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第一話 胸の谷間と後悔

自己満です。

稚拙な文章です。


一応、第一章です

下ネタ多いです。ゴメンなさい。

 

 木造の部屋の天井はそれほど高くはないものの、

 ベッドの脇の窓を覆いかくす薄いカーテンからさす陽ざしが部屋中に溢れ、

 この部屋を少しばかり広く感じさせていた。


 部屋の中は窓際のベッドの他、

 大きな姿見が一つ。窓とは反対側の壁に立て掛けられている。


 そして、

 この部屋の入り口の傍には、

 花瓶の置かれた跡やシミのついた木製のシンプルな机が、

 壁にピタリとつけられていた。


◆◆◆


「………」

《………》


 外から聞こえる小鳥の囀りで目を覚ました俺。

 質素な作りの硬いベッドの上で、白い掛け布団を頭からかぶっていた。 


《これは夢……》


 布団の中で丸くなりながら心の中で呟く。

    

《そうだ、これは夢だ! そうに決まっている。どう考えても、そうとしか思えない》


 『夢の中』で目を覚ましてから、いったいどれくらい時間が経ったのだろうか? 

 何度も何度も、「これは夢だ」と自分に言い聞かせる。

 

《あの時、バスが横転して俺は病院に搬送されて―――つまり、今は集中治療室で生死を彷徨っている最中で、この夢を見ている……だから体も痛かったし、声……いや言葉が上手く”出せない”》

 

 俺は、バスの横転事故から森の中で出会った、怪しげな集団の事までを思い出し、

 少々、強引かも知れないが、一応、納得のいく答えを出した。

 だが、


《と言うことは、事故は実際に起きた? ……だとしたら咲乃は? 俺と一緒に病院へ搬送されたのか? それともまさか死……》

   

 考えてはいけないと思いながらも、最悪の結末が頭をよぎる。

 突然、涙で視界が滲み、次第に何かがこみあげ、声を出さずにはいられなくなった。


「んっ、んっ!」


 しかし、何度やっても上手く声が、言葉が、出せない。

 それでもやっぱり咲乃の事を考えると、頭の中がぐちゃぐちゃになり、

 何をどうしていいか分からなく―――声を出さずにはいられなくなる。

 

「うあああああああああっ!」


 俺は……慟哭した。

 いや、”できた”


 白い布を、力いっぱいに握りしめ、内蔵が飛び出してしまうのではないかと思えるほど嗚咽し。 

 狂ったように咳き込み、顔中のあらゆる穴から体液を出し、それが枯れるのではないかと思うほど泣き叫んだ。


《どうして! どうしてこんな事に! 俺とアイツが何したって言うんだよっ!》


 まるで走馬灯のように咲乃との思い出が蘇る。

 あの時も、あの時だって、あの時さえも。

 楽しい事も多かった筈なのに、何故か思い出すのは後悔ばかりだ。


《こんなのって……こんな最期なんて……どうして……》


 だが、その問いに答える者はいない。

 そして俺は、口にしてはいけない事を口走った。


《俺も、一緒に死ねたら……》

 

 と、その時。


[おいおい―――早ま―――る―――なバカ。―――また―――すぐに会える。―――なにも悲しむ事はない]

 

《!?》


 『何かの声』が俺の頭の中に語りかけてきた。

 そんな気がした。


[それに―――ここで死んでも―――らっては困る。―――わざわざ―――この―――世界につれて―――来た意味が無―――くなって―――あの者―――との約束も果たせなくなる―――] 


 再び『何かの声』が頭の中に語りかけてきた。

 もちろん、俺には、そんな気がしただけだ。

 しかし―――。

 

《そうだよな……確かに夢の中で死んでも現実の俺が死ぬわけじゃない。それに、咲乃だって死んだと決まったわけじゃない。 

もしかしたらアイツは無傷で、俺が病院で目を覚ましたら「心配させるんじゃないわよっ!」て言って、

いつもみたいに殴りかかってくるかもしれない。そうさ、何も悲しむことはない》


[それに―――約束したの―――だから。あの少女と―――]


《約束? 誰と? ……あれ? 何で俺は泣いていたんだっけ?》


 さっきまでの言動や行動から一変し『何かの声』によって驚くほど、

 そして、『不自然』なくらい前向きになっていく俺。


 「咲乃の事は心配だが、絶対に大丈夫だ」と、根拠の無い自信が溢れる。

 なぜなら『何かの声』が、そう言ったのだから。

 

