表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、レベル50になったら、告白するんだ  作者: 田仲ケンジ
第一章 フォー リーフ クローバー
1/73

第一話 伝説の狩人

 

 〔ギルド【ドブネズミ魂】所属のPT(パーティ)! 巧みな連携で『ミノタウロス』を撃破!〕


「うおおおおおおおっ! 『ミノタウロス』を討伐かぁー!」


 天気は晴天、穏やかな気候。

 大きな平原に涼しげな風が吹き渡り、草木を揺らしている。

 そんな場所に、なぜか男性の声が響き渡っていた。


 〔今回の見所は、アタッカーが攻撃を受けた直後、瞬時に回復魔法をかけた彼だ!〕


「ナイスタイミング! しびれるねぇー!」


 〔大剣使い待望の、《ツヴァイハンダー》新発売! これで君も、一流の【狩人(ハンター)】になろう!〕


「新しい武器、そろそろ欲しいなぁ……でも今週号は、やっぱこれだな!」


 声の正体は、雑誌を読みながら歩いている一人の少年。

 少年は雑誌の巻頭記事を見直し、驚いた表情を見せた。


「ほえええええええ……」


 雑誌の巻頭記事には、金髪の美少女が写る画像と共にこう書かれている。


 〔【剣聖】アスカ・ジョワユーズ! ソロで『レッドドラゴン』を討伐!〕


     †


――人間とモンスターが共存する世界、【ランド・ランド】。


 共存するといっても、モンスターは基本的に人間よりも強力な存在だ。

 一部のモンスター達が行う悪行に、人々は長年悩まされてきた。


 だが近年、狩人協会という組織が世界各地に設立され、【狩人(ハンター)】と呼ばれるモンスター退治専門の職業が生まれたのだ。

 その【狩人(ハンター)】へとなった者達が、モンスターを剣と魔法で【狩り(ハント)】することにより、この世界の人々は平和な生活を送っている。


     †


 雑誌を読んでいる少年の名は、ゼイ・デュランダール。

 黒髪で、ミディアムヘア。

 瞳の色も黒色で、眼鏡をかけている。

 十七歳で、彼も新米の【狩人(ハンター)】だ。


「……ここか」


 するとゼイは、とある洞窟へと到着した。

 背中に担ぐ大きなアイテム袋に雑誌を入れ、安物の武器、《ロングソード》を鞘から取り出す。

 ここは、通称『オーク』の洞窟。

 ゼイは『オーク』というモンスターの討伐依頼を受け、【狩り(ハント)】に来ていたのだ。

 まだ早朝だからか、ゼイ以外の【狩人(ハンター)】は誰も見当たらない。


「よしっ、行くか……!」


 ゼイは緊張をしているのか、強張った表情で洞窟の中に入った。

 なぜか一匹の兎も、ゼイの後を追い洞窟の中へと入っていく。

 薄暗く、ひんやりとした空気の洞窟内部。

 ゼイは最初の通路を抜け、小さなフロアへと辿り着いた。


『グルルルルルルル……』


 なにやら、唸り声が聞こえる。

 ゼイがいるフロアの、その先にある通路からだ。


「……いた!」


 通路から迫り来るシルエットに、ゼイが脅えた様子を見せ後ずさりをする。

 そのシルエットは近づくにつれ鮮明になり、ゼイの二倍くらいはある巨体な姿を現した。


 モンスターの、『オーク』だ。

 浅黒い肌、血走り濁った瞳。

 『オーク』は人間型のモンスターだが、下顎がせり出して牙がはみ出ており、完全に人間とはかけ離れた容姿をしている。

 そして歩くたびに地響きを起こし、手には大きな金棒を持っていた。

 ゼイは一心不乱に剣を構えるが、手の震えが止まらない。


「落ち着け、こういう時はモンスターも空気を呼んで待ってくれるはず……!」


 しかし『オーク』は、構わずゼイに襲い掛かってきた。


「ですよねえええええええ!!」

『グオオオオオオオ!!』


 そのまま『オーク』の持つ金棒が、絶叫するゼイ目掛けて振り下ろされる。


「うわっ!」


 ゼイは間一髪で、その攻撃をかわした。

 金棒は地面に叩きつけられ、洞窟内に轟音が響き渡る。

 攻撃の衝撃は凄まじく、土の地面は砕け洞窟の天井からは土煙が降り注いだ。

 そんな『オーク』が見せる、非常に重たい攻撃。

 ゼイの防具はこれまた安物の《皮の鎧》なので、『オーク』の攻撃を一撃でも喰らうと致命傷は間違いない。


「くっ……! 今日こそ【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】に、良いところを見せないと!」


