《プロローグ》
自己満です。
初執筆です。
稚拙な文章です。
ここは―――。
『西の大陸』随一の大国『ベルムヴィーゲ 帝国』の首都『帝都・クゥインオルス』
街は、帝国を治める現皇帝・デリウォッツ・バーフェンガーの居城オルス城が聳え立つ、バゼス湖の周りを囲むように存在している。
広範囲且つ強固な街壁に守られた街、クゥインオルスは、
たとえ日が沈み、天空に輝く星々が顕れても、その喧騒が止む事は無い。
そんな華やかな帝都だが、当然、裏社会で暗躍する者も多く居る。
政治・経済、共に大きく発展しているのと同時に貧富の差が激しいのが、大きな理由だ。
中でも、街の治安維持を責務とする『帝国兵』たちさえ、
足を踏み入れる事を躊躇う場所は、
ほぼ無法地帯と化しており、表向きの顔とは違う裏稼業に従事する者たちが、
しのぎを削る舞台となっている。
貧困層が多く、治安が芳しくない、その場所の名は―――ロヴ地区。
この街、いや、西の大陸全土の裏社会で、勢力を拡大しつつある『ヒンジー商会』が所有する会場もまた、この地区にある。
―――そして今、ヒンジー商会が主催する、あるオークションがこの会場で行われていた。
◆◆◆
静寂に包まれた暗闇の中、片手を突き出し男が言う。
「さあ、本日最後となりましたっ!」
薄暗い会場に居る全ての客たちが、
ざわつきながらその方向へ、一斉に首を動かした。
「わたくしも、こんな美しい奴隷を見たのは初めてです!」
男……否、『司会の男』が、興奮気味に声を上げると、
幾つものスポットライトが眩く輝き、
複数の強い光の筋が、舞台上に置いてある巨大で透明な四角い箱へと突き刺さる。
箱の大きさは縦横ともに、五メートルほど。
素材は、わからない。
硝子の様なモノなのか、またはプラスチックの様なモノなのか。
しかし、中に入れられた『モノ』が逃げ出せぬよう、『魔法』によって強度は高められている。
本来この箱は『見世物小屋』が、
動物や魔物を入れ、客に見せるために使用する『魔法器具』なのだが―――。
今、この中に居るのは動物でもなければ魔物でもない。
「では、皆様。どうぞ近くまで寄って箱の中をご覧下さいませ!」
司会の男が言うと、
会場の客たちがゾロゾロと、透明な箱へ近づく。
すると、箱の中で何かが動いている事に気付づく。
「獰猛な獣?」はたまた「魔物か?」
有り得ないからこそ、誰もが諧謔を口にした。
勿論、箱の中に居るのは、『人間の少女』だ。
正確には『奴隷』の少女。
と言っても奴隷自体は、然程珍しくはない。
ましてや、ここは『奴隷オークション』の会場だ。
―――だが、
箱の前に集まった客たちは、この奴隷を見た瞬間、
誰もが皆一様に「おおおっ!」と驚嘆の声を上げた。
年は十五か十六くらいだろうか、
透き通るような白いハリのある肌。
小柄で華奢な体格だが、
見るからに形の良い胸は、体つきとは不釣り合いに大きい。
更に顔立ちは、あどけなさが残るも、
成長と共に絶世の美女になることが容易に想像出来るほど美しく整っている。
そして、その整った顔と金色の双眸が、
青みがかった美しく長い銀髪と相俟って、少女の花顔をより一層際立たせていた。
それはまるで
創造神の最初の妻『女神マデリス』と見紛うほどの気品溢れる神秘的な美しさ。
だが格好は、不思議な文字(象形文字)の刻まれた『首輪』に、
露出の高い薄汚れたボロ服、そして『魔法器具』の手枷と足枷。
更にその表情は、疲労困憊した様子にも見える。
「この奴隷の名は『ハヤ』。我が『ヒンジー商会』が展開する18歳未満の奴隷売買を目的とした『プロジェクトDU-18』の”超Sクラス”の逸品です!」
司会の男が得意気にそう言うと、会場の中がざわざわとし、
「ほう。これは、なかなか……」―――「なんと美しい、ぜひ私の愛玩具に……」―――「わしは全財産を投げうってでも……」
と、箱の周りに集まった客たちの会話を、ハヤの優れた『聴力』が一つ残らず拾う。
客らの反応や会話の内容は様々で―――其々が好き勝手な事を言っていた。
だが、一つだけ、この会場の客たち全員に共通するものがあった。
年齢も性別も違う会場の客たち。
その共通しているものとは?
