「本物」のパパ登場
「差身wwww起きろwwwww逃げるぞwwwwwww」
真っ暗な何もない世界に沙織の病んだ声が聞こえてくる。
沙織に揺さぶられて、はっと目覚めた。
ああ、そうだ。休憩所で寝てたんだっけ…
時計を見ると15時を少し過ぎていた。
「ああ、ごめん。先に終ったから寝てた」
僕はゆっくりと背伸びしながら起き上がると、他の「本物」達はいなかった。
「にゃんぱすwwwwwwwwwwwwwwwww早く着替えるんだwwwwwwwwwwwwwwwwwww私の家に集まって会議をすることになったwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww議題が山積みwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
仕事が終わった途端に元気になってきた沙織は楽しそうに病んだ笑みを浮かべた。
まあ、何かそういう流れになりそうな気はしていたのだけれど、沙織の家に行くとまた沙織のパパがいるような気がするんだよなあ…
あの人はなんか苦手なのだ。
僕のことをとても好意的に思ってくれているんだけれど、やはり沙織の親なのである。
どうにもならないくらいに「本物」過ぎて対応に困るのだ。
一旦みんな家に帰ってから、沙織の家に集合した。
重労働の後なので、シャワーを浴びて着替えないといけないくらい酷いことになっているからだ。
沙織の家は横浜線の小机駅に近いところにあるんだけど、シャレにならないくらいの豪邸なのである。
こんな所に家族3人で住んでいるとは思えないほど豪華で広かった。
僕は幼い時に初めて沙織の家を見た時に「城」だと思った。
その「城」の中から出てくるお姫様のような少女。
それが沙織だった。
最初は「何故この女の子はずっと僕と一緒にいるのだろう」と思っていたが、だんだん歳を重ねるにつれ「何故沙織は僕以外と話そうとしないのか?」に変わっていった。
その豪邸の中で沙織は毎日ゲームしたりアニメを見たりしてるだけなんだけどね。
大事に育てられすぎて「本物」になってしまったんだと思う。
その沙織の豪邸に「本物」達と行くと、玄関で沙織と沙織のパパが出迎えてくれた。
「やあ、みんな良く来たね。ゆっくりしていってね」
モデル体型の沙織よりスラっと背の高い沙織のパパが、笑顔で僕達を歓迎してくれた。
はい!でた!
やっぱりいたか!カリスマイケメン沙織のパパ!!!!!
沙織のパパは一代で財を成したカリスマ実業家だ。
一流の男だけが持つ自信がみなぎるその様子は大人の魅力を感じさせる。
でも…お父さん…あなた忙しいはずなのに…
何で僕が遊びに来る時は、ほぼ確実に昼間から家にいるんだ!!!!!
おかしいだろ!!!!いつも僕は急に沙織に呼び出されてるんだ!!!!