 ゼイは『オーク』の存在に注意をしつつ、自身の真上へと目を向けた。


 上空には、一匹の小さなコウモリが飛んでいる。

 そのコウモリは、なぜかゼイと『オーク』の戦闘を、まるで観戦しているかのような動きを見せていた。


 実はこのコウモリ、【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】と呼ばれる精霊なのだ。


 【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】とは、【狩人(ハンター)】が【狩り(ハント)】へ出向く前に狩人協会から手渡される精霊。

 今はコウモリの姿をしているが、場所によって姿かたちを自由自在に変える能力を持っている。

 先程ゼイと共に洞窟へ入った兎が【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】であり、コウモリへと姿を変えていたのだ。

 そしてその目で見た【狩人(ハンター)】達の戦闘を魔法の力で映像として記録し、【狩人(ハンター)】達は【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】を狩人協会に持ち帰った後、活躍に応じた報酬を貰える仕組みになっている。


『グオオオオオオオ!!』


 『オーク』は金棒を構え直し、再びゼイに襲い掛かった。


「ソロで『オーク』を倒したりなんかしたら、きっと……!」


 ゼイも震える手で、再び剣を構え直す。

 最初とは違い、真剣な眼差しを見せながら――。


「――やっぱだめだぁ!」


 一瞬だった。

 先程見せた威勢は、どこへいったのか。

 ゼイは『オーク』の容赦ない攻撃を、ゴロゴロと転げ回り必死にかわし続けた。

 そんなゼイに、攻撃をする余裕はありそうにない。


「このままじゃ【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】に、俺の死体姿が記録されそうだ……」


――いざとなったら、逃げよう。

 恐らくゼイの脳裏に、そのような諦めの言葉がよぎったその時だった。


「縦振り!」


 女性の声が、洞窟内に響き渡る。


「よっ!」


 ゼイは女性の声を聞いて、今までとは違い反応良く『オーク』の攻撃をかわした。


「そのまま懐に入って! 攻撃!」


 再び響く女性の声と同じように、ゼイが『オーク』の懐へと入る。

 そしてゼイは手に持つ剣で、『オーク』のわき腹に一太刀を入れた。

 『オーク』のわき腹から、鮮血がほとばしる。


『グオオッ!』

「……やった!」

「ぶん回しくるわよ! 背後に回って!」

「――攻撃! ですよね!?」

「そう!」


 幻聴じゃない。

 ゼイの言葉に、確かに返事が聞こえた。

 すかさずゼイが『オーク』の背後に回り、再び攻撃を加える。


『グオオオオオッ!』

「よしっ!」

「気を抜いちゃだめよ!」


 女性の助言もあって、ゼイはまるで『オーク』の動きを予測しているかのように行動をした。

 そんなゼイの速さに、『オーク』はまったく付いていけていない。


『グオオオオオオオ!!』

「『オーク』が振り向くわ! そこで止めよ!」

「うおおおおおおお!!」


 ゼイは『オーク』が振り向いた瞬間、力込めて渾身の一撃を仕掛けた。

 脳天から下腹部までを、剣で一線。

 ゼイの全身に、『オーク』の返り血がバシャバシャとかかる。


『……グ、オオ……』


 『オーク』はそのまま力尽き、その場に倒れ込んだ。

 ゼイが息を切らしながら、その様子を見つめる。


「……やった、勝った……あれっ?」


 するとゼイは、キョトンとした表情を見せた。

 それもそのはず、倒れた『オーク』の背後に、一人の少女が立っていたのだから――。

