「本物」のパパと隊長
事務所の男が去ると沙織のパパは篠宮隊長のそばに歩み寄った。
「やあ、はじめまして。うちの沙織がお世話になったみたいで。色々ありがとう。でも、思ったより大変なことになっちゃったね」
路頭に迷うような表情の篠宮隊長に沙織のパパが優しく笑いかけた。
篠宮隊長は沙織のパパに神妙な面持ちで会釈すると1点を見つめうなだれた。
あー、篠宮隊長は真面目だから沙織達のこれだけのことされても、僕の怪我や労災に関して自分を責めてるんだろうな。
あと、この酷い状況じゃ、工場をどうやって再開したものか分からないしね。
色々考えることがあり過ぎるもんな。
「いいえ。私がまだ甘かったのが原因です。弊社の不手際をお許し下さい…」
篠宮隊長はそう言うと沙織のパパに深々と頭を下げた。
それを見て沙織のパパは笑いながら篠宮隊長の体を軽く叩いた。
思いがけないことであったのだろう、篠宮隊長ははっとした様子で沙織のパパを見上げた。
さすが沙織のパパ!何やってもイケメンだな!爽やかだ!
「篠宮さん、大丈夫だ。今日のことは全部私が何とかしよう。せっかくこうして知り合えたんだ。みんなで儲けようじゃないか。それよりやることがあるだろう?」
篠宮隊長が沙織のパパの言葉で、何かに気がついたように反応した。
「まずは工場の状況を把握して、どこまで作業が進むか考えないとな。もしかすると意外と急げば、全部間に合っちゃうかもよ?泣いてる場合じゃない。仕事だろ?そんなんじゃ駄目だ。どうにもならないことをみんなで協力して何とかするのが仕事なんじゃないのかな?」
それを聞くと篠宮隊長の眼の色が変わった。
いつものやる気に満ちた篠宮隊長に戻っていた。
「そうでした。申し訳ございません。急ぎでやらなくてはならないことがあるので、後ほど改めてご挨拶させて頂きます!」
篠宮隊長がキビキビと1礼すると、力強く心配そうに工場を取り囲んでいる大勢の工場作業員に向き直った。
「それで良い。篠宮さんは成功するタイプだよ。余計なこと考えずに頑張れば良い。人を束ねるなら、あと1分で全てが駄目なのが分かっていても、自信を持って最後まで立っていなければいけない。あきらめたら奇跡は起こらない」
沙織のパパは優しく笑いながら篠宮隊長の背中に言葉を投げかけた。
「みんな聞いてくれ!各班長は作業できるかどうか調べてくれ!他の人は片付けと準備のふた手に分かれて作業してくれ!現場の班長の指示にしたがって臨機応変に!何かあったら私に連絡をくれ!」
篠宮隊長がそう声を張り上げると、怯えてことの成り行きを見守っていた工場作業員達が蘇るかのように一斉に動き出した。
さすが集団行動に慣れているだけあって、次々と工場内へ散っていった。
「じゃあ、あとでゆっくり儲かる話をしよう」
半分独り言のように沙織のパパが言うと、スマホを取り出し何処かへ電話した。
「おい、使えそうなのはさらっとけ。駄目なのは沈めろ。…そうだ、詰めて太平洋だ。…あとはいつも通りだ。…ああ、後で直接話しに行く。大丈夫だ。何かあったら殺せばいい」
沙織のパパは何やら不穏な会話を終えスマホをしまうと、慌ただしく動き始めた工場作業員を見て目を細めた。