「本物」の病院送り
「うわあああああああああああああああああああああっ!!!!」
僕は崩れてきた一斗缶に押し潰された。
僕は仰向けに倒れたまま、しばらく動けなくなった。
特に右の足先に落ちた一斗缶が、僕の体に致命的なダメージを負わせたようだ。
他の場所は次第に痛みがある程度引いていったんだけど、右足の酷い痛みはおさまらなかった。
まずいなあ、早く健二さんの所に水飴持って行かないといけないのに。
何とか立ち上がると落下している一斗缶を台車に2つ載せ、他の落ちた一斗缶は邪魔にならないように端に寄せた。
一斗缶に潰された右足を引きずりながら、僕は左足で地面を力強く蹴り台車を押し始めた。
もう、駄目っぽい。水飴持ってったら休ませてもらおう。
これもしかすると、折れてるんじゃないかなあ?
ああ、健二さん急いでるのに申し訳ない…
「おい、遅かったじゃねえか。足大丈夫か?怪我したか?」
何とか健二さんの所にたどり着くと、健二さんは僕の様子を見て驚いた様子で心配そうに声を掛けてくれた。
「すみません。フタだけ開けたら休ませて下さい」
僕がそう言うと健二さんは眉を寄せた。
「そんなの良いよ!おい!ちょっと代わってくれ!」
健二さんは近くにいた人を呼ぶと、その人に自分がやっていた仕事の続きをするように指示した。
「足先か?みんな1度はやってるんだ。ちょっと見せてみろ」
僕は座り込みゆっくりと作業用な長靴を脱ぐと異常なくらいにどす黒く晴れていた。
いやあ、もうこれ、確実に駄目だ…
手術とかなっちゃうのかなあ、病院に行かせてもらおう…
「駄目だな。折れてるな。医者連れってやるからちょっと待ってろ!」
健二さんはそう言うとどこかに走っていった。
しばらくすると、車のキーを持って戻ってきた。
「外に余ってた軽トラック停めたから、それ乗ってくぞ。おい、背中に乗れ」
健二さんが僕をおぶろうとした。
僕の不注意で怪我をしたのに、そんなに甘えられない…
僕は右足をかばいながらも何とか立ち上がった。
「いや、そんな、トラックまで何とか歩いていきます」
本当に僕は駄目だ。
最後の最後で健二さんの足を引っ張ることになるなんて。
取り返しがつかないことをしてしまった。
自分で自分が情けない。
「大丈夫だ!まだ、それくらいの力は余ってる。いいから乗れ!」
健二さんが怖い顔で怒鳴った。
優しい怒声だった。
僕のことを気遣ってくれる強い声だった。
「すみません…」
僕はそう言って健二さんの背中におぶさった。
「気にすんな。仕方ねえ、こういうこともある」
軽々と健二さんは僕を背負い走った。
そして工場のすぐ脇に停めてある軽トラックに乗り込んだ。
車に乗り込むと自分が手ぶらなのに気がついた。
「あの、すみません。本当に申し訳ないんですが、自分のロッカーにバックが入っているので持ってきてもらえませんか?」
僕のバックの中にはいつも保険証が入っている。
いつ「本物」達に怪我させられても大丈夫なように持ち歩いているのだ。
「おお、そうか。ちょっと待ってろ」
健二さんは僕から作業着にしまってあったロッカーの鍵を受け取り更衣室の方に走って行くと、すぐに僕のバックを持ってきてくれた。
「すぐつくから待ってろよ」
健二さんは車のエンジンをかけ走りだした。