 少女は肩の上にゼイとお揃いの《ロングソード》を載せて、なぜか後ろを向き微笑んでいた。

 ゼイが首をかしげながら、少女に声を掛ける。


「……あのー、何やっているんですか?」

「えっ? 何って、よくあるじゃない。脇役が後ろ向きで、微笑んでいるシーン」

「シーン?」

「そう、シーン」

「……はぁ」

「分からない? 主人公がモンスターを倒して、地味に活躍した脇役が――」

「あぁ、その脇役の目が前髪で隠れていたりしたら、もっと渋いみたいな?」

「そう!」


 少女は凄く嬉しそうな笑顔を見せ、ゼイに駆け寄ってきた。

 黒髪でショートボブ、瞳の色は黒色。

 鎧もゼイとお揃いの《皮の鎧》で、下に黒いスパッツを穿いている。

 見るからに、地味な少女だ。


「あんた、なかなか分かってるわね!」

「……【狩人(ハンター)】ですか?」

「そうよ。あー、今のシーン、練習にしてはもったいなかったなぁ!」

「練習……? まぁ、助言はありがたかったですけど……」

「私はね、【狩人雑誌(ハンターマガジン)】に載りたいの!」


 【狩人雑誌(ハンターマガジン)】とは、ゼイが洞窟へ入る前に読んでいた雑誌の名前。

 狩人協会が一週間に一度発行している、【狩人(ハンター)】達の活動が載せられた雑誌だ。

 【狩人精霊(ハンタースピリッツ)】の映像を画像にして活躍を伝えられたりする、いわゆる【狩人(ハンター)】達の愛読書。

 少女の言葉を聞き、ゼイも同じように笑顔を見せる。


「【狩人雑誌(ハンターマガジン)】……わっ、分かります! 俺もそれに載りたくて!」

「おっ、あんた気があうわね! あんたは何? 有名にでもなりたいから?」

「……まぁ、それもありますけど、見てもらいたい人がいるというか……」

「ははーん、気になる女の子でもいるわけね?」

「……そんな感じです」


 ニヤニヤと笑う少女に言い寄られ、ゼイの顔は赤らんだ。


「あんた、レベルは?」

「あっ……5です」

「レベル5!? ソロで『オーク』を【狩り(ハント)】するレベルじゃないじゃない!?」

「はは……今日は【狩人雑誌(ハンターマガジン)】の締め切り日だし、ちょっと焦って背伸び【狩り(ハント)】しちゃって……」

「長剣を使ってるんだから、せめて盾を装備しなさいよ! 私は機動性重視で、盾は装備しないけどさ!」

「俺も、そんな感じです……」

「まったく……まぁおかげで私は、いいシーンの練習になったけどね」

「助言、ありがとうございました!」


 すると少女は、一瞬考え込むような仕草を見せた。

 しかしすぐさま、ゼイの左肩を叩く。

 

「――よし。ねぇあんた、私とPT(パーティ)組まない?」

「えっ?」

「さっきのあれ、なかなかの戦闘センスだったわよ!」

「……ありがとうございます」

「お互い【狩人雑誌(ハンターマガジン)】に載るためにさ、協力しましょうよ!」

「おっ、俺は別に構わないですけど……」

「決まりね! よろしく!」

「よっ、よろしくお願いします!」


 ゼイはいきなりの提案に驚いた表情をしつつも、PT(パーティ)を組むことを承諾して少女と握手を交わした。


「俺の名前は、ゼイ・デュランダール。十七歳です」

「私は、アスカ・ジョワユーズ。十九歳よ」

「えっ?」

「何?」

「あの……伝説の?」

「そうよ」


 洞窟内に、沈黙の空気が流れる。






「えええええええっ!?」






 少し間が開いて、ゼイの叫び声が洞窟内に響き渡った。


 なんとこの少女は、【狩人(ハンター)】レベル40、先程ゼイが【狩人雑誌(ハンターマガジン)】で見た伝説の【狩人(ハンター)】アスカ・ジョワユーズだったのだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