第五話 市場(後編)
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距離にして、どれくらいだろうか。
目的地である時計塔を通り過ぎ、市場も通り過ぎ、
質素な、田舎の住宅が立ち並ぶ村の閑静な路地で、
アベルトが立ち止まり、程なくして、リリアが追いついた。
「はぁ、はぁー……ちょっと……待ってよ、アベルト」
「どうしたリリア。だらしがないぞ。……見てみろよ、俺なんて全然疲れていないぜ!」
息一つ乱していないアベルトが、涼しい顔でリリアを見下ろし、
得意顔を見せつけた。
そんなアベルトに対し、前屈みになりながら、リリアが言い返す。
「……はぁ?……ちょっと……体力馬鹿のアベルトと一緒に……しないでくれる?」
「ああ? 何だと!」
リリアの言葉にカチンときたのか、
アベルトが睨む。
そして険悪な雰囲気に……と思いきや、
アベルトは俺の顔を見ながら、
喉元まで出かかった言葉を呑み込み、
まるで我慢をするかのように「ちっ!」と、舌打ちをした。
そこへ、フリームが「ひーひー」と息を切らし、
今にも泣きそうな情けない声を絞り出しながら、走って来る。
「待ってくださいよ~三人とも~。ヴぉ、ボぉクを置いていかない、ゲホッ、ゲホッ」
「おい、フリーム。お前もだらしがないぞ!」
「はひ??」
「………」
《いやいや。お前の体力が、異常なんだよアベルト》
状況を理解していないフリームに代わり、俺がツッコむ。
つーか、どんだけ体力があるんだ、コイツ。
でも、リリアは別として、
フリームは、もう少し体力と筋肉を付けた方がいいかもな。
と、それは置いといて……。
「んんっ!」
《いつまで俺を、お姫様だっこしてんだよっ!》
俺は、アベルトに抱かれている状態で、手足を思いっきりばたつかせた。
《早く降ろせバカルト(アベルト)!》
だがコイツ、かなりの馬鹿力で、まったく微動だにしない。
「ど、どうしたんだハヤ!?」
駄々っ子のように暴れだす俺を見て、アベルトが動揺する。
「アベルト、早くハヤお姉さまを降ろしなさい!」
「え? あ、そっか。ごめんごめん」
リリアに言われ、ようやく理解したのか、
アベルトが俺を降ろした。 てか、早く気づけよ! 体力バカっ!
「まったく。どさくさに紛れて、ハヤお姉さまに触るなんて……アベルトのスケベっ!」
「あははは。って、おい。スケベってなんだよっ! リリア」
「そのままの意味よっ……ね、フリーム」
リリアが、何やら怒った語調で、
「はーはー」と息を切らしているフリームの方へ振り向く。
フリームは、突然リリアから話しを振られ、
「はへ?」
と、間の抜けた返事をした。
「そうよ”ね”? フリーム」
「え? は……はあ。まあ、確かに抱きかかえる必要は無かった気もしますね。
しかも、大勢の前で、あんな大胆な……いくらアベルトが、ハヤの事を、す……ではなくて、ボクだってドキドキしてしまいますよ」
途中、何かを言いかけたフリーム。
《……てか、やっぱり男だって『お姫様だっこ』されたら、ドキドキしちゃうよな? しかもあんな状況で、いきなりだもんな!》
それを聞いて安心した。
やっぱり俺は男だ。
女ではない!
「ちょっ、フリームお前! 何を言って……って、俺は、ハヤが困っていたから助けようとしただけで、べ、別にハヤの事が好……いや、あの時は、ああするしか頭に無くて……」
顔を真っ赤にして、焦るアベルト。
フリームと同じく何かを言いかける。
「『べつに好……』って何?」
リリアが、怪訝な顔で、すかさずアベルトに訊き返えした。
「え? な、何でもねーよ。リリア」
「ふーん……ねえ、アベルト。さっきの『行動』について、ちょっと話しがあるんだけど」
「は? お、おう……」
リリアの威圧感のある語調に、アベルトの顔が引きつる。
きっと、これはリリアが相当怒っている証拠なのだろう。
て言うか、リリアの怒っている姿、初めて見た。
と、思ったが、
よくよく考えたら出会ってまだ五日間くらいしか経っていないし、当然か。
まだ五日間……。
なんだかんだ言って、この世界に馴染んでいるせいか、すっかり忘れていた。
不思議と、ずっと昔からこの世界に居るような気がする。
それとも、
《実は俺って、適応力が高いとか? てへっ》
[うん。ちがうよー。全部ウチのお陰だよ♪]
「!?」
《!?》
またこの声!
