表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

新しいもの、新しいこと

寝ようと思ったら思いついたお話を膨らませただけ

執筆時間おおよそ2時間半

 暗い・・・いや黒い、気がつけばそんな空間にいた。

 周りは漆黒の闇に包まれている。

 いつからここにいたのかもはっきりとは覚えていない。


「なんだここは・・・?」


 呟く、いや呟いたはずだった。

 自分が今しがた呟いたはずの言葉はその一切を自分に伝えてくれなかった。

 そして今更ながらに気付く、全ての感覚が闇に閉ざされている。

 今、自分は目を開けているのだろうか?

 それとも閉ざしているのだろうか?

 それすらも分からない・・・

 一切の感覚、そう触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚といった五感の全てを感じられない。

 だが意識ははっきりとしている。


「僕の名前は神前 衝(かんざきしょう)、日本人、オタク、21歳・・・」


 そう口に出す、音は聞こえないから出したはずといったほうが正しいのか。


「いったい何なんだ・・・夢か?」


 それにしては意識がはっきりしているが。

 そのうえ凄く冷静でいられる自分に驚いている。

 とりあえず現状を理解できないため今に至ったことについて振り返ってみる。


 ???


 思い出せない・・・?

 思い出そうとするが自分がどういった経緯でここにいるのか。

 それだけではない、今まで自分が送ってきた生活、その全てにモヤがかかったようになる。

 名前としては出てくる、だがそれについてどういったことをした、何があったなどは思い出せない。

 変な感じだ、大学で親しかった友人もいた、家では読みかけの本があった。

 あった、いたということは覚えている、だがその場面を思い出せない。

 その内容、全てが曖昧に感じる、本当にそのことを体験していたのかさえ不安になってくる。


「どうなってるんだ・・・」


 しかし答えるものは無い、ただ無音が続くだけだ。


(夢ならさっさと覚めないかな・・・気味が悪い)


 その時突如として体に浮遊感を感じた。


(落ちてる・・・?)


 実際まだ体の感覚だけで視覚やその他の感覚が無いため方向が分からない。

 そのため落ちているのか上っているのかは分からない、だが先ほどとは違い確実に体に感覚があるのは分かる。

 しばらくすると・・・とはいってもどれ位たったかは分からないが視界に一筋の光が見えた。


「うわっ!?」


 一瞬のことだった。

 目の前を一気に白色の光が広がり埋め尽くす、そしてすぐに晴れていく。

 開けた視界に映ったのは空と星だった。


(どうなってるんだ?)


 夢だと思いたいが実際体に触れている感覚がある、夢であったとしたら相当にリアルな夢だ。

 今は地面に寝ているようで体を起こしてみようとする。

 しかし体は鉛でも入れられたように重く、ほとんど動かすことができない。

 首は何とか動かせるようで周囲を見渡してみる。


 ここは草原のようだ草のベッドの上で寝転がっているらしい、遠くには森らしきものや山なども見える。

 一体ここはどこなんだ・・・そもそも何故自分はこんなところで寝ているのか・・・

 考えれば考えるだけ疑問が膨れ上がってくる。


「なんなんだよ・・・」


 何度目の疑問か、何もかもが分からないことだらけだ。


「そもそもここは・・・どこだ・・・」


 そう口に出す、今度はきちんと聞こえた・・・聞こえたのだが・・・


(えっ?)


 声は聞こえた、だがそれは自分の声ではなく聴いたことも無い少女の声だった。

 かすれてはいるが自分の声はこんなにも高く幼いものではなかったはずだ。


「あー、あー」


 もう一度声を出してみるがやはり変わらない。


 しばらくすると少しずつだが体に力が入るようになってきた。

 体を起こしてみると自分の体に起こっている変化について分かってくる。


 まずは自分が自分ではない、

 なにが起こったのか分からないが今この体は元の大学生男性ではなく少女の姿をしている。

 やはり声からしておかしいとは思ったが、あるべきものが無く、無いはずのものがあったことを確認したことで確信した。

 自分が知っている現代技術ではこのようなことはできないはずだ。


(とするとやはり夢か?)


