「本物」の死線
「まあ、良いんだ。そんなことはどうでも良い。これからなんだ。昔のことなんてどうでも良い。これからなんだ。未来に目を向けないといけない」
篠宮隊長はニヤッと良い顔で笑った。
それは無頼の笑みともいうべき、強くて顔を上げて歩いている人だけが持つ爽快な笑顔だった。
それを見て僕は篠宮隊長が頑張るなら、残りの短いけれどしっかり働いて雇ってもらった恩を返そうって思った。
その時だった。
魔はひっそりと近づいていた。
入り口のこちらからは死角になる位置から聞き覚えのある声が聞こえてきたのだ。
「マスターwwwwwwwwwwwwwwwwwwジャスミンティーもう1杯wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwあと刺盛りと大根サラダもwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
その声を聞いた僕と篠宮隊長は凍りついた。
まさか…まさか、あいつら…
僕が席をガバっと立ち、そのこちらか見えない席に駆け寄った!!!!
そこには、メイド姿の「本物」達4人が集結していたのだ!!!!
見た目はめっちゃかわいいのに、ヤンデレメイド4人がやさぐれた様子で僕を見ていた。
「おお、これはこれは差身『さん』wwwwwwwwwwwwwwwwwwww奇遇ですなあwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
色んな感情がこんがらがっておかしくなっている沙織が、良く分からないテンションで卑屈になって僕によそよそしく言った。
「おい、沙織、なんでここにいるんだ???」
正直、すぐ横に「本物」達がいるとは想定外だった。
「いやあwwwwwwwwたまたまですよwwwwwwwwwwww差身『さん』wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww我々の方が先に一杯やってたんですよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwイカがうめええええええええwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」
おい!沙織!!!!
何で篠宮隊長と僕がこの店に入るって知ってたんだ????
おまえたち!!!!どうやって未来を予測した!!!!
一体どんなストーカーしたら、そんなことができるんだ!!!
「うわっ!!おまえたち、どうしてここいる???何でメイドのコスプレしてるんだ????」
僕を追ってやってきた篠宮隊長が、かなり動揺し表情を崩していた。
こんな篠宮隊長見たことがなかった。
「『寝取らレーゼ』に対抗するため。それには差身君の中で同じくらい重要な『部屋にメイドさんがやってきた』で行くしかない」
天使が淡々と無表情でそう説明するも、篠宮隊長はあまりにも狂った状況に瞳孔が開いたまま動かなくなっていた。
「差身『さん』wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwせっかくですからとなりの席に我々は移動しまするですよwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwおいwwwwwwwwみんなあっちへ移動だwwwwwwwwwwwwwwwwwwウヒヒヒヒィィィwwwwwwwwwwwwwwwwww」
沙織がそう言うと「本物」達は飲み物などを持ち、篠宮隊長と僕が座っているすぐ横の席に移動し始めた。
「おい、差身。あいつら、何でこの店に私達が来るって分かっていたんだ?」
あからさまに動揺している篠宮隊長が僕の耳元でそっと聞いてきた。
いやあ、隊長…
僕もそれ聞きたいくらいなんですよ…
「いや、それはどうやってるのか分からないです…」
恐ろしい…「本物」の本気は恐ろしい…
バトル勃発なのか?
隊長と「本物」達は今まさに死線を乗り越えようとしていた。