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《異世界?》

(序章)― 3 ―


自己満です。

稚拙な文章です。

  

 

《………?》  


 其所はまるで、現代の日本の『都心』を彷彿とさせるような街並みだった。

 

 その場所で、気が付いた隼人は、

 たった一人、ぽつんと佇んでいた『見知らぬ幼女』と向かい合っている―――。


 幼女の着ている、白いパーカーの大きなフードからは、

 長い髪と、青い双眸、そして人形のように、

 まるで計算し尽くされたかの様に整った美しい顔立ちが覗く。


 年は、五か六くらいだろうか。

 抱きしめたら壊れてしまいそうなほど綺麗で華奢な体は、

 隼人よりも、数十センチほど丈背丈は低い。

 きっと、この年齢の女の子の平均的な身長なのだろう。

 

 だが……

 恐らく彼女は、普通の人間ではない。 


 そこはかとなく『造られた存在』……そんな印象を隼人に与えていたからだ。

 なれども、無機質な感じはまったくしない。

 例えるなら、まるで血の通った『人形』

 しかし、そんな異質な存在を目の前にしても、

 何故か隼人に恐怖感は一切ない。

 それどころか……。

  

《さっきから、俺の事をじっと見ているけど……やっぱりこの子、道の真ん中に立っていた子だよな?》 

 

 今、自分が居るこの『不自然』な場所を気にする事よりも、

 『不確か』な記憶を辿る事に気が向いていた。

 そんな事を知ってか知らずか、幼女が口を開く。


『やっと見付けたです! あの後、お兄ちゃんを探すの大変だったですからね! プンプンっ!』


 頬を膨らませ不機嫌そうに言う幼女。

 だが隼人は、その言葉の意味を理解できていない。


《俺を探す? ……てか、『プンプン』って言っているぞ、この子》


 隼人がほくそ笑みながら、心の中で幼女を小バカにした。

 

 ―――筈だった。


『今、マリルの事バカにしたですね。お兄ちゃん』

「え?」

『ちゃんと聞こえているですよ。お兄ちゃんの心の声』


 幼女の不機嫌そうな顔が、更に不機嫌に歪む。


《ど、どう言うことだ?》

『これが、”選ばれし”マリルに与えられた、”能力ちから”の一つなのです。えっへん』


 と、短い腕を曲げ、小さな手を腰に当てながら、マリルの不機嫌な顔が、

 得意げな顔に変わる。


「能力? 選ばれた?」

『ふふーんっ。そーですよ。どうですか、凄いですか?』


 得意顔を通り越し、ドヤ顔になるマリル。

 だが隼人の目には、『生意気そうな変な幼女』としか映っていない。


「いや全然……てか、お前、頭ダイジョウブか? それとも、その年でもう中二病とか?」

『はうっ! ……むむむっ、またマリルをバカにしたですね! お兄ちゃんのいじわるです!』

「いや、だって『心の声』が聞こえるとか有り得ないだろ。それに『選ばれし』とか『能力のうりょく』を『ちから』って読んだりとか……」

『信じられないならもういいですの! 色々とご説明しようと思たのにです!』

「ん? 説明? ……何の?」

『知りませんです!』


 隼人の対応に機嫌を損ねたのだろう。

 口を『へ』の字にするマリル。


「変な子だな……」

『”変な子”じゃないですの。マリルですの』

「マリル?」

『本当に、忘れているですね、お兄ちゃん。……もういいです』

「忘れているって? 俺が? いったい何を?」

『ふん。ですの』


 隼人の問いかけに、ツンとした顔で、ぷいっと横を向くマリル。

 そしてポツリ、

 

『そろそろ時間ですの。残念ながら説明がまったくできませんでしたです』


 と、呟いた。


「ん? 何か言ったか?……」


 小声のマリルに訊き返す隼人。

 その時。 

 隼人の体が、鈍く光りだした。


「えっ? ちょっ、何だコレ!?」


 突然の事に気が動転する隼人。

 そんな隼人を見つめながら、冷静な口調のマリルが、


『……”お友達”はもう先に行ったです。だからお兄ちゃんも早く行くです。それでは、お願いしますです。ぺこり』


 と、訳の分からない事を口にし、隼人に頭を下げた。


「はあ? 何を言って……てか、コレどうなって―――」

 

