第七話 付き合ってたりするんですか?
【狩人雑誌】に、ゼイの活躍が巻頭掲載された翌日。
ゼイとアスカの二人は、いつも通りロードの町外れにある広場で、戦闘訓練を行なっていた。
「うわっ!」
ゼイがこれまたいつも通り、アスカの凄まじい攻撃に押され剣を落とす。
「……まいりました」
「……あんたさぁ」
「はい?」
「『オーク』の洞窟で、なんかブツブツ言ってたじゃない?」
「……あー」
「あれ、何て言ってたの?」
アスカはゼイと『オーク』の戦闘を思い出しながら、そう問い掛けた。
「あの時『オーク』の攻撃が、なぜか見えたんですよ」
「……えっ?」
「ほら、いつもアスカさんが助言してくれるじゃないですか」
「うん」
「その時みたいに、『オーク』の攻撃が赤いエフェクトで先読みできたんです」
「赤いエフェクト?」
「はい。赤い軌道っていうか、そのエフェクト通りに『オーク』の攻撃がきたっていうか……」
「……あっ、あんた、ちょっと【狩人記録】見せてみて!」
「あっ、はい。そういえば見てなかったな……」
ゼイが【狩人記録】を取り出し、アスカに提示する。
ゼイ・デュランダール
性別 男
レベル 15
戦闘能力 D
補助能力 F
戦闘感覚 S
身体能力 E
スキル 《神速》《心眼》
魔法 なし
E 《エクスカリバー》(長剣) 攻撃力 255
E 《騎士の鎧》(軽鎧) 防御力 72
「えええええええっ!? アッ、アスカさん……!」
「戦闘感覚S!? Sなんて、存在したの……?」
「スッ、スキルもありますね……」
「あんたは気づいていないかもしれないけど、きっと《神速》がたまに凄い速度を出すスキルで、《心眼》がその赤いエフェクトが見えるスキルなんだわ……」
「……マジですか」
――天才。
アスカが、以前ゼイに言われた言葉。
その言葉が、アスカの脳裏によぎる。
「でも、アスカさんの攻撃は全然見えないですけどね」
「……あっ、当たり前じゃない! そんなの!」
「ですよねー。でも、Sは凄くないですか!? それに、初スキル嬉しいです!」
ゼイは頭をポリポリかきながら、照れ笑いをした。
アスカはそんなゼイを見て、初めて出会った時のことも思い出す。
確かにアスカは、ゼイの戦闘センスを見てからPT登録を申し出た。
なかなかの戦闘センスだったので、自分の目的が果たせそうだからと申し出たのだ。
しかし、オリジンの村の時や『オーク』の洞窟の時など、最初に見た以上の戦闘センスを見せるゼイに、さすがのアスカも気になる程度ではなくなっていた。
「あっ、そうだ。今朝クラウさんから、【伝書精霊】が来ていたんですよ」
「……えっ? ああ、そうなんだ」
【伝書精霊】とは、狩人協会から【狩人】に連絡がある時に使われる精霊だ。
精霊自体は【狩人精霊】と同じで、【狩人】達に手紙などを届けてくれる。
ゼイは朝に、クラウからの手紙を受け取っていた。
「手紙に伝えたいことがあるって書いてあったけど、何なんだろう?」
「……さぁね」
「じゃあ俺、そろそろ狩人協会に行って来ますね」
「私も暇だから、一緒に行くわ」
二人はいつも朝十時から、二時間程戦闘訓練をしている。
天気は晴天、時刻はお昼過ぎ。
こうして二人は、狩人協会へと向かった。
†
狩人協会に到着し、二人はクラウの元へと向かう。
「こんにちは! クラウさん!」
「ゼイ君! 驚かないでよく聞いてね!」
クラウはゼイを見るなり、すぐさま大声で話しかけた。
「どっ、どうしたんですか?」
「私ね、あれから色々調べたの」
「……はぁ」
「でね、ゼイ君はレベル10から15まで、一週間で上がったの」
「……ですね」
「それが、前代未聞の最短記録なのよ!」
「えええええええっ!?」
ゼイが驚いた表情を見せるが、隣にいるアスカは真剣な顔つきで話を聞いている。
「あの伝説の【狩人】アスカ・ジョワユーズでも、一ヶ月かかってるの。その一ヶ月が、今までの最短記録なんだけどね」
「え……?」
「ゼイ君、あなた凄いことをしたのよ」
「……はぁ」
自分が伝説の【狩人】の記録を塗り替えたなど、ゼイにとっては信じられないことだ。
ゼイが焦りながら、アスカの顔をチラッと伺う。
しかしアスカは、特に驚いた様子でもない。
「今日の呼び出しは、それが伝えたかったの」
「あっ、ありがとうございます」
「私、心配になってきたのよ……ゼイ君、無茶だけはしないでね」
クラウはそう言って、ゼイの手を握り締めた。
「はひっ!」
ゼイは突然クラウに手を握られた為か、動揺が隠し切れない。
クラウはゼイがレベル1の時から、世話をしてきたのだ。
もちろんレベルが上がると、【狩人】はより強いモンスターと戦闘をするのが常識であり、そんな中亡くなった者達もクラウは見てきている。
「ゼイ君、来週の【狩人雑誌】発効日の次の日、朝十時から時間ある?」
「えっ?」
「その日、狩人協会主催でレベル20ぐらいの【狩人】を対象にした、モンスターの狩り方講習があるのよ」
「そんなのがあるんですか」
「一緒に行かない? 私も勉強になるし」
「ふぇっ!?」
