方だな。貴族ご用達ってやつだ」
俺の保護者・・・名前はルロイドと言う。ルロイドはニヤッと笑って言い放った。
「俺も6歳になったら学校に通うのか?できれば魔術学園に入りたいんだけど?」
「いや、お前が学校で学べる事は無い。通う必要はないだろう。魔法の理論については今俺が話をしてやる。学校で教えてくれる理論とは違うがな。お前がそれ程魔法に固執してるとは思わなかった」
「固執って言うよりは使えないより使えた方がいいなと思ってさ。魔物を撃退するのに魔法を使えた方がいいだろ?まぁ、ルロイドは魔法なんざ使わなくても剣技だけで魔物を屠っているけどさ」
「ハハ、まぁそうだな。じゃあこの俺様が分かりやすく説明してやろう。」
ルロイドはそう言うと、袋から皿とコップを取り出しそれに水と油を注いでいく。
「人間には聖気と魔力、2つの力が身体に備わっている。どちらかを用いて魔法を行使するわけだが、同じように使えるわけではない。水を聖気に例えると魔力は油だ。油は表面に浮いてくる。よって聖気よりも扱いやすい。だが水の方はどうだ?油に隠れて使いづらい。」
「つまり神聖魔法と古代語魔法を比べると神聖魔法の方が使いづらい?」
旅をしてるうちに聖騎士と呼ばれる連中が使う魔法と、魔術師が使う魔法は違うと俺が判断したからだ。
と言ってもちらっと遠目で見ただけだが。ルロイドとの旅はほとんど人と接触することのない魔物退治の旅だった。ルロイドにその事を訊ねると神聖魔法と古代語魔法と2種類の魔法がこの世界にはあると言うことだった。
「基本的にはそうだ。だが聖気と魔力の量は人それぞれで違う。水の方が多い場合は相対的に神聖魔法の方が扱いやすいと言うことになる。さて、ここで問題だ。魔力の方が圧倒的に多いやつが神聖魔法を行使できるか?」
「・・・使えないか、使えても大した魔法は使えない?」
「ま、そうだ。油をかき分けて残っている水を取り出そうとするんだからな。そんな労力をかけるなら魔力依存の古代語魔法を使った方が効率いい」
そこでルロイドは水と油の入った皿とコップの中身をかき混ぜて俺の前にずいっと出す。
「この皿とコップには同じ分量、割合で水と油が入っている。どっちが魔法を使いやすいと思う?」
当然、皿だろう。コップの表面には油がほとんどの状態に対して、皿は水と油を両方を掬おうと思えば掬える。俺がそう答えると、
「そうだ。聖気と魔力の総量が同じでもそれを取り出せる技術というのはこの皿とコップのように人それぞれだ。どれだけ魔力が多くても取り出せる範囲が小さくては意味がない」
「つまり、素質がないやつは上位魔法は使えないって事?」
ルロイドはニヤッと笑って言った。
「それを補うのが呪文の詠唱と動作だ。水と油を分離する。皿の口を広げる。魔力自体が足りてれば魔法が誰でも使える所以だ」
「つまり・・・魔力が足りてれば誰でも魔法を使える?」
「足りてればな。ただ魔法が自分の能力に比べて上位であればあるほど詠唱、動作が長くなるからスタミナも必要だ。儀式魔法の途中で何人か倒れるのも魔力枯渇が原因じゃなく単に疲労が原因って事が多い」
ルロイドは水と油を捨てながらこうも言った。
「お前はそうじゃない。単に聖気と魔力が少ないんだ。だから使おうと思っても使えない。使えるようになりたいなら毎日意識して使え」
「どうやって?魔法が使えないのに使えって、意味が分からないんだけど?」
「聖職者って言われる奴らが毎日祈りを捧げてるのは何の為だと思う?あいつらは『祈願』の魔法を使ってるのさ。ほとんど報われないし、魔法を使っているという意識もないがな。それでも聖気は少しずつ上がっている。魔力の方は基本となる『発火』」を使う。火を点けられなくてもいい。葉っぱでもなんでもいいから物を燃やすイメージを持って念じてみろ。それだけでいい」
筋トレの超回復みたいなもんか?近くに落ちてる葉っぱでやってみたが何も起こらない。やはり才能がないらしいな、俺は。
「詠唱や動作の仕方は教えてくれないの?」
「お前、魔物を倒すのに便利そうとか言ってなかったか?『発火』程度で詠唱とか才能なさすぎるからきっぱり諦めちまえ。そもそもお前の場合は魔力が足りないだけだって言ってるだろ」
そういや、そうだ。その後俺はルロイドの教えに従い魔法の努力を続けた。
一年も経った頃だろうか?俺は何とか『発火』と『水探知』を使えるようになった。
そんなおり、やたら大きい街に連れてかれた。ルロイドと旅をしていてこれほど大きい街並みは初めてだ。基本的に森だの洞窟だの遺跡だのに連れてかれて魔物と戦っていたからだ。