 だが、マリルの返答は的を射なかった。


『大丈夫ですの。お兄ちゃんならきっとモテモテですのっ。ぷぷぷっ』

「ちょっ、俺の質問、無視スルーかよ!」

『質問は―――に、お願いしますです。大体の話しはしましたです。だから大丈夫ですの』

「お、おい、待て、まだ話が……」

 

 そう言いかけた時、隼人の体の鈍い光が、眩く輝きだす。

 そして、徐々に手足が消え始め、マリルの姿が、隼人から遠ざかってゆく。

 いや、隼人がこの場所から遠ざかり、消え始めていたのだ。


『向うに着いたら、―――によろしく伝えてくださいですの』

 

 

 次の瞬間、


《……!?》


 隼人の全身を『激しい耳鳴り』と『喉が焼ける』ような痛みが支配する。

 そして、

 この場所から隼人の体と意識が消えた……。



◆◆◆ 


「―――ミ―――おいキミ!」


「んっんんん……」

《ん?……》


「アベルト! もうダメです! 奴らのこの数、尋常じゃありません。 このままでは……」

「くそっ! 分かった。すぐ行く、それまで何とか持ち堪えてくれ、フリーム!」


 少年の声がそう叫ぶと、足音が隼人から遠ざかった。

  

《男の声?…… あれ? 俺、さっきまで女の子と話しをしていた気が……》 


 意識が朦朧とし、まるで夢の中にいるような、そんな感覚に包まれている隼人。

 幻聴が聞こえたのだろうか?

 それに……何だか、さっきから硬くてゴツゴツした感触が背中を押し上げる―――。

 

 と、その時だった。

 全身に『生まれて初めて味わう激痛』が走り、思わず呻いた隼人。


「………ん!」

《………うっ! 痛ってぇーっ!》


 身体中が痛い! 痛くて手足が動かない!

 痛みに耐えきれず、思わず瞼を開く。

 同時に、隼人の視界に、青々と生い茂る木々の葉と、

 その隙間から覗く真っ青な空が飛び込んで来た。


《……え? 森? って、ちょっ何で俺はこんな所に!? 確か、さっきまで咲乃とバスに乗っていた筈。

 えーっと、それでその後は……》


 まったく思い出せない。

 

 途切れ途切れの記憶を何度も辿るも、何かが抜けている。

 と―――次の瞬間、


「でぇぁぁぁっ!」

「!!」

《うわぁっ!!》


 隼人の耳元で、若い男の、勢いのある勇ましい掛け声が聞こえた。

 その声に反応するかのように、隼人の身体がビクンっと動く。

 同時に全身に激痛が回り、


《うっ!!》


 そして、薪を割るような音と共に、


「グギャァァァ!」


 何かの動物の鳴き声が、隼人の鼓膜を震わせた。

 鳴き声は、まるで獰猛な獣のような、

 そんな印象を隼人に与えた。


《いててて……って、鳴き声? ……動物か? もしかして熊じゃないだろうな!? それに男の声も聞こえたぞ》


 仰向けののまま、視界に映る景色を見渡す隼人。

 青々とした木々の葉と、真っ青な空が、穏やかに隼人を眺めている。

 そして、再び何かの鳴き声が隼人の耳に届く。

 

《くそっ。いったい何の鳴き声だよ! マジで熊だったらヤバいぞ……》


 しかし、それを確認し把握するには、あまりにも情報が少ない。

 ならば、もう一度、体を動かして―――。

  

《ぐはっ!……》


 だが、やはり激痛が全身を駆け回る。

 更に先程よりも痛みが酷くなっている。

 隼人は苦痛で、顔を歪ませた。


《くっ……どうなってんだよ俺の身体。もしかして、全身の骨が折れているとか? ならば、安易に体を動かすのは危険だ》

 

 かと言って、

 このまま仰向けの状態では、状況を把握する事すら出来ない。 


《そうだっ! ゆっくり動かせば、首だけは向きを変えられるかも。それで、ある程度は周りが……》


 名案だ。

 ―――しかし。


《せーのっ!》


 隼人は痛みを最小限に抑えるつもりで、そっと頭を動かす。


《おお! いい感じに……》


 隼人の眺めている景色が、ゆっくりと動く。

 

 ―――だが。


 「うはっ!」


 首筋から、

 何かが軋む音と共に、痛みが脳の神経へ伝わったような感覚をおぼえ、悲鳴を上げ、顔を歪ませる隼人。

 あまりの痛さに、硬くゴツゴツとした地面から背を浮かす。

 