◆◆◆


《よし。もう、大丈夫だ! あとは、早くこの夢から覚めるのを……》

 

 顔をぐちゃぐちゃにしていた涙は、いつの間にか乾いていた。

 そんな、すっきりとした晴れやかな気分で、

 布団から顔を出し、窓とは反対側の部屋の中央へ何気なく顔を向けた。

 壁には姿見かがみが立て掛けられており中には―――銀髪の少女が映っていた。

  

《……!?》

 

 壁には姿見が立て掛けられており。


《へっ?》


 そこには、まったく見覚えのない、

 青みがかった長く美しい銀髪の、金色の双眸をした美少女が映っていた。


《……誰?》


 狐につままれたような感覚をおぼえ、咄嗟に少女へ訊ねる。 

 しかし、見知らぬ少女はその問いには答えず、じっと俺を見つめている。

 その顔は、まるでさっきまで泣いていたようだった。

 

《………えっと、あれ? これ鏡だよな?》

 

 もしや、幻覚でも見ているのか?

 俺は鏡の中の美少女を見つめながら、深呼吸をし、少し考える。

 そして―――。


《はぁぁぁあああーっ!?》


 心の中で叫びながら体はを起こし、ベッドの上に勢いよく座った。 

 同時に、鏡に映る少女もベッドの上に勢いよく座る。

 

《ちょっと待て!》

 

 少女の服装は無地の白いワンピース。 

 首には何かの『象形文字』が書かれた『首輪(チョーカー)

 小柄だがスタイルは抜群に良い。 そして何よりも胸が大きい。

 年は俺と同じ十六歳くらいだろうか?

 

 そして気付く。


 今の俺が、少女と同じ格好をしていること、

 手足が……いや、体が女性ぽく小さくなっていることに。


《う、うそ……だろぉ??》


 血の気が引くとは、こういう事を言うのだろうか?

 俺は顔面蒼白になり、鏡の中の少女と自分の小さな手を交互に見た。

 

《そんな、まさか、マジで俺なのか!? ……はあ?? 何だよこれ。何の冗談だよ。

て言うか、コレも夢? 何で俺、こんな夢見てんだよ》

 

 心の声を震わせ、自分の変わり果てた姿に愕然とする俺。

 そして無性にそれを確認せずにはいられなくなり、ベッドから飛び降り、床に並べられている足元の履物に何となく気付きながらも、それを履くと言う考えにも至らないほど無我夢中で鏡に食らいつき、自身の顔を両手でペタペタと触る。


 同時に鏡の中の少女も裸足のまま近づき、俺と同じく顔をペタペタと触る。

 柔らかく、弾力のある感触が俺の掌に伝わった。


 だが、それだけでは目の前の状況をにわかに信じがたい俺は、

 鏡の前でボディビルダーのようにポーズをキメ、ニヤッと笑ってみせた。 

 少女は寸分も違わず同じポーズをとり、ニコッと俺に微笑む。

 

《か、可愛い……って、違う違うっ! そうじゃない! 何で、俺が女になっているんだよっ!》 


 当然の事ながらその答えは返ってこない。 

 だが、鏡に映る少女は紛れも無く俺だ。


 『女』になっていることに衝撃を受けつつも、『何かの声』の影響の余韻なのか、

 俺は徐々に冷静さを取り戻し、鏡に映る自分の大きな谷間をまじまじと見ながら、次第に好奇心に駆られてゆく。


《………デカいなコレ》


 ゴクリと生唾を飲み、

 自分の大きな乳房を両手でガバッとわし掴みにした。

 その時、俺の全身に衝撃が走った。


「んっ!!」

《うぁぁぁっ! な、なんじゃこりゃ!》


 俺は、むぎゅっ、むぎゅっ、と、豊満な乳房を力強く何度も揉んだ。

 その度にピクンっとしてしまう俺の体。 

 この未知なる柔らかさと弾力はまるで、

 『想像を絶するほどの破壊力で、まさに神の領域』

 わかり易く例えるなら『魔王の解放されし力が無限にスパークしている宇宙なわけで……』


「ああんっ!……んんんっ! ……んん!」

《うはぁ! なんか触りが心地いいぞ! いや、変な意味じゃなくて》


 『これは、あくまでも今後の勉強のためなんだからねっ!』

 と言わんばかりに胸を揉みしだく俺。

 無意識に、甘い声を出して喘ぐ。

 きっと、端から見ると、

 それはまるで、オ×二ーをしている痴女にしか見えないだろう。


 だが、そんな事はお構いなしに、

 俺は延々と胸を揉みながら、初めての乳房の感触を堪能―――ではなく、冷静に分析した。

 そしてその結果、

 

