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俺、レベル50になったら、告白するんだ  作者: 田仲ケンジ
第四章 フォー オブ ザ デビル
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第三十七話 罰ゲームね

 

 アスカがムスッとした表情で、一人『ガルーダ』討伐の依頼を受ける。

 ゼイは苦笑いをしながら、クレスとミスティーと共に『ナーガ』討伐の依頼を受けた。

 狩人協会の職員が、困った表情を見せながらこう切り出す。


「本当は初【狩り(ハント)】で、『ナーガ』討伐とか駄目なんだけどねぇ……」

「二人の強さは、私が保証します」

「ジョワユーズさんが言うなら、大丈夫でしょうけど……レベル21の彼も、いることだし……」


 バルの時もそうだったが、狩人協会は初めての【狩り(ハント)】に高難度な依頼を進めたりはしない。

 しかし、伝説の【狩人(ハンター)】であるアスカの太鼓判もあり、クレスとミスティーは見逃してもらった形だ。


「まったく……私は低難度の依頼から、ちゃんとこなしてきたんだからね!」

「まぁまぁ! しかしアスカは、ほんとに凄いのねー」

「アス姉は、やっぱ有名人なんだな!」


 クレスとミスティーが眺めるのは、大勢の【狩人(ハンター)】達。

 アスカを一目見ようと、周りに人だかりができていたのだ。


「おいおい、アスカ・ジョワユーズだ」

「ってことは、あれが四人の悪魔……?」


 当時は【狩人(ハンター)】ではなかった、四人の悪魔の存在。

 よほど有名だったのか、【狩人(ハンター)】の間にも知れ渡っているようだ。

 そんな中ゼイが、そそくさとアスカへ歩み寄る。


「じゃあアスカさん、夕方ぐらいにまたここで」

「『ナーガ』の鱗、忘れずにね」

「はい。アスカさんも、気をつけて」

「こっちの台詞よ。誰に向かって言ってんだか」

「……はは」


 アスカはゼイと会話を交わし、一人『ガルーダ』討伐へと向かった。


「じゃあ俺達も、出発しましょうか」

「『ナーガ』がいる湿地帯の近くには、毒蛇の『ヨルムンガンド』も群れで生息している。気をつけてな」

「了解です!」


 狩人協会の職員から情報を聞き、ゼイが力強く頷く。

 こうしてゼイ達も、『ナーガ』討伐へと向かった。


     †


「……ここね」


 アスカが到着したのは、パライスの町から馬車で南西に一時間。

 海沿いにある、辺りに何もない広々とした小高い丘の上だった。

 海風が吹き渡り、アスカはなびく髪を手で押さえている。


『キュロロロロロロロ!!』


 そんなアスカの前へ、咆哮を上げた半人半鳥型のモンスターが、まるで餌でも見つけたかのように現れた。

 その強さ故に、人々から神鳥と呼ばれる『ガルーダ』だ。

 『ガルーダ』は、鷲の頭、鈎爪、翼、クチバシを持ち、身体は人間の姿をしたモンスター。

 身長は二メートル程あり、巨大だ。


 しかしアスカは、冷静に剣を構える。


「……久々に、アスカ・ジョワユーズで暴れてみますか」


鷹の姿をした【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】は、アスカが静かに微笑んだのを見逃さなかった。


     †


――同時刻、パライスの町から馬車で西に一時間。

 ゼイ達三人は、湿地帯の前に広がる森の中で、蛇型モンスターである『ヨルムンガンド』の群れに囲まれていた。

 その数、およそ三十匹。

 『ヨルムンガンド』は、体長三メートル程はある大蛇で、牙に毒を持っている危険なモンスターだ。


 しかし次の瞬間、ゼイは驚くべき光景を目の当たりにすることとなる。


「はいはーい、準備運動ターイム!」

「ゼイ兄! ここはあたし達に任せといてくれぃ!」


 なんとクレスとミスティーが戦闘態勢を取り、『ヨルムンガンド』の群れに突撃をしたのだ。

 『ヨルムンガンド』と同じく、蛇の姿をした【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】が二人の後を追う。


