「本物」の暴走デレ
「差身は優秀だ。ひょっとすると将来凄い男になれるかもしれない。おまえたちは何をしている?差身の邪魔ばかりしているではないか!でも、私は違う!差身の力になれる。私は差身を大きくすることができるんだ!」
興奮した様子で篠宮隊長は肩で息をしていた。
そして真剣な眼差しで沙織と他の「本物」達を睨んでいる。
これは何というか…
篠宮隊長も篠宮隊長で溜めに溜めた心の抑圧が爆発してるんだろうな。
真面目で我慢強く、常に頑張り続ける篠宮隊長も、心は二十歳の女の子なんだよな。
それを目の前で見ていたかなっちが、ゆっくりと口を開けて「おおっ」と声を漏らした。
「なんだ。やっぱり隊長も差身のことが好きだったのか?」
全く空気を読まずにかなっちはあっけらかんと言うと、篠宮隊長の顔が一気に真っ赤になりわなわなと震え始めた。
そして篠宮隊長は一瞬僕の方を見てから、自分で自分の胸を抱きしめるようにギュウウッと腕を折り曲げ、イヤイヤするように目をつぶり首を何度も横に振った。
「ばっ…ばかぁ!!好きとかそういうんじゃないんだからあっ!!!」
篠宮隊長は恥ずかしそうに下を向きもじもじし始めた。
その時、僕達全員が息を飲んだ。
こ…これは…まさか…
デ…デレた…間違いない…今目の前で起きたのはデレ…
あああああ…なんという乙女チックモード。
なんという「会いたくて会いたくて震える」。
口調がぜんぜん違う。
声も一段階高かった気がする。
これはデレたと言っていいのだろう…
なんだ!!!なんだ!!!
篠宮隊長めっちゃかわいいぞ!!!!
沙織も天使も清城京もかなっちもそのパラダイムシフトが起きる瞬間を目撃し呆然としていた。
それはエヴァでシンジくんの乗る初号機が暴走し、初号機が使徒を食っているところをみんながただただ見ているしかなかったあれと同じ…
まさに驚天動地!!!!
「避けられなかった。隊長。デレ始めた」
天使が無表情でそう言うと清城京が天使の肩を抱いた。
「ついに『寝取らレーゼ』が始まったのですわ…」
まるで世界の終わりを見ているかのような清城京は篠宮隊長を見ながらそうつぶやいた。
「デレる『寝取らレーゼ』は新しい。私、まだ見たことがない。差身が何かに目覚めてしまうかも」
天使は清城京に肩を抱かれたまま、テーブルに残っていた刺盛りに箸をのばした。
「ざーんこーくな『寝取らレーゼ』wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwさーしーみーよーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwしんわになーれーwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
病んだ笑みを浮かべながら沙織が高らかに歌う。
沙織がいつも通り復活してきた。
篠宮隊長の暴走デレを見て何かのスイッチが入ったようだ。