しかも、さっきよりも、はっきりくっきりと聞こえる。
だが……恐怖感はまったく無い。
コレは、いったい―――。
「ハヤお姉さま?」
「………」
《………》
「ハヤお姉さま??」
「!?」
《ぬあっ? リリアの声?》
『謎の声』の事を考えていた俺。
リリアに体を揺すられ、ハッと我に返る。
「んっ?」
《あれ? 何で皆、俺の方を向いているんだ?》
「大丈夫ですか? アベルトに変なところ触られませんでしたか?」
変なところ?
……何の話し?
「て言うか、俺、そんなに信用無いのか?」
「信用無い訳ではありませんが、考えなしの行動が多いですからねアベルトは。特に魔物との戦いでは、ブツブツ……」
「って、それは、今、関係なくないか? フリーム」
「関係あるわよアベルト。……それはともかく、もう一度聞くけど、本当にハヤお姉さまの胸やお尻は触ってないんでしょうね?」
「だ・か・ら、何度も言ってるだろリリア! そんな所は触ってないって」
まるで、痴漢の容疑者みたいな扱いをされているアベルト。
リリアが「今後は、ハヤお姉さまに対して、もっと気を使ってよね! 分かった?」と、念を押す。
その言葉に、そっぽを向くアベルト。
「ちっ。わかったよ! どいつもこいつも、まったく……」
アベルトは、フリームに痛いところを突かれ、
リリアに諭され、不貞腐れたような顔をする。
まあ、この俺を辱めた罰だ。
大いに反省しろよ、アベルト。
……でも、本当は俺をあの場所から助けてくようとしたんだよな?
それについては、一応、感謝しないと。かな? 行動はどうあれ、悪気が無いことは理解した。
―――が、
やっぱり、お姫様だっこは正直ないだろ。 本当に屈辱だ。
と、その時。
「そうだ! ハヤ、これを貴女に貸します」
フリームが突然、背負っていたリュックサックを下ろし、
中から『黒いとんがり帽子』を取り出した―――。
「これで多少は、他人の視線を……」
◆◆◆
十分後。時計塔の下の『市場案内図』が設置されている前。
俺たち四人は、案内図が描かれた、この大きな薄い鉄板を眺めていた。
「………むむむっ」(じーっ)
《むむむっ》
と、言っても俺は全く読めていないんだけど。
「……で、リリアたちは『服屋』に行くんだっけ?」
俺とリリアに確認をするように訊ねるアベルト。
コイツ、気持ちの切り替えが早いなっ。
さっきの事、もう少し反省しろよ。
「そうよ。でも『誰かさん』に走らされたお陰で、予定の時間よりも、だいぶ遅くなっちゃったけど」
皮肉を交えながらリリアが答える。
「あー。はいはい。それは悪うございました……(ったく、まだ怒ってんのかよ)」
アベルトは、まったく悪びれる様子もなく、適当に謝り、
「それじゃあ、ハヤとリリアは、『服屋』へ行って、
俺は『武具屋』をまわって、フリームは婆さんに頼まれた魔術書を買いに『魔書店』と、研究用の道具を探しに『魔法器具屋』に……」
と、案内図を眺めながら、スケジュールを確認する。
今更だが、俺は服を買いに来ている事を思い出した。
村には服屋がないから、「この機会に」と、エマが、俺に小遣いをくれたんだっけ。
ちなみにそのお金が入った財布は、リリアのショルダーバッグに入っている。
「よし、集合場所は、南口屋台エリアの『ティザ』屋の前な! で、時間は……昼くらいで良いか?」
集合場所と時間を決めるアベルト。
屋台エリア?
あー、そう言えば、市場の入口にフードコートみたいに、屋台がいくつも並んでる場所が在ったな。
あそこの事かな?
だけど、『ティザ』って何だろう?
この世界のお菓子?
いや、屋台って言っているから、ラーメンとか、おでんとか、かな?