ルロイドは俺をかばいながら戦ってくれた・・・のは2歳くらいまでで、俺にショートソードを預けてお前も一緒に戦えと言ってきた。普通の感覚ならあり得ない。こいつ鬼か?と思ったものだが、この世界の俺は身体能力が高く弱い魔物・・・ゴブリンやらジャイアントバット程度ならなんとか倒せた。これで魔法でも使えれば完璧だったんだが天は二物を与えずというやつだろう。それに2歳前から普通に喋り始めたからな、ルロイドも普通の子として接するのは止めたのだろう。
それ以外にも戦えた理由はある。俺の右目は何というか・・・力の流れが見えるのだ。聖騎士連中が白っぽい気が身体を流れていて、魔術師連中は白が少々と黒っぽい気が多く身体を流れている。
おそらく、白が聖気で黒が魔力なのだろう。聖騎士連中の奴らが魔力が全く見えないのは気になったが騎士の頭に聖と付くんだろうから特殊な訓練でもしてるのだろう。ルロイドにその事を伝えると真顔になり、
「・・・左目でなく右目で見えるのか?それはお前だの能力だ。魔法ではなくな。その力の事は誰にも言うな。そのうち理由が分かる時がくる。お前は特別中のうち、さらに特殊だ」
そっから更に俺に魔物を相手させる機会が増えた。魔法が使えないんだから特別でも何でもないだろうに・・・古代語魔法の中に『魔力感知』があるのは知っている。それが見ただけでできる・・・一級魔術師以上ならそんなことは誰でもできるのを知っている。多分ルロイドの性格上俺を苛めたいだけだろう。
それでも俺はこの力の事は誰にも言わなかった。まぁ、他の人と接触する機会がほとんど無かっただけだが。
ルロイドとの旅は刺激的で他の人との交流がなくとも気にはならなかった。ルロイドから教わった事は戦いに関する事、魔法の基本知識、魔物の特性、世界に点在する勢力の事を教えて貰った。歴史や神話に関する事、魔法の上位知識が知りたいと言ったらこの街に連れてこられたのだ。
その中でも一際大きい建物に連れていかれた。どうやらここが魔法学園と言われる場所らしい。
ルロイドが門番と話しをつけ、中に入る。つかつかと長い回廊を抜け、奥に進んでいくと園長室があり、ルロイドはノックをしつつ返事を待たずに入っていく。
中にはふさふさの髭をたくわえた白髪の爺さんがいた。ローブを纏い、いかにも魔術師然とした風体だ。
「久しぶりだな、グランドール!相変わらず棺桶に片足を突っ込んだような顔をしているな!」
「お前のよく分からん表現も相変わらずじゃな。だが失礼な事を言っているのは理解している。」
ルロイドはニヤニヤと、グランドールと言われた爺さんはため息をしつつ応える。
「それで・・・どういった要件だ?お前が顔を出す時は碌な事じゃない」
「ハハッ!今回はそんな事はないぞ?おい、ユリウスこっちに来い」
ユリウスとはルロイドが俺に付けてくれた名だ。この世界では俺はこの名で通している。
「なんじゃ、この子供は?・・・いや、待てよ?左目が金色・・・じゃな。それにこの感じ・・・」
「気づいたか?流石だな。お前の所に連れてきて正解だ。【神眼】持ちで更に・・・まぁ、付随して聖気と魔力は微々たるもんだけどな。」
「そんな見掛け倒しの力など問題ではないだろう!こんな奇跡のような人物がなんでお前の傍にいる?!」
爺さんが興奮しているな。魔力が見掛け倒しって魔術師がそんな事言っていいのか?そんなに興奮すると頭の血管が切れて棺桶に両足突っ込むんじゃないかと心配になる。それにしても俺の左目は金色だったのか。水面に映ったぼやけた自分しか見たことないから分からなかったぜ。しかし【神眼】とか言ってたな・・・あれ?話の流れからすると左目の方が【神眼】っぽいけど魔力の流れが見えるのは右目だが・・・
「ルロイド?魔力の流れが見えるのは右目だけど?【神眼】とか言ってたけど右目が【神眼】って事か?」
そう言うとルロイドはニヤッと笑い、グランドール爺さんは驚愕の表情をつくる。
「お前、誰にも言うなよって言ったろ?まぁ、この爺には言っても構わなかったんだけどよ」
「馬鹿な・・・【魔眼】だと?【神眼】と【魔眼】を両方持つ者など今まで存在した事は無い!こんな事は有り得んぞ!」
「けどまぁ、【魔眼】はともかく【神眼】に関しては能力不明なんだ。それに・・・」
ルロイドはそこまで言うとグランドールの耳元でぼそぼそと呟く。グランドール爺さんは俺の事を凝視している。一体なにを話しているのやら。
「・・・分かった。ユリウス坊、お前の事はこの儂の徒弟としてこの学園の入園許可を出そう。・・・最年少記録を更新だな」
そして俺の意思とは関係なしにこの学園で生活をする事になった。
しばらく説明っぽい文章が入ります。