「くぅぅぅっ。やっぱりダメか……」


 隼人は再び天を見つめた。

 視界の端に映る木枝の葉が、風に撫でられ揺らされている。

 その森の木々が、静かな光を導き、まるで薄明光線のような光芒が隼人を照らす。

 そんな天からの光に包まれ、諦めにも似た感情が、ふつふつと湧き始めている隼人。

  

《もしかして俺は、ここで死ぬのか?》


 こころなしか、隼人の頭に死亡フラグが立っている。

 

 ―――と、思いきや。


《んなわけあるかっ! さっき『男の声』が聞こえたぞ! 絶対に、この辺にいるはずだ!》

 

 先ほど聞こえた男の声に、何故か「絶対に助かる」と、

 一縷の望みを賭け奮起する隼人。


 再び体を動かそうとしたその時だった、

 『誰か』の会話が隼人の鼓膜に届く。


《……会話? やっぱり、近くに誰かいる……》


 だが、その声は、遠いのか近いのか、定かではない。

 隼人は会話のする方へ、耳を澄ました。

 草木のざわめく音以外、小鳥の囀ずりさえも聞こえないほどの静寂の中、

 誰かの話し声と、先ほど聞こえた動物の鳴き声が複数聞こえる。


《何を話しているんだ?……》


 だが、全身の痛みで集中力が続かず、それらは、すぐに聞こえなくなる。

 しかし、誰かが居る事は確認できた。

 ―――これで助かる!

 

 隼人は、体を動かす事を止め、

 力の限り声を張り上げ、姿の見えない誰かに助けを求める。


「んっ! んーっ! んーーー!!」

《おい! そこの誰か! 助けてくれ! おいっ!!》


 ―――しかし。

 

《………あ、あれ?》

 

 何かが、おかしい。

 声は出せている筈なのに。

 

「んっ! んーっ! んーーー!!」

《おい! そこの誰か! 助けてくれ! おいっ!!》


 ………。


《……えっ?  何で? 『言葉』が出ていない!?》


 声は出せるものの、

 何故かそれが、『言葉』になっていない。

 いきなり大声を出そうとしたからだろうか? 

 声帯が驚き―――否、声は確実に出ている。

 


《と言う事は、『言葉』が上手く発せられていない? そんなバカな……。もう一度! せーのっ!》


 三度目の正直。

 隼人は精一杯、声を振絞り助けを呼んだ。


「んんんんん!!」

《おーい! 助けてくれー!!》


 しかし。

 隼人から『言葉』が発せられることはなかった。

 いや、『言葉』を発しているのは事実だが、

 それが言葉として成立していないのだ。


《な、何だコレ!? 喋れないって、どうなってんだよ!》

 

 ……万事休すの隼人。


◆◆◆


 同時刻―――。

 隼人から、一〇〇メートルほど離れた場所。

 

 『剣士』風の少年が、鍔と柄に、芸術品のような装飾が施された『立派な剣』を両手で握り構えている。


 その数歩後ろでは、先の尖った、黒い帽子を深く被り、

 顔の殆どが隠れるほど襟の立った、黒に近い紺色の、丈の長い外套マントに身を包んだ、

 『魔道士』風の少年が、剣士風の少年と反対方向を向いていた。


二人は、

向いている方向は違えど、その先に見える、自分たちを取り囲む、植物系の魔物の群れを確りと、見据えている。


 その魔物たちは、全身がルビーのように赤く、

 根を節足動物の足ように動かし移動する。 丈は成人男性の腰くらいで然程さほど巨体ではないが、幹は太く、葉は無い。

 更に感覚器官がどこにあるのかさえも一見しただけでは分からない。

 

 例えるなら……歩く「盆栽」(?)

 この世界では『フットプラント』の亜種『ルビープラント』と呼ばれている。

 

◆◆◆


「はあ、はあ……いったい何匹いるんだコイツら!」

「さっき、アベルトが倒したので……ちょうど十三匹目ですから、多分それ以上の数ですかね」


 魔道士の少年が、落ち着いた口調で答える。

 それを聞いたアベルトは、肩で息をし、


「おいおい、マジかよ……」 

 と、疲労感を帯びた声を出しながら、

 端正で女ウケの良さそうな顔から滴り落ちる汗を拭った。


 ちなみに、魔道士の少年の容姿は全く分からないが、

 背は低く、マントの袖から覗かせる腕は白くて細い。

 年齢はアベルトより下くらいだろうか。

 

と、その時。


「グガガガッ」


唸り声のような音を鳴らし、

根を節足動物のように動かしながら、地面を移動してきた一匹のルビープラントが、

アベルトに飛び掛かる。


「ちっ、また同じ攻撃パターンか」

 

 アベルトは、すかさず剣の柄を両手で握りしめ、

 飛びかかってきたルビープラントを横から割った。

 

 ガッ! ミシミシ、パキッ!