 だが自分の体にはきっちりとした感覚がある。

 そして少なくても元の自分の体ではないことも分かる、目線もいつもより低く感じる。

 体つきはまだ幼く女性らしさを出すような曲線もなく細く平坦であり、肌は今まで光に晒されたことが無いかのように白く輝いている。背もそれほど高くなくやはり少女といった感じだ。

 今はポンチョのような一枚の布切れで作ったようなものを身に付けている、起きたときから着ていたものだ。


(そして・・・この)


 一番気になったのは髪だ、透き通るような銀色で細く指通りもいい、どう見ても日本人の脱色や染色ではない本物の銀髪だ、それが大体肩の辺りまで伸びている。


 今の自分の姿を確認してみたいが周囲には草原が続いていて自分の姿を写すものは何もない。


 わかるのは目が覚めたら銀髪の少女になっていた、といことだ・・・


 意味が分からない。

 そもそもこれは夢なのか現実なのかも分からない。

 分からないことだらけだが今はできることを探そう、幸い体は軽くなら動かせる、少し歩いてみよう。

 ふらつく体を立たせて歩き出した。



 ---



 見通しのいい草原に荷車を曳いた一台の馬車が走っている。


「おい、あとどれ位で着くんだ?」

「あと大体1日ってところじゃねぇか?」


 ロイが尋ねる、その問いに対して答えてやる。


「そもそも魔物が出なけりゃこんな回り道してまで商品を運ぶ手間も無いのにな」

「それを言うな、こっちだって仕事だ、道を封鎖されていたとしても客は待ってくれないんだからな」


 そう言って馬車の後ろの方に顔を向ける。


 それは人だった、それも奴隷と呼ばれる種類のものだ。

 彼らの目はほとんどの者が虚ろで何処へも焦点を結んでいないか、暗い光を灯している。

 借金を抱えて、家で売られて、誘拐されてなど様々な理由があるが奴隷になったものはおおよその者がこのようになる。

 それが馬車に曳かれた荷車の檻の中に10人ほどいる。その全てが若い女だった。


「あー早く終わらせてたらふく酒を飲みたいぜ・・・」

「お前はいつも酒ばっかりじゃねーか」


 ハッハッハと笑いながら馬車の馬を御す。

 仕入れた奴隷を街まで運びそれを奴隷商に受け渡すことが今の役目である。


「少しくらいは手を出してもいいんじゃないか?」


 ロイはそう言って品定めをするように檻の中を覗き込む。


「おいおい、そんなことしたらカイムさんに殺されるぞ」

「ばれなきゃ問題ないって」

「お前はよくてもばれたらこっちまで迷惑なんだよ、仕事を一緒にしている以上連帯責任だろうが!」

「ッチ、ジェイグさんはお堅いねぇ」


 そう言ってロイは座りなおす。


「ん?なんだあれは」


 少し先、この馬車の通り道に人影が見える。


「どうした?」

「いや・・・」


 近づいてくるにつれその正体が分かる。

 馬車を止めてその姿を観察する。


「なんでこんなところに子供が・・・?」


 それはまだ幼い少女であった。

 透き通るような銀髪で、深く吸い込まれそうな碧眼、そんな少女が道をフラフラと歩いている。

 その少女は服とも呼べないような布を着ており、そしてこちらに気付いたのか何かを呟きながら

 向かってくる。


「なんだ・・・?おいお前、何故こんなところにいる」


 ここは街から馬車で1日以上かかる場所で近くに村落があるというのも聞いたことが無い、そしてジェイグはその少女は困惑したような顔をするだけで返事をしない。


(どこかから逃げてきた奴隷か?)


 そう考えれば確かにぼろを纏っていても不思議ではない。

 だが服のわりに見た目はとても綺麗だ、普通奴隷として扱われてきて服だけがぼろで体自体には傷がないというのはおかしい。

 大切に扱われてきたのなら服もそれなりに上等な物を着せられるだろうし、逆なら痣や傷がある。


(そしてすぐに逃げないのも変だ)

「おい、お前は何処から来た?」

「――――・・・――――・・・!」


 今度は少女からの反応があった、しかし返ってきたのは分からない言葉。


(他国の人間か?)