それは、どの客もハヤのことを『人』ではなく『物』を見るような目で眺めている事だった。
まるでショーケースに入れられた商品を眺め、品定めをする目。
『奴隷』―――それはすなわち、金で買える『物』
特に、若く美しい女や、幼い子供は、所有者たちの性欲の捌け口にされるのが殆どだ。
「どうですか? 紳士淑女のみなさま」
「………」
《何が紳士淑女だ。人身売買を何とも思わない『変態ロリコン共』の間違えだろ》
箱の床にペタリと座っている少女『ハヤ』が、
目を細めながら『言った』
確かに会場に居る客たちは、
人身売買を何とも思わぬ者、そして変態ロリコン(?)かもしれない。
何度も言うが、ここは奴隷オークションの会場。
正常な倫理観を持つ者などいないのは当たり前だ。
しかし、ここの参加者たちの全ては、
正真正銘、『帝国貴族』や『富裕層』の上流階級の者たち。
ハヤの言う変態ロリコンは、あながち間違えではないが、
司会の男の言う通り、
表向きは『紳士淑女のみなさま』だ。
ただし教養や気品があるかは別として……。
「ではみなさま、ここで、一つ余興を」
「!?」
客の熱い視線が集まり、更に得意になる司会の男。
ドヤ顔を天井に向け、何かを合図した。
と、その時、ハヤを照らすスポットライトの光が強くなる。
「んっ!……」
ハヤは、その眩い光の筋から無愛想に顔をそむける。
それを見た司会の男が、箱の中に入り、ハヤに近づき耳打ちをする。
「ふん。愛想がないぞハヤ。これじゃ高く売れんだろうが。まあ、そんな態度も、これでおしまいだがな。クックックッ」
と、手に持っていた魔法器具のボタンを押す司会の男。
同時に、ハヤの手枷と足枷がバチバチッと紫色の放電を発生させ、強い電流を流した。
「んっ!! んんんっ! んんんっ!」
目を見開き、苦悶するハヤ。
客たちは、その様子をニヤニヤと眺めている。
「おっと、まだ気絶するなよ。お前が苦しむ姿をしっかり客に見せつけてやれ」
司会の男はそう言うと、魔法器具のボタン繰り返し押した。
何度も、何度も、
意識を失わない程度の強い電流が、ハヤの白く綺麗な体へと流れてゆく。
「んんーっ! ん! ん!」
暫くして、司会の男の甚振りが終わる。
ハヤは呼吸を乱しながらぐったりとし、床に顔を付けた。
「はぁ、はぁ……」
司会の男は、生気を失いかけている目をしたハヤの髪を掴み、
「へっ、なかなかイイ顔をするようになったじゃねえか、ハヤ」
と、口の端を上げる。
「んっ!……」
ハヤは、目に涙を溜めながら司会の男を睨みつける。
その目は、怯えつつも増悪と侮蔑、そして怒りの交じったものだった。
司会の男は「フン」と鼻を鳴らし、
ハヤの髪から乱暴に手を離して、立ち上がる。
そして踵を返し箱の外へと出た。
「では、みなさま『競り』に入る前に、準備のため、ここで休憩に入らせて頂きます。
再開は三〇分後を予定しております。また、こちらでご用意したドリンクは飲み放題ですので、どうぞご自由にご利用下さい」
舞台を照らすスポットライトが消え、
客たちは、会場に設けられた各自の指定席へ、ゾロゾロと戻って行く。
◆◆◆
「さて、これから競りだ。少しはいい格好にしねぇとな。いくらお前でも、そんなボロ服じゃ安く見られちまう。もし、予想金額よりも安かったら『親分』……じゃねえや『社長』に殺されちまうぜ」
舞台裏で箱から出され、
姿見がいくつも置いてある質素な『更衣室』兼『衣装部屋』に連れて来られたハヤ。
他の奴隷たちは既に売られてしまい、
ここに居るのは司会の男とハヤだけだ。
「………」
「どうした。手足を自由にしてやったんだ、とっとと着替えろ」
「んっ!! ん、ん、んっ!」
「ああ? 何が言いたい……おっと、確かお前、喋れないんだったな。クックックッ」
司会の男は知っていた。
この美しい少女が、「声は出せるが、言葉を話したり文字の読み書きが出来ない」事を。
「まっ、これから奴隷として、どこぞの変態貴族か、金持ちに買われて暮らすんだ。
そんなに悲観するこたぁねよ。と言っても悲観なんてしてねえか。とりあえず無駄口はここまでだ。とっとと着替えろ」
「………」
黙り込むハヤ。
目は何かを訴えるように、じっと司会の男を見ている。
それに気付いた司会の男は、
「お前……もしかして俺がいるから着替えられねえのか?」
「ん、ん」
コクン、コクンと首を縦に振るハヤ。
司会の男は暫く考え、そして、
「お前、何か勘違いしてねえか? 奴隷に人権なんてモンはねえ。生きていられるだけで幸せなんだぜ。
だから、羞恥心なんて捨てろ。お前ら奴隷が生きて行く上で必要無い物だ。それでも着替えたくねえって言うんなら……」
「んんんっ!?」
「俺が着替えさせてやるよ!」
ドサっ!