「グォギャァァァッ!」 

 木の割れるような音をたてながら、ルビープラントが力尽きる。


 他のルビープラントたちは『意外と強い相手』に、たじろぐ素振そぶりを見せている。

 

「いってぇー。やっぱ堅いなー。 さすが『ルビープラント』だぜっ!」 

 

 アベルトは、痺れた片手を剣の柄から離しながら、

 余裕ありげに魔物の硬い胴体に、関心する。

 

 ―――だが。


 実際、余裕など無い。

 それは、ルビープラントたちに全方位囲まれているこの状況を見れば、一目瞭然だ。 

 

 たじろぐ素振りを見せながらも、ジリジリとアベルト、フリームとの間合いを詰めてゆくルビープラントの群れ。


 アベルトは魔物たちから視線を逸らさず、

 身に着けている革製の簡易な鎧を擦れさせながら、摺足すりあしで後退し、魔道士の少年と背中合わせになる。

 手に持つ剣は、何処かの『王』が持つに相応しいほど立派な代物だが、

 鎧は安物なためか、雑で祖末な作りだ。

 

「それにしてもフリーム君。何か良い案は無いのかね?」

 

 「そろそろ詰みそうなんだが、どうする?」と言いたげな表情で、

 魔道士の少年―――フリームにアイデアを求めるアベルト。


 フリームは、細く白い手で握った『手作りの小振りな杖』を振りかざし、

 呪文を詠唱し、小さな火の玉を放ちながらルビープラントたちを一匹一匹、確実に仕留めている。


「そうですね……。このままでは、ガレッグさんとリリアを助けるどころか、ボクらの方が先に……

あっ!」


「ど、どうしたフリーム!」

  

 突然、声をあげたフリーム。

 背中合わせになっているアベルトが何事かと振り返る。

 

「アベルト。奴らを一ヵ所に集めてください」


 妙案を思いつき、フリームの顔が明るくなる。

 と言っても、その表情は帽子と襟に隠されているため窺い知ることはできないが。


「??」「それと、ボクが合図したらすぐに離れてください。奴らを一気に焼き払います!」

「……そうかっ! 一昨日おととい使えるようになったアレか! よし、わかった! 任せろ!」


 フリームの見えない表情(?)を見て、全てを理解したアベルト。

 ルビープラントたちの群れの中を動き回り、自分に注意を引きつける。


 アベルトにぞろぞろ群がり始めるルビープラントたち。 それを確認したフリームはタイミングを計り、詠唱を始めた……。


~~~ ~~~ ~~~


 ―――この世界では、どの種類の【魔法】を使うにも呪文の詠唱が必須だ。

 しかし呪文の長さ及び、詠唱時間は、必ずしも魔法の威力や効果とは比例しない。

 

 その理由は複雑で、

 更に魔法の【二種類】の各概念が若干異なるため一概には言えないが、

 魔法の『威力や効果』=術者の『魔力容量(魔力を保存できる量)』が深く関係している。


 また呪文詠唱は、それ自体が『これから発動する魔法の【種類】と、

 どの【属性】を使うのか』を宣言する(決める)モノであるのと同時に、

 発音時の振動が、空気中を疎密波として伝播し術者の魔力に届き、魔法の発動のきっかけ(火種)を作る。

 ちなみに、詠唱時の空気の振動は、

 普段の会話時の空気の振動とほぼ同じである。

 尚、魔法―――魔術は術者に『魔力と素質』が必須。

 更にその魔術を理論的に理解した『知識』が無ければ使えない魔法も多い。

 また、当然ながら『魔力、素質』の無い者が呪文を詠唱しても魔法は発動しない。


~~~ ~~~ ~~~



「古代魔王グレディガン・アノリウスの名のもと――ディベールドルヴエァモル―――彼方から顕われし者よ―――ヘルネスケイルディアルグラ――今、その力を―――」

 