ゼイは講習とはいえ、クラウからの初めてのお誘いに、これまた動揺をした。
しかしすぐさま、アスカがこう切り出す。
「戦闘訓練は、どうするのよ?」
「……あっ」
「あら、カテナさんとの先約があるのね?」
「あっ、いや……はい」
【狩り】に行かない日は、毎日十時からアスカとの戦闘訓練。
最近は当たり前のように行なっているが、ゼイからすればアスカとの戦闘訓練は最高の贅沢だ。
アスカとの戦闘訓練か、クラウとの講習か。
ゼイはどっちか決めきれず、黙り込んでしまう。
「……まぁいいわ、その日は特別にお休みにしてあげる」
「……あっ、ありがとうございます!」
「カテナさん、いいの?」
「いいですよー。こやつのこと、よろしくお願いします!」
アスカが笑顔を見せ、ゼイの背中を叩く。
すると、その時であった。
「こんにちは!」
ゼイとアスカが振り向くと、綺麗なピンク色の髪でツインテール、同じくピンク色の瞳をした、小柄な美少女が立っていたのだ。
手に杖を持ち、白いシャツと白いミニスカートの上に、これまた白いローブを羽織っている。
「ゼイ・デュランダールさんですよね? 私はフルン・フロッティ、十六歳。ヒーラーやってます!」
「……はぁ」
「レベルは7です! 私をPTに入れてください!」
「えええええええっ!?」
ヒーラー。
回復魔法専門の魔法使いで、剣や攻撃魔法を扱うアタッカーをサポートする【狩人】だ。
ヒーラーの回復魔法は傷も疲労も回復してくれるので、レベルが高い【狩人】のPTには必須でもある。
「【狩人雑誌】でゼイさんの活躍を見て、ファンになりました!」
「マッ、マジですか……」
「あっ! これが私の【狩人記録】です!」
フルン・フロッティ
性別 女
レベル 7
戦闘能力 F
補助能力 D
戦闘感覚 E
身体能力 E
スキル なし
魔法 《回復魔法クラス4》《補助魔法クラス2》
E 《光の杖》(聖杖) 攻撃力 16
E 《シルクのローブ》(ローブ) 防御力 39
「魔法のクラスって、8から1の順に高いんだっけ?」
「はい! 一応補助魔法も扱えます! よろしくお願いします!」
「いっ、いやでも、急に言われてもね……」
うろたえるゼイは、アスカとクラウの反応を窺った。
「ゼイ君、これから先はヒーラーさんもいたほうが安全かもよ」
「……私はどっちでもいいけど、PTのリーダーはあんたなんだから、あんたが決めなさい」
クラウはPT登録を進め、アスカはなんだかそっけない感じだ。
「……分かりました。よし、フルンだっけ? じゃあPT組もうか」
「あっ、ありがとうございます!」
「でも、一つだけ条件があるんだ」
「はい! ゼイさんと組めるなら何でも!」
「……はは、後で話すよ。じゃあクラウさん、フルンとのPT登録をお願いします」
「はいはい。今日は何か依頼受けていくの?」
「……そうですね、じゃあこれで! カテナさん、いいですよね?」
「いいわよ」
†
こうしてゼイとアスカは、フルンとのPT登録を終え、ついでに『リザードマン』討伐の依頼も受け、狩人協会を後にした。
『リザードマン』が人間に悪行を行なっているという大きな森へと向かう間に、ゼイはアスカとPTを組んでいる理由、すなわちシーンのことをフルンに伝える。
「――って、感じなんだ。それでもいいかい?」
「了解です! 私はゼイさんといれれば、何でもいいです!」
「……はは」
「ところでゼイさんは、カテナさんとその……付き合ってたりするんですか?」
「ええっ!?」
「もしくは、さっきの狩人協会の人と……」
突然フルンは、爆弾発言をしだした。
「ちょっと、いきなり何を言って――」
「付き合ってないわよ」
とまどうゼイとは裏腹に、アスカが冷静に即答する。
「そっ、そうだよ。俺は付き合ってる人とかいないから……」
「了解です!」
笑顔になったフルンは、そのままゼイの腕に抱きついた。
フルンのスタイルは、アスカ以上クラウ未満だ。
柔らかい胸の感触が、ゼイの腕に伝わる。
「フルン……胸が当たって……」
「知ってますよー!」
フルンは、相当なゼイのファンだった。
これも【狩人雑誌】の影響といえば、影響だろう。
ゼイがこの状況をどうにかしようと、アスカにこう切り出す。
「カッ、カテナさん! 今回のシーンのテーマは!?」
「……そうねぇ」
アスカはフルンにくっつかれているゼイを見て、静かに話し出した。
「怒りね」
「えっ?」
「レベル15になって浮かれている弟子がピンチになって、師匠が怒って剣とはこういうものだと見せ付ける」
「おっ、俺は浮かれてなんかいませんよ!」
「……とにかく、今回から助言はしないからね」
「ええっ!?」
「そうねぇ、そのくっついてる娘に、あんたがこれから助言をしなさい」
「俺が、フルンに!?」
「何事も経験よ。ヒーラーを守りながら戦うのも」
ゼイに抱きつく、フルンの力が強まる。
「ゼイさん! よろしくお願いします!」
「……って事は、今回はカテナさんがメインで戦う感じですか?」
「……そうね、何か暴れたい気分だし」
こうして三人は、『リザードマン』がいる大きな森へと入っていった。