「本物」の反社会的組織
もう駄目だ。終った。
工場の誰かが頭を下げないと、絶対に終わらない。
沙織達は死ぬまで戦い続けるだろう。
ああ、どうしようかなあ…
当たりを見回すと昨日事務所にいた男の人がいた。
この世の終わりを見るような感じで表情を固まらせ屋上を見上げていた。
そりゃそうだよなあ…M16A4なんて見たことないだろうし、職場でそんなもの乱射されてたら頭おかしくなっちゃうよなあ…
僕はこそこそとその男の人に近づいて行った。
「あのー…すみません…」
僕がそっとそう話しかけると、その男の人は驚いたような表情で僕を見た。
この人相当緊張状態だな。
僕の気配に全く気づいていなかった。
「昨日の君か。あいつらの友達なんだろ?何とかならないのかね?」
そんなこと言われたって無理ですよ…
まだ「本物」の怖さはこれからなのに…
「いやあ、多分無理なんですよ…警察でも取り押さえられないと思いますよ…」
僕が警察というとその男の人の顔色が一気に青ざめた。
大事にしたくないんだろうなあ。
もう遅いんだけどさあ。
でも、大丈夫ですよ。
簡単にここへ警察が集まってこないように、沙織がもう色々手配済みだと思いますので…
「警察なんて呼べるわけないだろ!!!今、うちの警備員を呼んでいる」
あれ?警備員?うちの工場に警備員なんていたかなあ?
僕が見てないだけで夜見回りしている人でもいるのかな?
「誰を呼んでも無理ですよ…日本に実戦経験がある人なんて自衛隊員でもいないので…」
国内、国外、様々な場所で沙織達は実戦経験がある。
色んな人達を潰してきた。
色んな「本物」のヤバい人達を潰し続けてきた。
果たして日本の自衛隊員が訓練で撃った時間は、沙織がM16A4を始め様々な武器を実践で自由に撃ちまくった時間と較べて多いだろうか?
恐らく圧倒的に足りないだろう。
もうすでにこの工場には狡猾な悪魔沙織が仕掛けた罠が張巡されているはず。
戦車で砲撃し続けるか、空爆するくらいしか沙織達を止める方法が思いつかないですよ…
「あの…申し訳ないんですが形だけでも良いんで謝ってもらえませんか?あと僕の怪我を労災というので処理してくれれば沙織達も止めると思うんですよ…」
僕がなるべくその男の人を刺激しないようにそう言ったのだけれども、あまり効果はなく意図も伝わらなかったようだ。
「今さらそんなことできるわけないだろ!こっちの方が被害者だ!!!謝ったとしてあいつらが大人しく降りてくる保証もない!!!」
その男の人は酷く取り乱して怒鳴り散らした。
焦っているのは分かるんだけど、「本物」達の扱いは僕が1番慣れているので言うこと聞いて欲しいんだけどなあ。
「知りませんよ…この工場ごと吹っ飛んだらマズイんじゃないんですかね…」
話は通じない。
僕は独り事のようにそう呟いた…
この人分かってないなあ。
今、沙織達に謝るか、この工場が吹っ飛ぶか、2つの未来しかないっていうのに…
もう、僕知らないよ、どうなっても。
あーあ、事の成り行きをいつも通り見守るしかないな。
すると何台かの車が工場横に勢い良く乗りつけてきた。
どことなく怖い雰囲気のする車ばかりだ。
中から現れたのはあからさまに反社会的組織と思われる武装した「本物」達であった。
「おお、待ってたよ!馬鹿がうちの工場に立てこもってるんだ!」
事務所にいた男の人は待ってましたとばかりに、その男達を出迎えた。
おいおいおいおい、まさか警備員ってこの人達のことなのか?
この反社会的組織らしき「本物」達とこの古い工場は裏で繋がっているのかな?
その人達の中でもリーダー格と思われる見るからにして貫禄のある男の人がいた。
その男は事務所にいた男の人の所にゆっくりと歩み寄った。
「ご無沙汰ですね。なんか、揉めてるんですって?なあに10分もあれば大丈夫。すぐに片付けてやりますよ」
この騒然とした状況でも、その男は悠然と構えていた。
いかにもこういった修羅場に慣れているといった感じだ。
いつもこういう揉め事が起きたら潰しに行くお仕事をしてるのかなあ?
「おお、そうか。頼んだぞ、急いでくれ」
事務所の男の人は安心したようにそう言った。
次々と車が集まってくる。
人数にして50人は超えてきた。
沙織達「本物」4人を取り囲む見るからに凶悪な男達。
工場はいつも以上に熱を増してきた。