 フリームは詠唱しながら両腕を高く上げる。

 そこへ、無数の小さな火の塊が集まり、

 フリームの頭上で一つの大玉を形成した。(元気玉のように)

 その間わずか10秒程度。


 集まった火の塊は、互いに温度を高め合い『超高温の塊』へと変化した。 

 詠唱が終わったフリームは、腹に力を溜めアベルトに合図をする。


「アベルトっ! 後ろへ!」

「おう!」


 アベルトは飛び上がりルビープラントが、かたまっている場所から退く。

 次の瞬間、ルビープラントの群れの居る地面から魔法陣が浮き上がり、

 周りを取り囲むように透き通った結界が張られた。


 フリームはその結界の頭上へ目掛け「火塊の大玉」を投げつける。

 大玉は激しく燃え盛りながらも、ゆっくりと移動し、


「―――我が魔力を捧げん………降り注げ! 『火塊雨ヒュエトス・フローガ』!」


 フリームのかけ声と共に、割れて破裂した。


「「「「グギャァァァ!」」」」 


 無数の真赤な火塊は、結界の外へ逃れられないルビープラントたちへ、シャワーのように容赦なく降り注ぎ、焼き尽くす。


「ふー、ふー」


 残りの『魔力』を全て使い切り、

 呼吸を乱しながら、その場に立ち尽くすフリーム。

 

「やったか、フリーム!」


 呪文詠唱中の巻き沿いを避けるため、

 フリームから離れていたアベルトが駆け寄ってくる。


「はい……」

 

 程なくして、パチッ、パチッと焚き火のような音をたてながら炭となり、灰のように崩れてゆくルビープラントの群れ。

 アベルトとフリームは、結界の外で、それら全てを見届けた後、

 その場へ、へたり込む。


「「はぁーーーっ」」


 大きなため息を吐いた二人。

 

「結構、手間取ったなっ、フリーム」

「ええ。まさか『東の大陸のオルトリンデ地方』にしか棲息していないはずの『ルビープラント』が、こんな所にいたとは」

「だな。でもさ『ルビー』って言う割には宝石とか落とさなかったぜ?」

「……!? ぷっ! あはははっ」


 アベルトの真面目な発言に、

 堪えきれず声を出して笑うフリーム。


「な、なんだよフリーム」

「違いますよアベルト。体の色がルビーに似ているだけで、別に奴らから宝石が採れる訳では―――」

「えっ? そ、そうなのか? って、んな事ぁ知ってらっ! 冗談に決まってるだろ!」

「ふふふ。そう言う事にしておきますね」

「ちっ……。ま、まあいいや」


 ばつの悪い顔をしたアベルトが、面隠しで刀身を眺める。

 そして、


「それにしても『今』みたいな調子だったら……冒険に出られるのも、そう遠くないかもな、俺たち」 

 

 フリームに向き、言った。


「さあ、それはどうですかね。西の大陸内ならボクたちだけでも旅をする事は、出来るとは思いますが。 

……しかし、先程のルビープラントたちを怒らせたように、アベルトの考え無しの行動が無くならない限り、強い魔物が多い、『東の大陸』の冒険は、まだまだ難しいかもしれませんね」


「うっ。それを言われると……」

   

 年下のフリームにたしなめられ、

 頭を掻きながら、決まり悪げに苦笑いをするアベルト。

 『冒険者の前に、もう少し大人になってください』と言われているようで恥ずかしい。


「それにボクたちは『北の大陸』の更にその上に存在する『不変の大陸』を目指すため、

 まだまだ、ガレッグさんの下で学ばなければならない事が山ほど……」


「「あっ!!」」


 思い出したように、声をあげ、突然、立ち上がる二人。


「しまった! ルビープラントに夢中で……」

「まずいですよ、あの傷で、もしワーグにでも襲われたら……それに『治癒魔法』の『連続発動』でリリアの体力も低下しているはずですし」

   

 二人は、慌てて隼人の倒れている方へ走り出した。


◆◆◆


「………」

《あー。やっぱりダメだ》


 アベルトとフリームがルビープラントを殲滅た頃、

 声がだせるものの、助けが呼べず、状況も全く掴めていない隼人は、

 首を動かすのに必死だった。


「………」

《よし、少し休んだら、もう一回だ……》


 これで何回目だろうか。

 痛みは相変わらず治まる気配はない。


《それにしても、一体何がどうなっているんだ? 今さっき、声が二つ聞こえて、

あっちが赤く光ったと思ったら何かが破裂した音がして》

 

 フリームが魔法を発動させた事を知る由もない隼人。

 そんな彼の鼻腔に、ルビープラントたちの焼け焦げた臭いが届き、

 『聴力』が、燃える音をとらえる。


《ん? 何か焦げくさくないか? しかもこの音って、もしかして……》


 それはまるで ”森の木々が燃えている” かのように、

 隼人へ誤解を与えた。


「んん!」

《えっ! ちょっ、マジかよ! これって火事じゃないのか!? 