「わかったわよ……」
「はい。昼ですね」
「んっ」
《お、おう》
アベルトの確認に、
やや不機嫌顔のリリアと、
買い物がしたくて、ウズウズしているフリームが頷き、
俺も、つられて頷いた。
「んんっ♪」
《この世界の屋台かぁ、どんな物か分からないけど、楽しみだ♪》
―――いつの間にか、目的が変わっている俺。
◆◆◆
広場の時計塔が、午前十時過ぎをさしている。
四人で、市場の案内図を確認後、
俺とリリアは、『服屋』がズラリと並んでいるエリアにやって来た。
と言っても三店舗しかないけど。
リリア曰く「今回は、お店が少ないです。先月はもっと、あったのに……」だ、そうだ。
おまけに、リリアが行き付けの服屋は今回は来ていないらしい。
だが、俺は通行人たちの会話を聞き逃さなかった。
どうやら、この三店舗以外の他の服屋は、村への到着が遅れているらしく、
開店は明日以降になるとか。
こんな事は初めてだという事も言っていた。
しかし、今の俺には、それをリリアに伝えることが出来ない。
リリアの残念そうな顔を見ると、余計にもどかしさがこみ上げる。
「無いものは、仕方ありませんよね……。でも折角ですから、お店に入りましょうハヤお姉さま」
気を取り直したリリアが、俺に向かって微笑む。
「んっ」
《だな……》
―――んで、
その三店だが
一店は紳士用で所謂メンズ用。
もう一店は婦人用だが……どうも、お値段が高めな感じ。
なので、必然的に最後の一店で服を買うことにした。
それに何となくこの店は、若い女性向けのようだし。
その前に、今の俺の格好だが。
お馴染みの魔女っ娘スタイルに加え、
先ほどの件(周りの注目を浴びた)を教訓に、
時計塔(案内図)へ向かう前にフリームが貸してくれた予備の『黒いとんがり帽子』を被っている。
何となくだが、これを装備したことで、完全に『魔女っ娘』になった気分だ。
つまり『魔女っ娘スタイル・完全版』
もちろん、顔を隠すため、フリームの如く帽子を深く被る俺。
ちなみに彼―――フリームは、今日のどんよりと曇っている空を見て、
もし、雨が降って濡れても良いようにと、
この予備の帽子と、服を持ってきていたらしい。
「………」
《だから、リュックみたいなバッグが、あんなに膨れていたのか》
何とも用意がいいと言うか、
そんなに素顔を晒したくないのか? と言うか……。
だったら傘を持って来いよなと、言いたいが、
お陰で帽子を借りられた訳だし、敢えてツッコまないでおこう。
「では、ハヤお姉さま。行きましょう」
リリアが服屋の入り口の前で振り返り、俺を呼ぶ。
「んっ」
《うん》
頷く俺。
ところで、何でこの服屋だけ、テントなんだ?
他の服屋は露店ぽいのに。
あ、でも、市場内の他の店でも、テント型は見かけたな。
べつに深い意味はないのだろう。
俺とリリアがテントの中に入る。
と同時に、女の声が、
「いらっしゃいませぇ~」
と、俺たちを迎えた。
その瞬間、何故か嫌な予感が俺の全身を駆け巡る。
◆◆◆
テントの―――店の中は、以外と明るく、なかなか広く感じた。
更に、王都か帝都の若い女性向けの服だろうか、
派手なデザインが、やたらと目につく。
店員は三人? 客は俺とリリアを除き五、六人くらいかな?
意外と少ない。
だが、リリアは、
「何だか緊張しますね。ハヤお姉さま」
服を眺めながら小声で俺に言う。
こういう雰囲気の店は初めてなのだろう。
緊張しているのが目に見えてわかる。
もちろん俺だって緊張している。
女性用の服を買う事自体、初めての体験だし。
てか、リリア以上に緊張しているんですけど。
「んっ」
《だな》
リリアの横に並び、同じく服を眺める俺は相槌をうった。
そして暫く、
いまいちな服を手に取ったり、戻したりを繰り返している俺たちの所へ、
「どんな服をお探しですかぁ~? クスっ」
と、いかにも『店員』らしき、オシャレな―――派手なお姉さんが、
俺の『魔女っ娘スタイル・完全版』をガン見しながら、声をかけて来た。
つーか、微妙に笑っていないか? このお姉さん。
それに何? その豹柄の獣耳と尻尾。
この人、豹のコスプレでもしているのか?
