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「本物」の2人の愛

「いつの時代の嫁だwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww昭和か?wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww私は全部業者にやらせるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwご飯も仕事もwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww差身と遊んで暮らすんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


 沙織がそう言うと篠宮隊長は怪訝な目つきになった。

 ああ、沙織のような考えには真っ向から反対しそうな感じだよなあ。

 沙織は見た目めっちゃキレイで大人びて見えるけれど、頭の中はどうにもならないくらいに子供だからその辺を考慮して欲しいんだけど無理だよなあ…


「おい、そんな金をおまえは持っているのか?」


 篠宮隊長がそう問い質すと、沙織は自信あり気に病んだ笑みを浮かべた。


「大丈夫wwwwwwwwwwwwwwwwパパが出してくれるwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


 その様子を呆れた様子で篠宮隊長は見ていた。

 中学出ていきなり工場で働き始めた篠宮隊長から見たら、なんかもう許せないくらいに駄目に見えるんだろうな。


「じゃあ、そのパパが死んだら、差身と2人で生きていけるのか?」


 篠宮隊長が間髪入れずに続けると、「うっww」とうろたえた。


「そwwそれはwww」


 あーあ、篠宮隊長、そんなこと沙織に分かるわけないよ…

 まだ、誕生日が来てないから15歳の「本物」に、現実を直視する力なんてないんだよなあ…

 僕以外の人間と話す時間よりも、ゲームしたりアニメ見てる時間の方が長いから、ほとんど夢の中で浮遊している感じだしな。


「じゃあ、駄目だろ。いくら金があっても、働かないといずれはなくなっちまうんだ。うちの工場も昔はかなり稼いでたが今じゃこれだ。でも、私なら差身が倒れて動かなくなっても差身を支えて生きていける」


 篠宮隊長がそう迫ると、また沙織の元気なくなってきた。

 まあ、確かに沙織はパパがいなくなったら、間違いなく世の中を渡っていけるとは思えないし、物凄く弱い人間だ。

 自立した女性である篠宮隊長と違って、パパのお金でのほほんと生きてるだけだしな。

 人間力を比べたら、沙織に勝てる要素はない。


「分かっただろう!おまえは差身の邪魔しかできない足かせなんだ!!!!!」


 さらに篠宮隊長が沙織を追い込むと、ガクンと沙織は一気に鬱モードに陥った。

 顔全体に黒い影がかかり、底知れぬ孤独な闇の中に沙織は投げ出された。

 これは駄目だ。沙織の奴、1人でどんどん悪いことばかり考え始めてるぞ…


「邪魔ww足かせwwww」


 沙織はしょぼんとした顔をしてうつむき力なくそうつぶやいた。


「パパがいなかったら何もできないんだろ!」


 闇の奥底に落ちていった沙織を踏みにじるかのように、篠宮隊長は声を荒らげた。


「wwwwwwwww」


 沙織は何も言えずに固まった。

 悲しそうな目で床を見つめ小さな声でなにかブツブツ言い始めた。

 まあ、確かに沙織は沙織のパパがいなくなったら死んじゃうだろうな…

 だけど、それを言った所で何も解決しないから、篠宮隊長もこれくらいにしておいて欲しいな…


「おまえは差身に何をしてあげられる?今まで何をしてあげた?言ってみろ!差身の足を引っ張り続け不幸にしてるんじゃないのか!」


 篠宮隊長は沙織の眼前まで寄り、その言葉を突きつけた。

 完全に止めを刺された沙織は、篠宮隊長の言葉に反応すらしなくなっていた。 


「…うちに帰るのんw…」 


 ふらっと立ち上がると沙織のそのまま店を出て行ってしまった。

 他の「本物」達も心配そうに沙織の背中を見送ったが、僕も含め何も声を掛けてあげることができなかった。

 あんなに落ち込んだ沙織は最近見たことがなかった。

 いつも自分勝手で明るく元気な沙織。

 その裏側にある人見知りで他人との接触を拒む繊細な部分。

 薄氷のような壊れやすい心が、今まさに踏み壊され飛び散った。


「おい、差身」


 篠宮隊長が沙織が出て行った店の入口を見たまま話しかけてきた。


「はい?」


 僕がそう返事をすると篠宮隊長はこちらを見ずに話しを続けた。


「沙織を送っていけ。彼氏なんだろ?」


 先ほどまでの篠宮隊長と違い落ち着いたような低い声でそう言った。


「え?ああ、はい…」


 僕が躊躇していると、篠宮隊長は入り口を指さした。


「私も大人気なかった。早くしろ」


 行かなきゃ…

 沙織が待ってる…

 いや、僕が沙織のそばにいたいんだ。

 沙織を励まして元気にしてあげたい。

 それは沙織がかわいそうだからじゃなくって、落ち込んだ沙織なんて見たくない、沙織を悲しませる全てから沙織を守ってあげたいんだ!


