「本物」の緊急会議
何とか沙織のパパから穏便に逃げ出し、沙織の部屋に移動した。
沙織のパパが沙織の部屋の中まで僕を追ってきたんだけど、沙織に「会議をするからパパは出て行ってwwwwwwwwwwwwwwwww」と言われてしょぼんとして部屋を出て行った。
あの人、しつこいんだよなあ…
他の「本物」達には慣れているので僕の心が侵食されることはないが、沙織のパパにはいまいちまだ慣れてない。
まっとうな仕事以外にも間違いなくヤバいことやってそうだし怖いんだよなあ…
沙織の部屋は上品に飾り付けられたキレイな部屋だ。
ちょっとした置物なんかでも、見るからに高そうなものが多い。
その部屋に僕にもよく分からないアニメか何かのフィギュアが飾られ、高そうな壁紙に画鋲で穴を開けてアニメのポスターやカレンダーを貼り付けている。
高そうなテレビボードに置かれた、60型のめっちゃでかいテレビにのんのんびよりが流れていた。
最近沙織が1番好きなアニメで、僕も何度も見せられた。
他の「本物」達も食い入るように見ている沙織につきあって、適当にくつろぎつつ、自分のやりたいことをしながら一緒に見ていた。
「差身wwwwwwwwwwwwww会議だwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織はそう言うとのんのんびよりが流れていたテレビを消した。
何だか沙織にしては偉く改まった様子で座り直した。
「結論から言うwwwwwwwwwwwwwwwwwwwあの工場は駄目だwwwwwwwwwwwwwwwwwもう辞めようwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織はそう言うと、1人で納得したように何度も頷いた。
他の「本物」達もじっと僕を見ていた。
多分、天使以外は工場でのアルバイトを続けたくないのだろう。
みんな僕がどう返事するか待っているようだった。
僕は少し間を置いてから返事をした。
「みんなアルバイトは大変だったと思うんだ。かなり体も辛い肉体労働だし時給も安い。だけど、苦しいからって逃げたらいけない気がする。苦しいからって仕事を辞めていたら、どこまでも逃げ続けてしまう気がするんだ」
みんな黙って僕の話を聞いていた。
僕も僕が今抱いている気持ちをうまく説明できないんだけど、なるべくゆっくり伝えた。
「あと2週間でアルバイトは終わるけど、僕はしっかり仕事を覚えて役に立てるようになってから終わりにしたい。みんなは無理はしないで欲しい。アルバイトが終わった後に会えるから大丈夫だ。続けられなかったらアルバイトを辞ても良いと思う」
僕がそう言うと清城京が色めき立った様子で、僕の背中に飛びついてきた。
「いやあああん!!!!あああ…いい…差身さん、私のことを永遠に守って下さいですわ…」
背中から清城京の荒い息遣いが聞こえてくる。
何が良いのか分からないが清城京はめっちゃ興奮していた。
それを見て沙織が清城京を引き剥がしにきた。
「おい金髪リボンwwwwwwwwwwwwいちいち発情するなwwwwwwwwwwwwwwwwww会議中だぞwwwwwwwwwwwwww」
発情した清城京を沙織は慣れた様子でどこからか出してきたロープで縛り上げ口にテープを貼ると、自分の膝元に転がした。
「んんんんーっ!!!んんーーっ!!!」
清城京はもがきながらなにか訴えようともがいているが、沙織はそんなこと意に介さなかった。
「大事なところだwwwwwwwwwwwww金髪リボンはそこでおとなしくしておけwwwwwwwwwwwwwwwwおいwww差身wwwwwwwwwwwwwww篠宮隊長に何かされたんじゃないだろうなwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
不気味な笑みを浮かべながら沙織はふらりと立ち上がると、僕の前に中腰で座った。
「そんなわけないだろ?篠宮隊長は仕事を教えてくれただけだ。厳しかったぞ」
そうだ。篠宮隊長は厳しく仕事を教えてくれただけだ。
それ以上もそれ以下もない。
沙織は何を勘違いしているのだ?
「差身君、篠宮隊長の目を見て。あれは恋をしている…」
天使がいつも通り無表情のままポツリとそう言った。
それを確信しているかのように、真っ直ぐ僕を見つめていた。
「差身!まさか『寝取らレーゼ 旦那が留守の間に』をリアルでしたいのか!隊長はスレンダーなクールビューティーで胸は大きくないぞ!」
真顔のかなっちが「馬鹿だなあ」という感じでそう言った。
おい、かなっち…おまえ、さっきそれについて何も知らなかっただろう…
何でもう細かい情報までおさえてるんだ!!!!
今日「本物」達に何を聞いて何を見せられた!!!!
この短い時間に何を知ったんだ!!!!
「そうだwwwwwwwwww差身wwwwwwwwwwwwwwww差身がアルバイトをしたいなら、それは仕方がないwwwwwwwwwwwwwwwただ、我々は警戒しているwwwwwwwwwwww極めて危険な状態wwwwwwwwwwwwwww篠宮隊長は差身に恋してるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織の目に黒い影がかかり凶悪に光り始めた。
右手でくるくるとコンバットナイフを回しながら病んで笑みを浮かべている。
そして、僕の喉元にコンバットナイフの先を突きつけると、沙織は逆の手で僕の髪の毛を掴んだ。
「差身に問うwwwwwwwwwwwwイエスかノーで答えろwwwwwwwwwwwww隊長のことをどう思ってるんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwにゃんぱすwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
コンバットナイフを握る手が小刻みに震えていた。
沙織の「本物」がまた加速し始めている。
沙織の美しい目が「本物」の愛でいっぱいになっていた。