 だがこういった仕事をしているため様々な国の言葉を聞いたことがあるのだが、この少女が発した言葉は聞き覚えの無いものだった。


「とりあえずこっちに来なさい」


 そう言って手招く、すると少女は一度首を傾げたが素直にこちらにやってくる。

 こんな草原に子供が一人でいるのは危険だろう。


「俺の名前はジェイグだ、こんなところで一人なのもどうかと思うんだ、街まで乗って行け」


 自分を指差し何度かジェイグ・・・ジェイグと言ってやる。

 少女はそれを聞きしばらく考えてから自分を指差して言った。


「・・・ショー」

「ほうショーと言うのかよい名だ」


 そうして頭を撫でてやる。少女は困ったような顔をしながらなすがままになっている。


「おっさんも物好きだねぇ・・・」


 ロイが横から声をかける。


「俺には娘がいるんだがな、ちょうどこれくらいの年なんだ」

「へぇ・・・よくそれで奴隷の運び屋なんてやってるな」

「仕事は仕事だ、そこは弁えてる」


 馬車の中にスペースを作り少女に呼びかける。


「おい、こっちだ」


 少女に手招きをして馬車に入るように促す、少女は少しためらったが馬車に乗ってくる。

 不思議な子供ではあるが、初めからそうであったように特に害意はなさそうだ。

 馬車に乗った少女はそのまま崩れるように眠ってしまった。


「街まで連れて行って、それからどうするか考えよう」

「面倒なことにつき合わせないでくださいよー」


 ロイは本当に面倒そうな声でこちらに文句を言ってくる。


(この少女は一体何なのだ、街まで連れて行くことにしたが・・・街に着いたら異国の言葉に詳しい奴のところに連れて行ってみるか)


 疑問は残るがそうして再び馬車を走らせ始めた。



 ---



 目を覚ます。


(助かった・・・のか?)


 そして何があったのかを思い出す。

 黒い世界から感覚を取り戻してからしばらく歩いた、街の明かりや人を探してみようと思ったが周辺には何もなさそうだった。

 もともと体は重かったし、それに長時間歩いたためにもうほとんどフラフラの状態だった、馬車の音を聞くことができなかったら諦めて倒れていただろう。


 馬車に近づくと御者台から声をかけられた、何を言っているのか分からなかった。やはりここは日本ではないということを改めて実感した。

 男はこちらのほうを向いて手招きをしていた、このままではどうしようも無い男のほうへ寄る。


 その男は自分を指差しジェイグと何度か言った、おそらく名前だろう。

 信用していいかどうかは分からない、だが縋るしかないもの事実だ。

 相手が名乗っているんだ、こちらも名前だけは名乗っておく。


「・・・衝」

「--ショー・・--・・」


 男・・・ジェイグは嬉しそうに何かを言いながら頭を撫でてきた、こちらはあまり嬉しくは無かったが機嫌を損ねるものよくないと思いされるがままになった。

 その後ジェイグは馬車に乗るようにすすめてくれたので馬車に乗ったが、直後体力の限界だったのか一気に意識が遠くなった。


 目を覚ましてから考えた結果、とりあえず今の状態を夢ではないとすることにした。

 何故体が変化したのかなどの疑問はあるが感覚ははっきりしているし夢として考えるよりは現実として考えておいたほうが対処がしやすいと思ったからだ。


(それにしても本当にここは何処だ)


 馬車なんて初めて見た、その上言葉も通じない。

 少なくとも自分が知っている場所ではないだろう。


 この馬車の後ろにある荷車、その中には虚ろな目をした女性たちが乗っていた。

 おそらく奴隷だろうと思う、そして現代では奴隷といったものは禁止になっていたはずだ。

 ということはこの男達は真っ当なことをしている者達ではないと考えていた。


(さて、これからどうするか)


 今御者台に座っている男達、ジェイグと言っていた男と若い男はこれから僕をどうするのかは分からない。

 が少なくとも他に人がいるところまでは連れて行ってもらえるだろう、もし男達に何かされそうなときはその時に何とか抜け出すことができればいいのだが。



 それからどれ位経っただろう、日は昇り明るくなると一度馬車を止め休憩することにしたようだ。

 男達は馬車の中から干し肉やパンといった食事をし始めた、食事は奴隷たちにもさせているようだがあまり積極的に食べるものは少ない。

 ジェイグと言った男がこちらにやってきてパンと水を渡してくる。


「―――・・・・・――」

「あ、ありがとう・・・」


 やはり何を言っているのかは分からないが、今はそこまで警戒する必要も無いのかもしれない。

 それからすぐに出発の準備が終わりまた馬車が走り出す。

 そして日が沈むころには遠くに街が見えるようになっていた。



 ---






寝ます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