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「本物」の爆弾魔

 僕達3人は屋上へ向かって階段を歩き続けた。

 急ぎたかったんだけど、足が痛すぎてもう無理だった。

 変な風に骨がつながったりしなければいいんだけどなあ。

 大丈夫だとは思うけど、後々歩けなくなったりしないよなあ… 


「こんなにしちゃって沙織はどうするつもりなんだ。何か聞いてる??」


 僕は歩きながら2人の「本物」に聞くと、天使が表情を変えずに僕を見上げた。


「工場が差身君に謝らなければ工場を爆破する。沙織が石油の貯蔵タンクとかガス管に爆弾を仕掛けた。他にも色々仕掛けてある」


 天使は淡々とそう言うと、かなっちが嬉しそうに両手をあげた。

 

「そうなのだ!工場が爆発している間に逃げるのだ!貨物船に乗るのだ!南の島に永住するのだ!」

 

 かなっちは全てのストレスから開放されたような爽やかの表情でぴょんと1つ跳ねた。


 おい…お前達…何かとんでもないこと言っているぞ…

 確かに大爆発が起きてる間に逃げることは簡単だと思うよ。

 でもね…でもね!!!!!

 この辺一体が火の海になるんじゃないの!!!!!!

 間違いなく死体の山ができちゃうって!!!!

 もしかして、この「本物」のドンパチの痕跡もろとも消すつもり????!!!!!

 証拠隠滅でしょ!!!!証拠を消して貨物船なんでしょ!!!!! 

 

 心から「本物」達を工場に連れてきたことを後悔した。

 いや、連れて来なかったとしても、絶対に何かやらかすから同じか。

 もう工場が破壊されるどころではない。

 この街が火の海になるか、工場が謝るかの2択になってしまった。

 火の海になったらテレビで全国的に流れちゃうんだろうな…

 

 するとまた下から誰かが階段を駆け上がる音がしてきた。

 さっきの男達と違い、軽い足音であった。

 何となく予想はできたが誰が来るのか見ていると、暗闇から清城京が現れた。

 やはり黒いゴスロリ服を着て、頭から紙袋を被っていた。

 ちょっと不便そうだがワルサーAW2000を手に持ち、ゴスロリ服の上から米軍御用達タクティカルベストを装着し銃弾などを携帯していた。


「工場内チェック終了!オールクリアですわ。差身さん、怪我は大丈夫なのですか?休んでいないといけませんわ」


 清城京はワルサーAW2000を手すりに立てかけると、僕の背中に飛びついてきた。

 がっしりと抱きついてきた清城京の紙袋の中から「ハアハアハア…」と性欲に塗れた荒い呼吸が聞こえてくる。

 

 おい…清城京…こんな時にも発情できるって凄いよ…

 この街が火の海になるかもしれないのに、性欲が最優先されるんだね!!!!

 もう分かんないよ!!!

 性欲で突き動かされ過ぎなんですけど!!!!!

 

「金髪リボン。作戦違反。何故ここにいるの?」


 天使がそう言って無表情のまま詰め寄った。

 まあそうだよな。

 遠距離盗撮者(スナイパー)は遠く見えない所から、狙撃していくからこそ戦力になる。

 精神的に圧力もかかるし、相手も慎重になるしかない。

 でも、工場の中に入ってきたら、全くその強みを失ってしまう。

 そもそも清城京の身に危険が及びやすい。

 この狭い工場内では、大きなワルサーAW2000よりも、小回りの効くテイザーガンや25オート沙織改造バージョンの方が戦いやすい。

 ワルサーAW2000では持ち運びにくいし、自分が撃った銃弾が壁などに当たり、跳ね返った銃弾で自分が怪我をすることだってある。

 室内戦では不利なのだ。


「そうなのだ!金髪リボンはここにいたら駄目なのだ!遠距離盗撮(スナイパー)は所定の位置に戻るのだ!」 


 かなっちは僕の背中にベッタリとくっついて離れない清城京に敵意むき出しで怒った。


「もう大丈夫ですわ。私が全員動けないように遠距離盗撮スナイパーしておきましたわ」


 清城京は僕の後ろからかなっちにそう言うと、かなっちの怒りに火がつき燃え上がっていった。


「おい!金髪リボン!差身は怪我をしているのだ!あんまりくっつくな!!どうせ差身が来たからこっちに来たんだろう!」


 かなっちが両手を上げてピョンピョン跳ねながら怒ってはいるのだが、清城京は全く動じる様子はなかった。 

 

「そんなことはないのですわ。ハアハアハアアハアハアハアハア…私は工場内のチェックをしに来たのですわ。アアアアアアッ!!!チェックも遠距離盗撮者(スナイパー)のお仕事ですわ。ハアハアハアハア…」

  

 もう分かってるんだよ…

 性欲が抑えきれないんだろ…

 性欲が抑えきれなくてきちゃったんだろ!!!

 何で感じてるの!!!!

 皆が見てるのにどうして感じちゃってるの!!!!


遠距離盗撮者(スナイパー)が中にいたら駄目。私達の戦力が半減する」


 天使が独り言のように呟くと、僕の前に立ちじっとこちらをみた。


「行こう、差身君。沙織が危ない」


 天使が無表情で僕の手を強く引いた。

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