《んー。なんて言うか、崩れない大きなプリン? マシュマロ?》


 が、頭に浮かんだ。


 そして―――

 なぜか 想像していたほど、興奮しない。


《女は胸を触ると感じるんじゃないのか?》


 ネットで”たまたま、偶然”見てしまった大人アダルティなサイトで仕入れた情報を、

 ふと思い出す。


《そう言えば、自分で揉んでもあまり感じないって書いてあったな。なるほど》


 まことしやかな情報だと思いつつも、

 頭のどこかで、それを信じている俺。 


《って、べつに大人アダルティなサイトを見たくて見た訳じゃない!》


 そう。”たまたま、偶然”だ。

 まるで誰かに言い訳をするように、自分に言い聞かす。

 

《それにしても……》

 

 乳房を揉みながら、俺は下腹部に違和感を感じ始める。


《何だろう。急に股の辺りがモヤモヤして、何かが、だんだん近づいてきて》


 余計な圧迫感の無い下腹部。

 勿論、男にとって大事なモノが無いのはわかっている。

 胸を揉みながら、股間に物足りなさを感じていたから。

 だが、このモヤモヤした感覚は、それが存在してい無いと言う感覚とは違う。

 波のように、強くなったり弱くなったり。

 俺は、この感覚を知っている。


《も、もしかしてコレは……》


 ―――そう。所謂、尿意だ。

 

 それに気づいた途端、次第に落ち着かなくなる俺。

 鏡の中の美少女も、モゾモゾし、ソワソワとしだす。


「んんんっ!」

《ど、どうしよう》

 

 何とか我慢をし、苦悶する俺。

 

 ―――だが、

 

「ひゃんっ!」

《あっ!》


 既に、この体の膀胱は、許容範囲を超えていたのだろう。

 我慢の限界は容易く突破された。

 俺は、全身に鳥肌を立たせながら、

 パンツに覆われている下腹部の大事なところから、

 温かい×××が勢いよく飛び出し、

 それが布の一部をじゅわっと湿らせているのを―――感じた。


 下着が濡れる感触に焦った俺は、

 男のモノと同じ要領で力を入れ、

 これ以上出るのを阻止しようとしたのだが、


「んーっ!?」

《ちょっ、止まんない!?》


 ×××は、徐々に出る量が増え、次第にパンツがその水分を含みきれなくなり、

 ドリップコーヒーのように、ぽたぽたと×××が垂れだす。


 同時にスッキリ爽快な心地よさが俺を包み込む。

 きっと今の俺の顔は―――この鏡の中の少女と同じように、

 小刻みに震えながら、恍惚とした表情を浮かべているのだろう。

 暫く鏡を眺めていた俺は、


「んぁっ!」

《はっ!》 


 急に恥ずかしくなり我に返る。


「………」

《くそっ! やっちまった……男の×××と感覚が全然違うから止められなかった! て言うか、まさかこの年で、お、おもら―――恥ずかしくて言えるかボケぇっ!!》

 

 気が付くと、俺の足元には透明に近い薄く黄色の小さな水溜まりが出来ていた。

 俺は咄嗟に、ワンピースのスカートの前方を両手で捲り上げ、

 鏡の前で自身の下半身を確認した。

 女の子の『秘密の花園』を覆っている、パステル調のピンクのパンツが、

 大量の×××を含んでいるのが見える……。


《って、自分でやっといて何だが、この格好すごくエロい……》


 再び恥ずかしさが込み上げ、

 スカートから両手を離し、

 まるで恥じらう乙女の如く、手で顔を覆い隠す俺。


「………」

《うーっ。パンツが濡れて気持ち悪い。早く脱いで、この床も掃除をしなければ……》


 俺は下着を脱ごうと、再度ワンピースのスカートを左手で捲り上げる。

 

 ―――が


 これ以上、出来ない。

 

「………」

《………》

 