やべぇよ、今、俺は動けないんだぞ! くそっ、こんな時に何で―――あれ? なんだか視界がぁ、ぼやけ、てぇ、眠気があ―――でもぉー、早くぅ、逃げ、な…きゃ……》


 急に激しい眠気と体の力が抜ける感覚に襲われ、瞼を閉じはじめる隼人。

 しかし、眠るまいと体を揺らそうとする。


 ―――が、


 激痛は走らないものの、なぜか力が入らない。

 次第にぼやけていく視界。

 隼人はゆっくりと瞼を閉じかける。

 そこへ、二つの人影が映った。


「お、おい。フリーム! この子、やっぱり生きてるぞ!」

「えっ!? 本当ですか!?」

  

 影はアベルトとフリームだった。


「おいキミ! しっかりしろ! 大丈夫か!?」


 アベルトが片膝を地面に付け、

 隼人の顔を覗き込む。


「うっ………」

《ん? あれ? さっき俺を呼んでた声? やっと俺に気付いてくれたか、って、なんだよその格好っ!?

何かのコスプレか!? 

つーか、こんな非常事態(火事)に、コスプレして遊んでたのか、こいつ……》


 隼人のぼやけた視界には、革の鎧を身につけた、

 まるで、ファンタジー世界の剣士のようなコスプレをしたアベルトが映っていた。

 そして、その後ろには同じくファンタジー世界の魔道士コスをした、

 フリームが立っている。


「………」

《何なんだこいつら。……何かのコスプレ集団か?》

  

 そんな事を考えている隼人に向かい、

 真剣に声をかけるアベルト。


 だが、アベルトは何故か、

 まるで『見てはいけないモノを見ている』ような表情で、隼人から目を逸らし、

 体には一切触れようとはしない。


 フリームはフリームで、

 隼人を見て顔を赤くしながら、

 どうしたらよいのか分らず、トンガリ帽子を―――もとい。頭を抱え、

 アベルトの後ろでオロオロと右往左往している。

 と、言っても、顔の半分がマントの襟で隠れているので、

 フリームの表情(赤面)は確認出来ないが。


「………」

《まあ、どうでもいいや。これで俺は助かる……》


 隼人は眠気のせいなのか、

 それとも安心したからなのか、

 再び、体の力が抜けていく感覚に包まれた。


《さあ早く、消防車と救急車を呼んでくれたまへキミたち……

俺は、なんだかとても眠いんだ……パトラッシュ………》


 余裕の表れか、偉そうに、くだらないボケをかます隼人。

 静まり返る森の中、隼人がゆっくりと瞼を閉じようとしたその時だった。

   

 突然、アベルトが立ち上がりフリームと共に視線を遠くへ向けた。

 その直後、聞き覚えのない男のバカでかい声が隼人の鼓膜を抉る。


「おい! 無事か! お前たち!」


「んんっ!!」

《うわぁっ!》

  

 声に驚き、再び瞼を開く隼人。

 目の前の二人よりもデカイ声だ。


「ガ、ガレッグさん! 大丈夫ですか!? 怪我は?」


 アベルトは、こげ茶の短髪の熊の様な大きく逞しい体格で、

 口に無精髭を生やした堀の深い顔の『ガレッグ』に向かい、声を上げた。

 その声は、ガレッグの怪我を心配しつつも、無事に再会できた喜びと、

 安堵の入り交じった明るいものだった。


「おー! すまねえ。俺としたことが油断した。だが、もう大丈夫だ」   


 ガレッグは、

 小柄で、セミロングほどの長さの丁子ちょうじ色の髪をピッグテールにした、

 少女の肩を借りながら、ニカッと歯を見せ笑い、のっそりとアベルトとフリームの方へ歩いてくる。

 そんなガレッグと少女の傍へフリームが駆け寄る。


「ガレッグさん。リリア。お二人とも無事で何よりです。一応、この辺のルビープラントは、ボクとアベルトで殲滅しましたが……」

「ああ。どうやらそうみたいだな」  

 

