「本物」のヤンデレとご褒美
昨日の騒動から一夜が明けた。
いつもと変わらない晴れ渡った青空。
僕は工場に行く前に待ち合わせする公園に向かっていた。
何だか沙織と会うのが気まずくもあり、何と声をかけようかなと思いながらも、いまいちその答えが見つからない。
何というか、僕達の関係が1つ成長した気がする。
僕の中にあった沙織に対してのわだかまりもすっかり消えたし、沙織の中にあった不安もキレイに消えた。
だけれどもそれは良いことではあるのだけれども、少し気恥ずかしい大人への一歩でもあった。
でも僕が公園に行くと「にゃんぱすwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」と凄く嬉しそうに周りの目も気にせず抱きついてきた。
もう特に何も言う必要はなくなっていた。
「差身wwwwwwwwwwwwwwwwwwもうwwwwwwこの話しも終わりで良いんじゃないのかwwwwwwwwwwwwwwwwww」
工場の昼休み中、休憩所でめっちゃ僕にベタベタしながら沙織は機嫌良さそうに騒いでいた。
「お前何言ってるんだ…それよりみんな見てるから少し離れてくれ…」
あからさまにみんなチラチラ見ている。
沙織はただでさえ目立つから、こういうことされると困るんだよなあ…
「ジーク差身!!!!!wwwwwwwwwwwwwwジーク差身!!!!!wwwwwwwwwwwwwwwwwww」
全く沙織は人の話しを聞かず、良く分からいことを叫びながらベタベタし続けてきた。
まあ、いつも通りの毎日だな。
もうすぐこの工場でのアルバイトも終わる。
お世話になったし少しでも役に立って終わらせたい。
沙織をあまり相手にし過ぎず、午後の労働に備えてなるべく休もうと思ったら、少し遅れて天使が休憩所に入ってきた。
「おいwwwwwwwwwwwwツインテールwwwwwwwwwwwwwwwwwwww遅かったなwwwwwwwwwwwwwww隊長と何やってたんだ?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織がそう声をかけると、天使は無表情のまま頷き、沙織の横に座った。
「作業を手伝ってた。トラブルがあって隊長はスーツを着て出かけていった。大変そう」
天使は淡々とそう言うと、何かが入ったタッパをいくつか長机の上に置いた。
「隊長が食べてと言っていた」
何かと思いみてみると、それは僕達がアルバイトしながら作る手伝いをしていた数々の商品だった。
「あああっ!これは私が取り分けて詰めたかぼちゃなのだ!!!!」
かなっちがタッパの1つを開けると、驚いた様子で表情を輝かせた。
「これは私がゴマをかけて混ぜあわせたキンピラゴボウですわ!」
清城京が嬉しそうに明けたタッパの中身を見つめた。
「こっちは私が箱に詰めたエビクルミがあるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwこれずっと食べてみたかったwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織が病んで笑みを浮かべながら指で摘んでそれを食べた。
他にもいくつかタッパがあった。
僕達はタッパに詰められた惣菜や佃煮を次々と食べ始めた。
その中の1つに、このあいだ健二さんに初めて作り方を教わったちりめんじゃこも入っていた。
今までこの工場でたくさんの仕事をしてきたけれども、作った商品を食べたことはなかった。
言われるままに必死に働いているだけで、あまり食べ物を作っているという自覚がなかったが、こうして食べてみると一生懸命自分たちの手で作ったせいか凄くおいしい。
あれだけ苦労してこんなにおいしい物を作っても1つ数百円程度だろう。
単価が安すぎてあまり儲かるとは思えない。
だけどみんなが食べるものなんだから、手を抜かずに安全でおいしいものを作るべきだと感じた。
「差身wwwwwwwwwwwwwwwwwwwこれ全部うまいぞwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織が病んだ笑顔を浮かべておいしそうに食べ続けた。
やっぱり笑顔で食べれるものを作ったほうが絶対に良い。
沙織のおいしいものを食べて満足そうな笑顔を見てそう思った。
改めて午後も良い仕事をしようと気を引き締め直した。
だがしかし、このあと思わぬことが待ち受けていた。
それはちょっとしたことから始まって、「本物」達の「狂気」が大爆発するのであった…
まだ誰もが静かにこの工場でのアルバイトが終わると考えていた。