第四話 告白します
――三日後。
今日は今週号の、【狩人雑誌】発効日だ。
ゼイはあれから【狩り】に行かず、今日までアスカとの戦闘訓練を行なっていた。
アスカからの要望であったが、伝説の【狩人】と行う戦闘訓練。
ゼイからすれば、是が非でもやりたい訓練だろう。
天気は晴天、時刻はまもなくお昼時。
ロードの町外れにあるひと気がない広場に、剣と剣の交わる音が響き渡る。
「うわっ!」
ゼイはアスカの凄まじい攻撃に押され、手に持った剣を地面へと落とした。
「……まいりました」
「まだまだね」
そんな中アスカは、しょんぼりしながら剣を拾うゼイをじっと見つめている。
「……あの時の速さは、たまたまだったのかな?」
「何か言いました?」
「なっ、何も言ってないわよ!」
アスカは、ゼイが女の子を助けた時と、『ゴブリンリーダー』を倒した時のことを思い出していた。
あの時ゼイの見せた反応速度が、アスカも驚くほどの速さだったからだ。
しかし、いざゼイと戦闘訓練をしてみても、あの時程の速さは見られなかったのである。
「いやー、やっぱりアスカさんは強いなぁ。天才ですよ」
「天才? 馬鹿ね、あんた私がどれだけ努力してるか知らないでしょ」
「えっ?」
「《絶対剣感》があっても剣技が認識できるだけで、その後の反応は結局身体能力頼りなの」
「……はぁ」
「これ、今日から毎日しなさい」
アスカはゼイに、何かが書かれた紙を手渡した。
「私が毎日している、トレーニングメニューよ」
「……これを、毎日?」
「そうよ」
その紙には、アスカが伝説と呼ばれるようになったのが納得できる、とてつもないトレーニングメニューが書かれていたのだ。
内容に目を通したゼイの顔は、一瞬で真っ青になった。
「狩人協会ができたのが五年前。私は十年前から剣を振り、そのメニューをこなしてきたの」
「ほえええええええ……」
「とにかく、PTを組んでくれている間は、戦闘訓練もしてあげるわ」
「……がっ、がんばります! それに、すみませんでした!」
レベル40。
アスカは今まで、とてつもない努力をしてきたのであろう。
ゼイはアスカを易々と天才扱いしたことに、少し後悔をした。
そんな中ゼイが、申し訳なさそうな表情をしながらアスカに問い掛ける。
「アスカさんは、俺がレベルいくつになったら認めてくれますか……?」
「いきなり、何よ?」
「いえ、何となく聞いただけです」
「……ははーん、ク・ラ・ウさんね?」
「ちっ、違いますよ!」
「そうねぇ……レベル50ね」
「ごっ、50!?」
「レベル50になったら、どんな女性相手でもイチコロよ!」
アスカは無茶を言って、ゼイを困らそうとした。
しかしゼイが真剣な眼差しを見せ、アスカに対し胸を張る。
「俺、レベル50になったら、告白します」
アスカの視界に、丁度逆光に照らされたゼイのシルエットが映った。
そんなゼイの姿を見て、アスカが少しドキッとした表情を見せる。
「はっ、恥ずかしいいいいいいい!!」
少し間が空き、ゼイは顔を真っ赤にしながら叫び声を上げた。
同時にアスカが、クスッと微笑む。
「……あんた今、超主人公っぽかったわよ」
「えっ?」
「ふふっ、まぁがんばんなさい! 応援してあげるわ!」
アスカは困らそうとしたゼイの宣言に一瞬戸惑ったものの、最後には笑顔を見せた。
ゼイも顔を真っ赤にしたまま、笑顔で頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「さぁそろそろ、【狩人雑誌】を貰いに行くわよー!」
「はいっ!」
こうして二人は、本日の戦闘訓練を終え狩人協会へと向かった。
†
二人がPTを組んでからは、初めての【狩人雑誌】。
狩人協会に到着した二人は、【狩人雑誌】は換金所でも貰える為、もちろんクラウの元へと向かう。
