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俺、レベル50になったら、告白するんだ  作者: 田仲ケンジ
第一章 フォー リーフ クローバー
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第九話 それほどでも

 

 アスカの鬼のような形相が、【狩人雑誌(ハンターマガジン)】に掲載された翌日。

 今日は狩人協会で、レベル20くらいの【狩人(ハンター)】達を対象にした、モンスターの狩り方講習がある。

 ゼイは約束通りクラウと共に、その講習へと参加していた。


 講習の内容は、【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】で記録された戦闘の映像を大きなスクリーンに流し、狩人協会の職員が狩り方の説明をするといったもの。

 狩人協会にある大きな部屋の中で、【狩人(ハンター)】達は椅子に座って講習を受けるのだが、ゼイの隣にはもちろんクラウが座っていた。


「クッ、クラウさんの腕が当たって……」

「んっ? 何か言った?」

「なっ、なんでもありましぇん!」


 並べられている椅子と椅子との間隔が狭いせいで、ゼイとクラウはほぼくっつくような感じになっている。

 そのせいでゼイは緊張をしているのか、ガチガチに固まっていた。


「あっ、ゼイ君、『ゴーレム』よ」

「はっ、はひっ!」

「……どうかした?」


 クラウが、ゼイの方へと顔を向ける。

 しかしゼイは、顔と顔との距離が近い為、クラウの方を向けないでいた。


 そんな中スクリーンには、最近ロードの町近郊にある遺跡で暴れているという、『ゴーレム』の映像が流れている。


「……見える」

「えっ?」

「いっ、いえ、何でもないです」


 ゼイは《心眼》の効果で、映像に映る『ゴーレム』の攻撃エフェクトが見えていた。


「……これなら、行けそうだな」

「行けるって……ゼイ君、『ゴーレム』は五人ぐらいのPT(パーティ)で戦うのがセオリーなのよ?」

「いっ、いや! 例えばですよ例えば!」

「君っ! うるさい!」

「うっ……!」


 狩人教会の職員に叱られ、ゼイは顔を真っ赤にして黙り込んだ。


     †


――場面は変わり、ロードの町外れにある広場。

 アスカが一人で、戦闘訓練を行なっていた。

 天気は晴天、時刻はお昼過ぎ。

 ゼイの参加している講習も、そろそろ終わる時刻だ。


「こんにちはー」


 そこにフルンが、眠たそうな顔をしながらやって来た。

 フルンも、戦闘訓練には参加しないが、いつもこの広場へとやって来ている。


「あれっ? ゼイさんは?」

「今日は、いないわよ」


 アスカは発言と共に、凄まじい剣技をフルンに見せ付けた。


「……怒りのテーマは、終わったんじゃないんですか?」

「別に、怒ってないわよ!」


 アスカが動きを止めて、フルンを睨みつける。


「あいつは、今日クラウさんと一緒に講習へ行ってるから」

「えええええええっ!? デートですか!?」

「……デート? ただの講習よ」

「むきー! カテナさん、それをデートって言うんですよ!」

「……あっ、そう!」


 アスカは再び発言と共に、凄まじい剣技をフルンに見せ付けた。


「……怒りのテーマは、終わったんじゃないんですか?」

「だから、怒ってないってば!」


 するとそんな二人の元に、一人の男が近づいてきたのだ。

 銀髪でミディアムヘア、瞳の色は青色。

 フルンと同じく手に杖を持ち、白いシャツと紺色のズボンの上に、これまた紺色のローブを羽織っている。

 どことなく気品が感じられる、高身長の美青年だ。


「こんにちは、レディ達」

「……あんた、【奇術師】ね?」

「えっ? カテナさんの知り合いですか?」

「いや、知り合いではないけど……」


 二人とも面識はないようだが、アスカは男について何かを知っているようだ。


「いきなりで失礼。いかにも俺は、世間から【奇術師】と呼ばれています。俺の名前はアーロン・ザックス、二十歳。お二人と一緒で、【狩人(ハンター)】です」


 アーロンが二人に、【狩人記録(ハンタードキュメント)】を提示する。


 アーロン・ザックス

 性別 男

 レベル 20

 戦闘能力 B

 補助能力 C