「ミスティー! よろしくねー!」

「ほーい! 《スピードボディ》!」


 ミスティーはクレスに、移動速度が上がる時空魔法をかけた。

 ゼイの《神速》や《限界突破》とは違い、単純に移動速度が二倍になる魔法だ。

 ただし魔法なので、無理やり身体能力を上げているわけではなく、そのせいで対象の体に支障が生じることはない。

 一足早く群れの中へと到着したクレスに、『ヨルムンガンド』からの攻撃が仕掛けられる。


「きたよー! 後ろの奴によろしくぅ!」

「ほいっ! 《スローボディ》!」


 ゼイも以前かけられたことのある、対象の移動速度が下がる《スローボディ》。

 クレスは目の前にいた一匹と、動きが遅くなったもう一匹を、なんなく斬り捨てた。

 アスカ程ではないが、クレスの動きや剣技も立派なもので、次々と『ヨルムンガンド』を倒していく。


「楽勝楽勝!」

「クレ姉! 三匹目にかけるぜー!」

「りょうかーい!」


 クレスがこんなにも余裕な様子でいられるのは、やはりミスティーの補助があってこそだ。

 ミスティーはがむしゃらではなく、ちゃんとクレスの動き、『ヨルムンガンド』の動きを見て、ピンポイントで魔法をかけていた。

 かける時はかける、かけなくていい時はかけない。

 精神力温存も、完璧である。

 立ち位置的にはヒーラーのミスティーだが、さすがは四人の悪魔の一人。

 動き自体はアタッカーそのもので、前衛に出て『ヨルムンガンド』の攻撃も避けつつ、華麗に魔法をかけているのだ。

 すばらしい連携を見せる二人に、ゼイが驚いた表情を見せる。


「イェイ!」


 ミスティーがゼイに、ピースサインをしたその時だった。


「――こらぁ! ミスティー!」


 そう叫んだクレスに、『ヨルムンガンド』の攻撃が直撃しようとする。


「あっ! ごめーん! 《ストップボディ》!」


 次の瞬間、ミスティーは数秒だけ対象の動きを止める魔法を『ヨルムンガンド』にかけ、クレスの窮地を救ったのだ。


「……まったく。それにしても、数が多いわねー。《マインドブレイク》!」


 同時にクレスは、対象を混乱させる魔法を唱え、動きが止まっていた『ヨルムンガンド』を軽く斬りつけた。

 すると動き出した『ヨルムンガンド』は、クレスではなく他の『ヨルムンガンド』を攻撃しだしたのだ。


「それっ! それっ! それっ! 行きなさーい!」


 クレスに斬られた『ヨルムンガンド』達が、次々と同士討ちを始める。

 そのまま二人は、その状況を利用しつつ『ヨルムンガンド』を倒し続けた。

 『ヨルムンガンド』も、決して弱いモンスターではない。

 しかし二人は、なんと無傷で討伐を果たしたのだ。


「ミスティー、罰ゲームね」

「……うう」


 クレスが笑顔で、ミスティーに刀とアイテム袋を手渡す。

 二人の間には、戦闘でミスをしたら相手の持ち物を持って歩くというルールがあるようだ。


「……凄いな」


 ゼイが二人を見つめ、再び驚いた表情を見せる。

 こうして三人は、そのまま森の奥へと進んだ。


――それから、二十分後。

 三人は引き続き、森の中を歩いていた。

 するとミスティーが、ムスッとした表情を見せこう切り出す。


「おーもーいー! 休憩したーい! お腹すいたー!」

「罰ゲームでしょー。がんばりなさーい」

「……はは。じゃあ少しだけ、休憩しようか」

「わーい! さすがゼイ兄だぜー!」


 笑顔になったミスティーは、持ち物を地面に置き、その場に座り込んだ。

 ゼイとクレスも、その場に腰を下ろす。

 しばしの休憩中、ゼイは二人に語りかけた。


「それにしても、二人の連携は凄いの一言ですね」

「ありがとー」

「ゼイ兄! あたし、そんなに凄いか!?」

「うん。動きを止めれるなんて、ほんと凄いよ」

「えへへー」


 ゼイの言葉を聞いて、ミスティーが顔を赤らめる。

 そのままゼイは、【狩り(ハント)】は活躍すればするほど、報酬などが上がるということを二人に伝えた。

 それを聞いたクレスが、笑顔で反応する。


「じゃあじゃあ! 活躍した分ホリィが貰えるのね!」

「そうですね」

「いいじゃんいいじゃーん! さっ、『ナーガ』討伐行くわよー!」

「えー!? もう行くのー!? もうちょっと休憩したーい!」


嫌がるミスティーの言葉も虚しく、三人は再び歩き出した。


――それから、十分後。

 三人は森を抜け、深い霧がかかる湿地帯へと到着した。

 地面は歩くたびに足首まで泥に沈むほど、かなりぬかるんでいる。


『キシャアアアアアアア!!』


 そんな三人の前に、咆哮を上げながら現れるコブラの姿をしたモンスター。

 獰猛で、人々から邪神と恐れられる『ナーガ』だ。

 『ナーガ』は体長六メートル程はある、かなり巨大なモンスターである。


 そんな中クレスは、ゼイとミスティーより一歩前に出てこう切り出した。


「よっしゃ! 報酬は私が頂いちゃうわよー! ミスティー、武器を渡して!」

「……あっ」

「なにしてんの!? 早く!」


 クレスの問いかけに、ミスティーが青ざめた表情を見せる。


「……休憩した場所に、忘れちった」

「えええええええっ!?」


 なんとミスティーは、先程休憩をした場所に持ち物を忘れてきたのだ。

 ミスティーがその場所に戻ろうと、後ろを振り向き走り出す。


「待ってて! すぐ戻るから!」


 しかし『ナーガ』は、それを見逃さなかった。

 走り出したミスティーへ、迷わず襲い掛かったのだ。


「げげっ!」


 ミスティーがそれに気がつき、驚いた表情を見せる。

 地面のぬかるみを物ともしない、『ナーガ』の驚異的な速さ。

 逆にミスティーは、地面のぬかるみに足をとられ、その場で転んでしまった。


「わっ……ぶっ!」

「――あの馬鹿っ!」


 クレスがミスティーの救出に向かうが、同じく地面のぬかるみに足を取られ間に合いそうにない。

 ミスティーが諦めて、目を閉じたその時だった。






「《限界突破》!」


 




 禁止されていた《限界突破》を発動させたゼイが、ミスティーを抱きかかえ『ナーガ』の攻撃をかわしたのだ。

 バルとの戦い時に見せた、走るのではなく、まるで飛んでいるかのようなゼイの動き。

 ミスティーはゼイの横顔を見上げ、同時に顔を真っ赤にした。


 そのままゼイが、ミスティーをクレスの元へと連れて行く。

 クレスはその光景を見て、キョトンとした表情を見せた。

 そしてゼイは、二本の剣を構えこう切り出したのだ。


「クレスさん、危険ですからここは俺に任せてください」

「……うっ、うん」

「安心してください、報酬は差し上げますから」


 ゼイは笑顔を見せ、そのまま『ナーガ』へと飛び掛かった。




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