「本物」の作戦ミス
確かにそうだ。天使の言う通りだ。
遠距離盗撮者の清城京がここにいるということは、沙織は屋上で無防備な状態でいるわけだ。
沙織が殺られるとしたら、まさに「今」なのである。
嫌な予感がした。
何だか急いだ方が良い気がする。
「みんな!沙織を助けに行こう!」
僕が「本物」達に声をかけると、みんな真剣な表情でうなずいた。
3人の「本物」達と屋上へとできるだけ急いだ。
足が痛いがこうなったら仕方がない。
多少足がおかしくなっても、沙織に何かあるよりマシだ。
沙織のことだから調子に乗って屋上から落っこちるかもしれないし、自分で自分の体を撃ちぬいてしまうかもしれない。
コンバットナイフで手を切ったり、何かを誤射して爆発させてしまうかもしれない。
沙織は頭が良いけど迂闊なのだ。
これだけ凄いことをやらかしても、つまらないことで転んでしまう時もある。
それが沙織なのだ。
僕がいてあげないと沙織は駄目なのだ。
僕が沙織を守ってあげないと駄目なのだ。
一緒にいてあげないと沙織は寂しがってしまうし、何をやらかすか分からない。
それに沙織を理解しているのは僕だけだ。
僕だけが沙織の支えになれる。
いつだって沙織のことを、僕は心配している。
沙織を連れ帰ってこの「本物」の事件を終わらせることができるのは僕だけだ。
沙織は悪気がない。
この国は終わらせようとか、何かを憎んでいるというわけではない。
ただ、僕のことが好きなのだ。
そして、僕も沙織のことが好きだ。
その歪んではいるが、まっさらで純粋な心は、凄くキレイで守ってあげたい。
息を切らせながら何とか上までたどり着くと屋上のドアを開けた。
そこには沙織がM16A4を持って立っていた。
屋上には見渡す限りおびただしい数の武器が置いてあった。
うわあ、RPGまであるよ…
これは命中精度は低いんだけど、当たれば戦車も吹っ飛ぶとんでもない奴だ。
引き金を引くとロケット弾が飛んで行く。
沙織…お前、一体誰と戦ってるんだ…
何に対して、それを撃ちこむつもりなの!!!!!
どうして食品工場と戦うのにそんなもの持ってきてるの!!!!!!
さっき、戦車で砲撃すれば沙織を止められると思ったけど、戦車1台だったらヤバいかもしれないな…
沙織は僕を見ると病んだ笑みを浮かべて、嬉しそうに駆け寄ってきた。
「にゃんぱすwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww差身登場wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww差身も貨物船で南の島に行くか?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織が楽しそうに駆け寄ってきた。
おいおい、ずいぶん気楽そうだな。
でも思ったより話し合いができそうな感じでよかった。
僕も沙織に歩み寄っていった。
「沙織、もう終わりにしよう。みんなに謝って帰るんだ」
僕がそう声をかけると以外にも沙織は笑顔で頷いた。
あれ?徹底抗戦するつもりかと思ったんだけど、もう終わりにするつもりだったんだな。
意外と呆気ない終わり方に拍子抜けしたが、何とか騒ぎを止められて正直ホッとした。
「ああwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwもう帰るwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織は軽くそう言った。
全く沙織は反省しているのかなあ?
これだけのことをして気軽なものだよ。
「そろそろ工場を爆破して逃げるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww長居は無用wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwそんなことしても意味がないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww工場はどうせ謝らないと思ってたwwwwwwwwwwwwwwwwww差身の恨みは爆破で晴らすwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織はそう言うと悪魔のよう悩んだ笑みを浮かべながら、上空に向かってM16A4を撃ち鳴らした。
何言ってるんだ…
何言ってるんだよ…
おい…はじめからこの街を火の海にするつもりだったのか…
沙織…愛が重いよ…
お前の「本物」の愛が重たくて重たくて、何だか狂いそうなんですけど!!!!
「駄目だろ!!このあたり全部焼け野原になっちゃうよ!」
あまりのことに大きな声になってしまったが、沙織はそんなこと気にもしていないようだった。
「捕まりたくないwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww全部メチャクチャにして逃げるんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww『貨物船!!!』wwwwwwwwwwwwwww」
沙織の掛け声とともに「本物」達も声を上げた。
まさにシュプレヒコール。
熱い「本物」達の本気が伝わってくる!!!!
「貨物船!!!!」
「貨物船!!!!」
「殺せ!!!!」
「殺せ!!!!」
「工場爆破!!!!」
「工場爆破!!!!」
「ニャンパス!!!!!」
「ニャンパス!!!!!」
「学校行かね!!!!」
「学校行かね!!!!」
こんな時だけ声がぴったりと合う「本物」達。
お前達、色々理由をつけてるけど、本当は学校行きたくないだけなんだろ!!!!!
ずっと夏休みでいたいだけなんでしょ!!!!!!!
学校行きたくないという理由でここまで巻き込まれた工場ってなんなの!!!!!
その時「ガチャリ」と屋上の端の方から物音が聞こえた気がした。
まだ、敵は殲滅されていなかったのだ。
工場の壁を登り何者かが近づいてきている。
遠距離盗撮者の清城京が所定の位置にいたら、こんなこともなかっただろうがどうにもならない。
作戦ミスで命を落とした者は数知れないというのに、僕たちは油断していた。