 鏡を見てしまうと、何故か目の前の少女に対して罪悪感と言うか、うしろめたさと言うか、

 まるでいけない事をしているような、そんな感覚に陥ってしまう。

 例え、相手が自分だとしても……。

 しかし、パンツは無情にも冷たくなりながら、俺の柔らかい股間にへばりつく。

 

「………」

《やっぱり、脱ぐしかないよなぁ……》

 

 俺は、痒くなりはじめた股を一瞥した後、部屋の中を見渡した。

 この部屋―――替えの下着が存在する気配はおろか、タンスさえも見当たらない。

 文字通り何も無い部屋だ。


「………」

《………》


 下着が無いと睨んだ俺は、「かぶれるよりは、ノーパンの方が、まだマシだ」と、

 自身の×××を大量に含んだ下着を脱ぐ事を再び決意する。


 鏡の中でふしだらな格好をした美少女から目を逸らしつつ、

 右手を股間へ伸ばし、下着の腰周りに親指を引っかけ、脚を内股気味にし、ゆっくりとパンツを下ろした。

 心臓の鼓動がドクドクと、早まるのがわかる。

 ちなみに俺は、女の子の『実物』を拝むのは初めてだ……。


「………」

《っにしても、中途半端に濡れているから……パンツが……脱ぎにく……い……》


 無地で白いワンピースをもぞもぞさせながら、

 グイ……グイ……と、パンツを下ろす俺が居るこの部屋に、

 コンコンっと、木製のドアをノックする音が響いた。


 そしてガチャとノブが回り、ドアが開く音が俺の耳に届く。

 その音に驚き、パッと部屋の入り口へ振り向いた俺。


 視線の先のドアをゆっくり開け現れたのは……。

 小柄な体格で、セミロングほどの長さの丁子ちょうじ色の髪をピッグテールにした、

 利発的で誠実そうな雰囲気と、あどけなくも目鼻立ちの整った可愛い美少女だった。

 

 少女は、赤く綺麗な花が挿さった白い花瓶を大事そうに抱え、

 いそいそと部屋に入ってくる。


「おはようございます、お姉さま。今朝も「レルリセアの花」が綺麗に咲いたので、持って……」

 

 少女がそう言いかけた時、俺と目が合った。


「えっ!?」


「ふぇ!?」

《ふぇ!?》


「お、お姉さま……?」


「………?」

《えっ?》


 少女は、目を丸くしながら部屋の入口で硬直し、

 抱えていた白い花瓶を床に落とした。


 花瓶は、ガシャーン! と、家中に響くほどの大きな音をたてながら割れ、

 白い破片を飛び散らせながら粉々になった。

 床は水浸しになり、花瓶の破片とともに瑞々(みずみず)しい赤い花が少女の前で散乱した。


 ―――にもかかわらず、


 少女の視線は俺を捉えたまま逸れない。

 俺は、少女のその目が、まるで

 『変〇』を見るような、蔑んでいるような気がして、


「んんんっ!………」

《ご、ごめんなさい! その、コ、コレは変な意味じゃなく、黄色い汗をパンツがかいて、ノーパンを脱いで、痒くて冷たくなろうかと―――》


 俺は、凝視してくる少女に対し、

 身振り手振り(片手)であたふたしながら言い訳をするが、

 声が上手く出せないため、その動きはまるで一人ジェスチャーゲームのようだ。

 ……それにしても。

 もっとマシな言い訳は出来ないのだろうか俺。

 

 だが少女は、

 俺の意味の解らない『一人ジェスチャーゲーム』など全く気にする事なく、


「お、お姉さま……意識が、意識が戻ったのですね!」

「………?」

《へ? お、お姉さま?》

 

 入口からゆっくりと部屋の中に入り、

 明るい茶色の目に涙を溜め、両手で抑えた口から発せられる声を震わせながら、

 俺に歩み寄ってくる。

 

「すごく心配しました……五日間も眠り続けてて……もしかしたら、私の治癒魔法のせいで、お姉さまが起きないんじゃないかって……でも良かった、本当に良かった」   

 

 スカートを捲り上げている俺の目の前で、

 突然、ぼろぼろと涙をこぼし、ワンワンと泣き崩れる少女。


「………ん? ん?」

《え? え?? 治癒魔法??……あれ? 何か聞き覚えが………。

あっ!  思い出したっ! あの時、熊みたいなおっさんと、一緒に居た子か! 