でも……耳と尻尾が、
まるで生きているかのように動いている??
何で? いったい、どんな仕掛けで―――。
いや、よく考えろ俺。
ここは異世界だ。 つまりアレは、
[半獣人だねっ♪]
「??」
《はあ? 半獣人?》
また、あの少女の声が俺の耳元に―――いや、頭の中に響く。
[んとねー、この世界には、ガチで獣な『獣人族』と、人間族に近い姿の『半獣人族』って言うのが居るんだよー]
「んんっ!」
《ふーん。なるほどな。……って、誰だお前!》
[………]
「ん! んんっ!」
《おい、聞こえているんだろ? 答えろよ。ずっと前から俺の耳元でゴチャゴチャ……おい!》
俺の質問に、とつぜん沈黙する謎の声。
そして、リリアと半獣人の派手なお姉さん店員が、怪訝な顔をする。
それに気付き、俺も沈黙する。
「それでぇ~、今日はどんな服をお探しですかぁ~?」
俺が、静かになったのを見て、
再び同じ質問をしてくる半獣人の派手なお姉さん店員。
「え、えっと。 か、可愛い服をいくつか……」
と、硬い表情で、リリアが答える。
半獣人の派手なお姉さん店員……もう『派手なお姉さん』でいいや―――は、「クスっ」と笑い、
「は~い。可愛い服ですねぇ~。では、こちらなんて、どうでしょ~。クスっ」
手際よく、五着の可愛らしい服を持ってくる。
て言うか……、
[て言うか、この店員、何だか気分悪いよねー]
って、またお前か!
[それに印象も良くないしー。この店、大丈夫? ウチ、何だか不安だよー]
《おい、お前!》
[きっと変な服とかー、普通に選びそ……]
《おい、聞いてんのか!?》
[ん? なぁにいー?]
《いい加減にしろよ》
[あれ? 何で怒ってるの?]
俺が『謎の声』にイライラしはじめた時だった、
派手なお姉さんが、手際よく持ってきた五点の服を並べ、俺たちに見せる。
「どうです~? クスッ」
同時に、俺の頭の中に響く声がピタリと止む。
「………」
《やっと静かになったか》
とりあえず、正体不明の『謎の声』は、後回しにして、
今は服を選ばなければ、だな。
俺とリリアは、派手なお姉さんが並べた服に視線を向けた。
そこには、
意外にも『普通』の服が並べられていた。
どれも、『普通』の長さのスカートと、
そのセットらしき、『普通』に清楚感が溢れている、可愛らしい服ばかり。
―――だが。
リリアは浮かない顔をしている。
何故だろう、この並べられた五着の服、
リリアの服の趣味に、近い気がするのだが……。
「えっと、そ、その……もう少し可愛い服をいくつか……」
と、注文するリリア。
緊張で顔が強ばっている。
「は~い。わかりましたぁ~」
今度は、さっきとは趣向がまったく違う『派手な服』を持ってくる『派手なお姉さん』
その瞬間、リリアの目が輝き、
「きゃーっ! そうです! コレです! 間違いありません!」
と、大興奮する。
さっきまでの緊張はどこへ?
俺は、リリアの尋常ではない興奮を横目に、服を覗いた。
「んあ?」
《……え? 何コレ》
そこには、服なのか下着なのか判断し難い、黒くて透け透けの『セクシーショーツ&セクシーブラジャー』と、前後の区別が全くつかない『ピンクの紐パンと、ピンクの紐ブラ』そして、真っ白なガーター(以下略)―――の『服』だった。
《つーかコレ、下着じゃね?》(確定)
「では、ハヤお姉さま、今すぐ試着しましょう! さあ早くっ!」
リリアが目をギラつかせ、俺に試着を強要してくる。
苦笑いをする俺。
「では、私が着させて差し上げましょうかっ!」
「ふぇ?」
《はい?》
てか、チミは、何を言っているんだい!?
「さあ早く、ハヤお姉さま! さあっ! さあっ!」
「んんんっ!?」
《いや、ちょっと待て。そもそもこれは、服じゃなくて下着だし……》
鼻息を荒げ、セクシーな下着をプルプルと震えた手で握り、間合いを詰めてくるリリア。
興奮しすぎているのか、目が相当ヤバいっ! てか怖いっ! つーか、まるで別人っ!