 戦闘感覚 B

 身体能力 C

 スキル 《全属性》

 魔法 《攻撃魔法クラス6》

 E 《ウィザードロッド》(魔杖) 攻撃力 32

 E 《導師のローブ》(ローブ) 防御力 60


「《攻撃魔法クラス6》!? すごいですね……」

「いやいや、それほどでも」


 フルンが驚いた表情を見せ褒め称えるも、アーロンはどこか余裕な感じでそれを受け流した。


「でも、なんで【奇術師】って呼ばれているんですか?」


 何も知らないフルンが、続けて質問をする。

 するとアスカが、アーロンの変わりに答えだした。


「魔法に、火、水、風、土、雷、白、黒、無の属性があるのは、知ってるわよね?」

「はい」

「で、いくら《攻撃魔法クラス6》でも、普通は一つの属性しか得意にはなれないじゃない?」

「ですね、私は白属性が得意ですし」

「この人はスキルの《全属性》で、名前の通り全属性が得意なの。だから世間から、【奇術師】って呼ばれてるのよ」

「えええええええっ!?」


 再びフルンが、驚いた表情を見せる。


「で、その【奇術師】さんが、私達に何の用?」


 アスカは真剣な眼差しで、アーロンに問い掛けた。

 するとアーロンが、涼しい顔をしながらこう答える。


「昨日【狩人雑誌(ハンターマガジン)】を見て、ぜひ俺もPT(パーティ)へ入れてもらいたいと思いまして」

「へー、そうなんだ。あんたもあいつのファンなの?」

「……あいつ? ああ、オーク三十匹の……。いえ、俺はカテナ・レーヴァテインさん、あなたとPT(パーティ)を組みたくて」

「えええええええっ!?」


 これまたフルンが、驚いた表情を見せた。


「彼も凄いとは思いますが、俺はあなたの剣技に一目惚れしましてね」

「……ふーん」

「伝説の【狩人(ハンター)】アスカ・ジョワユーズを彷彿させるあなたと、ぜひPT(パーティ)に」

「……まっ、いいんじゃない?」

「ちょ、ちょっとカテナさん! まずリーダーのゼイさんに聞かないと!」

「私はあいつの師匠よ?」

「知ってますけど! もうっ!」


 まさかの、急展開。

 こうして三人は、新たなPT(パーティ)メンバー登録の為、狩人協会へと向かった。


     †


――再び場面は変わり、狩人協会。

 ゼイが狩人協会を後にしようとしたその時、丁度アスカ達三人が到着をした。


「あれっ? カテナさんとフルン。それと……きっ、【奇術師】のアーロン・ザックスさん!?」

「こんにちは、ゼイ・デュランダール君だっけ? 知ってくれていて、光栄だよ」

「そりゃ知ってますよ! でもなんで、二人と一緒に……?」

「ゼイさん! 実はですね――」


 フルンがゼイに、今までの経緯を説明する。

 ついでにこのPT(パーティ)のルール、シーンのこともアーロンに説明をした。


「いいね、戦闘も楽しくなりそうだ」

「こちらこそ歓迎ですよ。これからは、モンスターも強くなってきますし」

「じゃあ、決まりってことでいいかな? ゼイ君」

「はいっ! よろしくお願いします! アーロンさん!」


 そのまま四人は、PT(パーティ)登録のためクラウの元へと向かう。


「クラウさん! 先程はごちそうさまでした!」

「あらゼイ君……んっ? 【奇術師】のアーロン・ザックスさんとご一緒?」

「はいっ! PT(パーティ)登録をお願いします!」

「はじめまして、ミス・クラウ」

「あらあら、お師匠さん、ヒーラーさん、【奇術師】さんと、ほんとPT(パーティ)らしくなってきたわね。この次は、ギルド開設かな?」

「いやいや、俺がギルド開設なんて、まだまだですよ!」


 一緒に講習へと参加した為か、以前より少し距離が近づいた感じのゼイとクラウ。

 フルンはそれを見て、すかさず反応をした。


「ゼイさん、ごちそうさまって何ですか!?」

「えっ? ああ、さっき講習が終わってから、クラウさんにお昼をご馳走になっちゃって……」

「なっ、なんですってえええええええ!? むきー!」


 顔を真っ赤にしたフルンが、両手でゼイをポコポコと叩きだす。


「……はい、PT(パーティ)登録しておいたわよ」

「あっ、ありがとうございます! 後ですね、『ゴーレム』討伐に行こうと思っているんですが……」

「ええっ!? ……確かに依頼はあるけど……。まぁ丁度講習もあったし、アーロンさんも加わったことだし……」

「いいですよね!?]