って、俺、五日間も眠ってたの? そうか、だから我慢できず……》 

 

 少女の話しから、『×××』を漏らした理由を何となく理解した俺。

 と、その時だった、

 

「どうしたの!? リリア!」


 先ほどの花瓶が割れた音を聞きつけて来たのだろう。

 少女に、よく似た女性が部屋に飛び込んで来た。

 だが駆け付けて早々、彼女は、この光景に驚き、困惑した顔をする。

 

 当然だ。

 スカートを捲り上げ、下半身を露出(パンツ半脱ぎ)した変〇少女の目の前で、

 女の子が泣いているのだから……。

 おまけに床には、割れた花瓶と『×××』……。

 しかし、それを察したリリアが、「ヒックヒック」と、むせび泣きながら、


「お、お母……ヒック……さまっ?……な、何でありませ……んック。……大丈夫です……ヒック」 


 と、答える。

 リリアの母親は、その言葉に怪訝な顔をするも、

 部屋を見渡し、状況をだいたい把握したのか、

 俺に視線を向け「怪我は無い? 大丈夫?」と声をかけた。

 そして、両手で涙を拭いているリリアの方へ顔を向け、


「もう、泣いていないで、早く箒と塵取り、それとモップとバケツを持ってきなさい。

花瓶は、また買ってあげるから」


 と、掃除道具を持ってくるよう促す。


「は、はい……お母さま」  

 

 リリアは、何度も鼻をすすりながら立ち上がり、

 母親に言われた掃除道具を取りに、部屋を後にし階段を、タン……タン……と、

 ゆっくりした足取りで降りてゆく。

 俺は、リリアが部屋を出た後、彼女の母親に目をやった。


「………」

《ふー。びっくりした……てか、あの子は、リリアって言うのか。 で、この人は、リリアのお母さんか?》


 リリアによく似た女性は―――年齢は不明だが『お母さん』と呼ぶより

 『お姉さん』と呼んだ方が、合いそうなほど若々しく、可愛らしく、おまけに優しそうだ。

 だが同時に、そこはかとなく知的で、躾けに厳しそうな雰囲気を感じさせる。

 更に、娘のリリアとは違い小柄ではなく、かと言って大柄でもないが、スタイルは中々良い。 

 

《でも俺と比べたら、まだまだだね(ドヤ)》


 何故かライバル意識が芽生える俺……。


《って言うか、なに対抗意識を燃やしているんだ俺は!》


 と、直ぐに自己嫌悪に陥る。

 そんな俺を、まじまじと見るリリアの母親。

 その視線に気付き、急に全身がカァっと熱くなり、思わず顔を下へ向けてしまった。


 そして、捲っているスカートを慌てて降ろし、既に×××が乾き、シミになっているパンツを両手でグッと上に引き上げ穿き直す。

 そのまま手持ち無沙汰で何となくスカートをパンパンとはたきながら、

 リリアの母親の表情を伺うように上目遣いをした。

 

 と言っても、やはり目は合わせない。 できない。

 そんな俺の行動を微笑ましく(?)一部始終見ていたリリアの母親が、

 口を開き、優しく話しかける。


「それにしても、びっくりしたわよ……

ああ、今のじゃなくて―――ほら、うちの旦那が、ぐったりとしていたあなたを担いで、慌てて帰って来た日の事。

あの時のあなた、まるで死んだように眠っていて、おまけに傷だらけでしょ? 

服だってボロボロで、裸同然だったんだから」


「………」

《傷だらけ? 裸同然?》


「でも、本当に意識が戻って良かったわ。それに傷痕も残っていないみたいだし。さすがベル様と、リリアの治癒魔法ね。 あっ、でも、もしどこか痛かったら遠慮無く言いなさい。

ベル様に、また診てもらうから。ねっ」


「………?」

《ベル様? 医者か?》


 俺の知らない事を、一方的に話しだすリリアの母親。

 彼女が話す内容をよく理解できてない俺は、

 ただ、ただ、ぼーっと聞いていた。

 それが、『呆気にとられている』と感じたのか、

 リリアの母親が、話題を変えるように自己紹介をはじめた。


「あら、ごめんなさい。私ったらつい一人でベラベラと。そう言えば、まだ自己紹介していなかったわね、私はエマ。……エマ・ウォルド。それで、さっきの子は私の娘でリリア。それと今、家には居ないけれど、