「こんにちは! クラウさん!」
「こんにちは、ゼイ君とカテナさん。【狩人雑誌】ね?」
「はい! もう見ました?」
「私はさっき、こやつの熱い宣言を見ました!」
「――ちょっと! アス……カテナさん!」
「……まだ見てないけど、はい今週号」
ゼイはクラウから、【狩人雑誌】を受け取った。
そのままクラウが、ゼイに笑顔を見せる。
「後ゼイ君、おめでとう。レベルアップよ」
「えっ?」
「【狩人記録】、渡してくれる?」
「はっ、はい!」
ゼイから【狩人記録】を受け取ったクラウは、一旦奥の部屋へと行きその場に戻ってきた。
そしてクラウが、更新された【狩人記録】をゼイに手渡す。
「……やった! レベル6だ!」
「おおー、おめでとう! 【狩人記録】見せてよ」
「はい!」
ゼイは笑顔を見せ、アスカに【狩人記録】を提示した。
ゼイ・デュランダール
性別 男
レベル 6
戦闘能力 F
補助能力 F
戦闘感覚 B
身体能力 F
スキル なし
魔法 なし
E 《エクスカリバー》(長剣) 攻撃力 255
E 《騎士の鎧》(軽鎧) 防御力 72
「戦闘感覚もBになってる……」
「ほんとですか!? やったー!」
「……まぁ、後44だねぇ」
一瞬驚いた表情を見せたアスカだったが、すぐさまニヤニヤしながらゼイを肘でつつく。
「なっ、何言ってるんですか! 早く【狩人雑誌】見ましょう!」
ゼイはアスカの発言に、戸惑った表情を浮かべた。
アスカが両腕を広げ、ため息をつく。
「はいはい」
「――もうっ!」
「ふふっ。じゃあゼイ君、カテナさん、今週もがんばってね」
クラウはそんな二人の姿を見て、小さく微笑んだ。
「じゃ、じゃあクラウさん、また来ます!」
「それでは、また来まーす!」
こうして二人は、手を振るクラウを背にして狩人協会を後にした。
するとゼイが、先日と同じようにニヤニヤしっぱなしのアスカを睨みつける。
「だーかーらー! 余計なことは言わないでくださいよっ!」
「ごめんごめん、これからは気をつけますねぇ」
「――まったく!」
ゼイはムスッとした表情を見せ、顔を横に背けた。
「……そういえば、アスカさんはレベル上がらなかったですね」
「まぁ、カテナ・レーヴァテインの名前で、【狩人】として申請してないからね。私はあんたの、サポート人員扱いなわけよ」
「なるほど」
「っていうか、もしアスカ・ジョワユーズでいても、あれぐらいじゃレベル上がんないから」
「……ですね」
†
――十分後。
二人はアスカが拠点にしている宿屋へと戻り、部屋にあるソファーに仲良く座って、【狩人雑誌】を目の前に大きく深呼吸をした。
「じゃあ【狩人雑誌】、見るわよー!」
「はいっ!」
そのまま二人は笑顔になり、ワクワクとした様子で【狩人雑誌】を見始める。
「巻頭掲載は、さすがに無理かー!」
「当たり前じゃないですかー!」
最初はテンションが高かった二人だが、ページが進むにつれ徐々に黙り込み、真剣な表情になっていった。
ページをめくる音だけが、部屋の中に響き渡る。
「……載ってないわね、私達」
「……ですね」
残すは、最後のページのみ。
最後のページには、基本活躍画像ではなく、いわゆるネタ的な画像が載っている。
残念ながら、最後のページまでに二人の活躍は載っていなかったのだ。
アスカがため息をつき、最後のページを開いたその時だった。
「……あっ」
†
――再び、狩人協会。
クラウも、今週号の【狩人雑誌】を読んでいた。
「……ゼイ君達、載ってないわね」
これまた残念そうに、クラウが最後のページを開く。
「あっ……ふふっ」
クラウは再び、小さく微笑んだ。
最後のページには、小さな女の子にお花を付けられているゼイの姿が載っていた。