表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、レベル50になったら、告白するんだ  作者: 田仲ケンジ
第一章 フォー リーフ クローバー
2/73

第二話 いやいやいやいや!

「【狩人(ハンター)】最強に飽きた!? たったそれだけの理由ですか!?」

「――そ、先週ソロで『レッドドラゴン』を倒した時にね」

「そういえば、今週号の【狩人雑誌(ハンターマガジン)】にでかでかと載ってましたね……」


 時刻は、既にお昼過ぎ。

 ゼイとアスカは『オーク』の洞窟を後にして、狩人協会があるロードという町に戻っていた。

 二人がいるのは、とある豪華な一室のテーブル席。

 ここはアスカが現在泊まっている宿屋の部屋であり、二人はそこで食事をしながら話し込んでいた。


 ゼイもそうだが、【狩人(ハンター)】は基本的に住居を持たない。

 【狩り(ハント)】に行くたび、色々な場所を転々とするからだ。

 宿屋などに拠点を置き、日々活動するのが常識なのである。


「――で、それと同じ【狩人雑誌(ハンターマガジン)】に載っていた、あるPT(パーティ)の記事を見て……」

「そう! あの絶妙のタイミングで回復魔法をしている彼を見て、私は決めたの!」

「……脇役になろうと」

「それよ!」


 レベル40の【狩人(ハンター)】、アスカ・ジョワユーズ。

 驚異的な戦闘能力を持ち、世間から付けられた二つ名は【剣聖】。

 レベル30以上の【狩人(ハンター)】は彼女しかおらず、【狩人(ハンター)】達にとっては伝説の人物だ。

 そんなアスカは最強の自分に飽き飽きし、今週から脇役になろうと決めたのである。

 しかもただ脇役になるだけではなく、脇役だけがだせる味のあるシーンを演じて【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】に映りこみ、それが【狩人雑誌(ハンターマガジン)】に掲載されることが目的だ。


 ちなみに【狩人(ハンター)】レベルとは、【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】の戦闘記録で狩人協会に見極められ、【狩人(ハンター)】達に与えられる個人個人の力量数値である。