私の旦那で、あなたを担いできた人がガレッグよ。よろしくね」


 そう言うとエマは、キュートな笑顔を俺に向ける。


「………」

《んー。年上の人妻も悪くないかも……あ、いや、ゴメンなさい。―――と折角、自己紹介してもらったので俺も自己紹介を。って、俺、喋れないんだった。 イイや、とりあえず、お辞儀だけでもしておこう》


 俺はぺこりとエマにお辞儀をした。

 だが、それを見たエマは、不思議な顔をする。

 まるで「今のお辞儀は何かしら?」と、言わんばかりの表情。

 しかし、すぐに「うん。面白い子ね」で片付け、自分の顎に手をあてながら俺を見た。

 この人、細かい事はあまり気にしないタイプなのだろうか。

 

「ところであなた、名前は? どこから来たの? 見たところ『エルフ族』の様にも見えるけど、

私たち『人間族』にも見えなくもないし……」

 

 エマの一方的な『話し』が始まった。  

 いや、コレは話しと言うより質問だ。


「………」

《エルフ族? 人間族?》


 俺はゲームやフィクションの世界でしか聞かない単語に首を傾げる。

 だが、何故か知り合いが『エルフ族』にいるような気がした。

 勿論、ただ何となくだ。

 

《あれ? 何でだ?―――おかしい。上手く言えないが、何か、おかしい……》


 同時に、夢の中と言う認識はあるものの、ここが現実のような感覚をおぼえる。

 しかも、何故か懐かしさも込み上げてくる。


《いやいや、そんな筈はない。ここは夢の中だ》


 だが―――さっきから俺の行動は変だ。

 夢の中のはずなのに、恥ずかしがったり、照れたり。

 おまけに、ここがやけに『現実リアル』に感じて、夢の中のような違和感を全く覚えない。


「どうしたの? 大丈夫?」


「あ、うあ、あう」

《あ、す、すみません。えーっと、何の話しですか?》

 

 考え事をしているところへいきなり声をかけられ、

 俺は咄返に返事をするも、声が上手く出せない。

 それを見たエマは、


「え?……あなた、もしかして」


 びっくりしたような顔を俺へ向けた。

 その顔で、俺は『喋れていない』事を再認識した。


「んんっ」

《どうやら、そうらしいです。―――と言っても伝わらないよな》


「……そう……それは辛いでしょうね……」


 エマが急に憐憫にかげった顔をし、言葉を詰まらせる。

 他人事では無く、まるで自分の事ような、

 いや、我が子を不憫に思う母親のような、そんな雰囲気が、ひしひしと俺に伝わる。


「……でも、後でベル様に診てもらえば何とかなるかもしれないわね。うん。きっと大丈夫よ、何も心配いらないわ」


 喋れない俺を気遣い、深く聞こうとはせず、優しい笑みを見せ元気付けるエマ。

 しかし、俺自身は、コレは夢の中だから、と、喋れない事を別段気にしていない。


 ―――筈なのだが。


「………」

《一生喋れなかったらどうしよう。 転校生としてこの辺の学校に行ったら、いじめられるのかなぁ。人って、異質な者に対して……って、あれ? 何を心配しているんだ俺》


 そんな心配は不要なのに。

 悲観と楽観を繰り返す俺。

 それに対し、


「それはそうと……困ったわね。あなたの事を何て呼べば良いのかしら。

それに、どこから来たのかも分からないと……お家に帰してあげることも出来ないし。きっと、ご家族も心配して……」


 当の本人おれよりも困った顔をし、親身に俺の事を考えているエマ。


「んん……」

《あっ、いや、そこまで考えなくても。……でも「あなた」とかは、何となく呼びづらいよな。 帰る場所や家族については……ここは夢の中だから、心配しなくても大丈夫》


 だが、今の俺には、それを伝える事は出来ない。

 どうしたものか……。 

 沈思黙考する俺。

 と、その時、何かを閃いたのかエマが声を上げた。


「あっ! そうだわ。 あなた、文字は書けるかしら? 