「すみません、わかりました!」


 僕は急いで店を飛び出すと沙織の行方を追った。

 どうせ家に向かっているのだと思い、その方向へ走って行くとすぐに沙織の影を見つけた。

 夕闇の中、沙織はとぼとぼと肩を落として、自分の家の方に歩いていた。

 普段黙っていれば街の雰囲気を帰るくらいに輝いているが、今はもう途方に暮れたように力を失っていた。


「沙織、一緒に帰ろう」


 僕は沙織の所に駆け寄り声をかけると、沙織は弱々しく首を振った。


「差身は私が邪魔なのか?www」


 沙織は立ち止まると泣いているのかうつむいたまま小さくそう言った。


「そんなことないよ。沙織が邪魔だなんて思ったことはないよ」


 僕がそう言って沙織の肩を抱くと、沙織は小刻みに震えながらボロボロと泣き始めた。


「本当は違うんじゃないのか?www私は昔から差身が私を嫌いになるかもしれないと震えているwwwwwいつか差身が私よりキレイで優しい女を好きになるんじゃないかと怯えているんだwwww」


 沙織はそんなこと考えていたのか…

 これが沙織の本心?

 今まで聞いたことない告白。

 思いがけない言葉を聞いて、僕は切なくなった。


「でも隊長の言う通りだw私は差身に何もしてあげることができないww私は差身に嫌われるのが怖いだけで差身の役に立てない頭のおかしい馬鹿なんだww私はどうせ異常でおかしいんだwwww」


 自虐的な言葉を吐き続けると僕の手を振り払った。


「差身も私のことがかわいそうで一緒にいるんだろ?ww狂ってるからかわいそうなんだろ!!!!www」


 沙織が僕に向き直って泣き叫ぶ。

 大人びた沙織の顔が子供のように泣きじゃくっていた。


「沙織、何でそんなこと言うんだ!」


 おまえは確かにおかしいよ。

 普通じゃないし、いつも迷惑をかけてくる。

 でも、凄くキレイだ。

 見た目のことだけじゃない、沙織の純粋な気持ちはとても透き通っている。

 そんな女の子どこにもいないよ!!!!

 全てにおいて正直で、真っ直ぐ僕だけを見ていてくれた沙織。

 ずっと一緒に色んな事を経験し感動してきた。

 まっさらな雪のようにキレイな心。

 僕は沙織の純真な気持ちが大好きなんだ!!!!


「さっき隊長が言ってたww同情ならいらないwww惨めになっていくw好きでもないならwもう私に近寄らないでくれwww」


 ボロボロと泣き叫ぶ沙織は僕は強く抱きしめた。

 その瞬間、沙織の泣き声が止まり、何が起こったのか分からないように、はっとした表情のまま僕を見ていた。

 落ちていく。

 どこまでも僕と沙織で。

 2人一緒に。今まで感じたことない一体感。

 なんだろう、凄く温かい。

 沙織と僕の気持ちが1つになっていく。 


「ずっとそばにいてくれれば良いんだ。僕もたまに沙織がいなくなったらどうしようって不安になる時がある。そのままの沙織がずっと僕と一緒にいてくれることが、僕が沙織に1番して欲しいことなんだ。沙織が好きだから一緒にいたい…」


 僕がそう言うと沙織が僕をぎゅっと抱きしめてきた。

 そして、僕の胸の中から潤んだ瞳で僕を見上げた。


「さwwwさしwwww差身wwwwwwwwww私も好きだwwww私もすごく好きだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


「だから、どこにもいかないでくれ…沙織…」


「ニャンパスwwwwwwwww差身wwwwwwwwwww私から離れないでくれwwwwwwwwwwwwwwwwwwww差身がいなくなったら怖くて生きられないんだwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」


 夕闇の中、僕達はしばらくそのままでいた。

 沙織のことで知らないことはないと思っていたんだけど、そうではなかったことに気がついた。

 僕も沙織もお互いに近すぎて見えないことがあったんだ。

 だけどそれはちょっとしたことで、お互いに分かり合えたらその絆は絶対に離れない。

 僕達の「本物」の愛は、今まさに深まっていった。

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