一瞬だった、気が付いたら司会の男がハヤを押し倒し馬乗りになっていた。
手足をばたつかせ、必死に抵抗するハヤ。
しかし男の力には勝てない。
「へっ、その表情もそそるなあ。お前をあんな馬鹿な客共に売るのが惜しいぜ」
そう言うと、司会の男はハヤの両腕を床へ押さえつける。
「ん! ん!!」
「だが、これも商売だ。俺がお前を囲ってやってもいいが、「商品」をがめたりしたのがバレたらまずいからな」
「んっっっ!」
男はハヤの胸元に顔を近づけ布を歯で噛みちぎった。
ハヤの白く柔らかい乳房が男の鼻先に触れる。
「少しばかり楽しませてもらうぜハヤ」
「んっんっっ!」
ハヤの乳房に鼻を押し当て肌の匂いを嗅ぎながら、
綺麗で薄いピンク色の突起部をネットリと執拗に舐め回す司会の男。
抵抗しつつも、恐怖で次第に震えだすハヤ。
「はあぁ、やっぱいい匂いするなぁお前ぇはよお。ぐへへへっ」
司会の男は、まるで乳飲み子のように、ハヤの豊満な乳房を、無我夢中に吸う。
口に含んだピンク色の突起部を噛んだり、舌で転がしながら、
ハヤの乳房を弄び堪能する。
「うっん……んっ、んんんっ! はあっん! はあ……はあ……」
「さて、時間も無い事だ。もう、やっちまうか……」
「んっんっ!?」
司会の男がギラついた目でハヤを見る。
首を横に激しく振るハヤ。
だが、そんなハヤの願いは男には届かない。
ボロ雑巾のような服が無惨にも破り捨てられ、薄汚い表情をした男の前で、
その美しい素肌を曝けだす。
「抵抗するなよハヤ。すぐ終わるからよ!」
「―――!?」
と、その時だった。
ハヤの『聴力』が会場の客たちの騒ぐ声を拾った。
オークション再開の時間になっても、司会の男が会場に現れないため、客たちがクレームをつけ始めたのだろうか?
いや、違う。
「きゃぁーっ!」―――「何だ貴様らはっ! いったい何処から入って……」―――「ひぃぃぃっ!」―――「……無礼者! 離せ!」
何かが割れる音、何かが倒れる音、何かが破裂する音、そして会場を右往左往し逃げ惑う客たちの足音。
それらがまるで地鳴りのように、ハヤの鼓膜へ届く。
そんな悲鳴と怒号が飛び交い、パニック状態となっている会場の中で、誰かが大声を上げた。
「一人残らず捕らえなさいっ! もし抵抗したら斬っても構わないわっ!」
何やら勝ち気で強気な雰囲気のする女の声だ。
その女の声に呼応するように、
鎧の金属部の擦れる音を鳴らしながら、十数人ほどの男女が返事をする。
「「「「はっ!」」」
「それと、『ルアンネ』、『ミーラム』。 二人は私と一緒に来なさい! 今日こそ『マラガリニス』を見つけるわよっ!」
「「はいっ! 隊長っ!」」
女の声が誰かを探すと言った後、
ルアンネとミーラムと呼ばれる女たちが返事をする。
「さあ、徹底的に潰すわよ!」
会場で、騒ぎを引き起こした者たちの会話を、黙って聞いているハヤ。
特に気になった声は―――隊長と呼ばれる女。
「………」
《アイツの声に似ている……幼い頃からずっと側で聞いていたアイツの声に》
ハヤは、そこはかとなく懐かしさを覚えた。
「………」
《―――もう二度と聞けないと思っていたのに、何故こんなところで……もしかしてアイツなのか!? いや、それは有り得ない》
確かにそれは有り得ない事だった。
なぜなら、アイツはこの『世界に存在しない』筈だから。
そんな会場の異常事態をつゆ知らず、ハヤの腕を抑え付けながら馬乗りになっている司会の男。
急に抵抗しなくなったハヤを見て、ゲス顔を近付ける。
「どうしたハヤ。ようやく観念したか?」
司会の男は、鼻息を荒げ、ハヤの太腿に自身の股間の膨張した竿を押し当てる。
そして、まるで犬のようにカクカクと腰を動かし、
ベルトを緩めズボンを降ろしはじめた。
「はぁー。はぁー。これで、お前も俺のモノに……」
目をギラつかせた司会の男が、
行為に及ぼうとした時だった、
―――ドーンッ! バキッ! ドカンッ!