もし書けるなら、それで私と会話ができないかしら? 一応、私もリリアも、

この村の中では珍しく『共通言語』と『三種族語』それに『ロヴァイセル語』の読み書きが出来るのよ。

ロヴァイセル語は、ベル様までとはいかないけれど、それなりにね。……でも、大きい町や、王都には『学校』って言う施設があるから、読み書きが出来るのは特別凄い事じゃないんだけれど」

 

 そう言うとエマが優しく目を細める。


「…………!」

《おお。なるほど! 筆談か!》

   

 実に名案だ。


「………」

《でも、『共通言語』って何だ?》


 何となく、期待を裏切られそうな気配を感じつつも、とりあえず、エマの提案にコクコクと頷く俺。

 それを見たエマは、


「あら、書けるのね? 良かった。じゃ、ちょっと待ってて。今、紙とペンを持ってくるから」

 

 明るい声でそう言うと踵を返す。

 と、入れ違うように、リリアが、エマに言われた掃除道具と、雑巾ではない綺麗な水色で縞々の薄い生地の布を手にしながら、部屋に戻って来た。


「お母さま?」

「紙とペンを取ってくるわね」

「はい?」

 

 「どうして?」 と言いたげな表情をするリリア。

 そんなリリアとすれ違い、今度はエマが部屋を出ていき階段を降りてゆく。


「………」 

《筆談か。なぜ今まで思いつかなかったのだろう。そうすればもっと早く。 って、ま、いっか。済んだことだし。 それにしても、これで、会話が出来る》

 

 声は出せるのに、喋れないのは、意外と大変だ。

 慣れないジェスチャーで伝えようとしても、相手が理解するまで、時間と労力がかかる。

 だが、それも、『筆談』と言う方法ですべて解決する。


「あ、あの、お姉さま?」

「………」

「お姉さま?」

「………」

「お姉さまーっ!!」

「んんっ!!」

《うわぁ!? びっくりした!……あれ? 確かこの子、リリアだっけ?》


 筆談の事で、頭が一杯だった俺。

 リリアの突然の呼び掛けに驚き、顔を上げると、


「え、えっと、お姉さま……先程はごめんなさい。私……驚いてしまって。

まさか意識が戻っていたとは知らなくて。……しかも、アレをしていた最中にドアを開けてしまって

……い、いえ、急に入った私が悪くて、お姉さまは全然悪くなくて、も、もちろん私はアレをしたことはありませんが、お姉さまの綺麗な脚を見てたら何だか私も……」


 しどろもどろに、そして言葉を選びながら、

 恥ずかしそうにもじもじと、顔を下へ向けるリリア。


「……ん?」

《ん? 「アレ」って?》 


「そ、それで、まだアレが途中でしたら私、部屋の外で待ちますので、最後まで、あの、その……」


「………」 

《あー。もしかして……》


 正直、言っている事は意味不明だが、

 リリアの様子を察し、言葉の含意で何となく理解した俺。


「………」 

《リリアが言いたいのは、アレか? ムラムラしたら一人でやるアレ。 うん。確かにあの状況は、アレをしていたと誤解されても仕方ないよな。 って言うか、アレをしていた訳じゃないから! 変な誤解するなよ!》


「お姉さま?」

「………」

《待てよ? もしかして俺は、この子に『人ん家で、勝手にアレをはじめる〇態』だと思われてるのか? いやいや、アレは違くて、決してアレではないアレで……てか、何かショックだ》


 「アレじゃない」と、言い訳が出来ないのが辛い。

 だが、すぐさま、


《まあ、これは夢の中だから、べつにいいか》


 と、考える。

 だが、次の瞬間、頭の中がモヤモヤとし、 


《……ん? 夢の中?》


 と、俺に疑念を抱かせる。


 そのモヤモヤが何なのかは、全くわからない。

 だが、そのせいで『ここは夢の中』だと思った瞬間、

 『夢では無い』と思わざる得ない感覚に陥る。


 上手く言えないが、何か記憶を上書きされているような……そうとしか表現できない。

 そんな俺に向かい、リリアが、

 

「それと……お姉さまに替えの下着を……あっ、まだ三回しか穿いていないので汚れてはいないかと……でも使用したのは事実で……一応洗濯は、してありますが……」

 

 そう言うと、リリアは掃除道具を床に置き、

 手に持った水色の横縞の布を俺に見せる。


 どうやら、替えの下着を持ってきたと言いたいようだ。

 だが俺は、どうやってアレの誤解を解こうかで頭がいっぱいで、リリアの話しを聞いていなかった。

 と、そこへエマが紙とペンを持ち部屋に戻って来た。


「遅くなってごめんなさい。書斎のどこにしまったか忘れちゃって……でも、ちゃんと見つけたわよ」


◆◆◆

読んで下さりありがとうございます。


ちょくちょく修整してます。

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