 レベルは一応1から50まであるが、普通の【狩人(ハンター)】ならレベル30が限界。

 アスカのようにレベル30以上を目指すとなると、ソロで『ドラゴン』などを討伐する活躍が必要だ。


「……ずいぶん、マニアックですね」

「文句ある? まぁずっと活躍記事を載せられてましたから、あんたには分からないわよねぇ?」

「うっ……しっ、しかし、本当にアスカ・ジョワユーズさんなんですか?」

「何よ、今更」

「いえ、確かに的確な助言は助かりましたけど、アスカ・ジョワユーズといえば、金髪でセミロングの青い瞳。武器も装備も、そんな貧相なわけが……」

「……はいはい」


 するとアスカは、自分の頭に手をやり、黒髪でショートボブのウィッグを取り外した。

 そして目の中から、黒色のカラーコンタクトレンズを取り外す。

 まとめていた金髪の髪をほどき、ゼイにその姿を見せた。

 金髪でセミロングの、青い瞳。

 間違いなく、【狩人雑誌(ハンターマガジン)】で誰もが見たことのあるアスカ・ジョワユーズだ。


 そしてアスカは、ゼイに【狩人記録(ハンタードキュメント)】を見せ付けた。

 【狩人記録(ハンタードキュメント)】とは全ての【狩人(ハンター)】が持つカードであり、自身のレベルやステータスが記されている。

 ゼイはアスカの容姿と【狩人記録(ハンタードキュメント)】を見て、開いた口が塞がらなかった。


 アスカ・ジョワユーズ

 性別 女

 レベル 40

 戦闘能力 A

 補助能力 A

 戦闘感覚 A

 身体能力 A

 スキル 《絶対剣感》《全剣技》

 魔法 なし

 E 《ロングソード》(長剣) 攻撃力 38

 E 《皮の鎧》(軽鎧) 防御力 28


「ステータスオールA!? A、B、C、D、E、Fの順で高いんですよね? 初めて見ました……」

「レベルやステータスは、更新時魔法でカードに記されるからね。イカサマはできないわよ」

「分かってます……やっぱり、スキルもあるんだ……」

「まぁね」

「《絶対剣感》って、どんなスキルなんですか?」

「あれよ、どんな剣技でも認識しちゃうの。だからオマケに、《全剣技》で扱うこともできるわ」

「ほえええええええ……」

「で、容姿は脇役っぽく装飾品ショップで変装したの。武器と装備は、あえて安いのを買っただけ」

「……はぁ」

「ちょっと、聞いてる?」

「きっ、聞いてます!」


 アスカに言い寄られ、ゼイがあたふたとした様子を見せる。

 元々アスカは、強さだけではなく美少女としても有名だ。

 ゼイは本来の姿へと戻ったアスカに、ついつい見とれてしまっていたのである。


「脇役っぽくなるために、あんたみたいな眼鏡も考えたけどね。さすがにそれは狙いすぎかなと思ってさ」

「色々と、考えているんですね……」

「当たり前じゃない。そうだ、あんたの【狩人記録(ハンタードキュメント)】も見せてよ」

「ええっ!?」

「早く!」


 再びアスカに言い寄られ、ゼイは渋々と【狩人記録(ハンタードキュメント)】を提示した。


 ゼイ・デュランダール

 性別 男

 レベル 5

 戦闘能力 F

 補助能力 F

 戦闘感覚 C

 身体能力 F

 スキル なし

 魔法 なし

 E 《ロングソード》(長剣) 攻撃力 38

 E 《皮の鎧》(軽鎧) 防御力 28


「ふーん、戦闘感覚はCか……。っていうか、あんたステータスも容姿も地味ね」

「ほっ、ほっといてください!」

「とりあえず、これあげるわ」

「こっ、これは……!」


 驚いた表情を見せたゼイに、アスカから高価そうな武器と鎧が差し出される。


「これは聖剣と呼ばれる《エクスカリバー》と、防具ショップで買える軽鎧じゃ一番高価な《騎士の鎧》……!」

「私が先週まで使ってたやつよ。あげるわ」

「いやいやいやいや!」

「あげるって言ってるでしょ?」

「でもこれ、攻撃力255と防御力72ですよ!?」

「うるさいわね! ――さてと、次は奢ってあげるから、装飾品ショップに行きましょ」

「えっ?」

「あんたを、主人公っぽくするわよー!」

「えええええええっ!?」


 そのままゼイは、渋々《エクスカリバー》と《騎士の鎧》を装備した。

 もちろんアスカも、地味な姿へと戻る。

 こうして二人は宿屋を出て、町の装飾品ショップに向かった。


     †


 ここロードの町は、【ランド・ランド】でも比較的大きな町だ。

 建物もほとんど石造りで、立派な雰囲気。

 色々な商店もあり、日々大勢の人達で賑わっている。


 二人は装飾品ショップに到着して、店内へと入った。


「――この辺ね」

「アッ、アスカさん、俺そんなにホリィないですから!」

「奢ってあげるって言ったでしょ? PT(パーティ)組んでくれたお礼ぐらい、させなさいよね」

「いやいやいやいや!」


 ホリィとは、【ランド・ランド】の通貨名だ。

 恐らく新米【狩人(ハンター)】のゼイは、あまりホリィを持っていないはず。

 逆に伝説の【狩人(ハンター)】であるアスカは、ホリィなど余るくらい持っているだろう。


「うーん……これにしよっか!」

「えっ?」

「金髪でミディアムヘアのウィッグ、瞳の色は……青かな!」

「まんま元のアスカさんじゃないですか!」

「文句ある?」

「……ないです」

「ほら早く! 着けてみて!」


 ゼイが金髪でミディアムヘアのウィッグと、青色のカラーコンタクトレンズを身に着ける。

 すると地味であったゼイの容姿は、《エクスカリバー》と《騎士の鎧》のおかげもあり、見た目だけは相当強そうな【狩人(ハンター)】へと変貌を遂げた。


「おー! いいじゃない! 主人公っぽいわよ!」

「……そっ、そうですかね?」

「――よし、次はあそこね」

「えっ?」

「狩人協会よ。PT(パーティ)登録しなきゃ!」


 アスカが笑顔で、ゼイの背中を叩く。


 二人はウィッグとカラーコンタクトレンズを購入し、装飾品ショップを後にした。

 そしてそのまま、狩人協会へと向かい出す。

 もちろん『オーク』の洞窟から、【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】も鳩の姿に変わって二人に付いて来ていた。