 辺りを見回すガレッグ。

 魔物の気配がないことを再度確認すると、


「残りも居ないみたいだ……それにしても流石だなお前たち、あの数を……おっとリリア。もう大丈夫だ。すまんな」


 アベルトとフリームを頼もしそうな眼差しで眺めるガレッグが、

 リリアと呼ばれる小柄な少女の肩から腕を離す。


 リリアは、利発的で誠実そうな雰囲気と、あどけなくも目鼻立ちの整った可愛い顔を、

 ガレッグに向け、頷いた。


「はい。お父さま」


 そして、ガレッグに褒められ、照れながら頭を掻いているフリームとアベルトを一瞥し、


「でも、無理はしないでください。私の治癒魔法はまだまだ未熟だし、今からでも村に戻って、ベル様に診てもらわないと……」

 

 真剣な目で、ガレッグに村の診療所で、怪我を診てもらうよう促すリリア。


「あ、ああ。わかってるって。

そうだ、母さんには転んだって言っとけよ。魔物に襲われて怪我をしたなんて―――王国騎士団を引退してまで、そんな心配はさせたくないからな」

 

 娘のリリアを見おろし、苦笑いをするガレッグ。

 そんなガレッグを素直で真っすぐな目で見上げ「はい」と応えるリリア。

  

◆◆◆


「う、ううう……」

《誰だ? てか、このオッサン声がやたらとでかい……それに”女の子の声”もする》 

 

 苦しそうに呻く隼人。

 アベルトが「ハッ」とし、


「そ、そうだ! ガレッグさん。この子まだ生きてます! 早く治癒魔法を!」

「なに、本当か!? てっきり、もう死んで……」


「………」

《え、何? 俺、『もう死んでいる』と思われていたのか?》

 

 今、初めて明かされた真実。

 「だから放置されていたのか」と、納得した隼人。


 アベルトに言われ、

 足を引きずりながら慌てて隼人の横にしゃがむガレッグ。


「おい、聞こえるか? どこか痛むか?」


 隼人は、体の痛みと睡魔に抗うのとガレッグの大声が原因で苦しそうな声を出す。


「ううう、ああう―――」

《うあっ、だから近くでデカい声を出すなよっ!》

 

 虫の息のように弱々しく返事をする隼人。

 オロオロするアベルトとフリーム。

 ガレッグはしゃがんだまま、後ろに立っているリリアへ振り向く。


「リリア、まだ、やれるか?」

「えっ? ……は、はいっ! やれます!!」

 

 疲弊した表情をしていたリリアだったが、

 力強く返事をしたその声は、なんとも頼もしく聞こえる。

 そして、ガレッグと対面する形で隼人の側にしゃがんだリリアが、

 治癒魔法独特の詠唱を始めた。


「女神マデリス・アノークの名の下――ヴェルエルスイレアクワイ―――全ての命の源――アヴェラムルース―――満ちた泉から顕れし―――オフワクレイエヴィラ———我が生命を削り捧げん……」


 木々の枝と葉が、

 リリアの『魔力』と『体力』によって生み出された空気を伝わる振動で、ザワザワと揺れる。


 次の瞬間、リリアの温かい手が隼人の額に触れ、

 その接触部から治癒魔法の優しい光が漏れた。


 光は瞬く間に隼人を包み、体の無数の傷を少しずつ癒し始める。

 その正面で、ガレッグが隼人の顔を覗き込みながら呼びかけた。


「もう大丈夫だ。今、治癒魔法をかけているからな!」

「………」

《……女の子の手が光っている? って治癒? 魔法? 何だそれ……

うっ。やばいっ、眠気で意識がだんだん遠く……でも、不思議だ、温かくて心地よくて………》


 とうとう、重たい瞼を閉じた隼人。

 かすかに声が聞こえる。

 いつの間にかアベルトとフリームも隼人の側にしゃがんでいた。


「まずい! おい!……おい!……目を開けろ」


 ガレッグの声が隼人の頭に響く。


「目を開けろ―――ちゃん―――お嬢ちゃん」


 そして隼人は意識を失った。


◆◆◆

読んで下さりありがとうございます。


ちょくちょく修整してます。

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