「みんな、早く上がるのんwwwwwwwwwwwwwwwwのんのんびよりのブルーレイを見るのんwwwwwwwwwww」
沙織は自分の好きなアニメのブルーレイをみんなに見せたいらしくそう急かした。
僕達が玄関に上がった時、沙織のパパが僕の肩に手を掛けた。
「差身君、こっちに来てくれたまえ」
沙織のお父さんがカリスマオーラを輝かせながら僕だけを呼び、「本物」達は先に沙織の部屋に向かった。
沙織のパパと2人きりになると、少し無言の時間が流れた。
神妙そうな顔をしてうつむいていた沙織のパパは、申し訳なさそうに口を開いた。
「差身君、いつもすまないね…あの沙織が友達を家に連れてくるようになって本当に嬉しいよ。全部私の力不足なんだ。差身君がいなかったら沙織はずっと部屋に閉じこもっていたよ…」
沙織のパパが視線を落とし何かを噛みしめるようにそう言った。
「いえ、そんなことないです。また、旅行にも連れて行って頂けるのでみんな楽しみにしています」
僕は本当に何もしていない。
昔と変わらず沙織と遊んでいるだけだ。
そんなこと言われても、僕もどう返事をして良いのか分からない。
何だかそんな風に言われて逆に申し訳ない気がする。
「私にとって、いや、うちの家族にとって差身君は恩人なんだ。私だけでは沙織をちゃんと育てることができなかった。何とお礼を言って良いのか分からない。もう、頭が上がらないよ…」
沙織のパパは頭を下げガッシリと僕の手を両手で握り締めた。
その言葉以上に沙織のパパの思いが伝わってきた。
「そんなことないです。僕は特に何もしていません」
沙織は沙織の力で成長してきた。
僕は一緒にいただけで、沙織に何もしていない。
「そうか、ありがとう…ところで差身君、なんでまだ沙織を襲わないんだ?セックス…」
沙織のパパはそう言いながら頭をあげると、目に黒い影がかかり暗黒オーラが漂っていた。
何だかさっきよりも瞳孔が開いている気がする…
おい、なんか、語尾に不穏な言葉が聞こえたんだけど…
いや、幻聴だ、幻聴だ、そんなはずがない…
「いや…その…まだ…」
早く話を切り上げよう…
まともに聞いてたらこっちが狂ってくる。
「セックス…セックス…沙織は美しいだろう?何で襲わないんだ?沙織は待っているんだよ…フェフェフェフェフェ…」
やめろ!特に最後の方の危うい感じの言葉は絶対に駄目だ!
それ以上言ったら!それ以上言ったら!
大体、何のためにその余計な言葉をつぶやいてるんだ!!!!
「ええ…」
僕は何とか話しを終わらせようとしたが、沙織のパパが止まることはなかった。
「差身君、うちの娘を襲いたくないというのか?脱いだら凄いよ…沙織は着痩せするタイプなんだ…一緒に歩いて良し、夜ベッドの中でも良し、それを差身君の好きにできるんだよ!!!!」
「いや、その…そういうわけでは…」
「今日にでも…今日でもいいんだ…早くグチャグチャにして思い出の夏休みにするんだよ…」
「はい…わかりました…そのうち、機会があったら…」
駄目だもうこの人何を言ってるかわからない。
世の中の父親は高校生の一人娘を早く襲えとは言わないと思うんだ!!!
僕は自分の心が沙織のパパによって蝕まれそうになるのを必死に耐えていた。
「差身君、あの篠宮隊長というお姉さんより沙織が劣る部分はない…いつの間に年上好きになったんだい?まさかとは思うがリアルで『寝取らレーゼ 旦那が留守の間に』をしたいんじゃないだろうね?あんなものでリビドーを爆発させているなら、早く沙織とやっちまえばいいんだよ!!!!」
僕はそれを聞いてめっちゃ身震いがした。
沙織のパパは大きく見開いた目で僕を見ながら病んだ笑みを浮かべた。
ああ、もう、このあたり沙織とそっくり!!!
「いや、いや、そんなことは…」
なんでこいつ知ってるんだ…
なんでこの人、それを知っているんだ!!!!!
篠宮隊長のことも僕のシークレットも!!!!
どこで情報を得た!!!どうやって見た!!!!
だいたい、篠宮隊長は人妻というには若すぎるだろう!!!!
「差身君、海を超えちまえば日本の法律や社会通念なんて関係なくなるんだ…今度こそ、あの私のプライベートアイランドで大人になるんだよ。あそこでは私が法なんだ。だから大丈夫。どんな形でも良いから早めに襲うんだ…子作りに励むのだよ…」
駄目だ!狂ってる!!
逃げたい!!!早くここから逃げたいよ!!!!!
この人おかしい!!!
法治国家なのにどうしてこの人は野放しにされてるんだ!!!!
「はい、分かりました…努力します…」
僕は少しづつ後ずさりしながら、話しを切り上げ沙織の部屋に行こうとした。