「……分かったわ。でも、気をつけてね」

「はいっ! ありがとうございます!」


     †


 こうして四人は、『ゴーレム』討伐の依頼を受け、狩人協会を後にした。

 『オーク』の洞窟よりもさらに先、大きな平原に草木がなくなり、荒野になる場所がある。

 そこに存在する、これまた大きな遺跡。

 『ゴーレム』はそこで、日々暴れているという。


 四人はその荒野に入り、遺跡へと向かっていた。

 兎の姿で付いて来ていた【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】が、サソリの姿へと変わる。

 そんな中、ゼイとフルンとアーロンは横に並んで歩いているが、なぜかアスカは三人の少し後ろを歩いていた。


「そうだカテナさん、今回のシーンはどうします?」


 ゼイが振り向き、アスカに問い掛ける。


「……そうね、今回は倒した『ゴーレム』の上にみんなで乗って、ポーズでも決めましょうか」

「……はぁ、了解です」


 いつもとは違い単純なシーンの説明に、ゼイはキョトンとした表情を見せた。


「……何で私が、イラつかなきゃなんないのよ」


 アスカが独り言で、そう呟く。


「……そうだ!」


 何かを思いついたのか、アスカはニヤリと笑った後、他の三人と一緒に並んで歩き始めた。

 それと同時に、フルンがゼイへと問い掛ける。


「ゼイさんゼイさん、『ゴーレム』って、普通は何かを守護したりしてる存在ですよね?」

「うーん、作った主人の命令を聞いて、動く者らしいけどね」

「モンスターではないんですか?」

「……よく分かんないや」


 ゼイは苦笑いをして、フルンの質問を受け流した。

 すると、アーロンがこう続ける。


「フルンちゃん、正解だね。これから退治する『ゴーレム』は、今から行く遺跡を守っているんだよ」

「へー、そうなんですか」

「その遺跡は、はるか昔、魔法使いで栄えた場所だったらしい。滅びた後に他のモンスターが近寄ってきて、『ゴーレム』が動き出したって話だよ」

「ほほー」

「きっと、遺跡を守れって命令がしてあったんじゃないかな。今はそのおかげで、他のモンスターは近寄れないみたいだけどね」

「でも、人間に手を出して……」

「そう、だから狩人協会が動き出したわけだよ。可哀相かもしれないけど、人間に手をだしたら、ほってはおけないよね」


 その時だった。


「すごーい! 誰かさんとは違って、詳しいのね!」


 アスカが、急にアーロンを褒めだしたのだ。

 誰かさんと言われたゼイは、少しムッとした表情を見せた。

 そんな中アーロンが、いつも通り涼しい顔で答える。


「いやいや、それほどでも」

「凄いわよ! 私、そんな話知らなかったし!」

「こんな話でよければ、いつでも」

「お願いするわ!」


 いつもとは違う雰囲気のアスカに、フルンがツンとした様子で反応をする。


「なんですか、あの態度。ちょっとイケメンがPT(パーティ)に入ったからって。ねっ! ゼイさん!」


 するとゼイは、アーロンに対抗してやろうかとばかりに語りだした。


「みんな! 俺、さっき『ゴーレム』との戦闘の講習を受けてきたんですよ! 『ゴーレム』の範囲攻撃魔法、《ストーンミサイル》には要注意ですよ!」

「はいっ!」

「OK、ゼイ君」

「……ふんっ」


 ゼイの助言に、フルンとアーロンは普通に返事をしたが、アスカは鼻で笑う。


 そうこうしている内に、四人は遺跡へと辿り着いた。

 遺跡の敷地内なのか、荒野の地面が急に石畳に変わる。

 そこにはボロボロに壊れた宮殿のような建物が、数多く建ち並んでいた。


「ここが……遺跡か……」


 ゼイがそう呟いた、その時である。

 『オーク』とは比べ物にならない程の大きな足音が、地響きと共に聞こえだしたのだ。


「……ゼイさん!」

「……くるぞ!」


 フルンが、ゼイに抱きつき怯える。

 ゼイはそれと同時に、剣を構えた。


「……あれが、『ゴーレム』」

「そうみたいね」


 アーロンが冷静に杖を構え、アスカもこれまた冷静に剣を構える。


 四人の前に、小屋程はある巨大な泥人形、『ゴーレム』が現れた。




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