     †


――狩人協会。

 町の中でも、お屋敷のような一際大きい建物にそこはあり、この世界の象徴ともいえる場所だ。

 そして町と同じく、日々大勢の【狩人(ハンター)】達で賑わっている。


 するとゼイは狩人協会に到着した途端、真っ先にある人物の元へと駆け寄った。

 そこは【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】を渡す場所、いわゆる換金所だ。


「こんにちは! クラウさん!」

「……ゼイ君!? イメチェンしたんだー。こんにちは」

「はは……いろいろありまして」


 そこにいたのは、茶髪でロングヘア、緑色の瞳。

 見るからに優しそうな顔をした、クラウと呼ばれる女性であった。

 クラウの服装は、白いシャツの上に黒いベストを着て、これまた黒いタイトスカート。

 大人な雰囲気を持つ、綺麗な女性だ。


 ゼイが満面の笑みを浮かべながら、クラウに【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】を手渡す。

 アスカも遅れて、その場へと歩み寄った。


「お疲れ様。三日後には、口座にホリィが振り込まれるからね」

「よろしくお願いします!」

「……ははーん、ほほーん、ふふーん」


 アスカがクラウを見るなり、ゼイの腰を肘でつつく。


「……あら、お連れさん?」

「はっ、はい! 今からPT(パーティ)登録しようとしている、アス――」

「はじめまして! こやつの師匠、カテナ・レーヴァテインです!」

「ええっ!?」

「ゼイ君、お師匠様がいたんだ。はじめまして、クラウ・リジール、二十二歳です」

「ちょっと! アス……カテナさん!?」


 ゼイはクラウに背を向けた後、アスカに対し驚いた表情を見せた。

 そのままアスカへと、小声で話し出す。


「なっ、なんなんですか? いきなり……!」

「馬鹿ね。偽名を使わないと、【狩人雑誌(ハンターマガジン)】に脇役として載れないでしょ?」

「……なるほど」

「私を誰だと思ってるのよ」

「失礼しました……」


 ゼイは会話を終え、クラウにアスカとのPT(パーティ)登録をお願いした。


「――はい、PT(パーティ)登録しておいたわよ。これでカテナさんも、ゼイ君の【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】に映るようになるわ」

「ありがとうございます! こやつの安全は、私にお任せください!」

「……はは、アス……いやカテナさん。このクラウさんは、俺が【狩人(ハンター)】レベル1からお世話になってる――」

「【狩人雑誌(ハンターマガジン)】に載って、活躍を見せたいあのお方ね!」

「ちょ、ちょっと! なに言ってるんですか!?」

「なにがぁー?」


 アスカの言動に、ゼイが顔を真っ赤にする。


「クラウさん! 何かモンスター討伐依頼はないですか!?」

「えっ? ええ……そうね。オリジンの村から、『ゴブリン』討伐の依頼があるわ」

「そっ、それ行きます!」


 ゼイは必死に話題を変えようとした結果、そのまま【狩り(ハント)】の依頼を承諾した。

 そしてクラウから、新しい【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】を受け取る。

 こうしてゼイとアスカは、急遽【狩り(ハント)】に向かうこととなり、狩人協会を後にした。


     †


 ニヤニヤとした表情のアスカを、ゼイが睨みつける。


「――まったく、余計なことを言わないでください!」

「なによ、いいじゃない。クラウさんだっけ? スタイル抜群だったわねぇ?」

「……ですけど」


 ゼイはこっそりと、アスカとクラウのスタイルを見比べた。

 スタイルだけなら、完全にクラウへ軍配が上がる。

 しかし次の瞬間、アスカの持つ剣がゼイの喉元へと向けられたのだ。






「どこ見てんのよ!?」

「すっ、すみませえええええええん!!」






 ゼイの悲鳴が、夕暮れ時を迎えたロードの町に響き渡った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