俺の中の、あのリリアのイメージが……壊れ始める。
《あっ! もしかして、俺は今……『悪い夢』を見ているんだよね?》
いや違うぞ! 現実に目を向けろ俺。
「まぁ~。さすがお客様、お目が高い! 実はそれ、最後の一点なんですよ~。取り敢えず~、サイズが合うか試着しちゃいますぅ~?」
派手なお姉さんが、リリアのぷるぷると震える手の中にある下着を見ていった。
しかも、ご丁寧に「最後の一点」と言う、お決まりの『殺し文句』を添えて。
《って、こんな時に、煽るなバカっ!》
「そうですか~? 私ぃ~見る目ありますぅ? じゃあ試着しちゃいますよ~。うふふふ」
店員に、さり気なく『よいしょ』され、ご満悦のリリア。
「んっんっ!」
《ちょっ、お、落ち着けリリア》
と―――その時、頭の中に『謎の声』が再び絡んできた。
[イヤ~ン、大胆っ! エロ~い。ねぇー、ねぇー、早く試着してみようよー!]
《てか、お前は黙ってろ!》
今はコイツの相手をしている暇はない。
俺はリリアに向かい、全力で首をブンブンと横に降った。
しかし、俺の拒絶を無視するかの如く、リリアが飛びかかって来た!
「ハヤお姉さまーっ!」
「ひぃー!」
《ひぃーっ!》
咄嗟に、リリアのボディプレスをかわし、走って逃げる俺。
《やられる。捕まったら確実にやられる!》
俺は店内を所狭しと逃げ回る。
それを追いかけるリリア。
騒然となる店内。
派手なお姉さんも、あたふたしだす。
そして綺麗に並べられていた服は、無残にも散乱する。
―――さっきの俺の不安は、これだったのかもしれない。
とその時、
店の奥から、見知らぬオッサンが現れた。
「お、お客様、これはいったい何の騒ぎで……なっ!」
[あっ、この店の店長だ!]
《え? て、店長? 何でお前、そんな事が……って、そうだ! 店長なら、この状況を何とかしてくれる筈》
リリアから逃げる俺が店長らしきオッサンの後ろに回る。
すると、リリアが店長らしきオッサンの前で止まり、凄い形相でギロリと睨む。
まるで「どけ!」と、言わんばかりの無言の威圧感。……怖い。
「ひぃぃぃっ!」
恐怖で震え上がる店長らしきオッサン。
それを見た俺と『謎の声』
《あ、ダメだこりゃ》
[あ、ダメだこりゃ]
俺は、オッサンの背中を押し、すかさず逃げる。
オッサンは、バランスを崩し散乱した服の上に片足をつくも、つるっと滑らせ、
「うあぁあぁあぁあぁ~! あ~れ~!」
と、悲鳴を上げ、まるで『お代官さまごっこ』のように、
くるくると回り、リリアに直撃し、そして、
バタン
と、覆いかぶさるように倒れた。
《すまん。オッサン!》
「きゃっ! ちょっと、おじさん誰ですか!? 重いですよっ! 早く、どいて下さい!……あっ! ハヤお姉さまー!! 待って下さい!」
目をまわしながら、覆いかぶさってきたオッサンを乱暴に、足で退け、
俺の名を叫ぶリリア。
《つーか、待てと言われて待つヤツはいない!》
[うん。違いないねっ]
俺は店内の陳列棚を縫うように駆け抜け、外に出ようと試みた。
「んんんっ!」
《よし、もう少しで出口だ!》
―――しかし。
何かの影が俺の前に立ちはだかる。
「ふっふっふっ。逃がしませんよ~ハヤお姉さまぁ~」
その正体は、先回りしたリリアだった。
「んっ」
《くそっ、逃げ道を塞がれたか!》
絶体絶命の俺。と、思いきや、
「何だい、この騒ぎは!?」
どこかで聞き覚えのある婆さんの声がする。
「ん!?」
《え!?》
振り向く俺。
視界には、フードの付いた魔導士風の黒装束を身に纏った、意外な人物が立っていた。
◆◆◆
読んで下さりありがとうございます。
ちょくちょく修整してます。