突如、『更衣室』兼『衣装部屋』の木製のドアが蹴破られた。
その勢いで、ドアと共に吹っ飛ばされた司会の男。
部屋の奥の壁に激しく背中を強打し、
まるで肺の中の空気を絞り出されたかのように咳き込む司会の男。
「げほっ!」
肺が潰れたのではないかと思うほどの衝撃を受け、
奥の壁にズルズルともたれながらへたり込んだ、次の瞬間、
ビュンっ! と、仰向けのハヤの上を何かが通り過ぎた。
それが一体何なのか、一瞬だったためハヤは目視が出来なかった。
だが、気が付くと、自分と同じくらいの年齢の少女が、
司会の男の前で仁王立ちし、剣の切っ先を男の喉元に当てている。
その少女の姿は『人』ではあったが、微妙に違っていた。
艶やかで長いストレートの黒髪に、
黒毛に覆われた猫耳をぴょこんと立たせ、
フリフリと動かしている黒い尻尾は、まるで愛らしい黒猫を彷彿とさせる。
《あの姿は、確か、この世界では半獣人族と呼ばれる亜人……》
半獣人―――亜人の中でも際立って愛らしい姿の者が多い種族。
だが、その数は少なく、希少な種族でもある。
そのため『半獣人』の奴隷を欲しがる者も少なくはなく、
この世界の『愛玩用奴隷』としては最も人気が高い。
しかし、今、ハヤに後姿を見せている半獣人の少女は、
一見、愛らしく見えるものの、どこか力強く、
頼りがいのある佇まいと同時に、凶暴で飢えた肉食獣のような、威圧的で攻撃的な”気”を放っていた。
つまりこの少女の雰囲気は、『愛玩用』と呼ぶには程遠いモノだった。
だがハヤは、この少女の後姿を見た瞬間、「アイツの声に似ている女」だと直感した。
否、似ているのではなく、この半獣人の少女は間違いなく「アイツ」だと確信した………。
姿形は違えど、
《幼い頃からずっと一緒だった俺が、間違える筈ない!》
「―――やっと見付けたわ。『ヒンジー商会』ナンバー・ファイブ『マラガリニス』っ!」
「うっ……て、てめえ……」
「既にこの会場は、我々『帝国剣士団』が制圧したわ、観念しなさい」
半獣人の少女が、長い黒髪をかき上げ、
勝ち誇ったような声で司会の男の名を呼んだ。
マラガリニスは、苦しそうに声を絞り出し、半獣人の少女を見上げ睨んだ。
「ちっ……偉そうに。何が『帝国剣士団』だ。ただの寄せ集め『自警団』じゃねぇか。俺たち『ヒンジー一家』を舐めるなよ…小娘」
「あら、寄せ集めで悪かったわね、外道」
プチッ。……ツツーッ。
「うぎゃあああっ!!」
半獣人の少女が握っている「禍々しくも美しい剣」の切っ先が、
マラガリニスの首に数ミリほど刺さり、そこから溢れ出した鮮血が首に赤い道を作る。
「ふふふ。見かけによらず痛がりなのね……でも、この『魔王の秘宝・ミルティア』に斬られたのだから、その反応は当たり前かしら?」
「なっ!? ま、魔王の秘宝だと!? ひいーっ! 傷口が腐るっ!! た、頼む! 許してくれ! 見逃してくれ! 殺さないでくれっ!」
少女が『魔王の秘宝』と言う名を口に出した瞬間、
今まで無骨者のような態度を見せていたマラガリニスが、
ガクブルとなり、少女に命乞いを始めた。
「ふーん。何とも”クズ”らしいベタな命乞いね。あなた、つまらないわ」
含み笑いを見せる半獣人の少女。
次の瞬間、少女はマラガリニスの傷口を、切先で抉る。
「ぎぃゃゃゃやややーっ!」
少女の『拷問』が始まった……
◆◆◆
「………」
《魔王の秘宝? もしかして……》
そしてハヤは、『何か』が自分をじっと見つめている『気配』と『声』に気付く。
[なあ、『グレディガン・アノリウス』―――あんた、あたしの声が聞こえるかい?―――]
◆◆◆
ここは、『ティエ・ラ・タナ』
―――創造神の最初の妻、女神『マデリス・アノーク』の世界。
読んでくださりありがとうございます。
ちょくちょく修整してます。