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「本物」の嗅覚

「差身、40分はかかりすぎだ。慣れたら10分でできる。まあ、頑張れ。次行くぞ」


 何とか全部の砂糖袋を運び終え死にかけている僕にそう言うと、篠宮隊長はカツカツと移動し始めた。

 手に全く力が入らなくなっていた。

 背中も足も筋肉を使い過ぎて強く張っている。 

 山登りして下山してきたような感じで、予想以上の重労働に声も出せなくなっていた。


 もう、駄目だ…キツすぎる…


 時計を見るとまだ10時にもなっていない。

 昼休みまで2時間以上もある。


 とりあえず、完全に動けなくなるまで頑張るかと思い、何とか篠宮隊長のあとをついていった。

 それから篠宮隊長の指導のもと昼休みまでみっちりと様々な重労働をこなした。

 全て始めてのことばかりなのと疲労が激しく踏み重なり、単純作業なのに徐々にミスをし始めて篠宮隊長に怒られたが「はい」と返事をしながら作業するので精一杯だった。

 そのうち工場に学校のようなお昼休みを知らせる鐘が鳴った。

 まだ、与えられた仕事が途中ではあったが、僕の肩を篠宮隊長が叩いた。


「よし、差身。頑張ったな。12時45分まで休憩だ。45分までにタイムカード押すんだぞ。休んで来い」


 意識が朦朧とする中、僕は何とか「はい」と返事をした。

 でも、その時、篠宮隊長が何というか…その…優しい感じがした…

 厳しい視線で僕を見て決して笑ったりしていなかったんだけど、その瞬間、何だか篠宮隊長の温かさが伝わってきたような気がした。

 それは僕の気のせいかもしれない。

 だけど、それが僕の胸を打ち、午後からの仕事もしっかりやろう思えた。

 そして、厳しい篠宮隊長の本当の姿が見えた気がした。 


 昼休みの休憩所がどこにあるか篠宮隊長に教えてもらい行ってみると、「本物」達が集まってぐったりしていた。

 休憩所はぼろっとした小屋のような所で、畳が敷かれた床に長机がいくつか置かれていた。

 そして信じられないことに、この猛暑の中、エアコンや扇風機といったものは置いてなかった。

 ただ窓が開いているだけで、ここにいても休んでいるのかなんなのか分からない。


「差身wもうw無理w帰ろうwアルバイトするならパパの仕事を手伝えばいいw」


 沙織が顔にタオルを掛け床に寝転んだままこっちも見ずにそうつぶやいた。

 あーあ、これは完全に死んでるな。

 弱り切った様子で「w」の数も減っていた。

 体力的にもそうだけど、知らない人達の中で働いて、精神的にもまいってるぽい。 

 あとな…お前のパパの仕事はちゃんと確認はしてないんだけど…何だか逮捕されそうな気がするんだよ!!!

 僕は真面目で無難な人生を送りたいんだ!!!!


「おい…差身…ここは酷いぞ。速いのだ…どんどん、かぼちゃの煮たのがやってくるのだ…」


 かなっちが目に涙を浮かべグスンと泣きながら、ペットボトルのお茶を飲んでいた。

 あまりにも弱った声でそう訴えるので、かなっちの横に座った。


「沙織はゆっくり寝てろ。かなっちは午後も続けられるか?」


 死んだように仰向けのまま動かないさおりに声をかけてから、かなっちの背中を軽く叩きながらそう聞いた。


「大丈夫なのだ…頑張るのだ…かぼちゃの仕事は覚えたのだ…」


 かなっちはそう言いながら少し落ち着いた様子で、僕を見ながらこくんと頷いた。 


「差身さん…私も駄目です…かぼちゃもたけのこも小さい魚も来るんです…」


 甘えたような声で清城京がそう言って僕に近づいてきた。

 なんかもう戦場から帰ってきたようなうつろな表情になっていた。

 清城京は育ちが良すぎて、あんまりこういう単純作業とかには向いてなさそうだもんな…

 そのまま清城京は僕の膝の上に顔を埋めると「ハア…ハア…」と不穏な息遣いをし始めた。

 僕もそれを跳ね除ける体力が残っていなかったので放置した。


 天使の様子を見ると、顔色1つ変えずお昼ごはんのパンを食べていた。


「天使は仕事には慣れたのか?」 


 僕がそう声をかけると、天使はいつも通り無表情で僕を見返した。


「私、平気。もっとやりたい」


「疲れたりしないのか?」 


「私、楽しい。こんなに楽しいと思わなかった」 


 どうやら、天使にはこの仕事がマッチしたようだ。

 淡々とした口調ではあるが、天使が自分の感情を言葉にするなんてめったにないことなのだ。  

 よほどここの仕事が気に入ったのだろう。

 どことなく活き活きとしている感じすらする。


「おいw差身ww隊長にはまだ襲われてないかwwwww」


 沙織は顔からタオルをどけて顔だけ傾けてこちらを見た。

 タオルを取った沙織の顔は死相がはっきりと浮かび上がっていた。 


「何を言ってるんだ。隊長がそんなことするはずないだろう」


 僕がそう言うと、沙織は唖然とした表情になった。


「差身、気がついていないのかw隊長は我々と同じ『本物』の仲間だwww差身はイケメンだからモテるなwwww」


 さおりはそう言うと病んだ笑みを浮かべ、また顔にタオルを掛けてお休みモードに戻った。


「差身w最初は私だw隊長に襲われたら2人とも殺すwwうひひひwwww」


 沙織はそう言い残すと完全にぴくりともしなくなった。


 何言ってるんだよ…

 あの厳しい篠宮隊長がそんなわけないだろう…


 僕の膝の上で清城京は寝始め、横でかなっちが泣いていて、周りからあらぬ誤解を確実に受けている。

 なんとなく他の作業員の方々とかが、こっちをチラチラ見ているんだよなあ…

 それより午後の仕事をしっかりできるようにお昼ごはんを食べないと駄目だ。

 かなりクラクラしているが形振りなんて構っていられない。

 食べたら僕も少し横になろう。

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